私の幸せな時間
深々と雪が降り積もる今日、私は彼氏の悠里くんと一緒に帰るために学校の門の前で傘を差して待っていました。
悠里くんは、この間行われた生徒会選挙で見事に選ばれ、書記としてお仕事をしています。そのため、最近は会う機会もめったにありません。メールのやり取りは毎日していますが、やはり生徒会の仕事が忙しいらしく3回くらいやり取りをしたら終わってしまいます。
ですが、今日は久しぶりに予定が空いたということで悠里くんからメールがあり、一緒に帰ることになりました。かれこれ1ヶ月くらいちゃんと会ってなかったので、とても楽しみです。
いつも素っ気ないですが、たまに見せてくれる笑顔がとてもかわいい私の彼氏は俗に言うツンデレなのです。
悠里くんを思い出していると前から本物の悠里くんがやってきました。
「もう、なんで教室で待ってないんだよ。ったく、こんな冷たくなるまで外で待ってるとかバカか?」
悠里くんはそう言うと私の手をぎゅっと握って、自分のポケットの中に突っ込みました。
言葉は素っ気ないけど悠里くんの手はとても温かくて、そんな行動に優しさを感じます。そっぽを向いてしまって顔は見えませんが、耳が赤くなっているのがとてもかわいいです。照れているのでしょうか。
「おい、傘よこせ。お前が持ってても小さいから歩きにくいんだよ」
傘が取られてしまいました。でも、私は分かっています。これも彼なりの優しさなのです。
「芽衣、今日はちょっと寄り道するぞ」
「っ!」
いつもはお前呼びなのに不意打ち名前で呼ぶのは卑怯です。心臓のドキドキがとまりません。
「おい、聞いてんのか。って、どうした?顔が真っ赤だぞ」
「ず、ずるいです。悠里くんはずるいです。どうしてそんなに心臓に悪いことばっかり言うんですか」
「は?寒さでついに頭までおかしくなったか。いや、すまん。元からおかしかったんだったな」
「むう、私がおかしくなるのは悠里くん限定ですよ」
私はこんなにも悠里くんが好きなのに、会うたびにまた好きが増えていきます。
でも、私ばっかりが好きな気がして、時々怖くなります。
「もう、バカなこと言ってないでさっさと行くぞ」
声だけ聴くと怒ったように聞こえますが、照れて赤く染まった顔を片手で隠そうとしているのがバレバレです。でも、ここは見ないふりをしないとですね。
ところで、
「どこに行くのですか?」
「やっぱりちゃんと聞いてなかったんだな。寄り道するって言っただろ」
「名前で呼んでくれたのが嬉しすぎて後の言葉が全然耳に入ってきませんでした」
「なっ、何言ってんだよ、バカ」
「えへへ」
今日はもうほんとに幸せです。大好きな悠里くんと一緒にいられるのですから。
「最近、この近くにできた新しい喫茶店があるだろ。そこ行くぞ」
「はい!」
学校から最寄りの駅から徒歩3分くらいにある新しくオープンしたシックな外装の喫茶店はクラシックのBGMとお花畑のようなハーブの香りが心地よいハーブ専門の喫茶店でした。
「芽衣は何頼む?」
「じゃあ、カモミールティーにします」
「か、かもみーる?ん、じゃあ、俺も同じのにする。すいません、かもみーるティー2つください」
「かしこまりました」
悠里くんはなんだかそわそわしています。それに、メニューを決めるときもなんだかおかしかったような……
あ!もしかして、
「悠里くん、ハーブティーを飲むの初めてですか?」
「なっ、そうだけど」
「うふふ、そうなんですね」
なんて、会話をしているうちにカモミールティーができたようです。
悠里くんのハーブティー初挑戦に立ち会えるなんて感激です。
「うっ、苦い」
カモミールティーは甘い香りが特徴ですが、味は香りに反して渋みの強いお茶です。香りに騙されてしまいましたね。
「すいません、はちみつもらえますか。あ、あとレモンもお願いします」
「はい、かしこまりました」
カモミールティーは、ハチミツを入れると幾分かましになります。初心者にははちみつやメープル、角砂糖などを入れるのがおすすめだと聞いたことがあります。
「おい、俺は別に飲めるからな、ハチミツなんかいらないぞ」
「まあまあ、一度試してみるのもいいじゃないですか」
「だが……」
「あ、そうそう。カモミールティーにレモンを入れてください」
「ん?それはいいがいったい何の意味が……あ!色が変わった!」
あら、悠里くん、目がキラキラしています。まるで、新しいおもちゃを見つけた子供のようです。
「レモンを入れたので酸っぱくなってしまいましたね、ここはハチミツを入れてはどうでしょう」
「そこまで言うなら……」
少量のレモンを入れたところで大して酸っぱくはなりませんが、ハチミツを入れる口実になったので結果オーライです。
「ん!うまいな!全然違うぞ」
初めて飲んだハーブティーに興奮しているのか、今日の悠里くんはなんだか子供っぽくてかわいいです。いつもとは違う一面を見られて今日は本当に最高の日です。
ゴーン、ゴーン
お店の時計の音が響いてきました。もう、6時です。そろそろ、夕飯の時間なので帰らないとなのです。でも、まだ悠里くんと一緒にいたいです。
「もう、こんな時間か」
「はい、もうさよならですね」
「家まで送ってくよ」
……え、悠里くんが家まで送っていってくれる?まだ悠里くんと一緒にいれるということですか。
「いいんですか」
「当たり前だろ、それに外はもう暗いし危ないだろ」
「えへへ、私、悠里くんの彼女になれてほんとに幸せです」
「ばっ、普通だろ、これくらい」
それから悠里くんは本当に家の前まで送ってくれました。
「じゃあ、また明日な」
「は、はい」
しかし、家に着いてしまうと悠里くんはすぐに帰ろうとしてしまいます。なんだか寂しいです。
「あ、悠里くん、今日は本当にありがとうございました。とても楽しかったです」
「お、俺も結構楽しかったし、ありがとな」
「えへへ、悠里くん大好きです」
「な、なんだよいきなり」
「悠里くんが好き過ぎてつい言っちゃいました」
「ば、バカだな。そんな恥かしいことサラッと言ってんじゃねーよ」
動揺で顔が真っ赤です。
「見んじゃねーよ……」
ポフッ……
え?あれ、何が起きて……
ゆ、悠里くんに抱きしめられてる!?
「お、俺の方が好きだからな……じゃあな」
耳元でそう囁いたあと、悠里君は逃げるように走り去ってしまいました。
「うう、こんなのずるいです」
私は囁かれた方の耳を抑えてその場に座り込みました。
まだ、悠里くんの甘い声の余韻が残っています。
私は今日も悠里くんにドキドキしっぱなしでした。でも、抱きしめられた時に聞いた悠里くんの心臓は私と同じくらいの早さでした。
ドキドキしているのは私だけじゃないと分かってちょっと安心です。
ああ、早く悠里くんに会いたいです。さっきまで一緒にいたのに悠里くんが恋しいです。
次に悠里くんと過ごせるのはいつになるでしょうか。早く会いたいです。
ただ自分がこんなの本当にあったらいいなと思って書いただけなのでグダグダになりましたが(いつものこと)、最後まで読んで頂きありがとうございました。