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6-1 ぶっこわれた計画はやわらか頭で乗りきりましょう。


「ワシぁどうも人の言うこと聞かんて、よお怒られるんじゃ。堪忍な」


 強の性格は苦手だが、素直にあやまってくるだけ友恵よりはマシ……なのか?

 だけど今は歓迎会とか開いている場合じゃねえし。


 ツバキさんによると、逃げたヘビ二匹にもう三体が加わった合計五体の今日子軍団が迫っている……らしいけど、今回も見えている数は一匹少ない。

 こっちはオレがグール、幸代がマミー、友恵がゾンビ。

 強のビーストは神殿に隠している。

 それだけじゃ勝ち目は薄そうだけど、正人の『スーパーガイコツ(仮)』完成まで時間稼ぎをできれば、ようやくミサイルを今日子にぶちかませる。


 まずは友恵のゾンビが神殿のまわりをはいずりまわって目をひきつけた。

 相手はサラマンダーが二体と、サーペント、そしてもう一体の大型『グリフォン』はビーストのようなライオン体型にルフのような鳥頭と羽根がついていて、体格のわりに身軽だ。

 四体は丘のまわりをうろついていたけど、だんだんと近づいてくる……これは正人の予想通りだ。


『今日子ちゃんはできれば森までひきこんで奇襲をかけたいだろうけど、ぼくたちは神殿にはりついていたほうが乗り換えやすい。それにこっちは、にらみ合っていたほうが有利なんだよ。石像づくりの時間を稼げるからね』


 相手から近づいてきたら、一番弱いゾンビを最初に狙ってもらう。

 友恵は乗り換える予定だし、勘がいいから乱戦でもいい動きをしそうだった。

 実際、朝の四対一なんて、オレじゃわけわからないまま瞬殺されていたかもしれない。

 強のビーストはギリギリまで出さない。

 ゾンビ軍団より速く走れるから、今日子が逃げ出した時に追いかけられる貴重な石像だし、予想外の戦力として不意打ちになる。


 友恵ゾンビが少しだけ前に出て誘うと、一斉突撃して来た。

 サーペント以外の三体はこっちへ向かって来ている……ゾンビ相手ならサーペントだけで十分と考えて、こっちを狙う気か。


「わ、わたしはこのまま門の前にいればいいの?」


 幸代マミーの声は門の前にもいたくなさそうな怖がりかただ。


「サッカーのゴールキーパーみたいなもんだ。敵が来たら突きとばして、乗り換えるやつを守ってくれたらいい」


 オレのグールは友恵と幸代の両方に気をつけながら、強のビーストを活かすチャンスを……


「今じゃよなあ!?」


 おい強!? 早えよ!?

 いきなりビーストが駆け出て、飛んできた白煙ミサイルをかわして、サラマンダーの首元にかみついてたたきつける。

 いきなりしとめやがった……それならそれで、今がしかけ時か?



「ちょっとだけ、ひとりでがんばってくれ」


 幸代にはきつそうだけど、今オレが出ないと強が袋だたきになる。

 ビーストをねらうグリフォンへ駆けよって、グールの大爪をぶんまわす。

 かすっただけ。さらに斬りつけたけど当たらねえ。


 強はもう一匹のサラマンダーへ向かう……あんな性格のわりに、地味なうまさがある。

 友恵みたいに飛び跳ねたりはしないけど、慎重にかわして無難に当てる。

 それだけの動きでも人型じゃない機体だと難しいから、どうしても強引につぶしたくなるはずなんだが……こいつも友恵と同じで、半分は動物か?


「ユッ……キー、こっ……ち、たちけて」


 ……っていつの間にか、ゾンビが死んでる!?

 ふらつく友恵ゾンビがサーペントの尾に直撃されて倒れこむ。

 でもオレも今、大型のくせにすばやいグリフォンの反撃でぶったおされる寸前なんだが。


「ぬっしゃあああ!」


 強がサラマンダーを置き去りに、グリフォンへ体当たりをかましてくれた。

 こいつ、自分勝手なわりには仲間のこともよく見てる……のか?


「強、サンキュ! いったんもどろう!」


 まずは友恵を無事に帰さねえと。それにサーペントの次の標的にされたマミーが組み合って泣きそうにしている。

 見た目はがれきをのっぺりとそろえた太目のゾンビだけど、大ヘビの頭を両腕で抱えて脚をばたつかせている姿はなぜか幸代にしか見えない。



「ジロー、集合!」


 サーペントの背後から爪ぶちあててやろうとしたのに、今日子の命令でふりかえって、攻撃をかわして逃げてしまった。


「おう!? 逃げるんかあ!?」


「待て! おい強! 待てってば!」


「じゃかあし! ……あ、いや、すまん。待つ。待つぞーお!?」


 走りかけていたビーストが急ブレーキをかけ、ものほしそうに敵をにらむ。

 強は同じアホでも友恵よりは使えるんじゃねえか?


「あっちはサラマンダー一体、こっちはゾンビ一体の被害なら悪くねえよ。相手のほうが少しずつダメージ大きそうだし。強のおかげだ」


 相手が逃げるなら、追わないで時間を稼ぐ。


「ちょうど友恵も帰れるし……今日子がまだもう一匹を隠していることも気になる。追わなければ出てくるんだから、あせったら損だ。ミサイルが間に合ってから倒さねえと、今日子についてるファントムもつぶせねえし」


「ほーお、策士じゃのお。……幸代ちゃんはだいじょうぶかいやあ?」


「あ……あまりだいじょうぶじゃないけど、だいじょうぶ」


 幸代はグッタリした声をだす。マミーのひびはたいしたことないけど……ほんとにケンカとかはまるで向かないらしい。

 いや、友恵や今日子が女子にしては凶暴すぎるだけか?



 グリフォンはふたたび姿を現して、子分はサーペントとサラマンダーのほかに、スネークも加わっていた……やっぱり一匹は森に隠していやがったか。

 でもこっちも、そろそろミサイルつきの『スーパーガイコツ(仮)』が完成する……はず。

 同じ一匹ずつの補給でも、友恵ならタコの何倍も凶悪だ。


「今度は友恵が隠し玉だから、いきなりバカみたいに飛び出るなよ? ミサイルは三発あるらしいけど、とにかく一機だけだから慎重に」


「ユッキーどの、了解であります」


 バカにされてるような……いや友恵はアホでノーテンキなだけだ。まともにかまったら負けだ。


「強は……ある程度は任せるけど、袋だたきだけは気をつけろよ?」


「雪彦、大将らしいのお」


 こいつのノリは、バカにしていても本気でほめていても嫌だ。


「先にオレが相手の動きを抑える。幸代もいっしょに……数を減らせそうなら相打ち気味に攻撃してもいい」


「自信ないけど、誰かにしがみつくだけでもいい?」


「わけわからなくなったら、それでもいいよ。とにかく今日子さえたたきだして爆撃すれば終わるからな」


「幸代ちゃんはワシが助けにいくから安心せい」


「わたしもさっちゃんは真っ先に助ける」


「おまえらは攻撃に集中してくれよ。なんのためにオレと幸代が盾になると思ってんだよ」


 アホばっかりですげえ不安だ。オレひとりが猛獣使いでゴリラ二匹とペンギン一匹の指揮かよ。



 今日子はまたしばらく丘の下で待ったあと、あきらめて近づいてきた。


「よしっ、じゃあワシから!」


「だから待てって!? 袋だたきになるから、ひとりで飛びだすなって!?」


「お、おお!? すまん!」


 こいつ、人の言うこと聞いてねえ!?


「相手を近くまでひきつけろって。そのあとは任せるから……オマエ、操縦はオレよりうまいんだから、少しは頭を使えよ」


「聞くぞ!? ワシは話を聞く男になるんじゃあ!」


 やっぱりコイツ疲れる。友恵よりバカがひどいかも。

 バカ二匹の忍耐が不安だから、オレが早めに飛び出すことにした。

 オレのグールが先頭のサーペントと相打ちに半壊するなり、左側のサラマンダーは強のビーストにぶっとばされる。

 幸代のマミーは右側のスネークをおさえてくれるかと思ったら、オロオロとサーペントのシッポをつかもうと追いかけている……

 強はやっぱり飛び出したあとの動きはうまくて、自分がぶっとばしたサラマンダーは無視してグリフォンを抑えに向かってくれた。

 グリフォンのほうが身軽で有利とはいえ、強ならそう簡単には負けそうにない。


 でもオレ自身のグールはスネークとサーペントの両方にかみつかれ、早くも墓場行きが確定してしまった……グールって死体を喰うゾンビの一種だったよな?

 オレの足をかじるスネークの頭へ、見慣れない剣がめりこむ。

 続けざまにヒザ蹴りをいれ、次の獲物へ飛びかかる凶暴なガイコツは友恵にちがいない。

 ただ、スケルトンのわりには一撃が重いし硬いし、やや速い。なによりも色が……新型ガイコツは剣も体も青みがかった黒で、乳白色ばかりの石像の中では浮いている……というか、あれぜったい悪役だろ?



 サーペントがオレの次に幸代のマミーへ攻撃をはじめ、悲鳴を聞きつけた強のビーストが引き返してくる。

 サーペントの尾をくわえて引きずり倒し、さらにその後ろから襲いかかるグリフォンのくちばし……を黒スケルトンの剣が強引に打ち返す。

 続いて黒スケルトンのげんこつパンチと、グリフォンの爪パンチが相打ちになった。

 ダメージは互角で、やっぱり白スケルトンよりは全体に硬いらしい。


「うわ!? ひびはいった!? さすがにここまでは硬くないか!?」


 慎重に使え。頼むから。一機しかないミサイル持ちだってわかってるのかよ友恵!?

 自分の手足を動かせないのがもどかしい。グールは完全に成仏しているらしくて、声も出せない。

 かといって石像が殴り合う近くで機体を出たら、破片の流れ弾で死ねるし、そもそもこの乱戦で生身の声なんか届かない。


「だいじょうぶ! いける!」


 マジかよ友恵? 信じらんねえけど信じるしかねえから頼むなんとかしろ。

 ゴッファ! 黒ガイコツが口から煙を吐き出し、グリフォンの足に命中させる。

 三発しかないのに……むだ撃ちじゃないだろうな!?

 今日子のグリフォンは黒ガイコツがミサイル持ちだとわかったせいか、接近戦を急いだ。

 その突撃を黒ガイコツはひょいとかわして背中へ斬りつけ、反撃のクチバシも蹴り返すと、顔面へとどめのフルスイングをたたきこむ。

 ひとまわりでかいグリフォンが、テキパキと片づけられてしまった。



 サーペントは頭をビーストにかみ砕かれてのびかけている。

 幸代マミーはサラマンダーに襲われて情けない声をあげながら小突き合っていて、そこへ正人マミーがうれしそうに駆けつけている……表情は見えないけど、そう見える。

 勝負がついた……か?


「ひどいことはしないから、逃げないで?」


 黒ガイコツがかがんで口を開けると、倒れたグリフォンを喰おうとしているようにしか見えない。


「そのミサイル、本当に健康上の問題はないんでしょうね? 舞島ちゃんの説明だと不安でしかたないんだけど?」


 今日子がグリフォンの背に立ち上がり、腰に手をあててガイコツをにらむ。

 長細い黄色ファントムは今日子の首あたりにまとわりついて、あわただしそうにうごめいていた。入れる日陰が少なくて苦しそうだ。

 オレはマミー二体がサラマンダーを抑えているのを確かめてから、グールを抜け出す。


「いっしょに撃たれてもいいぞ? オレは二回目だ」


「ユッキー、近づいたら危ないよ。オバケになにされるか……」


 そういう友恵は、オレを撃たせる時に赤オバケへ突っこんで来たじゃねえか。

 なんで初対面でケンカふっかけたオレのためにあんなことできたんだよ。

 クソッ、いまだに礼もあやまりもできてねえ。


「まあ、案内人はウソをつかないみたいだから? とりあえず撃ってかまわないけど? というかユッキーに変な借りは作りたくないから、撃つならさっさと撃って」


 今日子も今日子で、女子にしてはすげえ度胸と、すげえかわいくなさだ。


「え? そう? それじゃ失礼しまして……」


「キュ! キッ! クィフィイイ!」


 黄色ファントムが嫌がるように、急に速くのたうつ。


「っておい、ちょっと待て友恵。そんな高いところで撃ったら……」


「さっさと撃つ!」


「いくよー」


 ゴウッ、と音がして。


「わぷっ!?」


 ほら見ろ。今日子がグリフォンの背を転がり落ちてくる。

 いや無理だろ。カッコよく受け止めるとか。

 とにかく手を広げて下じきになってやったけど。



「いって……友恵のヤロウ、一度見てるくせに、なに考えて……無害でも、わりとふっとぶんだよ!」


「ご、ごめん! 今日子ちゃん、だいじょうぶ!? ユッキーえらい!」


 オレはケツが痛むけど、今日子はおどろいているだけで無事らしい。

 立ちあがって、不機嫌そうにメガネをなおす。


「これで恋とかはじまる性格じゃないから」


「正気にもどって第一声がそれかよ!?」




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