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9-2 ダンジョンとドラゴンは敵にまわさないようにしましょう。


 ツヨポンは意外と早く再来したけど、舞島氏のほうはなぜか到着が遅れていた。

 ドラさんによると研究書庫の目につく所へ資料をばらまいておいたので、読みふけって寝不足の可能性もあるらしい。

 もうひとつの可能性は、舞島さんも困った頭の持ち主なので『戦闘へ向かう自分に不快感をおぼえ、過剰に準備をこだわることで間接的な自制をしている可能性がある』らしい。


「キョンちゃん先生、翻訳お願いします」


「ずぼらな舞島ちゃんがごねて、さぼってくれているかも」



 みんなで早めの昼食をとっている最中に、ツバキさん警報がつぶやく。


「サイクロプス三体、ワイバーン一体。数分の距離」


 正人は食事の間もタコプリンをかぶったままで新設計を考えていて、さっちゃんは人形まで持ったまま。

 トモちゃんはブドウをむいて、さっちゃんの口まで運んでいた。


「ドラゴンは完成まであとどれくらい?」


「う~ん。まだそれもわからなくて……早くても数十分、かなあ?」


 さっちゃんは早朝から休みなしなので、誰も文句のつけようがない。

 というか休まなくていいのか、みんなで心配していた。



 たくさんの地響きが重なって近づいてくる。

 正人のアイデアで、石像の残骸を使って二重のバリケードを作っておいた。

 タコプリンが乗る石像は、障害物とか複雑な状況への対処が人間ほどうまくない。

 トモちゃんペガサスが飛びまわって、ユッキーカワンチャが剣をぶんまわして、押し寄せて来るサイクロプスたちをバリケードごしにたたいて押しもどす。

 激しいモグラたたき騒ぎが続く中、みょうな声が聞こえてきた。


「まいったね。けっこう時間がかかりそうだし、話し合いとかでごまかせないのかな?」


 あきらかに体を動かしていない落ち着いた声。


「レデー、ムールムー、ドゥールグー」


 それに答えるみたいに、念仏でも唱えるような、淡々と間のびしたオバケの声。


「まあ、そうもできないからこうしているわけだけど。君に任せるから勝手に進めておいてくれないか?」


「デーレムー、ムーフルーヌークー、モームドゥー、ルー」


 空気を読む気がなさそうな軽くて無神経な発言はもうまちがいない。


「舞島だよな?」「舞島だね」「舞島だ」


 三人がほぼ同時につぶやく。


「おっと、聞こえていたのか。たしかにぼくは舞島だが……なぜ一斉に呼び捨てなのだろう……いや、呼びかたは別に気にしないが、君らの行儀は子供にしてはマシなほうだと思っていたから、少し意外だな」


「行儀をどうこう言うなら、子供相手にサイクロプスを三匹もけしかけるのはやめてくださいってば」


「その声はぼくにファントムを三匹もけしかけた子だね」


 そうだっけ……言われてみたら、そんな気もしてきた……


 最初に流れ着いた浜から研究書庫が見えて、着くころには黄色いオバケがいっしょで、ドラさんからいろいろ聞いて石像を集めて管理塔を抑えて……

 ほかにもオバケがいたような気がする……どうもオバケ関連はところどころ記憶があいまいで、大事なことでも、言われるまでは思い出せない部分がある。



「ファントムくんは管理体制を改善したいだけのようだから、命の危険はないよ。まあ多少は人格が変わるかもしれないけど」


 おいそれ、多少でも変えていいものじゃないでしょ。アンタ以外は。

 ……いやさすがに、今の発言のおかしさはファントムの影響……だよな?


「ぼくとしても管理の一部を誰かに押しつけられるなら、研究に専念できて助かるんだよね」


 今のは意識誘導と関係なしに素で言ってそうな……


 大階段の上のほうに、しゃがんで動こうとしないワイバーンが隠れている。

 ときどき足元から青いもやがロープみたいにのびて、サイクロプスたちへさわっていた。

 どうやら青オバケが体をのばして、舞島の代わりに手下のタコプリンへ指示を送っているらしい。


 バリケードの一部が崩されると、アタシと正人は『ホーント』でふさぎに向かう。

 発射口の頭を支えるぶんの肉づけしかなくて、スライムに比べると細くてもろい。

 まさにオバケなみのはかなさで驚かせるだけの一発屋で、はじめから相打ち覚悟だった。

 やっぱりすぐに壊されてしまったけど、一発だけ持っていたアタシのミサイルはサイクロプスのスネに当ててやったし、残骸もそのまま障害物として残る。


 アタシは近くの柱に隠しておいたヘルハウンドへ乗り換えた。

 もう予備機体はユニコーンだけ。

 その間にもバリケードは削られ、トモちゃんペガサスとユッキーのカワンチャは一枚目のバリケードを捨てて、二枚目でかまえなおした。


 マサポンは途中だった別の新型を作成に向かう。

 今のところはスライムとのちがいがわからない、あからさまな急造品だ。

 なんとかドラゴン完成まで持ちこたえないと……



「今、最も深刻な問題は食事なんだよ。案内人くんが誰ひとり帰らないから、ぼくが自分で用意している。味つけが単調なんだ。ツバキくんだけでも返してもらえると助かるのだが……」


 マサポンが作成で奥にひっこんでいてよかった。

 聞こえていたら『いえツバキさんはぼくのものですから』とか言って事態をややこしくしそうだ。


 それにしても、指揮官にあれほどやる気がないのに、戦力だけは多くて困る。

 前向きに考えれば、本来は厳しい戦力差を舞島さんひとりのひどさで埋めているのだけど……それはそれで人類として恥ずかしい気がしないでもない。


「ガイコツ砲を一発使っちまったけど、ドラゴンいるなら使いきってもいいのか?」


 カワンチャに乗るユッキーはアタシの敵として戦っていた時より、ずいぶん落ち着いて頼りになる感じがした。

 状況が不利でも粘り強くて、ペガサスのことも細かく気づかって、トモちゃんが安心して動きやすくなっている。


「できれば残しておきたいけど、今ここを突破されたら終わりだから、しかたないっしょ?」


「やはり『ドラゴン』を製作中なのか。ほらファントムくん、君は少し、あの子たちを甘く見すぎだよ」


「ドゥーレマー、デメレムー、ベムメーバモーグマルマー」


 舞島はとりつかれている被害者のはずなんだけど、敵である青ファントムに同情したくなるのはなぜだろう。



 アタシのヘルハウンドは思ったよりも早くミサイルを二発とも撃ってしまった。

 もともとトモちゃんやユッキーほど当てて逃げるくり返しはうまくないし、四足歩行の動きにくさで追いつめられそうになると、つい砲撃で押しやっていた。

 そこへ不意に、二枚目のバリケードを飛び越えてワイバーンが侵入してくる。


「舞島が突っこんで来た……!? いや、チャンスか!? くたばれ!」


 カワンチャのめった斬りとペガサスのめった蹴りが激しいのでそちらは任せて、アタシはバリケードを登ろうとするサイクロプスたちをヘルハウンドでたたきもどす。


「ぼくも……おさ……える!」


 アタシを助けにさっそうとにじりよったグロいかたまりは、ぐちゃぐちゃしたスライムの上から、腕じみたなにかが四本のびたバケモノだった。

 誰かがツッコむヒマもなく、イソギンチャクもどきは触手を振り回して、それなりにサイクロプスの押し返しに役立つ。


「羽根の応用……なんだよ! 腕より動きは……おおざっぱだけど、乱戦ならこれで……十分だろ!? 耐久力に中途半端な攻撃力をそなえた……妨害専用、まさにいやらしさ特化の……触手くんだから『ローパー』って名前だよ! そのまま……縄使いっていう意味で、まちがったファンタジーでは定番の……」


 たぶん誰も聞いていないけど、その解説でマサポンのテンションが上がるならウザいけどほっとく。というかアタシもツッコミを入れる余裕はなくて、どんどんボロボロになっていた。

 とどめのサイクロプスパンチまでくらってしまい、転がりながら叫ぶ。


「舞島はまだ生きてる!?」


「だ、だめ! 倒したけどこれ、たぶんタコさん!」


「ちっ! いつの間に……乗り換えにしては早すぎない?」


 アタシはヘルハウンドから出るのを急ぎすぎて、タマゴくらいの破片が頭にあたってしまう。


「いだだっ……あ、だいじょうぶ。急いで!」


 ツバキさんに抱えられて、頭をおさえたポーズのまま運ばれ、さっちゃんを守るように座っていたユニコーンの背へ乗せられる。

 さっちゃんは乱闘さわぎに背を向け、黙々と作業を続けていた。

 両脇をドラさんとアヤメさんに守られているとはいえ、この子の集中力もすげえな……みんなのために急いでいるから? それともアタシたちを信じているから?


「倒されたワイバーンは、あとから到着した別の個体と推測される。舞島は格闘能力の低さに確固たる自信を持ち、直接に戦闘へ参加するような意欲は欠落している」


 ドラさんの助言に作成者へのうらみはないと思うのだけど。

 アヤメさんは笑顔のまま。


「幸代さんは残り十分以内に作業完了の予定です」



 ふり返ると第二のバリケードも穴が空き、ふさぎに入ったローパーがタコなぐりにあっていた。

 トモちゃんペガサスもユッキーカワンチャも、サイクロプスは一体ずつ抑えるのでやっと。

 人型で剣のあるカワンチャはともかく、ペガサスがバレーボール選手みたいに跳びはね続けて巨人を押し返す姿は無理がありすぎる。


「トモちゃん、あと十分以内!」


 アタシが駆けつけると、トモちゃんは後退してしまう。


「正人のグログロもそろそろだめそうだし、ペガサスが動ける内に交代しておくね? ……正人! ここにウマ置いてくよ! ……イソギンチャクから出るスキあるかな?」


 トモちゃんがペガサスからすべり降りると、着地の前にツバキさんがひったくって奥へ運び去る。

 止めるわけにもいかなかったけど、アタシにアンタのあの動きをマネしろと?


「ユニコーンアッパー!」


 壁にかかった巨人の腕をヤケ気味に蹴り上げたけど、トモちゃんほどバランスうまく着地できないから、連続ピョンピョンなんて無理だっつーの。ユキピョン様たちけろください……


「ちょ……ユッキー……!」


 先に正人が叫んでいた。

 うん。しかたない。もう限界のローパーから乗り換える間に、巨人からたたかれるのはまずい。

 だから今、アタシを助けられるのはアタシだけ……


「ユニコーンチョ~ップ!」


 馬にグーパーがないのは承知でヤケ気味に叫んで蹴り上げると、勢いでバリケードに乗ってしまい、サイクロプスたちの頭をあわてて蹴りまくる。

 後ろ足をサイクロプスにつかまれてあせったけど、カワンチャがたたきはずしてくれた。ありがとうございます雪彦さん。

 どうにか降りると、正人の乗りこんだペガサスが片足をちょこんと上げる。


「キョンちゃん、ミラクルフォローありがと!」


「やりたくてやったんじゃねー!」


 直後にローパーの死骸がなぐりどかされて、バリケードの一角がふたたび貫通する。

 三体がかりでふんばるけど、壁の穴はさらに広がってきてしまう。



「みんなどいてー!」


 奥からトモちゃんの声と、やたら大きな震動音……?

 アタシたちはとっさに逃げ散る。

 ガゴォンッ! と大爆音が鳴り響いて、特大の爆煙が広がって、先頭のサイクロプスが直撃を受けて倒れる地響きまで続く。

 暗闇からドガドガ突進してくる『ドラゴン』の巨体はタイタンよりも速くて、タイタンなみの太い腕についた巨大な爪が、二体目のサイクロプスを一撃でたたき飛ばした。




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