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霊感少女とびびり先輩  作者: 雪片月灯
3/11

二年生初夏:雨の校舎

 とても憂鬱とした空模様だった。

 黒く重たい印象を見るものに与える雨雲に、傘を忘れていた俺は家に帰るまで降るなよ、と念じながら眠たくなる午後の授業を受けていた。

 こんな天気で、午後の授業が苦手な現国とくれば、もう俺の眠気もMAXだ。

 子守唄のような教師の声を聞きながらうつらうつらとしていた時だった。


 『それ』は突然降ってきた。


 いや、降ってきというと違うのかも知れない。

 けれど形容するなら正に『降ってきた』だ。

 ガタッと椅子を後ろに引く。

 盛大な音が立った為かクラス中のやつらが俺を見た。


「どうしたー水無瀬」


「……っ、ぁ、……すいません。寝惚けてました」


「俺の授業中に寝るたあ良い度胸だなぁ? 水無瀬」


「すいません……」



 罰として放課後資料作り手伝えー、と教師は笑顔で言い放った。

 クスクスと笑うクラスの奴等に、お前らだって寝掛けてただろと言ってやりたくなる。

 いや、むしろ普段なら言っていた。

 だけど今の俺にそこまでの余裕はなく、教師の言葉に「うすっ」と頷くのが精一杯だった。



**



「それで先輩は居残りさせられてたんですねぇ」


「そうだよ。悪いかよ」


 教師から渡されたのは、学年分の資料。

 本来なら委員長なり、係なりがやる仕事だ。罰としてやらされているとはいえ、その膨大な量の紙を束にしてホチキスで止めていた時、ひょこんと後輩である神山が顔を出した。

 後輩は珍しいモノでも見るかのような顔をしながら教室に入り、俺の前の席に座り「何してるんですかー?」と間延びした声を発した。

 神山にこうなった理由を話せば、可笑しそうに笑いながら棒付きの飴を差し出される。

 バニラ風味のソレを今は口に含みながら作業をしている。

 神山も楽しくもないだろうに笑いながら手伝ってくれた。


「いえいえー。ただ、先輩らしくないなって」


「俺らしいって何だよ」


 後輩はううん、と唸って、ちらりと俺の背後を見やった。

 そうしてやはり笑顔で口を開く。


「先輩、いい加減慣れたんじゃないかなって思ってたんですけど」


「……慣れるわけねぇだろ。むしろ何でお前は慣れられるんだよ」


「それこそ『慣れ』ですよー」


 チョコレート味の棒付き飴を舌の上で弄んでいる神山は棒付き飴を舌で上下させながら、俺を指差した。


 正確には、俺の背後を。


「『アレ』は雨の日ならいつでも現れますよー?」


 いつでも、どこでも。

 この校舎の教室からならどこからでも視えるんですよ。


「だからぁ、慣れちゃった方が良いですって。大した害もないんですからー」


「害なら物凄くあるわ!」


 目の前に積み上がる未だに終わらない紙の束は勿論だが、俺の精神安定上、あんなものが雨の日に毎回居るなんて知ったら怖くて登校拒否るわ!

 びびり舐めんなと神山に胸を張れば、言ってて悲しくなりません? と哀れんだ目を向けられた。


「いいじゃないですか。先輩は今年卒業ですし、そもそも先輩には私があげた御守りがあるじゃないですかー」


「御守り持ってても怖いもんは怖い」


「先輩ったら本当に怖がりさんですよねぇ」


「悪いかよ」


「いえいえー。恐怖は生存本能として誰しもが持っているモノですからー。悪くはないですけどー……」


後輩はそこで言葉を区切り、ニッコリと笑みを浮かべた。


「私と友人関係続けるならやっぱり慣れといて貰わないと困りますねー」


「……ちょっと後悔してる自分が居るわ」


 あの、最初のクリスマスの日。

 神山に助けられた俺は、神山と今日まで先輩後輩関係ながら、友人関係を続けている。

 正確に言えば、俺がどうやら神山曰く『憑かれやすい体質』らしく、そんな話になったのだ。


「じゃあ、私のことなんて無視しちゃって良いんですよ? ただの先輩後輩ってだけの関係なんですから」


「それはしねぇよ。つか、自分で言っといてんな顔すんな。馬鹿」


「そんな顔?」


 きょとんと首を傾げた後輩には自覚がないのだろうが、無視しても構わないと笑った後輩の顔は迷子の子供のような頼りない、ともすれば今すぐにでも泣くんじゃないかというような顔をしていた。

 自覚してないから敢えて言わないし、多分言っても「そんなわけないじゃないですかー」なんて言って取り合わないだろうから言わないが。


「んなことより、さっさと終わらせるぞ。いい加減帰りてぇ」


「これそもそも先輩のペナルティですよね?」


「中途半端に手ぇ出して帰る気か? 俺をこんな日に一人にすんじゃねぇよ馬鹿」


「はいはい。分かりましたよー。手伝えば良いんですよね手伝えば。お礼はチョコレートケーキで良いですよ」


「……お前、どんだけチョコレート好きなんだよ」


「そりゃもう、愛してます」


 熱が籠った眼差しで言われ、神山の本気を感じ取った。

 「好きにしろ」と言えばやる気を出したのか、神山は手際よく紙の束をホチキスで留めていく。

 俺もならうように紙の束に手を付ける。


 背後ではナニかが落下する音と視線、そしてナニかが潰れたようなグシャリとした音がBGMとして流れていたが、俺はそれらを全力で聞かなかったことにして作業に没頭した。

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