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5-1 男子は女子を甘やかしましょう。


 オレにとってわけわかんねえのは、こいつらの緊張感のなさだ。

 食糧がなくなるとか、病気でのたれ死ぬとか、ぜんぜん考えなかったのか?

 この島はなぜか猛獣とか毒ヘビとかはいないみたいだし、遭難者同士で争いになる危険もオレの考えすぎだったことは認める。

 だからってなんで、あんな怪しすぎる案内人にいきなりついていったんだ?

 本当に案内だけが目的だったからよかったようなものの、あの怪力と身のこなしで襲われていたら、マジで瞬殺だったじゃねえか。

 石像にしたって、聞いたらとんでもないことがわかった。


『操縦席は石像の打撃であれば何度か耐えられますが、崖から落ちた場合は即死の可能性があります。水没した場合にも、脱出できないまま溺死する可能性があります』


 あります、じゃねーよアヤメさん!?

 オレは自力の手探りで動かしていたから知らなくて当然だけど、なんで正人たちは案内人がいるのに、そんなヤバいことも聞き出していなかったんだ?

 石像は重い。友恵はアホみたいに軽々と動かしているけど、飛び上がろうとしてもほとんど浮かないし、着地だけでも足に少しひびの入りそうな感じがするから、落下に弱いような気はしていた。

 でもいきなり即死かよ!?

 それを知ってもヘラヘラ笑っていられるあいつらがよくわからねえ……

 遭難の緊張とかで感覚がマヒして、ゲームみたいに思っているのか?

 オレがしっかりしないとマジでやばい。


 あの赤オバケのせいで、少しおかしくなっていたらしいオレを治してもらった借りは返すけど、あまりマヌケすぎたら、守りきれねえぞ?

 あのオバケ、再会した時にはガチで殺されそうな勢いだったからな。

 腕の動きとか、人間がどうこうできる速さじゃなかった。

 タイタンのミサイルで片腕がふっとんでなければ、案内人がふたりがかりでも危なかったはずだ。

 あんなのが五体もいて、まだ一体も倒せていない。

 というか昼の石像よりも、夜のファントムのほうがまだわかっていないことが多くてやばい気もする。


 ……また夜なのにトイレに行きたくなってきた。

 案内人のつきそいは勘弁してほしいけど、ファントムはやばい。

 でもオレの腹もやばい。

 案内人のふたりはたき火のそばでじっと座っていたけど、ツバキさんという褐色肌のほうが不意に立ちあがって、こっちに来て……待ておい、なにをする気だ。


「神殿の裏」


 オレはかつぎあげられそうになって飛び起きる。

 こんなことまで気づかれてしまう機能があるなら、我慢しても意味がない。


「ツバキの五覚と分析力はわたくしよりすぐれています」


 アヤメさんも今はそんな余計なことをにこやかに言わなくていいよ。

 恥ずかしくて泣きそうになるから。


「ユッキー、ファイトッ」


 起きていやがった正人に蹴りをいれ、神殿へ急ぐ。



 ほんと、野外トイレだけはどうにかしてほしい。

 岩に囲まれて一段下がっているだけで、落ち着かない。

 波が入りこむ溝があるけど、流れていくまで安心できない。

 こんなものを女子に共用させている状態が気まずくてしかたない。


 風呂も一日や二日は水浴びでがまんできるけど、そろそろ石鹸とシャンプーがほしい。

 服も代わりがないから水洗いで、たき火で乾くまでシーツにくるまっているしかない。

 しかも舞島まいしまが住む『管理塔』には石鹸もまともなトイレも温泉まであると聞いたから、余計にむかつく。

 今日子のいる『研究書庫』も、この神殿よりは予備の生活設備があるらしいけど……明日でもう三日目か。

 今日子にはドラセナさんという案内人がついているらしいけど、女子ひとりで、オバケに操られて『戦わないとまずい』と思いこんだまま、三日間も……早く助けてやらねえとな。



 この島も夜は少し冷えるけど、毛布なしでも死ぬほどじゃない。

 野外生活で地味に最悪の強敵ぽい蚊とかの害虫も、アヤメさんたちが虫よけになる枝をシーツの下に入れてくれているし、たき火でも燃している。

 それに正人によると、もともと『危険な虫』は不自然に少ないらしくて、そんなことまで古代の住人がタコプリンに願って『なんとかしてもらった』らしくて、それはひとつまちがえば人類滅亡とも結びつくとか言ってたけど……いくらなんでも考えすぎだろ?


 ともかくも、星空を見ながら眠るのは不思議な気分だった。

 それも、まだ会ったばかりの連中といっしょに…………



『ドウシタイ?』


 あいつらは本当に信用してだいじょうぶなのか?

 そのうちやっぱり争うことにならないのか?


『ドウシタイ?』


 なにを考えているのか、わかりゃいいのにな。


『ドウシタイ?』


 どうもしねえよ。

 そんなすぐ、やばいことをするような連中じゃなさそうだし。

 むしろオレが変に疑うと気まずくなるから、気をつけないと…………



 ……なにか変な夢を見たけど、あまり思い出せない。

 しつこくなにかを聞かれて、言い返したら逃げていった……ような?

 まだなにかオバケの後遺症でもあるのか?

 あるいは、こんな島に来てもう三日も経つから、不安が大きくなっているのか?


 タイタンはほとんど復活していた。

 寝る前までに幸代が半分以上も治して、残りをタコプリンたちが徹夜でよってたかって仕上げたらしい。

 正人はゾンビに爪をつけた『グール』をもう一匹作りながら、今朝は幸代とまた別の強化方法を話し合っている。


「タイタンがいるなら攻撃力は十分だから、耐久力の高い補助の機体を作ろうと思うんだ。少し手間はかかるけど、表面のでこぼこを整えればがんじょうになるし、肉づけも足せると思う」


 設計の図面はなんとなくならわかるけど、実際につなげるのは難しそうで、オレと友恵はゾンビ二体の修復へ逃げる。



「やっぱりわたしより少し早い……ユッキーのくせに生意気」


 なんでこのゴリラ女は、いちいちむかつく言いかたをするんだか。

 幸代は『トモちゃんは照れているだけで、ユキくんのことは嫌いじゃないと思うよ?』とか言ってたけど、だったらひねすぎだろ。

 幸代は逆にびくびくしすぎて話しにくいしボケもきついけど、言うことはわりと素直に聞くし、まだ少しは女らしい……あと近寄るとなぜか、ベビーパウダーみたいな匂いがする。


「ねー、あとやっておいてよー。なんかオヤツもらってきてあげるからー」


 やっと自分のゾンビを治し終わったばかりのオレに、友恵は自分がかぶっていたクラゲもどきを強引にかぶせてくる。

 こいつは女子のくせして腕力が強くて、わりと本気でふりほどけない。

 ていうか、しがみつくなよ押しつけるなよ胸けっこうでかいんだよ自覚しろよ正人ぜってえ今どこかで見てんだろ止めろよ。


「わかったから、やるからはなれろって!」


「ユッキーやさしーい」


 早くはなれろって……下手に言いすぎるとエロよばわりされそうだし、勝手にひっつかれているんだから、もうほっといてもしかたないよな? 

 ……と思ったら、背中にあたっていた感触がするりと逃げた。


「ったく、なんでバカの代わりに余計な仕事を……」


 また蹴られるかと思ったら「ユッキー、顔が赤くなってる?」とつぶやくだけで、どこかへ行ってしまった。


「チッ」


 わざとらしい舌打ちをしたのは正人だ。

 幸代は恥ずかしそうに顔をそむけて苦笑していた。

 なんだってんだよ…………このタコプリン、友恵のにおいが少し残っているし……


「石像四体、数分の距離」


 なんだよツバキさん、いつも突然なんだよアンタはいつも。

 耳元で声がしたからおどろいてふりむいたら、またその、目のやり場に困る巨大なそれが。

 友恵の何倍もありそうな、アヤメさんよりひとまわりでかくて深い谷間を正人みたいに遠慮なく見つめ続けるような恥ずかしい真似はできないから少しは遠慮して……ってまた今日子の襲撃かよ早く言えよ。



「こっちはタイタンとゾンビの一体ずつだけか~。もうすぐ防御型ゾンビの『マミー』は一体できるけど、二体目は午後かな……グールを先にしたほうがいいかな? ゾンビ修復の残りはタコくんたちに任せよう」


 正人の指揮は今のところ悪くないし、新型の手間とかはよくわからないから任せるしかない。


「ユッキー、外での指揮を頼めない?」


「あ?」


「ぼくは作成していると状況がよくわからないから。トモちゃんたちはそういう判断が苦手だし」


「オレだって、戦っていると周りがよくわかんねえけど……集まれとか逃げろとか、なるべく言えばいいのか?」


「そうそう。少し気をつけて見てあげて。やっぱり女の子だし」


 友恵のやつなら、石像でのケンカはオレより強そうだが。

 ……でもあいつは変なときに怖がったり、動けなかったりするか。


「おい友恵、ミサイルはタイタンしか持ってないし、二発だけなんだから、今日子のために残しておけよ?」


「それくらい、わかってるってば~」


 またヘラヘラと……怒る気が失せて、少し不気味になってくる。




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