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4-3 レクリエーションで体力を使いきるのはやめましょう。


 神殿の正門が閉められると、内側で待ちかまえていたアヤメさんとツバキさんがわたしたちを抱え上げて、向かいの裏口へ走りだす。

 雪彦くんも今日子ちゃんの軍勢に追われながら、神殿ぞいに海岸のある裏門側へ向かっている……はず。

 神殿の中は音が反響して、外の位置が少しわかりづらい。

 ドッズウウン! と、ものすごい音が響いた。

 裏側の角にいたトモちゃんサーペントの待ちぶせがうまくいった……気がする。


 裏門を出たところにも、壊れかけのスケルトンを立たせておいた。

 アヤメさんはわたしを抱えて駆け上がる。ブロックの接ぎ目に指をかけているのかな? それでも人間技ではないけど。

 急いで乗りこむと、目の前を雪彦くんのスケルトンが通り過ぎた。

 正人くんも重傷のリザードマンに乗って、ギクシャクと肩だけ動かす。


「ユッキー、ちょっと待って! あっち側に向かせるのだけ、手伝って!」


「いいけど……さっきのあれ、本当に演技かよ? マジであせったぞ」


「ぜんぶウソじゃばれやすいだろ? 一割は冗談だから安心して!」


 雪彦くんと正人くんの言い合いは、今度もうまくミサイルを誘いだしたけど、当たったのは二発ともわたしだった。またわたし。なんで?

 タコさんに好かれやすいのかな……にぶくて当てやすい的として。



 ともかくも、おとりに使いつぶしたガイコツさんから脱出しようとしたけど、壁にもたれるような姿勢で動けなくなってしまい、地上までかなり遠くなってしまった。こんなの降りられない。どうしよう。


 神殿の角を曲がって、サーペントをひとまわり小さくした『スネーク』と、それに角をくっつけた『サラマンダー』が出てくる。

 続いてヘルハウンド、さらにトモちゃんのサーペントまで飛び出て、その胴をかすってミサイルの白煙が飛んでいった。

 はじかれた欠片が散っていたけど、倒れないで持ちこたえて、こちらへ向かってくる。


「やっぱりヘビは、動きにくいー! タイタンだったら、なんとかなりそうなのにー!」


 トモちゃんサーペントはそう言いながら前のヘルハウンドを突き倒して、ついでにサラマンダーもシッポでたたき飛ばす。動きにくくてそれですか。

 たぶん『はじめてでなにも知らない』とか言いつつ、ドリブルからシュートまで決めちゃうタイプだ。サッカーでもバスケでも相撲でも。


 その背後から大型の機体が追ってくる。

 羽と脚のある大ヘビ『ワイバーン』……ドラゴンとなにがちがうんだろ。

 ともかくもトモちゃんでも危なそうな相手で、まわりのタコさん石像たちもまだ起き上がろうとしている。

 あわてて逃げようとしたサーペントがすべって転んでしまった。



「やべ! あれじゃ友恵のやつ、袋だたきじゃねえか!?」


 雪彦くんが助けに向かって、正人くんもぼろぼろのリザードマンでわざと倒れこんで、スネークにかぶさって援護する。


「友恵! 早く起きろって! まだスネーク一匹しかしとめてねえのに……」


 王子様……には見えにくい巨大ガイコツが剣をふりまわし、トモちゃんをワイバーンからかばう。

 眠っていたお姫様……ではなく大ヘビは起き上がるなりワイバーンへ頭突きをかます。

 なんで石像はあんな見た目なんだろ。

 元は戦争のためじゃなくて儀式のために造ったらしいけど、それならなおさら、もっとかわいいほうがいいのに……かわいい石像がなぐり合っていても困るか。


 正人くんのリザードマンが抑えていたスネークは抜け出した直後、走りすぎる雪彦くんスケルトンの剣にたたかれて、続くトモちゃんサーペントにも踏みつけられてとどめを刺される。

 ワイバーンたちは動けないわたしたちを無視して、トモちゃんたちを追いかけて行った。

 もうリザードマンもぜんぜん動けないみたいで、正人くんが中から出てくる。


「さっちゃんだいじょうぶ? 倒れかたがまずかったみたいだね」


 正人くんがアヤメさんを呼んできてくれたので、ようやく降りられた。

 やっぱりケンカは苦手だ。ミサイルの的しかやってないけど。

 怖くなってしまうと、なんで戦っているのかもわからなくなって、とにかく早く終わってほしいとしか思えない。

 わたしみたいな性格だと、戦いのはじまりは負けと同じだ。

 はじまっちゃえばトモちゃんや正人くんは楽しそうで、なんのために戦っているのかも忘れてそうなのが嫌だ。



「今のでわかった! あれもう、ほとんど完成なんだよ!」


 神殿へ入った正人くんは早口に、作成途中だった『新型石像』たちの調整方法を説明する。


「関節あのまま、上半身全体も足の半分くらい肉づけしちゃって! 最初のは手を入れすぎたから放置で! 誰か来たら、完成したものから渡して!」


 そう言って、まともな機体では最後の一体になるスケルトンに乗って出て行く。

 わたしは意味がよくわからないまま、とにかく言われたとおりの調整を急ぐ。

 早く終わってほしいから、自分にできることはがんばる。


 トモちゃんも正人くんもわたしにはすごく優しいから、早く終わらせようとしているはず。あと今日子ちゃんを早く助けようとしているだけ。

 ……戦う相手が目の前にいない今なら、そういうふうに落ち着いて考えられるのに。なにも考えられなくなるピリピリした空気が嫌い。

 雪彦くんはどなりはじめて怖くなるし、でも本当は怖がってそうで悲しくなるし。



 神殿のまわりでドガドガ走り回る音が響き続けて、微震が止まらない。

 おとりや不意打ちで逃げまわって戦う作戦はうまくいったけど、やっぱりトモちゃんでも厳しい状況らしい。


 裏口でスケルトンがひざをついた。たぶん正人くんが入っているけど、その手に生身のトモちゃんがしがみついていたから驚いた。


「ツバキさん、手伝って!」


 正人くんがうれしそうに飛び降りてツバキさんに抱えられ、交代にトモちゃんがするするとスケルトンにのぼってもぐりこむ……って、なんでそんな簡単にアヤメさんのまねをできるの? そこ二階くらいの高さがあるのに怖くないの?


 ツバキさんはラグビーボールのような勢いで正人くんを運び、わたしの隣へセットする。


「さっちゃん、新型はどれくらい進んで……それまだ、半分もいかない感じ?」


「うん。まだ一体しかできなくて……」


「できてるの!? なんでそんな早く……あ。設計が単純だから調整も細かいくりかえしで、さっちゃん向きの根気勝負な作業か……それにしても限度があるよ? すごいよ!?」


 でも完成しているミニチュア人形は見ていて不安になるいびつな姿。

 それを埋めこまれた石像は一気に全身がひび割れて、細かい欠片をたくさん落とし続けた。

 失敗……しちゃった?

 正人くんはアヤメさんの顔をうかがう。


「内部は機能しているようです」


「よし!」


 乗るの? あのボロボロに? 動けないスケルトンよりひどいがれきの山へよじのぼって……正人くんが飲みこまれてしまう。

 ツバキさんはそっとわたしをかついで引きはなした。


 ひびまみれの石像が体を起こして、破片をばらまきながら立ち上がる。

 人っぽい形はしているけど……ガイコツさんの全身に、がれきをゴテゴテひっつけたような姿。

 顔にはふたつの穴があるけど、でこぼこがひどくて怖い。


「い……ける……よ、これ……、あるけ……る」


 声まで少しぎこちない。

 たしかに歩いているけど、足をズルズルとひきずって、そのたびにデコボコの全身がきしんでくずれている。

 あまり『新型』という言葉が似合わない不気味な物体が裏口から出ていった。



 わたしはほかにやれることも無いから、同じ不気味物体を作り続ける。

 正人くんの完成させた図面をタコさんが写してくれていたので、さっきよりは手が早く進む。

 もう一体できたところで、裏口からまた、生身のトモちゃんが入ってくる。

 今度は自分の足で走ってきたようで、息をきらせていた。


「さっちゃん、あの『ゾンビ』まだある!? わたしにも『ゾンビ』ちょうだい!」


 新型の名前はすぐに決まったみたい。

 できればもう少しかわいく、ナメクジ男とか、イモムシ男とか……ゾンビでいいか。



 トモちゃんがゾンビ二号へ乗りこむ……ひびだらけのデコボコに飲まれながら、少し嫌そうに笑っていた。


「正人くんのゾンビさん、ちゃんと動けていた?」


「すんごい……ノタノタし……てる! で……も使える!」


 トモちゃんゾンビが足をひきずりながら裏口へ急ぐと、ちょうど雪彦くんのガイコツが横ぎって走りぬけた。

 ゾンビ二号がギクシャクした動きをさらに速めたと思ったら、両手を広げて外へダイブする。

 雪彦くんを追っていたヘルハウンドとサラマンダーが巻きぞえに倒れて、あちこちひびが入った。

 そのあとからワイバーンも横ぎる。


「なんなのそのキモカワイイ石像は!? 設計できるとは聞いていたけど、こんな無茶苦茶な……アンタの趣味!? 機体の数が予定と合わなくてめんどいから、もう増殖すんなあああ!?」


 今日子ちゃんのいらついた声。ごめんなさい。まだまだ増やしちゃってます。


「ふ……りゃ……あ……あ!」


 トモちゃんゾンビは変な叫びをあげて、二体を下敷きに寝転んだまま暴れていた。

 手足はおおざっぱにしか動かないし、倒れると起き上がるのは大変なので、あれはあれでうまい戦いかたかもしれない。



 ゾンビ三号とゾンビ四号もできたあたりで、今度は正人くんが自分の足で走りこんでくる。


「また思いついたんだ! 最初の手間をかけたやつが、あと少し手を加えるだけでかなりステキになりそうだから、さっちゃんもゾンビで時間かせぎしてもらえる!? あ、ちょうどもう一体できているならよかった……じゃなくて二体いる!? はや!?」


 自分で作っておいてなんですが、あまり乗りたくない石像です。


 ゾンビの中で目をさますと、体中にグシャグシャした感じがする。

 動くたびにゴワゴワする。思っていたよりひどい。

 あとやっぱり、ひじとかひざは曲がりにくい。全身が重い。

 音はだいたい同じようにひろってくれるけど、少し聞き取りにくい。

 こんなものに乗って、いきなりダイブできちゃうトモちゃんていったい……


 わたしがズルズルと足を引きずって裏口へ向かうと、正門から雪彦くんも自分の足で神殿に入ってきた。

 とうとうスケルトンを壊されたらしい……すると今はもう、トモちゃんとわたしだけ? ゾンビ二体だけ?

 どうしよう。わたしは戦力にならないのに。

 トモちゃんひとりで、しかも乗っているのがゾンビじゃ……わたしでも、いないよりはマシ?



 裏口を出た光景はひどかった。

 最初の正人くんゾンビとサラマンダーがたたき合った格好のまま倒れていて、その下敷きにおとりのスケルトンとリザードマンもいる。

 神殿の角ではスネークを押しつぶしたサーペントがのびきっていた。

 目の前ではヘルハウンドがゾンビにたかられて倒され、馬乗りにされてたたかれている。

 そのトモちゃんゾンビも横からワイバーンに蹴られて転がった。


 わたしは駆け寄ってワイバーンにしがみつく。

 たたかれて倒されたけど、なんとかまだ動けた。

 体はやわらかいけど、速さをあきらめて肉を厚くしているから、打たれ強さだけはスケルトンに近い。

 トモちゃんゾンビのパンチがワイバーンの首へ直撃して『バグッ!』とにぶい音を出した……けど、ひびはずいぶん小さい。

 ゾンビは拳もやわらかいし、重さはあるけど動きも遅いから、攻撃は弱いみたい。


「こ……れじゃ、何回た……たけばこわ……せるのー!?」


 トモちゃんゾンビはワイバーンの頭突きをかわしきれないで倒されてしまう。

 わたしもそう長くはもたなそう。

 雪彦くんのゾンビに早く来てほしい……と思ったら、もうヘルハウンドを相手にとっくみあっていた。

 でも裏口からさらに新しい石像が出てきて、正人くんの声を出す。


「みん……な、お……またせ!」


 ゾンビに似ているけど、猫背で上半身が盛り上がっている。

 両腕の先に大きく長い爪が二本ずつ……それをギクシャク振り回しながら、足をひきずって、スケルトンに近い速さでせまってくる。

 登場のタイミングだけはかっこよかったけど、見た目も動きもヒーローからは遠い、不気味すぎるなにか。怖い。


「うっわ、キモかっこいいそれはなに!?」


 ……今日子ちゃんはゾンビとかがわりと好き? 皮肉で言ってるだけ?

 ワイバーンの前蹴りが正人くんの新型ゾンビに当たったけど、その足にも大きな爪がたたきつけられていた。


「みんな……もゾンビが壊れたら……この『グール』に乗り換えて!」


 正人くんは言った直後にかみつかれながら、さらに強引に爪で斬りつける。

 でも機体の追加なんて、もう作れる時間も材料もなさそうだったけど……?


「あーもうっ、これじゃ、きりがな~い!」


 今日子ちゃんはそう言ってグールを突きとばし、バタバタと走り去る。

 わたしは小声で聞いておく。


「正人くん、乗り換えって?」


「うん、ハッタリ。もうあとがないから、どうにか今日子ちゃんにあきらめてもらいたくて」


 とっさにあんなウソを言えるなんて、ちょっとすごいけど、ちょっと怖い。



 こっちの石像はもう、トモちゃんと雪彦くんのゾンビがなんとか歩けるだけ。

 今日子ちゃんが連れて来たタコさんは二体を取り出せて、もう三体は回収されていた。

 あとゾンビは、降りる時も案内人さんに助けてもらわないと危険だった。

 表面がひびだらけで、体重がかかるといきなり壊れたりして、雪彦くんも足をすべらせそうになる。


「サラマンダーも一匹いなかったから……倒せたのは四体か。ほんと、きりがねえな? 最初から今日子だけ袋だたきにできねえのかよ?」


「それは今日子ちゃんも警戒しているよ。いつもタコくんを先に出しているし、ひとりでいることも避けている。これでまた大勢で来られたら、今度は引き分けも難しいな~」


 正人くんはなんでそういうことを笑顔で言ってしまえるのだろう?

 わたしはもう負けでもいいから戦いたくないとか思ってしまうのに。

 でもわたしたち全員がオバケに支配されたら、大変なことになるみたいだし……がんばらなくちゃだめかな?


「まずはタイタンを治そう! それでわたしが、みんなぶっとばす!」


 トモちゃんはみんなのためにがんばってくれているのに、わたしは朝からいそがしすぎたせいか、ちょっと疲れているのかな?

 明るく笑うトモちゃんは頼もしいけど、なんだか少し……なにか大事なことを忘れているような……たしかわたしたちは……あれ? なんだっけ?


 でもとりあえず、今は石像を修理しないと。




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