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4-1 早寝早起きは冒険のもと。


 トモちゃんはわたしには優しくて、男子や大人やオバケが相手でも堂々としている。

 男子に対してはときどき言葉や手足が乱暴だけど、遭難中でも自分からどんどん動いて、みんなを引っぱってくれる。

 それに本人が心配しているより、ずっと女の子らしい。

 笑顔が明るくて、化粧なしでも大きな目がうらやましい。

 運動できて体型もよくて……少しずるいくらい。


 正人くんは不思議な子だ。

 いろんなことに詳しくて、でも女の人のことしか興味がないみたい。

 わたしにもキザなことを言ってくるのは恥ずかしいけど、少しうれしい。

 あまり本気じゃないとは思うけど、冗談でも言ってくれる男の子ははじめて。


 トモちゃんは雪彦くんのことを『いじっぱりのかっこつけたがりで、でもそこがちょっとかわいいかも』と、うれしそうに言っていた。

 そういえば話しかたは少し怖いけど、言いすぎたあとは気まずそうな顔になって、別の言葉を探しているようにも見える。

 背はトモちゃんくらいに高くて、顔もいいほうだと思う。


 ……これで戦いとかなければよかったのに。

 わたしはトモちゃんや正人くんとちがって、石像でのケンカを楽しめない。

 乗るだけでも怖いし、たたいたりたたかれたりはもっと怖い。

 勝ち負けとかじゃなくて、自分が絶対に安全でも、自分と戦うつもりの相手がいるだけで泣きたくなる。


 舞島さんはなんで島の外へ助けを呼ばなかったんだろ?

 船とか飛行機だと行き来できないなら『管理塔』からの帰国って……潜水艦?

 住んでる人がいるなら、連絡だけは夜までにつながると思っていたのに。

 ……おとうさんとおかあさん、すごく心配してるだろうなあ。


 なんでトモちゃんは、あんな楽しそうにできるんだろ?

 正人くんも少し不思議がっていた。

 雪彦くんは『ああやって考えないようにしているなら、ぐじぐじ泣かれるよりいいけどな』と言ってたけど……

 トモちゃんはみんなを元気づけようと、なるべく明るくしているのかな?

 でもなんだか、遭難していることを忘れているように見えるときがある。



 ……ぼんやりした紫色がゆらめいている……

 まんなかに光る白い丸が光って……


『ドウシタイ?』


 戦いたくないなあ。

 でも自分のかわりに、トモちゃんたちだけ戦ってもらうのもいやだしなあ。


『ドウシタイ?』


 みんな「いっせーの」で石像を捨てて、話し合いでどうにかならないかな?


『ドウシタイ?』


 うん? ……だれかにずっと、話しかけられている……かな……?



 はじめて『ゴーレムランド島』で迎える朝。

 夜中にオバケの騒ぎで起こされたせいか、変な夢を見た……気がする。

 あまりおぼえてないけど、誰かにずっと『怖い』とか『逃げたい』とか相談している夢。

 悩んでいることが夢に出てきちゃったのかな?


 森の上に日が昇っていて、まわりの草原には焼け焦げた枝がたくさん。

 アヤメさんはずっと起きていたらしくて、自分の服を縫いなおしていた。

 ちょうどツバキさんが木の実をかかえて森から帰ってきたので、わたしはつきそってもらって、小川で顔を洗う。


「メガネはずした顔をゲットだ」


 正人くんが後からついてきたけど、気がつかないふりをしていた。


「ツバキさん目当てでしょ?」


「……うーん、まあ、その……」


 正人くんはツバキさんのことになると受け答えに余裕がない。

 特別に好きなのかな?


「……こ、この島は本当に不思議だね。できすぎの楽園というか……」


「大人も子供も美人だらけ?」


 わたしがこんな冗談を男子に言ったことを知られたら、クラスのともだちはおどろくと思う。

 わたしはクラスの男子と、まったく話さないし、話せない。

 ともだちの女子もみんなおとなしくて、男子と話す子はいない。


「それもあるよ。もちろん。でもほとんど無人島なのに、お店にあるみたいな野菜や果物が勝手にできるとか、あちこちで真水を使えるとか、虫に刺される心配までないなんて……」


 正人くんに言われてみると、ちょっと不自然かな?


「……アヤメさんに聞いたんだけど、神殿とかを作った国はずっと前に滅んでいて、でも管理塔は島を調整し続けていて、人が住みやすい環境を維持しているんだって」


 ちょうどアヤメさんが、トモちゃんと雪彦くんを連れてやってくる。


「舞島様の言葉をそのままお伝えしますと『ぼくが通販とコンビニなしで暮らせるなんて、もはや凶悪と言っていい親切さだ。あまりにすごい文明を持てあまして、本来は儀式の飾りだった石像まで改造した戦争で自滅したようだけど……その後かたづけを丸投げされてもなー? ぼくは楽しいからつきあっているけど、これって終わる気しないなー。やっぱ人類滅亡かなー』とのことです」


 アヤメさんがよく話題にする舞島さんのことはとても気になるけど、あまり会いたいとは思わない。

 なんでそうなるのかよくわからない『人類滅亡』はおまわりさんに言ってなんとかしてもらったほうがいいと思ったけど、正人くんによると『舞島さんみたいな人でも残念ながら島の警察も兼ねているから』任せたほうがいいらしい。

 さらに『今はまず帰国だけ考えよう』とも言った本人は別の話ばかりしている気もする。


「トモちゃんおはよう……ぼくとの愛の日々を忘れたわけではないよね?」


「ユッキーもマーくんも昨日会ったばかりでしょ。本気ならがんばってくどいてね」


 トモちゃんは苦笑いして正人くんに返したけど、言っていること大胆だな。

 恋愛話とか、したことないって言っていたのに。


「キモいんだよ。そんな女もどき勝手にしろって……」


「はいはい、ユキちゃんやかない」


 トモちゃんが笑顔で雪彦くんを軽く蹴る……なんで男子を蹴りなれているんだろ。

 わたしも女子として、もう少しがんばらないとだめかな……でも今は、別のことをがんばらなきゃいけない状況のような気もする。



砂町北小すなまちきたしょう 5-1 宮村雪彦みやむらゆきひこ 男の子』


 正人くんは神殿裏の砂浜を掘って、いつのまにか聞きだしていた雪彦くんの学校とクラスを書き置きする。

 ほかのみんなのぶんも、最初の海岸に残した文章のまま並べた。


「この島、救助とか来ねえんだろ? ていうか『男の子』ってなんだよ。普通に『男』だけでいいだろ」


 なんとなくだけど『男の子』には別の意図がこめられている気もする。

 トモちゃんもなぜか笑いをこらえている。

 でもわざわざみんなの紹介を書きなおしたのは、雪彦くんを歓迎するためかも。

 正人くんは女の子に優しいけど、男子が相手でも気はつかっているように見える。


「朝ってことは、もう修復も操縦もできるのか……今日子ちゃん、いつごろ来るのかな? ぼくはまだ顔も見てないけど、おもしろい子なんでしょ?」


「オマエは女ならなんでもいいんだろ? ていうかアイツは昨日、五体も石像を失くしているから、もう来れないんじゃねえの? 予備とか考えても、そんなに残ってねえだろ?」


「九から十五」


 ツバキさんが海をながめながらつぶやく。

 海の上には神殿と似た大きな柱がいくつかつき出ていた。

 わたしはツバキさんのつぶやいた数字の意味を考えたくなかったけど、みんなも同じみたい。

 でもアヤメさんが笑顔で解説をはじめてしまう。


「研究書庫だけでも使える状態の石像は十体近くあり、タコプリンは六体います。今日子さんが案内人のドラセナと相談し、周辺の石像を回収して修復していた場合、最大で二十体ほどを使用できます。昨日の損壊ぶんを差し引くと、わたくしの推測もツバキと同じ結論になります」


 そんなにたくさん作ったり戦ったりする前に、オバケさんも飽きてくれないかな。

 そんなにがんばれるなら、話しかたとか手紙のかきかたを練習したほうが楽しそうなのに。




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