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8-1 天候の悪化や災害やたたりに備えておきましょう。


 まずは修復して戦力を増やさないとまずいけど、さっちゃんの突発的なオバケつきは原因が謎のままだった。


「また同じようなことが誰かに起きたら、増やした戦力がそのまま敵になって、だいなしになりそうなんだけど……ドラさん、そもそもオバケの連中はなにをどこまでやれるものなの?」


「個々のファントムは特性が大きく異なる。赤いファントムは標準的だが、戦闘力に優れる。黄色のファントムは複雑な誘導や連携に優れる」


「連携? あの鳥頭が?」


 黄色オバケはアタシへこまごまと『索敵。思索』『注意。注目。慎重』『前方。左側。三体。大型一体』とかつぶやき続けていたけど、トモちゃんたちによると『キューキュー鳴いてた』としか聞こえなかったらしい。

 ユキポンも赤オバケに『ソノ方向』『入レル。乗レル』『危険ノ接近』とか話しかけられていて、でも分離したらトモちゃんたちが聞いていたのと同じ、意味不明な『グモグモどなる声』にしか聞こえなくなった。


「ほかのファントムは黄色のファントムに接触した時点から、連携を意識した行動をはじめている。司令部となる戦略的な脅威は排除したが、役割分担までは防げなかった状況でもある」


 そういえばタコプリン同士は接触で会話というか、情報交換をできるんだっけ。


「日賀強にとりついている緑のファントムは、機動性は低いが破壊力に優れ、意識操作も強制力が高いと推測される。舞島にとりつく青いファントムは同時に多数のタコプリンを制御できる。舞島の極端に低い戦闘適性を補う配置と推測される」


 このあたりはフヨウちゃんがくれた新情報らしい。



「以上の四体では、篠原幸代に起きた意識操作は分析しがたい。まだ確認できていない五体目のファントムに、未知の特性があると推測される」


「わたし、また暴走したらどうしよう……しばっとく?」


 さっちゃんが困り顔で首をかしげ、ドラさんは寝転がって顔も向けないまま、視線だけ向ける。


「五体目の特性は『潜入能力』である可能性も高い。遭遇した場合に退避できなければ、かえって危険が増す」


「しばるのはまずいみたい。というか、さっちゃん以外も暴走しないとは言いきれないから、話して変なところがないかを気をつけたほうがいいのかな?」


 聞いてみるとドラさんは顔を向けないまま、かすかにうなずく。


「五体目の意識操作には長い時間の接触か、意識の抵抗が弱い状態、もしくはその両方が必要と推測される。接触の経路と時期は不明」


「手口がわからないと、予防も考えにくいこわさがあるな~。今のところ、ほかのやつらにオバケの影響なさそうだけど……」


 マサポンやトモちゃんは元から少し変だから、影響があってもわかりにくそうだ。

 できればもっと対策を詰めたいけど、ツバキちゃんがするすると入って来てしまう。


「石像。四体。管理塔の方向。数分の距離」



 舞島ちゃんは予備の機体を多く持っているから、この場だけなんとか勝っても有利にはならない。

 ドラちゃんのアドバイスからすると、石像を補給できる『戦場墓地』だけは先に抑えないとまずそうだった。

 でも日没までの時間は余裕がないし、ツヨポンの動きも予想しにくい。


「タイタンはもう少しかかっちゃいそう。二十分くらい……かな?」


「でも間に合っちゃうんだ。さっちゃんすげー」


 トモちゃんはさっちゃんの頭をなでくるけど、ユッキーはまゆをしかめる。


「でもギリギリじゃねえか。これじゃ墓地にいる強と、追ってくる舞島さんで、はさみうちにされねえか?」


 正人が苦笑いでうなずく。


「でも石像は墓地で補給できる予定だから、少しくらいは足止めに消耗できるよ。ドラセナさん、墓地にいそうな戦力は?」


「ビースト一体、リザードマン一体、サラマンダー一体。それともう一体、日賀強が今日中に修復可能な石像もいる可能性が高い。タコプリンは二体」


「それくらいならなんとか……ユッキーは先に墓地へ向かってくれる?」


 正人の指示にユッキーは意外と素直にうなずく。理由も聞かないで……

 ユキポンは態度のわりに、実はみんなを信じてやがるよな~。まあ、いいところなんだけど。

 マサポンはやたら器用にみんなをまとめやがる。

 まあ、気づかいの細かさはウソくさくないのだけど。



 研究書庫は低い山に囲まれ、四方向からの山道が集まる十字路になっていた。

 北側の狭い道を進むと、トモちゃんたちが最初に流れ着いた石像だらけの海岸へ出る。

 西側の道を抜けると、海に面した丘に『岬の神殿』がある。

 東側は岩だらけの長い道が『戦場墓地』まで続いていて、今はユッキーのカワンチャがヘルハウンドを引きずりながら先に進んでいた。

 南側の道を越えると『管理塔』へ続く湿地帯が広がっていて、今はその方向から舞島さんの『サイクロプス』が三体とワイバーンが一体、こちらへ接近しているので、アタシたちで足止めに向かう。


「まずはぼくが無駄撃ちを誘うから、トモちゃんとキョンちゃんは状況を見ながら援護をお願い」


 タイタン以外の修復は終わっていて、正人はスライム二号を追加していた。


「アタシはトモちゃんほど器用にミサイルをよける自信ないけど、遠めに逃げまくるだけでもいい?」


「うん。むしろ近づいたらまずい。三体いる『サイクロプス』はギリシャ神話のひとつ目巨人で、タイタンとほぼ同じ性能だから」



 スライム二号がノタノタズゾズゾと先行して南の峠をはいのぼり、トモちゃんはペガサス、アタシは救助要員のドラさんをのせたユニコーンで後を追う。

 向かいからも石像部隊の地響きがどんどん近づいていて、ちょうど坂道の上でガキョメキョと派手な音とスライムの破片がまき散らされた。


「す……ごい。まだうご……くよ。三発も……くらっ……」


 言葉の途中で四発目が当たり、坂道を引き返していたスライムは倒れる……というかのびて広がる。

 追ってきた『サイクロプス』はタイタンに似ているけど胴がやや太くて、顔には巨大な目がひとつだけ。

 まだしもタイタンのほうがスマートでハンサムだ。


 トモちゃんのペガサスが飛び出して駆けずりまわり、みごとに二発のミサイルを誘ってかわした。

 アタシが羽根つき馬に乗っても、あんな高速ドッジボールは無理。

 でも無駄撃ち狙いに気づかれたのか、それきりミサイルは止まってしまう。



「ふたりは先にもどって!」


 マサポンはスライム石像から出て叫ぶと、またすぐに中へ入る。

 たしかに今、マサポンの救助にドラさんを降ろすのは危険すぎる。

 相手の四体に合計六発を撃たせたけど、まだ残り二発ある。


「マサポンはあのまま中にいてもらって、相手が通りすぎてから救助の案内人さんを送るか……」


 アタシは方向転換したのに、ペガサスは突っこみはじめた。


「置いていったらダメだよ! ドラセナさん、早く正人を助けて!」


 おい待て友恵。

 ドラさんが指示どおりに背から飛び降りてしまい、アタシの頭が一瞬、まっしろになる。


「ドラさん、早くもどって、乗って!」


 アタシはドラさんを追いながら、とっさにそう言ってしまった。

 でもドラさんにかつがれてわたしの背へ乗せられた正人の声で、自分のミスに気がつく。


「ドラセナさんは逃げて! ユニコーンは壊れてもいいから!」


 ミサイルに狙われるアタシのユニコーンへ、わざわざドラさんを呼んでしまった!


「ここで鈴木正人を離すと墜落死の危険がある」


「今日子ちゃん走って! こっちはだいじょうぶ!」


 正人に言われて駆け出した瞬間、ミサイルがユニコーンの肩をかすめる。


「正人!? ドラさんは!? どうなってんの!?」


「とにかく走って! ……ドラセナさん、体は?」


 背中でなにが起きているんだよ!?

 背後でまた、バヒュッという発射音。


「最後の一発だ……トモちゃんが後ろで気をひいてくれてる」


 そんなことはどうでもいい。


「ドラさんは無事なの!?」


「キョンちゃん、もうだいじょうぶだから、もっとゆれをおさえて……」



 研究書庫までもどり、ツバキさんに降ろされたドラさんは、グッタリと動かなかった。


「両脚が破損。全治数ヶ月。機能保持の応急処置で全身の運動力が低下。意識の回復まで数時間から数十時間」


 ツバキさんの診察によると、気絶しているだけらしい。

 ドラさんの脚線美は見た目だとなんともないのに……


「ぼくもギリギリ避けたと思ったんだけど、案内人さんの内部構造は石像よりずっと繊細だから……ドラセナさん自身も『脚部動作不能』と言ってたし、腕の力も抜けていくみたいだった」


 正人は血だらけの指先をツバキさんに手当てしてもらっていた。


「ドラセナさんを支えて石像にしがみついていたら、爪がわれちゃって」


「そうだったんだ……ごめん、気づかなくて」


「気にしないで。男の勲章ってやつだから」


 なんだこのバカ、少しかっこいいぞ。




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