7-2 別行動の前後は連絡とあいさつをバカていねいに。
アヤメちゃんたちの提案どおり、最低でも人数分の石像を準備してから出発することにした。
あせるトモちゃんを抑えるのが大変だったけど、それ以上にさっちゃんの様子が気になる。
夕食もあまりとらないで、先に寝床へもぐってしまった。
トモちゃんも心配して早めに寝床へ向かう。
さっちゃんは……悪い子ではなさそうだし、トモちゃんがベタほめしてひっついているけど、会った時からおどおどしていて、言いたいことがはっきりしない。
「ねえ、幸代ちゃんて、まだ長びきそうだとわかったとたん、疲れた顔ばかり見せて、ちょっと甘えてない?」
「そうじゃないんだよ」
ユッキーと正人の声がそろった。
「幸代はケンカとか苦手なのに、ちょっと無理をしすぎただけだ。わがままとかじゃねえから」
「……はーん? ひねくれユキポンがやけにかばうねえ?」
からかって返したけど、どうも大まじめらしい。
「もしかすると今日子ちゃんは『どうせ男子はああいう甘ったれのブリッコにだまされたいんだろ』とか思っているかもしれないけど、ぼくは今日子ちゃんの硬派でいじましい乙女心も大事にしたいと思っているよ。ユッキーよりも」
「いじましくて悪かったな」
「それと、これはユッキーと同じだけど、さっちゃんはむしろ人に気をつかいすぎるほうだよ。だからなおさら、あの状態はちょっと気になるけど」
正人もふざけながら、実はかなりまじめにかばっている気がする。
いやアタシだって、はじめて会ったときの感じでは、すごくいい子ぽいと思ったけど……たまたま疲れが限界に来た時を見ちゃっただけなのかな?
まだまだユッキーたちや案内人ちゃんたちに聞きたいことは多かったけど、明日もまた日の出から起きなければ……それに疲れた……
紫のもやが光っている。
『ドウシタイ?』
事故なら事故で、それを確認したいのに。
結局、わけがわからないままだな。
『ドウシタイ?』
「うっさいなあ、自分でなんとかするっての!」
……自分の声に起こされ、夜中に目がさめてしまった。
みんなはしっかり眠っているみたいだ。
声を聞きつけたアヤメさんが近づいてくる。
「うなされていたようですが?」
「ごめん、だいじょうぶ。なんか変な夢を見ていた……気がする」
今日は枕元にドラさんがいないから、少し不安だったのかな?
それとも黄色ファントムの後遺症?
翌日は朝から修復大会だった。みんなでタコプリンを頭にのせて、延々と人形をいじる。
昼食までにユッキーは何度もダウンした。
「アンタねー、どんだけヘタレよ?」
「うっせーな。向き不向きがあるんだよ」
「あーら、夫婦ゲンカかしらー? 音量は小さめでお願いねー」
トモちゃんがアタシのまねをしてからかってくる。
「……友恵のやつ、今日はやけにがんばるな?」
昨日はユッキーよりも早くへばって雑談でみんなの邪魔をしていたトモちゃんが、今日はタコプリンを何度か引っこ抜きながらも、少し休むとまた再開していた。
ツヨポンを早く助けたいのか、さっちゃんの負担を減らしたいのか。
さっちゃんは今朝からはなぜか、自分で新設計したバカでかい石像をいじっていた。みんなが起きる前から、黙々とぶっとおしで。
正人にも相談しないで、勝手に材料をたくさん使って……トモちゃんが話しかけても、ほとんど反応しなくなっていた。
みんながさっちゃんをかばうし、アタシは新設計の図面がよくわからないので、いちおう口は出さないでおく。
でも正直なところ、任せていた『ペガサス』と『ユニコーン』を完成させてからにしてほしかった。
脚が速くて偵察向きの石像だから急いでほしかったのに、中途半端に放り出して……いやそれでもアタシの倍以上も速いから、両方ともあと少しになっていたけど。
朝食は小さいバナナと、生食できるホウレン草のサラダ。
昼食はイカの丸焼きとイチジク……ちゃんとおいしい。むしろ新鮮さがぜいたく。遭難中にしてはやたら栄養価とバラエティがそろっている。
なのにインスタント食品やスナック菓子が恋しくなるのはなぜだろう。
「アタシの馬はもう少しで完成。正人のほうもそろそろ?」
「だね。そろい次第、頭が限界の人に偵察へ行ってもらおうか」
馬二匹でも人数分には足りるけど、連れてきたミサイル持ちのヘルハウンド、サラマンダー、あとできればタイタンも修復したいので、まだ先が長い。
マミー二体はなぐり合いだったらそこそこ使えるけど、移動速度に問題があるから、ドラさんに頼んでタコプリンを入れてもらっていた。
操縦用のタコプリンは案内人さんが何十分かいじり続けて調整しながら流しこむ。
それとゾンビだったら研究書庫の材料を消費しまくると手早く作れるとかで、正人は手が空き次第、予備を作っておく予定だった。
「偵察はオレが行く。今日はもうしばらく頭が動かねえ。友恵もじゃねえの?」
「うん……そうかな……」
ここで正人がなぜか、真顔でアタシにウインクしてきた。
「キョンちゃんは? 疲れてない?」
「えーと……まあ、実はわりとしんどいかな?」
いちおう合わせてみる。
「じゃあ偵察はキョンちゃんとユッキーで。トモちゃんは無理しすぎだから、もう昼寝でもしておいたほうがいいよ」
あ……トモちゃんを行かせると、ツヨポンを見つけた時に突っ走る危険があるか。芸が細かいなマサポン。
「ええ~? わたしだけそんな……」
「キョンちゃんのほうがドラセナさんから地形とか教えてもらっているから、偵察に向いているよ。なにかあった時の捨てごまにはユッキーが最適だし」
ツバキちゃんの案内であたりの山道を見てまわって、少し足をのばして戦場墓地や管理塔がギリギリ見える峠にも登る。
ツバキちゃんはたびたび身ぶりで停止や待機を示して、ひとりでどこかへ飛び去ったあと、しばらく待つと帰ってくる。
アタシたちは護衛としてついていくだけで、なにをどう見てくるかはツバキちゃんにおまかせだった。
ツバキちゃんは運動能力だけでなく、いちおうは全性能がアヤメちゃんより上らしいけど、ときどき指さすほうを見ると鳥の巣があったり、ばかデカいキノコがあったり、みょうな模様の岩があったり……ネタかどうかもよくわからないコミュニケーションをしてきて困る。
意外にのん気な散歩だった帰り道で、ツバキちゃんが突然、石像に飛び乗ってくる。
「帰還推奨。全速力」
「その前に、なにか夕飯の材料を少し……」
「危険。研究書庫」
「おいおいなにがあったよ……ユッキーはツバキさんと先に行って!」
ユッキーが乗る羽根つき馬の『ペガサス』は、石像の中でも最高の速さが出るらしい。
アタシが乗る一角馬の『ユニコーン』はやや劣るけど、それでもかなり身軽だ。
伝説では清らかな乙女だけに近づくことを許すとか、うっとうしい性格の馬らしいけど……アタシが乗ったからにはガツガツ頭突きで相手をハチの巣にする猛獣になってもらおう。
研究書庫が近づいてくると、石像のぶつかり合う音がしてくる。
でも敵らしき姿は見えなくて、ユッキーのペガサスは建物へ突入した。
「まさか……中でやりあってるの!? あと少しで完成の石像がたくさんあるのに、なにやってんだ~!?」
ペガサスと入れ代わりに、アヤメさんが飛び出てきた。
こちらへ一直線に突撃してきて、アタシのユニコーンへ飛び乗る。
「幸代さんが大型の石像に乗り、石像の破壊をはじめました。友恵さんと正人さんで止めています」
「げっ……ファントムの意識操作? あるいは疲れすぎてぶちキレた? いや、いくらなんでも、そこまでする子には思えないけど……でもみんなで研究書庫へ来てからは、オバケの姿は見てなかったのに……?」
というか、この島のファントムちゃんたちがオバケのわりには誰にでも見えすぎなんだけど。まっ昼間から。