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5-2 リーダーはみんなを信じてお手本を見せましょう。


 島奥の低い山のほうから、三体の石像が近づいていた……ツバキさんは四体と言っていたけど、逃走用の予備に一体は隠してきたか?

 でかいのは『マンティコア』だけで、おととい見た『キマイラ』と似たライオン型。

 角がない代わりにサソリみたいなシッポがあって、アヤメさんによればミサイルはないらしい。

 あとはザコヘビの『スネーク』と、ミサイルヘビの『サラマンダー』だけ。

 ヘビ型は体当たりの一撃が重くて速いし、長い体はもつれあうと相手をしづらいけど、本物のヘビより体型も動きもカクカクしていて小回りがきかないし、着地や起き上がりも遅い。

 あせらなければ人型のほうが有利だし、友恵がタイタンに乗っているなら一匹ずつ無難につぶせそうだ。

 ただ、逃げる今日子まで捕まえきれるかはわからない。

 無理そうな時はミサイルの無駄撃ちや余計な損害は抑えないと、次の襲撃に対応できなくなる。


「友恵は囲まれないように気をつけろよ? オレは抑えに専念するから、その間に数を減らしていけ」


 きのうもおとといも使えた連携だから、今度もいけると思ったのに……今日子はなぜか、最初から中途半端に逃げやがる。

 攻めるそぶりは見せるのに、友恵が近づこうとすると、どんどんさがってしまう。

 それでも友恵はさすがというか、よけてばかりの相手にも少しずつダメージを与えている。

 だけどオレのゾンビじゃ、巨人の歩幅に追いつくだけでも大変なのに……ふと森の近さを見て、神殿から離れすぎていることに気がつく。

 まずい。これじゃ乗り換えも援軍も時間がけっこうかかる。

 今日子のやつ、これをねらっていたか。

 こっちに数人ぶんの速さで修復する変人がいることに気がついたらしい。

 ちょうど神殿からゾンビを全体に太くしたような『マミー』が出てきたけど、やっぱり足は遅い。


「友恵! 深追い……しすぎだ! もど……れ!」


「ゴロー! ゾンビを黙らせて!」


 今日子の声をだしたのは大型のマンティコアじゃなくて、サラマンダーのほうだった。

 そいつはオレに向けてミサイルを撃って……はずしたと思ったのに、オレは別方向から直撃を受けていた。

 森から……もう一匹、タコ入りのサラマンダーを隠してやがった!?


「みんなでタイタンを攻撃!」


 そう号令した今日子は、ふらつくオレにかみつく……げ、動けねえ。いきなりとどめを刺された!?

 まずい。このままだとタイタンは四匹から袋だたきにされる!


「逃げ……ろ、友恵!」


 友恵は今日子サラマンダーを追うけどスネークに邪魔されて、マンティコアの尾や、森から来た伏兵サラマンダーの砲撃もくらって、みるみるひびを増やしていく。

 おいおい、なにやってんだよ? あれほどタイタンは温存しろって言ったのに、あっさり袋だたきに……このゾンビもう、声も出せねえし。


 友恵がついにミサイルを今日子サラマンダーへ当てた時には、もう戦えるかも怪しいボロボロ具合だ。

 ヘビ軍団が一斉に、今度は本格的な退却の準備をはじめる。

 森の木陰で倒れたサラマンダーの上に小柄な女子が……細いメガネをかけた生意気そうな顔が見えた。

 足元から細長くて黄色いギザギザのもやがのびてくねって、今日子のツインテール頭のずっと上で、四本の細い腕をわきわきと動かし、翼竜みたいな形の頭からみょうな声を出している。


「キックィ、キーゥ、クィッケィル、ケーケックェイ」


 鳥みたいにリズミカルで騒がしい高音。

 友恵が強引に撃った二発目のミサイルは、手前で護衛するスネークにとどめを刺すだけだった。


「まったく……手間かけさせてくれるねー、アンタら」


 今日子は不機嫌そうに言い捨てて、さっさと引きあげてしまう。

 気のせいか少し、疲れているようにも見えた。



 ボロボロになったタイタンは幸代のマミーが引きずって神殿まで運ぶ。

 太めゾンビのマミーは近くで見ると表面のひびが横方向にそろっていて、包帯まみれのミイラ男に見えないこともない。

 オレは動けないゾンビを置きざりに、タイタンの手に乗ってしがみついていた。


「おい友恵、なんですぐ逃げなかったんだよ? オレを盾にして、タイタンさえ守っておけば……」


「ユッキーだけおいていくわけにはいかないでしょ!?」


 なにいきなりキレてんだよ。わけわかんねーよ。

 殺されるわけじゃねーし、置いてくのが正解だろ?

 でもこれ以上なにか言うと、めんどくさくなりそうな勢いだったから、無視して黙っておいた。



 出迎えた正人は苦笑いする。


「タイタンが重傷でまたしばらく使えないのは残念だけど、それでも二匹をしとめたなら、さすがトモちゃんだよ。マミーが無傷で残ったともいえるし。あと今日子ちゃんの罠に気がつくのが遅れていたら、もっとひどいことになっただろうから、ユッキーだって……」


 こいつの八方美人なきげんとりは好きじゃないけど、こういう時にはこういうまとめ役も必要なんだろうな。


「う~、もっと早く神殿の近くへもどって、さっちゃんといっしょに攻撃できていたら、ぎりぎりで今日子ちゃんに当てられたかもしれなかったなあ」


 友恵は今ごろ気がついてしょげている。

 ふだんあつかましいくせに、変なところで気弱になるあたりは女子くさくてめんどうくさい。


「いつまた今日子がもどってくるかわからねえけど、正人の考えは?」


 一体だけ無傷で残っているマミーは、耐久力をやたら強化しただけのゾンビで、それだけでまともに使える戦力じゃない。


「ユッキーとトモちゃんはゾンビとグールだけでも急いで修復してくれる? あとマミーとスケルトンを一体ずつ作りかけだけど、それができてもあまり決め手にならないから……そっちはタコくんに任せて、さっちゃんはぼくと次の共同作業で」


 とか言いながら、正人はまたなにか砂浜に書き足していた。


亀戸東小かめいどひがししょう 5-3 川森今日子 ツンデレ』


「今日子ちゃん、デレてくれるかな?」


 幸代が弱々しい声をだす。


「デレてくれないと困る。むしろデレさせるんだ!」


 正人の力説に案内人以外は直視を避けた。

 ……というかなんとなく、こいつの『エロバカ』キャラはわざとらしい気もするんだが、考えすぎか?



 そんでまた修復大会かよ。

 工作と図形問題を同時に延々とやるような、かったるい作業だ。

 正人はミニチュア人形をいじりながら幸代やアヤメさんと話し合っていたけど、なにか悩んでいる様子でオレのところへ来る。


「タイタンなみに強いやつを作れるかもしれないんだけど、手間がグールやマミーよりもかかるし、材料をやたら多く消費しそうなんだ」


「材料なんて、むこうの海岸にいくらでもあるだろ?」


「中身のミニチュア人形が肝心なんだけど、外に放置されている石像は人形が崩れきっていて、もう修復できないし、材料にも使えないやつなんだよ」


「じゃあ使えるのは神殿とかに寝かされている、動かせなくても乗れるやつか?」


「うん。そういう『新鮮な死体』が三体くらいあればゾンビを一匹、六体くらいあればグールやマミーを作れるんだけど」


「けっこう使うな……というかそれだと、今日子との戦いでぶっこわれたやつを合わせても、もうそんなに余裕ないだろ?」


「それで今、作ろうとしている仮称『スーパーガイコツ』は、スケルトンより全体に強いしミサイルもつけられるけど、素材の使いかたでぜいたくをするから、残りの二十体くらいをぜんぶ使っちゃいそう」


「二十体だと……ゾンビ六体とかグール三体と引き換えか。オレにはその『スーパーガイコツ』の性能がよくわからねえから、正人がいいと思うなら、賭けるしかねえか?」


「それはそれで、今あるゾンビ、グール、マミーの一体ずつで時間稼ぎを頼むしかなくなるけど……下手すると今日いっぱいかかりそう」


「次また今日子が四体で来たら厳しそうだな……」


 ゾンビは戦力として半人前のおとり役だし、攻撃特化のグールや防御特化のマミーもまともな補助がいないと使いにくい。

 ……友恵も思っていたよりはあぶなっかしい。

 強いのはまちがいないんだが。なぐり合いでもどなり合いでも。



「石像一体、『ビースト』、数分の距離で停止中」


 ツバキさんの芸風にもなれてきたけど、気配もなしに背後へ立つのだけはやめてほしい。

 それもヘンタイオッサン舞島の趣味なのか?

 それにしても今日子のやつ、補給が早すぎないか?

 こっちはまだマミーしかいないのに……


「フヨウ、無事」


 またみょうなことを言ったツバキさんにふりかえったら、いっしょに栗色短髪の女性が立っていた。

 ツバキさんよりさらに大柄で、バレーボール選手みたいな体格。

 着ている民族衣装も、体にぴったりくっつく競技服みたいなデザイン。

 顔はアヤメさんやツバキさんよりもボーイッシュな印象……だけどなぜか、ツバキさんのすぐ後ろにぴったりと立ったまま、ニコリともしないで周囲を観察している。

 オレたちは視線でアヤメさんに説明を求めた。


「そちらは案内人の『フヨウ』です。おおざっぱに説明いたしますと、フヨウは『人見知り』ですが、性能は優秀です」


 人見知りってなんだよ……ロボットみたいなものじゃなかったのか?


「フヨウさん! よろしくお願いします!」


 友恵がバカ丸出しのでかい声であいさつすると、フヨウさんは銃弾をよけるようにそりかえり、ひとっ跳びに二十メートルほど宙を舞って、裏口の影に隠れる。

 そしてボソボソとなにか言いはじめた。


「初対面では距離をとって話すほうが安心感を与えやすいそうです。大場友恵さん、よろしくお願いします」


 無表情に言い切ったあと、かなりがんばった様子でほほえみを作った。

 友恵の笑顔がこわばり、幸代はものすごく不安そうな顔になり、オレは平気なふりをした。


「優秀ってどういう意味か、楽しみだね……」


 正人が苦笑しながら小声でつぶやいたスリーサイズまでオレには聞こえてしまう。なに考えてんだこのエロバカ。

 そしてまた、フヨウさんがボソボソとつぶやく。


「二センチ以内の誤差はありますが、優れた観察力です。しかし異性の前では口外しないほうが、円滑な人間関係を保てる内容と推測されます」


 舞島みたいなやつが教えた『優秀』の意味は、たぶんなにかまちがって伝わっている。

 少なくとも接客に向いているとは思えない。

 アヤメさんは静かな笑顔で近寄り、フヨウさんと手を合わせる。


「フヨウは遭難者のひとりを石像に乗せて案内してきたそうです。ファントムにはとりつかれていません」


 そういうことは最初に言ってくれ。頼むから。




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