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4-2 事故の前には休憩をしっかりとりましょう。


 みんなで石像の修復をはじめる。

 わたしは正人くんに頼まれてタイタンの担当になったけど……


「これ、ぜんぶ治すと明日までかかっちゃいそうだよ?」


「むしろ明日までに終わるならすごいけど……石像は重傷になると全治一週間とか一ヶ月とかになっちゃうから、強い上にミサイル持ちのタイタンはなるべく小まめに全快させて使いたいんだ」


「今日子ちゃん、明日まで待ってくれるかな?」


「あまりそういう子ではなさそうだし、慎重にじわじわ削るつもりらしいのがやっかいなんだよね~。このままだと修復ペースが追いつかないから、時間かせぎの方法を考えているのだけど」


 スケルトン二体はタコさんたちが徹夜で治してくれた。

 サーペントはあと少しだったので、トモちゃんと雪彦くんが交代でとりかかっている。

 正人くんもタコさんをかぶっていたけど、修復ではなくアヤメさんとなにか話しこんでいた。

 しばらくすると、変わった造りのミニチュア人形をわたしのところへ持ってくる。


「ちょっとこれ、見てもらえる?」


「この石像って……ふつうに動ける?」


 スケルトンやリザードマンみたいに、だいたいで人型になっているけど、光る糸の流れはずっと単純で、最低限で動くようにしかついてない。


「それを聞きたくて。アヤメさんと相談しながら新しいデザインを作ってみたんだけど、ぼくも実際にどこまで使えるのか、自信ないんだ」


「歩ける……かな? でもひじとかひざは、どれくらい曲がるんだろ……あと、かなり壊れやすいかも? ……あ。でもその代わり、作る時間がすごい短くて済むのかな?」


「うん。昨日の戦いからして、石像の数だけでも足りていると、かなり有利になると思ったんだ。こっちは人間が多いから、性能は少しくらい低くても操縦でカバーできる」


 わたしも人間だけど、タコさんより操縦がうまい自信はない。

 怖がらないタコさんのほうが強そう。

 でもタコさんを石像へ入れる準備運動は、けっこう時間がかかるらしい。


 タイタンの修復はいったん止めて、先に正人くんの新発明をいっしょに作ってみることになった。

 本来なら修理に何ヶ月もかかりそうな石像たちの材料を組み合わせて、お手軽な設計で調整する。

 わたしは動きにくそうな部分には気がつくけど、それをどう変えればいいのか、なかなかわからない。

 でも正人君は別のつなぎかた、別のバランスのとりかたをどんどん思いつくみたい。


「どうやっても不安定なら、いっそ足をひきずる前提で……それなら足首も少し手をぬいて、腰を強化したほうが……上半身も関節をせばめるか?」



 ツバキさんはいつも突然に緊急速報を教えてくれる。無表情で。


「数分の距離。ワイバーン一体、ヘルハウンド一体、サラマンダー二体、スネーク二体」


「また六体か。しかもヘルハウンド以外は初耳だ。名前からすると飛竜……ワイバーンが強そうかな? スネークは大ヘビ『サーペント』の小型機体らしいから、たいしたことなさそう……いや、タコプリンだと操縦しやすさは関係ないか?」


 正人くんはこういう時に冷静すぎて、なんだか少し不安になる。


「ワイバーンとサラマンダーがミサイルを持っています。ヘルハウンドと同じ威力で、回数も二回です。一晩経ちましたので、ヘルハウンドは同じ機体でも回数は二回にもどっています」


「スネーク以外はみんなミサイル持ちかあ……体格でサーペント以上の大型は?」


 なぜか正人くんは、アヤメさんの説明も楽しそうに聞いている。

 やっぱり男の子は戦いが好きなのかな。


「ワイバーンだけが互角です。平たく言いますと、サーペントに羽と足とミサイルをつけた機体がワイバーン、スネークにミサイルをつけた機体がサラマンダーです」


「相手に大型が少ないのと、ミサイル発射回数の少なさが狙い目だね」


 石像の種類がいっぺんに増えすぎてよくわかりません。

 でも正人くんが指示してくれるし、トモちゃんや雪彦くんは自分からどんどん動ける。

 わたしだけそういうのは苦手だから、もうしわけない気持ちになる。

 みんながいてくれて、本当によかった。



 わたしと正人くんと雪彦くんがスケルトンに乗る。

 でも実は、わたしと正人くんが乗っているスケルトンは支えがないと歩くこともむずかしい故障品。


「おい正人、そんなのすぐばれるんじぇねえか?」


「今日子ちゃんは気がつくかもしれないけど、タコプリンは『戦え』と命令されているだけなら相手にしてくれるかも」


 神殿の正面側で待っていると、六体の石像がいっぺんに押し寄せてくる。こないでください。


「じゃ、作戦どおりに……でもここで大切なことがあるんだユッキー! ぼくと君との友情についてだ! 君はまさか、親友であるぼくから好きな女の子をうばったりしないよね!? ね!?」


 正人くんはいきなり、わけのわからないことを言いはじめた。

 それはいつものことかもしれないけど、声がわざとらしく大きい。


「オマエこんな時に正気か!? いいから前を向けよ!」


「でもこれは今、はっきりさせておくべきなんだ! この戦闘でまたユッキーがうっかりおいしいところをさらって女子の……」


 正人くんが熱心に話すあいだにも六体はどんどん近づいていて、一斉に口を開けて砲撃準備の音を鳴らす。

 ゴッ、ゴゴッ、ゴウンッ! と重なる発射音にまぎれて、正人くんがつぶやく。


「よし、うまく無駄撃ちを誘えた」


 演技……だったの?

 わたしに三発が集中して、頭と肩とひざがバラバラになったような衝撃が走る。

 はじめて石像で攻撃を受けたけど、痛くなくてもびりびりゆさぶられるし、すごい音がして怖い。すごく。

 地面に倒れて、撃たれた部分のひびが広がって、全身がバラバラというか、もうグシャグシャの砂利みたい。

『撃たれたら早めに寝転んで』と言われていたけど、がんばらなくてもそうなっていた。 

 正人くんも少し遅れて倒れたみたい。

 雪彦くんは作戦どおりに逃げる。


 わたしは少し間をおいてから機体を出た。

 すぐに出ると、破片があちこち飛んでいるから危ない。

 まだ砂ぼこりの中でちらほら、パキパキガランと音がして怖い。

 それに機体を寝かせておいたのに、わたしはトモちゃんみたいには身軽に降りられない。

 は、早く降りないと、今日子ちゃんの石像が来ちゃう……!?


「さっちゃん、カモン!」


 下で正人くんが手を広げていたので、ちょっと怖い高さだったけど飛びこんで、本当に抱きついてしまう。どうしよう。


「ご、ごめんなさい」


 正人くんはわたしの手をひいて神殿の中へ急ぎながら、腕をふり上げて叫んだ。


「役得!」


 正人くんの女の子好きはときどきわざとらしい気がするけど、今のは本気で楽しそうだった。それならいいか……いいのかな?




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