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シンデレラの義妹の兄  作者: 弱者
第一章 ただ、そこにいる俺
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3:唯ぼんやりした不安

 街に着くと、街の様子が普段とは違うことに気が付いた。


 まだ、昼間なのに人通りもまばらで、その数少ない道行く人々も心なしか表情が暗く見える。街の大通りを抜けて、中央の広場に出ると、いつもは多くの露天商で賑わっているはずの市場が閑散としていた。街には活気がない、そう感じた。


 

「あんまり、お店出てないね。なにかあったのかな?」

「さあなぁ。まあ、今日は買う物もないし、気にすることもないだろう」

「でも、こんなに人が少ないと、なんだか不気味じゃない? いつもはもっと人が多くて騒がしいのに」

「静かな方が好都合だよ。俺、うるさいところ、苦手だし。それより、早くぶどうを納めに行こうぜ」

 そう言って、俺とアリスは荷台を引き、再び歩き始めた。



・・・・・

 


 ぶどうを納めるための指定された卸屋に着いた。


「手続きしてくるから、アリスはここで待っていてくれ」

「はーい」


 俺が卸屋の扉を開けようとした瞬間、中から扉が開き、人が出てきた。


「シンディ!」

「ジョン! それにアリス!」

 お互いに驚いたが、相手が知り合いと分かり、表情を緩める。

「シンディ!」

 後ろからアリスが元気よく、彼女の名前を読んだ。


「久しぶり。シンディも卸し?」

「ええ、ぶどうを」

「シンディの村でも、ぶどうの栽培を始めたんだ」

「うん。ようやく今年から収穫できるようになったのよ。まだまだ、収穫できる数は少ないけどね」


 俺たちが世間話に花を咲かせていると部屋の奥から卸屋の役人が、

「おい、お前ら、納品だったら早く手続きを済ませて、倉庫の中に運べ」

 と催促してきた。何かを急いでいる、何かを恐れている。そんな声色だった。


「あ、はいっ。わかりました」

「私もアリスと一緒に卸すのを手伝うわ」


 俺は手続きをするため、中に入り、シンディは外に出る。納品の手続きをしている際、外からアリスとシンディの楽し気な声が聞こえた。そして、応対する役人は苦悶の表情を浮かべながら、しきりに咳をしていた。

 


・・・・・



 ぶどうの納品を終えて、俺たちは卸屋を後にした。


「お疲れ様。もしよかったら、これ、いる?」

 そう言って、シンディは自身の荷台に置かれている樽を指さす。


「シンディ、その中、何が入っているの?」

「うちで収穫したぶどうを発酵させて造った葡萄酒よ」

「ぶどうだけじゃなくて、葡萄酒なんて造ったんだ。珍しい物を造るのね」

「ええ、余ったぶどうを市場で売るより、こうした方が高く売れるのよ。それに、そのままのぶどうよりも発酵させた葡萄酒の方が日持ちするから」

「ふーん、いろいろ考えているのねぇ」

「でも、本当に貰っていいのか? これ、売り物として造ったんだろ?」

「いいのよ。まだまだ、たくさんあるし、これはおすそわけ。お父さんやお母さんに渡してあげて」

「わかった、ありがとう」


 俺は関心しながら、シンディから葡萄酒の詰まった樽を貰った。


 儲かる商売とはこういうのを言うのだろう。俺のように、何も考えずに働くだけでは儲からないのだ。頭を使うこと、考えて行動すること、そうすることで初めて努力は実るのだ。


 前世の記憶があるのにまるで活かせていない。シンディを見ていると自分の無能っぷりを見せつけられているようだった。


「2人はこのまま村に帰るの?」

「うん」

「ああ。まだまだ、卸さなきゃいけないし、早く帰って準備しなきゃ」


 俺とアリスが住んでいる村から街まではかなりの距離がある。そのため、朝早くに村を出るためにも、早く村に戻って明日卸す分を荷台に載せておきたいのだ。


「そっか、大変ねぇ」

「シンディの村はいいよなぁ。卸すにも便利だから、羨ましいよ」

「その代わり、いろいろと問題もあるけどね」

 そう言って、シンディは少し憂いた表情を浮かべる。


「ごめんなさい……いつも、いつも、あの子たちが意地悪をして」

「あ、いや、別にそんな……」

 何と返事をすればいいのかわからず、言葉に詰まってしまう。


 シンディは街の郊外にある村の孤児院で暮らしている。詳しいことを聞いたことはないが、物心付いた頃から孤児院で暮らしているらしい。そして、この街に向かう途中で絡んできた子供たちも孤児院の子供たちだ。あの子たちも、やりきれない思いを抱いているのだろう。


「わたし、あいつら、大っ嫌い!」

「仕方ないよ」


 昔、()()()()()があったんだし。 


「でも、シンディは別よ、大好き!」

「うふふ、ありがとう。私もアリスのこと、大好きよ」


 アリスがシンディに抱き着き、シンディは笑いながらアリスの頭を撫でる。まるで仲の良い姉妹のように見えて、微笑ましく思えた。

 

「さてと。そろそろ俺たちは村に帰るよ」

「うん、2人とも気を付けてね」

「シンディも、またね」


 俺たちはシンディと別れた。



・・・・・



 村に帰帰る道中、俺は咳をした。


「お兄ちゃん、大丈夫? 風邪?」

「あ、ああ……ありがとう。日が暮れてきて、寒くなってきたからなぁ」

「早く帰ろうか」

「ああ、そうだな」

 そして、また、咳をした。




 それは、今日の街の様子を連想させる、唯ぼんやりした不安を感じさせる、嫌な咳であった。

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