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9-1 宝探しは見つけてからが大変です。人材という宝は特に。


 夜中にふと目がさめる。

 マサポンがうなされているみたいだった。

 そっと起きて顔をのぞくと、目が合う。


「だいじょぶかー?」


 小声で聞くと正人は少し間をあけてうなずく。

 寝起きのせいか、いつものふざけた笑顔もない。


「なんか、変な夢を見たかも……」


「トモちゃんとさっちょんの体温で興奮しすぎた?」


 少し気になったので、毛布はトモちゃんとユッキーの間で重ねなおして、正人のとなりに入る。


「今夜のキョンちゃんは大胆モード?」


「どんな夢だった? なにかうっとうしい夢?」


「ばっさりスルーか……別に嫌な夢ではなかったけど……」



 小声で話し合っていると、アヤメさんが様子を見にきた。


「ちょっとマサピョンがうなされていただけ。オバケとかはだいじょうぶ?」


「はい。四十分ほど前から、赤いファントムがいるだけです」


 いるのかよ。あわてて見回すと、かなり離れた森の中に、赤く光る人影が見えた。

 白く光る目がゆらゆらとこちらを見つめている。


「だいじょうぶ……なの?」


「ツバキは昨日もおとといも目撃していますが、接近する様子はなく、しばらくすれば立ち去ります」


 遭難者が案内人なしに出歩くチャンスをねらっているだけか?


「アヤメさんとツバキさんにかなわないことをわかっているなら、だいじょうぶかな……あんなのに見られていると、今度こそ悪夢を見そうだけど」


 正人の声が聞こえたのかどうか、赤オバケは森の奥へ姿を消した。


「夢……やっぱり少し、嫌な夢だったかもしれない。フワフワして楽なんだけど、自分がどこにいるのかわからないような……」


 正人がまた無表情になって、それきり目をつぶる。

 エロバカのマー坊でも、少しは疲れがあるのかな?

 自分もまだ眠くて、それ以上は聞かなかった。



 翌朝の冷えこみで目がさめると、さっちゃんがつついてきた。


「いつの間にこっちへ来ていたの?」


 なにやら含みのある笑顔のボケ娘をつつきかえす。


「さあねえ? 言うことがあるとすれば『早い者勝ち』ね。『早い者勝ち』……わかる?」


 などと言うほど肉食系女子ではないけど、さっちゃんやトモちゃんが相手だとからかいやすくて調子に乗ってしまう。


「今日子ちゃんも大胆だなあ。わたしは『早い者勝ち』は苦手だから『残りものには福がある』かな……」


「真実は『残りものには貧乏クジが集まる』だよー。苦労するよー」


「ぼくはもう少し寝たふりをしていてもいいかな?」


 マサポンが目を閉じたままつぶやいた。


「がんばれ。でもそれより今、トモちゃんとユッキーが手をにぎっているかも」


 アタシが昨夜の移動前にしこんだ小ネタだけど。

 マサポンはさっそく確かめるなり、寝起きで不機嫌なユッキーとアホな言い合いをはじめる。


「みんな早いなー。まだ暗いじゃん。わたしはもう少し寝なおす~」


 トモちゃんは毛布をひとりじめしてねっころがる。


「もう石像は動きます。舞島様は最短あと四十分で着きますが、ファントムの誘導によっては昼ごろまで遅れるかもしれません、強さんは五分以内の可能性もあります」


 アヤメさんは燃え残りの枝を寄せなおし、炎を大きくしてくれる。

 たき火はなぜか体が温まりやすい……遠赤外線だっけ?

 変な寝かたをしたから体はガタガタだけど、冷えだけでもゆるむと少しは楽だ。


「ほれトモチン、ちゃっちゃと朝メシかきこんで、舞島退治のブツそろえよーぜ」


 ゆするとしぶしぶ起き上がって、アタシをつついてニヤリとした。

 ……アタシがタヌキ寝入りしていた昨晩と同じつつきかただ。


「キョンちゃん、ちゃんと眠れたの~?」


 アタシは無言で毛布をひっぺがして持ち去る。



 ノーテンキな女子トークしている場合じゃねーし……したいことはしたいけど、ユッキーとのことは深くつっこまれても困るし。

 体をはってかばわれたり、やけにまじめに気づかってもらったりでアタシも意識はしていたけど、そんな状況でもないから気持ちに区切りをつけようと呼び出してからかったのに……まさか素直に頭をなでてくるとは思わなかったから、あせって余計にわからなくなった。

 と、とにかくあとまわしだ。これは少しずるいのか?


 でもトモちゃんやさっぴょんだって、あれこれ探っても本命はフラフラと決まってないみたいだし。

 みんなサバイバル中で一時的に気持ちが盛り上がっているだけかもしれないし。

 日常にもどったら、大人びたマサポンとか、豪快に引きずってくれるツヨポンみたいなタイプのほうがアタシには合うかもしれないし。

 ……自分のクラスにいたなら重点的にからかいたい男子が三人もいて悩ましい。

 いや、でも今はそのひとりがオバケに脳ミソいじくられ中なんだってばよ。



 最初の作業は石像の発掘だった。

 地下墓地の暗い壁ぞいにはプール状のくぼみがあって、そのいくつかは砂で平坦に埋められていたり、盛り上がったりしていた。

 その中でも最も大きい、何メートルもの砂山をガイコツと犬と馬二匹で掘り返す。


「砂って石像で持つとけっこう重いな?」


 ユッキーはカワンチャの剣をシャベルのように使っていたけど、バランスをとりづらそうだった。


「ふかふかの砂浜も、石像で踏むと粘っこい感じするから……石像の体って、見かけより軽いのかもね」


 アタシはヘルハウンドを使っていて、ガイコツよりは穴掘り動作をしやすい。


「てゆうか誰だよ、わざわざ石像なんかを埋めたヤツ?」


「わたくしたちです。舞島様の言葉をそのままお伝えしますと『遭難者がトチくるって乗りまわしたら危ないから、強い石像は埋めておいて。特に墓場のでかいヤツとかは手をつけられなくなる』とのことです」


「そんなに強いのは、なんだか怖いかも……」


 さっちゃんユニコーンの前足が、トカゲ風の頭部を掘り出していた。


「ぼくは実に楽しみだ」


 正人は掘り起こしに使う石像がひとつ足りないこともあって、ひとりで新型のゾンビを作っている。

 マー坊の言葉をそのままお伝えしますと『ゾンビだけど、ほかになにもできなくていいからミサイルだけ撃てちゃうやつを考えてるんだ! 掘り起こして修復する間だけ墓場を守る待ち伏せ要員ってわけ! うまくいくかなあ? うっふっは!』とのことです。


「これ、ヘビかな? あ、ドラゴンか!」


 トモちゃんペガサスはものすごい足さばきで砂を蹴り散らしまくっている……アンタ普段から四足歩行してる?

 頭部の角が見えて、太い腕と脚が見えて、大きな羽根も出てくる。


「サイズが『ルフ』なみに超大型で、しかも人型に近くて扱いやすそうな機体か……やっぱりミサイルも強いのかな?」


 マサポンがウキウキと横目に見ていた。


「『ドラゴン』のミサイル発射回数は四回で、タイタンよりも威力が高いです」


「そうなると普通のガイコツなんかは一発か。そんなのにトモちゃんを乗せたら、たしかに手をつけられないかも。手足もタイタンなみだし……しかも羽根まであるってことは、見た目よりも速いのか~」


 そんなに強いと、あつかいもいっそう気をつけないとまずそうだ。



 ドラゴンからミニチュア人形が取り出されたけど、修復はタイタンよりも複雑難解で、さっちゃんに頼るしかなさそう。

 アタシは正人の新型を手伝う。名前は『ホーント』……ファントムと同じく幽霊の意味だけど、語源でもあつかいでも『オバケ』が一番近い訳らしい。

 海外の一般イメージでは、シーツをかぶったような姿のアレ。

 トモちゃんとユッキーは馬と犬とガイコツの細かい修復を担当した。


「こいつらがみんな軽傷なのは助かるな。サイクロプス軍団はともかく、強のビースト一匹くらいなら、なんとか相手をできそうだ」


「でも墓掘りですいぶん砂をかぶっているね……」


「待ってトモちゃん。むしろ余裕あったらかぶせておいて」


 マサポンの怪しい指示の犠牲者はツヨポンになった。

 ツバキちゃんの速報があって、階段を降りてきたビーストはできたてほやほやの『オバケミサイル』に試し撃ちされたあと、隠れていた砂から飛び出す馬と犬とガイコツに襲われる。


「ほええ!? なんじゃあ!? やるのお!? やるのおおお!?」


 変わったおどろきの声を聞けたけど、ツヨポンには逃げられてしまった。


「クソッ、もっと引きつけてからしかければ、しとめられたか?」


「無傷で撃退できたんだから上々だよ。『ホーント』の性能もわかったし……ミサイルは一発きりだけど、威力はヘルハウンドなみにある!」


 正人がやけにテンション高い。

 みんな疲れ気味だから、元気なのは良いことだけど。



 アタシがホーント二号を完成させたころ、ツヨポンビーストがまたどなりこんできた……やけに修復が早いな? けっこうたたいたつもりだったのに。


「ふおおう!? なんじゃあおい!? やるのお!? うっはは!」


 サラマンダーが追加につっこんできたせいで、また捕まえきれなかったけど、まったく同じ手にひっかかって、同じようにおどろいていた。


「ツヨポンの記憶、ファントムに消されている?」


 アタシは首をひねるけど、ユッキーのカワンチャも頭を抱えている。


「わかんねー。強だと素で学習してない気もしてこええ……」


「判断は難しいですが、ファントムに抵抗している可能性もあります」


 アヤメさんたちは奥の柱の影に退避していた。


「抵抗? ツヨポンは高笑いでノリノリだったけど?」


「はい。ファントムはスポーツのように『楽しむ』形式でしか、強さんを戦闘へ誘導できないようです」


「うんうん。強くんは女の子と本気でケンカなんて、死んでもできない感じのダンディだから」


 トモちゃんといっしょに、さっちょんまでうれしそうにうなずく。


「無理な誘導を続けているため、慎重さや計画性などに支障がでている可能性もあります」


「ツヨポンの優しさが、みんなを助けてくれているのか」


 いい話にまとまりかけたところで、マサポンが修復の再開をうながしつつボソリとつぶやく。


「脳みそ筋肉くんがはしゃぎすぎて抑えがきかないだけかもしれませんよね?」


「その可能性もあります」


 おいおいマサポン、ツヨポンに対しては毒がつえーな。

 笑顔でうなずくアヤメさんもひどいけど。




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