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7-1 ガイドさんを困らせると後で悔やみます。


 アタシにとってわけわかんないのは、こいつらの緊張感のなさだ。

 人体実験されているとか、下手に帰国したら秘密を守るために口封じされるとか考えなかったの?

 でかい企業とか政府との関わりはなかったみたいだし、舞島の陰謀っていうのもアタシの考えすぎだったとは認めるけど、この怪しすぎる島での生活をいきなり受け入れた神経は疑う。

 本当に廃墟だったからよかったけど、こんないかれた技術で本気の洗脳をされていたら、マジで人形にされていたじゃねえの。

 帰国方法にしたって、聞いたらとんでもないことがわかった。


「ファントムに操られた舞島様がふたたび『マスター』になって管理塔の破壊をはじめていたら、少なくとも五百年は帰れなくなっていました。今のところ『最悪の事態』は避けられています」


 います、じゃねーよアヤメちゃん!?

 みんな『ちょっと不思議な外国に来ちゃいました』くらいのノリで考えているけど、警察も救助隊も諜報機関すらも入ってこれない『異常な空間に監禁されちまった』状態だと知ったアタシは脱出に何日、何ヶ月、何年かかるか本気で青ざめたっての! でも五百年かよ!?

 それを知ってもヘラヘラ笑えるこの子らは少し怖い。

 退屈すぎる日常で感覚がマヒして、新鮮な遊園地みたいに思ってんのか?

 アタシがしっかりしないとマジでやばい。



「キョンちゃんキョンちゃんねーねーねー、ユッキーとはどこまでしたの?」


「トモちゃんトモちゃん、夜は夜で案内人ちゃんから情報をしぼりとらなきゃ、めんどい敵とは戦えませんでちゅよー? 邪魔しないでくだちゃいねー?」


 アタシは自分の不信感をファントムに増幅されていたことはもう自覚しているけど、疑惑そのものがまちがっているとは思わない。


「というか、今までにも帰国できた人がたくさんいるなら、どこかの政府や専門機関みたいなのが動いていないほうがおかしいし。舞島さんには裏の意図がないとしても、自覚がないまま誰かに操られている可能性だってあるでしょ?」


「舞島様の遭難事故に、タコプリンがなんらかの干渉をしていた可能性もあります」


 アヤメちゃん、あっさり自白。


「タコプリンは補助する対象、つまり目的を持つマスターを欲しています。舞島様はマスターとしての適性が高いため、比較的早く、多くの安全装置が解除された可能性があると、舞島様ご自身が分析しています」


「アヤメちゃんたちも中身はタコプリンなんだよね?」


「はい。わたくしたち案内人は、人間のみなさまにもわかりやすい表現で受け答えできるだけです。しかしタコプリンは意識構造が人間と異なるため、補助以外の意志や目的については舞島様も研究中です」


「じゃあ、アタシの疑問も不自然ではないんだ?」


「はい。より正確な相互理解のきっかけになる点では、有意義な発想と思われます。なお帰国者の影響の少なさについては、舞島様の言葉をそのままお伝えしますと『タコくんには目立たない形での帰国をお願いしているけど、そこまで操作できるものかな? そろってアホか賢いやつばかり返したおぼえはないんだけど……今のところ運がいいだけかな~?』とのことです」


 運……運かよ。

 でもムカつくことに舞島の『かな~?』はかなりの確率で当たる……とドラちゃんにも聞いている。



「タコプリンの目的については『ひたすら人間の願いをかなえる習性からすると、初歩的な交流か、模倣による学習をしてそうなものだが、極端に受身だ。万能に近いのに、人間の指示がないとほとんどなにもできない……というか、やる気がない。ただひとつの例外は「指示を与える人間を得ること」だが、それにしたって遭難者をちまちま釣り上げるような気の長さだ』とのことです」


「やたらのんびりした性格なんだ?」


「舞島様の言葉をそのままお伝えしますと『やたら親切なのも、たぶん古代人の最も強い願いが手助けだったなごりで、タコプリン自身の意志が弱いだけだ。まちがった指示をすれば、どこまでも危険になりうる。石像を兵器に改造して島を滅ぼす戦争の原因になったわけだし、人間のいがみあいを手伝わせた影響はいまだに消しきれないで、ファントムが発生する原因かもしれない』とのことです」


 この楽園をくれたのも、滅ぼす手伝いをしたのもタコプリンで、どちらも人間の願いをかなえた結果か……


「というか結局のところ、別の星から来た宇宙人かなにか?」


「舞島様の言葉をそのままお伝えしますと『タコプリン星から来たタコプリン星人みたいに考えるアホにはそう思わせとけ。ぼくの推論を聞かせたって混乱するだけだ』とのことです」


 やはり舞島は信用できない。善悪はどうあれ、人格がどうしようもない。

 あとアヤメちゃんのその笑顔はぜったい、育て親の悪いマネだと思う。



「ところでアヤメちゃんが案内人のまとめ役なの?」


「案内人に上下関係はありません。むしろわたくしは最初に作られましたので、ほとんどの性能で最も劣ります。また、舞島様の言葉をそのままお伝えしますと『最初に作ったアヤメは、とりあえず美形ならなんでもいいと思って安易にデザインしたのが敗因だった』とのことです」


「……やっぱり舞島ちゃん、別の意味で人間じゃねえな」


 アタシの意見に正人も笑顔でうなずく。


「舞島さん救出の途中でぼくは事故を起こすかもしれないけど、みんなはとぼけてね」


 ユッキーはいちおう抑えようとした。


「おい正人、舞島もいちおうは恩人……みたいなもんだから……その、あまり…………ツバキさんは? アヤメさんより話すのが苦手そうだから、それぞれ専門分野がちがうのかと思っていたけど」


 強引に話題がもどされた。


「わたくしの次に作られたツバキに関しては『いろいろ趣味に走りすぎたせいで、どう作ったかよくおぼえていない。そして運用に困るものができてしまった。性能はすべてアヤメより高いはずなんだが……こんなに変わるものか? とりあえず運動機能は確実に上だし、連絡役には向いている。いや待て、それだと自分の側に置ける時間が短く……まあ、しかたない。遭難者をとっとと追い払えば済むことだ』とのことです」


「……いちおう、ドラちゃんとフヨウちゃんについても聞いておこうか」


「ドラセナに関しては『研究助手の機能だけ考えていたら、またも好みからずれたデザインになってしまった。そばにおくことを考えたら、デザインも重要な機能だな』とのことです」


 ドラさんのデザインが舞島の好みでないことは、アタシにとってはなんとなく喜ばしいけど、それとは別に怒りもこみあげてくる。


「フヨウに関しては『最近なぜか漂流者が増えているから、予備の人手としてツバキとドラセナの長所を併せ持つ全体に高性能な案内人を作った……つもりなんだが、急いだせいで、なにかまちがえたのかな? まるで人間ぎらいみたいな……製作者の気分まで反映されてしまったのか?』とのことです」


「いやむしろ、ツバキさんとドラセナさんの問題点を足した感じだったような……」


 ユッキーが遠慮気味に口ごもり、正人が横からごまかしに入る。


「研究助手のドラセナさんはともかく、ツバキさんやフヨウさんの個性は製作者にも謎だったんだね……ぼくとしては舞島さんとの趣味の一致が一番ショックだったけど」



「そういえば、そのフヨウちゃんと強って子がまだ帰らないのはまずくない?」


『ビースト』に乗っていたなまりのある男子ともいちおうはあいさつしたけど、あの時はファントムの影響を考えるのに必死で、今まで忘れてしまっていた。


「日賀強とフヨウは、ここに操縦可能な石像がないことを確認して『戦場墓地』へ向かう」


 ドラさんはいつのまにか地下からはい出て、修復中の石像の上で寝そべっていた。


「ドラさんも会っていたんだ? でも『戦場墓地』はここから遠いし、使える石像も少ないとか言ってなかった?」


「墓地にある石像の多くは、修復および発掘の労力がかかる。現在の今日子が動員可能な労力であれば、戦力増強には最適。ファントムの到着予想時刻は昨日から明日。状況を知らないで遭遇した強とフヨウは対処が困難」


「あちゃあ。そういうことか……」


「キョンちゃん、翻訳をお願いします」


 トモちゃんはドラさんの口調だと頭に入らないらしい。


「フヨウさんと強くんは舞島さんに捕まったかも。あと、舞島さん退治にはアタシらも『戦場墓地』まで行って、石像を堀っくり出すのがいいみたい……ドラさん、ありがと」


 ドラさんはひと呼吸の間、かすかなほほえみを見せたあとに目を閉じる。



「ツバキさんやフヨウさんもどうかと思っていたけど、ドラセナさんに比べたら、まだ案内人らしいな……」


 ユッキーの好みはまだ『かわいらしいお姫様』か? ガキだな。


「アタシにはツボなんだけど? 持ち帰りたいくらい」


「ユッキーはほんと『男の子』だなあ~? あのけだるそうな感じにふりまわされたいとか思わないの?」


 正人がドラさんの退廃的な魅力について力説をはじめるけど、アタシは無愛想で不器用なまじめさが好きだった……営業くさいアヤメちゃんやグラマーすぎるツバキちゃんが気ざわりってのもあるけど。


 ドラさんは一日中この書庫をはいずりまわって、ロクデナシのために記録と資料をまとめながら、アタシのためになることも常に考えていて、不意に現われてはつぶやいていった。

 言われた時にはわからない内容も多かった。

 特にファントムに関しては特徴や性質をあんまりしつこく説明するから、なにかの故障かと思ったけど、あのくり返しのおかげでトモちゃんたちとはすぐに仲良くなれた。

 黄色ファントムが消えるとあらためて、自分はドラさんを頼りに三日間を耐えてきたことに気がつく。

 正体がタコでも助手ロボットでも、ひそかに尊敬する。

 アタシがそう感じた時に限って、ほんのかすかにほほえむあたりが、なんかくやしいような、うれしいような。



「日賀強は戦場墓地で緑色のファントムにとりつかれた」


 ドラさんが突然に断定して、みんながおどろいてふり返る。

 寝そべるドラさんの後ろに隠れ、コッソリ手を握っているバカでかい女がいた。

 アタシは初対面だけど、特徴は聞いていたとおりで、バスケやバレーボールの選手なら最強ぽい外見だ。


「フヨウちゃん……かな? 強くんはどこ?」


 フヨウさんは『座った姿勢からの前方八回転ひねり』をくりだし、アタシの頭上を越えて書庫の出口へ飛びこむ。

 そして玄関から顔を半分だけ出した。


「わたくしフヨウは現在、日賀強さんを案内中であり、別行動の時間を短縮するため、今日子さんの質問はドラセナに対応させます。もうしわけありません」


 言い終わるなり走って逃げる万能優等生。

 ふり返るとドラさんは寝転がったまま、アヤメちゃんとツバキちゃんに両手を握られていた。


「フヨウは危険を察知して、強さんにも説明していたようですが、十分には理解されないまま戦場墓地へ向かうことになり、舞島様に話しかけられて石像から出てしまったようです」


「強は言うこと聞かねえし、突っ走るし、バカだからなあ……でも操縦うまいし修復もわりとできるから、敵になったら、かなりめんどうじゃねえか?」


 ユッキーがしみじみと頭を抱える。


「今度は強くんと戦わなくちゃいけないの……?」


 幸代ちゃんは弱々しい声をだす。


「助けに行こう! 今からみんなで! 夜に石像を使えないのはあっちも同じでしょ!?」


「おちつけトモちゃん。突っ走ると強と同じになる。ツヨポンを助けたければ、トモポンも話を聞く」


「うう~、でも~……」


 トモちゃんの世話好きは少し病的だけど、少し尊敬する。

 だからアタシは嫌われ役になっても抑えにまわろう。



「案内人ちゃんでも、ファントムの相手は不利なんだよ。特に緑のやつは、ふたりがかりでも危ないらしいから……アタシは強くんのことあまり知らないけど、どんな意識誘導になりそう?」


 石像で追いまわしたのに生身で逃げきって石像でやり返してきたから、心身ともしぶとい感じはするけど。


「フヨウによれば、強さんの意識誘導は不安定なようです」


 アヤメさんの言葉の意味がわかりにくく、ユッキーが確認する。


「人の言うことを聞かねえ性格だから?」


「フヨウの分析によれば、強さんは直感的な行動が多く、島生活などへの不安も少ないことで、抵抗力が高いようです」


 正人があきれ気味につぶやく。


「単純で能天気だと、あおりようもないってことかな……」


 マサポンもしかしてツヨポンのこと嫌いか?


「それと舞島様の目的は、管理塔の保護である可能性が高くなりました。今までの時間は、塔を守る戦力を優先してそろえていたようです」


「すると今さら強くんをさらったのは、管理塔の守りが整ったから?」


「はい。さらに守る範囲を広げることで、脅威となりうる要素の排除に誘導された可能性があります」


「でもそれなら、ぜんぶ投げ出して降参すれば、邪魔者としてすぐに帰してもらえませんか?」


 幸代ちゃんが珍しく意見を言う……けど、ずいぶんボケたこと言う子だな。


「武装を解除して降参した場合、身体的な安全を保てる可能性は高い。そして最少でひとり、最多で全員の帰国が困難になる可能性も高い。舞島の仮説によれば、タコプリンは舞島ひとりが管理している不安定な状況を改善するために遭難者を増やしている。現在いるファントムの目的は、管理者の確保にある可能性が高い」


 ドラさんが目を閉じて寝転びながらなにかを言う時は、相当に頭を使っている。

 そしてトモちゃんがまた小声でアタシにおがんできた。


「キョン先生、解説をお願いします」


「オバケはアタシらを舞島の代わりとか助手にしたいらしいから、降参しても帰れない危険が高いみたい。というか結局は、不満を持たれる舞島ちゃんの性格も元凶のような……」


 舞島さんのおかげでいろいろ助かっているはずなのに、なんでこう素直に感謝しにくいのか。




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