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霊感少女とびびり先輩  作者: 雪片月灯
6/11

二年生晩夏:轢かれ続ける

「ちょっと聞けよ水無瀬~」


「なんすか?」


 夏の暑さも控えめになってきた頃。

 いや、嘘です。地球温暖化かなんか知らないけど暑くて堪らない日のこと。

 朝。学校に登校したら教師がぐったりとしながら話し掛けてきた。

 そこそこ仲の良い教師だ。面倒も良く見て貰ってる。朝練も今日はない。

 だから何の衒いもなく、その教師に呼び止められるがままにその教師の根城となっている英語準備室に着いて行き、出された冷たい麦茶を飲みながら話を聞く体制を取った。

 この時、何か理由を付けてでも席を外せば良かったと、この後どれだけ後悔するハメになるのか今の俺は知らない。


「昨日。日曜だったろ? 夜中まで嫁さんとデートしてたのよ」


「ああ、先生新婚でしたもんね」


「そ。めちゃくちゃラブラブ」


「何すか。のろけっすか?」


「のろけで済めば良かったんだけどな……」


 そう言ってにやけた顔を真顔に、いや、若干ぐったりと蒼褪めたようにした教師は話を続ける。


「車で出掛けてたんだけどさ、結構遠出したから流石に疲れて、早く帰りてぇなぁって思いながら運転してたわけ。ちゃんと前も見てたし、夜中だから周囲にも気を使ってたよ? でも、さ……俺、轢いちゃったんだよ」


「轢いた、ってまさか……!?」


「まあ、話聞けよ」


 思わず大声を出した俺を教師は手で制して、顔を俺に近付けると声を潜めながら、勿体ぶったように間を取りつつ口を開いた。


「轢いたのはさ。幽霊なんだよ」


「……へ?」


「だからぁ。俺、幽霊轢いちまったんだ」


「まさか」


「あ、疑ってんな? 俺だって信じたくねぇよ?」


 でもさ、と教師は続ける。


「確かに衝撃はあった。だから俺も嫁も真っ青になりながら車から出たんだよ。その轢いちまったかも知れねぇ人を見に。救急車も呼ばなきゃいけねぇと思ったし」


 だけど、と教師は顔を引き攣らせる。


「居なかったんだ。その人。髪が長かったから女だと思う。うん。スカートも履いてた、オカマの幽霊とか俺は嫌だから女だと思う。いや、女が良いってわけでもねぇんだえど。むしろ誰も轢きたかねぇんだけど。確かに、俺はナニかを轢いた」


 けど居なかった。

 そこには血だまりすらも無かったし、轢いてすぐに車を飛び出したから立ち去ってる可能性もない。

 どっか飛んでっちまったかと思って周辺も探した。


「でも、居なかった」


 夢でも見てたんじゃねぇかって嫁に話掛けたんだよ。

 したら嫁が突然悲鳴を上げたんだ。


「嫁が見てる方向を見たら、道路に『人型の水溜まり』が浮かびだしたんだ」


 おっかなくてさ、俺。

 呆然としてる嫁を車に押し込んで家に帰って、これはやばいと思って昔『そういうのが視えるばあちゃん』に聞いたのを思い出して、台所から塩持ってきて嫁と俺に振りかけて塩水も飲んで、その日は寝たんだ。


「何事もなかったから良かったんだけど、朝も嫁は蒼褪めてるし、俺も気分良くないし、最悪だったよ」


 そんな話を聞かされた俺も最悪っすよ。と言いたくなった気持ちを抑えながら、そうっすね、と返す。

 教師は話したことに満足したのか、そーいやこれから会議だったわと思い出したように呟く。


「よっし、話したしお前は出てって良し!」


「俺、聞き損じゃないっすか!」


「だってお前、神山と付き合ってるんだろ?」


「……? まあ、友達みたいなもんスけど」


「良ければ神山にこの話して、その対処方で良かったのか聞いといてくんない?」


「なんで俺が……!?」


「だって神山、神社の娘だし、何か知ってるかと思ってな」


 じゃあ頼んだぞー。と言いながら、俺は根城である英語準備室を追い出された。



**



「――て、ことを話せって言われたんだよ」


「へぇ。それはそれは災難でしたね」


 放課後。

 部活の休憩時間に記録を整理していた神山に話し掛け、朝の話をすれば、神山はクスクスと全く災難だとは思っていないような顔をしながらそう言った。


「ああ、でも。それに関係あるかは分かりませんが、私も聞いたことがありますよ。似たような話」


「似たような話?」


「はい」


 とある普通の道があるんですけどね?

 その道には、『轢かれ続ける女』が出るらしいんです。

 事故で亡くなったのは分かってるんですけど、その人。轢き逃げにあったらしくて犯人は未だ見付からず。

 その犯人を捜すように、その日のことを再現するように、今も尚、轢かれ続けるんですって。


「その想いは、とてもとても強い」


「まるで見たことあるような言い方だな」


「先輩の話を聞いたら視えたんですよ-。その女性の想いが」


「お前はチートか」


「チートか、どうかと言われると、そうでもないですよ。霊力の高い、たまたまそういう対処法を知っている、ただの人間です」


 神山はどこか遣る瀬無さそうに言った後に、でも、と続けた。


「その先生と奥さん。簡易的にでも清めの対処をして良かったですね。特に奥さんの方」


「なんでだよ」


「その女性。たぶん奥さんにくっ付いて来てましたよ」


「へ? そういう霊って地縛霊? っつーの? その場に囚われてるんじゃねぇの?」


「普通ならそうでしょうねぇ。でも、その女性新婚だったんだと思います。もしくは、結婚間近。その先生も新婚さんだったんですよね?」


「ああ」


「感情がリンクしちゃったんでしょうねぇ。だから憑いてきてしまった」


 でも、簡易的にとはいえ塩を身体に振り、塩水を飲んだことで結界が張られ身が清められた。


「キッチンの塩って、清められてはいないですけども雑魚程度には効くんですよー」


 先輩は私と付き合って憑かれやすくなってますから、もし私がすぐに対処できなかったら、とりあえず塩を口に含んでくださいね。簡易的にですが清められますから~。


「いや、効くんですよ~、じゃねぇよ。怖ぇよ。すぐ対処してくれよ」


「じゃあ私にずっと監視されながら生活してみます?」


「言い方が嫌だ」


「ふふ。簡単ですが式神は付けてありますから大丈夫ですよ。雑魚程度には憑かれません」


「すげぇ、初耳だわ」


「初めて言いましたからー」


 へらへらと笑う神山に、おいと顔を顰めた。


「でも先輩。私が式神を付けてなかったら今頃どんな目にあってるか分かりませんよ?」


「今以上にかよ!?」


「はい!」


「……俺、もうお前から離れて暮らせねぇんじゃねぇの」


「えへへ。光栄なお言葉ですね」


「喜んでんじゃねぇよ! 死活問題だわ!」


「大丈夫ですよ。私が先輩をずっと守ってあげますから」


「なんか……情けねぇわ」


ぼそり、と呟いた言葉に「格好つけた先輩とか先輩じゃないんじゃないですか?」なんて返す神山の頭を小突いた。


「そういやお前、神社の娘なんだってな」


「ああ、はい。神山神社っていう神社の、神主をしてます」


「神主? お前まだ学生だろ」


「何分、先代の神主。まあ母親なんですけどね? と、父親と祖母が亡くなっているもので継いだんですよ」


「すげぇ、初耳だわ」


「初めて言いましたから~」


 にこやかな笑みを浮かべる神山の過去を知って、俺はなんて言って良いのか分からないままに、部活が再開された。

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