番外編 肉食系貴族令嬢の婚活 1.野猿な令嬢との出会い
「野猿な悪役令嬢」の本編よりも1年前のお話です。
長くなってしまったので、話を分けました。全部で3~4話で終わる予定です。
ランダード王国の貴族、ローエリガー伯爵家の次女に生まれたミランダは、15歳の時に王侯貴族が通う学院に入学した。
2年上には憧れのセリウス殿下がいらっしゃる!
入学にあたり、ミランダは憧れのセリウス殿下と関われるかと期待を抱いていた。
セリウスはこのランダード王国の第2王子として、学院に在学中でありながら、既に王太子補佐として、次々と有用な政策を打ち出し、実績を積んでいた。
ミランダはセリウスのような有能な男性を尊敬していた。
ただ、すでにセリウスには公爵家の婚約者リーリア・メナードがいた。
リーリアの父親であるメナード公爵は王国騎士団の統括をしている団長でもあり、ミランダはセリウスに憧れていたが、そのような身分の高い婚約者では、奪うことは望みが薄いことはわかっていた。
しかも、噂ではセリウスの方がその婚約者のリーリアに夢中ということで、入り込む隙もないと言われている。
でも、本当かしら?
ミランダは、リーリアの噂を聞く度に、疑問に思っていた。
その噂のリーリア公爵令嬢は社交界にあまり顔を見せず、王妃様や王太子妃様が開かれるお茶会くらいしか参加しないらしい。
話を聞く限りでは、リーリアは公爵家の令嬢として、ましてや将来の第2王子の妃であり、もし第1王子に何か不幸があれば、王太子妃や王妃になる可能性もある立場で、きちんとその役割を果たしていないのではないかと囁かれていた。
そもそも、セリウス王子との初顔合わせの際に、野猿のように木々を伝って逃げたという噂もある。
その噂のせいで、リーリアのかわりに自分の娘をセリウス王子の婚約者にしたがる野心家の貴族が多かった。
ミランダの父、ローエリガー伯爵もやや野心家であった。
あわよくば、この銀色に輝く髪と透きとおるような紫の瞳をもつ美しい自慢の娘ミランダが、野猿のようで不出来と噂の婚約者がいるセリウスなどの王族や、上級貴族に見初められないかと期待し、あえてミランダの婚約者を決めないまま学院に入学させた。
父の期待にできれば答えたいミランダであったが、多くの有力な貴族には幼い頃から婚約者がいるため、難しかった。
また婚約者のいない有力貴族には問題のあるものも多くいて、実際にそのひととなりを見てから、学院でお近づきになるべきかを考えようと決めていた。
ミランダは、入学後、婚約者のいない数人の有力貴族の子息で、ミランダの結婚相手候補の男性を調査してみた。
そのうち、何人かには実際、接触したが、結果は惨敗。
予想通り、有力貴族にもかかわらず婚約者のいない貴族子息たちは、お近づきにはなりたくない愚かな輩ばかりであった。
なかなかミランダが気に入り、かつミランダの父も満足するような人物はいなかった。
(こればっかりは、しょうがないですわ。
入学して日も浅いし、まだ候補男性はいるから焦らないようにして、きちんと見極めないといけませんわ)と冷静に物事をすすめるミランダは、候補男性に対する人物調査書を作成するまでに至った。
しかも、失敗しないための日々の情報収取のおかげで、その人物の似顔絵、特徴、性格、家族構成、将来性、学院内ランク付け等どんどん内容の精度が上がってくる始末。
あら?
調査はすすめど、ターゲットが決まらず……。
ミランダは優秀で無駄に調査能力が高かったが、実りの少ない自分の行動にさすがのミランダも違う方法を選ぶべきかと思い始めていた。
ミランダ自身わかっている自分の欠点は、有能な男性に憧れてはいても明らかに恋ではなく、そしてまだ一度も恋をしたこともなく、政略として相手を条件で選ぶにしても、愚かな輩に対してはどうしても妥協できなかった。
ただ、ミランダは華麗な容姿と、男性をたて、とりいるのは得意であるため、ミランダさえその気になれば、相手と良好な関係を築ける自信があった。
もちろん自信はあったが、実際には難しいことも理解していた。
ある日、授業の休講により、思わぬ時間が空いたミランダは、いつもなら結婚候補男性の調査を進めたり、実際の接触に勤しんだりするところであったが、最近の空振り加減にやや疲れていた。
そして、気分転換にひとりで学院の庭へ散策にでた。
ミランダが校舎裏まで足をのばすと、1人の女生徒が校舎裏にある茂みで、ごそごそと何かを探しているような様子であった。
ミランダは失くしものでもしたのかと思い、手伝おうと親切にも声をかけた。
「あの、そんなところでどうされました?なにか失くしものですか?」とミランダが声をかけると、ビクッと体を震わせた女生徒がおそるおそる振り返った。
(あ、可愛い子)という第一印象をミランダはその少女にもった。
学年ごとに一部デザインが異なる制服のおかげで、その少女は同じ学年の生徒と思われた。
しかも、ふわっとした茶色の髪に、幼げな顔立ち、綺麗な緑の瞳の少女に好感をもったミランダは、是非、仲良くなりたいと思い、親しみやすい笑顔を向けた。
「何か落とされましたか?」と優しく聞くミランダに、慌てて立ち上がったその少女は、手にハンカチを袋状にして持っていた。
「あの、私……」とその少女はそのハンカチを後ろ手に隠そうとしていた。
(見られたらまずいものでも拾っていたのかしら?
声をかけて、まずかったかしら?)とミランダも邪魔して悪かったかと思っている時だった。
「リーリア様!!」と後方できつい怒鳴り声が聞こえた。
その声にミランダが振り返ると、そこには目を三角にして怒っている形相の黒髪の少女がこちらにやってきた。
「リーリア様!
図書館に行くなんて嘘をついて、ちょっと目を離した隙に何をやっているのですか!?」と怒る黒髪の少女は、リーリアが後ろに隠していた袋状のハンカチを見つけると、とりあげようとした。
しかし、リーリアも負けず、さっとその手を避けて、とられないようにする。
「ダメですよ、リーリア様!
それをこちらに渡しなさい!!
またそこの苺をとっていましたね?公爵令嬢たるもの、このようなところのものを食べてはいけません!」
「ちゃんと、洗ってから食べるので大丈夫です!」
「もう!!そういう問題ではありません!セリウス殿下に報告しますから」と怒る黒髪の少女にミランダは見覚えがあった。
そう、確か黒髪の彼女はクロエ・ハーシュ侯爵令嬢。先月招待されたお茶会の際に挨拶をして、一応面識があった。
彼女はミランダと同じ、この学院の1年生で、公爵令嬢のリーリアに次ぐ身分の少女であった。
そういえば、ミランダとクラスは違うが、クロエとリーリアは同じクラスなことを思い出し、親しい友人なのかと思った。
(というか、そもそもこの可愛い緑の瞳の少女が、あの噂のリーリア・メナード公爵令嬢?)とミランダはあらためてリーリアのことを眺めた。
(うーん、噂以上に可愛い……。
この子ならセリウス殿下が溺愛するのは、ちょっとわかりますね~)と、クロエとリーリアの苺争奪戦のやりとりをミランダはのんびり眺めていた。すると……。
バシッ
クロエがリーリアの手を叩き、持っていたハンカチに包まれていた苺を落とした。
「あっ」と声を挙げてリーリアが落ちた苺を拾おうとすると、すかさず、クロエがハンカチごと苺を踏みにじった。
グジュ グリィ
苺は無残につぶれ、ハンカチも泥だらけになってしまった。
「いい加減になさいませ、リーリア様!私はあなたのお世話係ではないのよ。手間かけさせないで!」とプリプリ怒るクロエ。
彼女の言うことも聞こえない様子のリーリアは悲しそうに苺を見つめていた。
ミランダとしては、つい傍観してしまったが、公爵令嬢に暴力をふるったクロエはやり過ぎと思われた。とりあえず、この場の険悪な雰囲気を変えようとクロエに声をかけた。
「……おとりこみ中のところを申し訳ございません、クロエ様。
でも、そのままではクロエ様のお靴が汚れてしまいますよ」とミランダは、リーリアを叱りながらいまだに苺を踏んでいるクロエへ、慎重に声をかけた。
そこで、はじめてクロエは、そばにミランダがいたことにやっと気づいたようであった。
「……ローエリガー伯爵家のミランダ様でいらっしゃいますわね。
先日はどうも。
……どうして今、ここにいらっしゃるのかしら?」
「はい、先月のハマナ―伯爵のお茶会以来でございますね。
今日は休講のためこのあたりを散策していましたら、こちらの方にお会いしまして。
よろしければクロエ様、ご紹介くださいますか?」とミランダがリーリアの方に向くと、リーリアも潰れた苺から、やっとミランダを見てくれた。
「……ええ、いいわ。
リーリア様、こちらはローエリガー伯爵家のミランダ様です。
ミランダ様、セリウス殿下の婚約者のリーリア様は当然、ご存じよね?」とクロエは何だか嫌な感じの声音で紹介をしてきた。もちろんリーリア・メナード公爵令嬢のことは噂で知っているけど、一応、初対面だから紹介してもらったのに。
「はじめまして。リーリア・メナードです」
「こちらこそ、はじめまして。
ミランダ・ローエリガーです。
今日は良いお天気で、散策にむきますわね。
リーリア様のクラスも授業は休講でしたか?」とお互い自己紹介し、苺から話題を変えようとするミランダ。
「はい、私のクラスは午後全部休講になりまして……」とリーリアとミランダが和やかに会話しようとするところへ、クロエが割り込む。
「とりあえず、いいですか、リーリア様。
道端のものを食べないように。
これ以上、セリウス殿下の言いつけに背かれないようにしてくださいませ。
では、私は靴が汚れましたので失礼いたしますわ」と言い捨てて、リーリアに潰れた苺も拾わせないためか、ハンカチごと拾いクロエは去っていった。
「……ただの道端のものじゃないのに。
非常食用に内緒で植えていた品種も良い苺だったのに……」と不満そうにこっそりつぶやくリーリア。
それが聞こえたミランダは思わず、くすくすと笑ってしまった。
「まあ、こちらで苺を育てていらしたのですか?」とミランダが聞くと、リーリアはしまったという顔になった。
「えぇーっと。あの……」と言いよどむリーリア。
「大丈夫ですよ。
クロエ様のようにセリウス殿下に言いつけませんから。
でも、よく無事に育ちましたね。
ここだと小鳥に啄まれそうですが、何か対策なさっていますの?」
「あ、それは、小鳥はもちろん、他の方にも見つからないようにここに小規模の目くらましの魔法シールドを張っていて。
ここは日当たりがよくって苺には絶好の場所なので……」
「え?目くらましの魔法シールドって、上級魔法ですわよね。
しかも、それを苺が育つまで小規模とはいえ継続してかけていたのですか?
すごい!
さすがリーリア様。
もう上級魔法も日常で使えるのですか?」と驚くミランダ。
「はい、魔法は好きで得意です」とリーリアは、さらっと答える。
さすが公爵令嬢だけあって、上級魔法も使える上に継続できるだけの魔力もあるのか。
感心するミランダであったが、その用途が非常食の栽培のためというところに、リーリアの噂が何故ああなのかも納得できた。
折角の能力の使い方がちょっともったいないなと。
そんな話をしながら、潰された苺への悲しみが回復してきたリーリアに、ミランダはクロエに叩かれたことを思い出した。
「叩かれた手は大丈夫ですか?」
「あ、そういえば。でも大丈夫です」
「いくらご友人でも、叩くなんてひどいですわ」
「いえ、すぐに渡さなかった私も悪いですし……」
「たぶん、渡しても同じことしそうですがね……」とミランダはきっとクロエなら渡されてもその場で苺を落として踏んでいそうと思った。
「そうなんですよね。私も彼女ならそうすると思って……」とまたリーリアは、しょんぼりした。
「いつもクロエ様とはあんな感じですか?
彼女、口うるさいお目付け役みたいというか、セリウス様の部下みたいですね?」
「うーん、どうなのでしょう。
セリウス様が、どうやら私のような至らない婚約者を心配して、彼女に頼んでいるかも知れないのですが……」
「至らないなんて、そんな!
こんなに可愛くて魔法の才能もおありのご令嬢は、なかなかいらっしゃいませんよ!」とお世辞ではなく半ば本気でフォローするミランダ。
「え?可愛くって……。
えっと、その、ありがとうございます……」と照れるリーリアをミランダは微笑ましく思った。
すると、突然、リーリアのお腹が盛大に鳴った。
グーキュルキュルグ
音が聞かれたと恥ずかしがるリーリア。
「お腹が空いていらっしゃるの?せっかくの苺が潰されてしまいましたものね」と何だかさらに微笑ましく思うミランダは、散策の途中で食べようと持っていたキャンデーをリーリアへ渡そうとした。
「い、いえ、大丈夫ですわ!
もう部屋に戻りますから!」とリーリアはすぐに断わった。
「部屋まで距離もありますし、今から舐めれば丁度、着いた頃になくなりますので、ご遠慮なさらずにどうぞ」とミランダは、リーリアの目の前に鮮やかな色とりどりの包装紙に包まれたフルーツキャンデーを差し出した。
「あっ!これはベーリー街にあるお菓子屋さん『キャロルの店』のキャンデーじゃないですか?」とリーリアは目を輝かしてキャンデーを見つめる。
「まあ、あのお店をご存じですか?」
「はい!セリウス様が教えてくださったお店で、月に1度だけ、セリウス様に連れていってもらっております。
実はセリウス様から健康のためと言って、お菓子などを制限されていますが、『キャロルの店』のお菓子だけはやめられなくて。
何を食べても美味しいですよね、あのお店のお菓子。
あの、やはりこのキャンデーをいただいてもよろしいですか?」
「もちろんですわ!
お好きなだけ、どうぞ」とミランダは微笑んだ。
餌付け成功!!!
野生の野猿を手懐けるほどの困難もなく、キャンデーに反応したリーリアに、何だか楽しくなったミランダ。
そのあとキャロルの店の話題をリーリアとしながら、寮の部屋まで一緒にもどった。
それ以来、ミランダはリーリアと仲良くなり、リーリアと一緒に過ごすことが多くなっていった。そしてお互いをリア、ミラと呼び合うほどの仲になった。
ミランダは、リーリアが憧れのセリウス殿下の婚約者であっても、あえて彼に関わろうとせず、リーリアとのみ仲良くしていた。
それというのも、クロエをはじめとする、明らかにセリウス目当てにリーリアを利用している貴族令嬢達が非常に不快であったからである。
例えばリーリアをお茶会に誘いながらもセリウスも来させるようと躍起になっていたり、リーリアの行動を逐一、セリウスへ報告したり、それでいて、報告という名目で会って、セリウスにリーリアより自分をアピールしていると聞くと、ミランダには愚かにしか思えなかった。
もちろん、セリウスが歯牙にもかけていないから、いいようなもの。
ただ、リーリアのクラスはリーリア以外、公爵家や王族もおらず、リーリアが大人しそうなのをいいことに、次に身分の高いクロエがクラスで女王然としているようで、クラスにはクロエに従うものも多かった。
しかも、クロエはリーリアと親友であると称し、リーリアの面倒を見てあげているスタンスであったが、リーリアには迷惑この上ないことも多々あった。
「ミラと、お友達になれてよかったです」といつものようにミランダと学院の学院生用の食堂でお昼を一緒に食べていたリーリアが、今日も美味しそうにご飯を食べながら、ついこぼしたセリフ。
ミランダはリーリアの周りにたかる人間の愚かさを度々目撃してきたため、そのセリフについ同情のため息がでた。
「またクロエ様に何か嫌がらせをされましたね?」
「え?いや、まあ、その大丈夫ですよ。ミラがいますし」
「今度は何ですか?」
「うーん、最近、仲良くしていたイザベラ様に誤解されたみたいで……」
イザベラとは、ターナー男爵家の娘で、クロエよりも見た目は無害そうだが、そう見えない分あざといタイプであり、もちろんセリウス狙いの令嬢の1人である。
「だから、彼女にも気をつけるようにいったでしょう?教科書紛失の犯人にでもされましたか?」
「その通りです!ミラの予想通り言いがかりをつけてきまして。教科書じゃなくて、彼女が大事にしているペンだったのですけど」
「もちろん、私の言った通りの対処法で、犯人じゃないってきちんと弁明できましたか?」
「うーん、そうしたつもりですけど、勝手にクロエ様がまた余計なことを……。
明らかに犯人は私ではないことで終わりそうな話のところに乗り込んできまして、最後はさも私が犯人と決めつけて、イザベラ様にクロエ様が『リーリア様の親友の私からも謝るわ』と……。
本当に迷惑!」
「そうですね、リアにとっては本当に迷惑な行為ですわね。
どうせあの二人はグルですよ。
セリウス殿下のリアへの評価を下げるためにリアを貶めようと、二人とも無理にでもリアを犯人に仕立てあげたかったのでしょうね。
ああいう輩はそうなるともう何を言っても無駄ですわ。
この場合、もう相手にせず、物理的に離れる方がいいですわね」
「はい!私もそう思って、もうできるだけ関わらないようにしています」
「そうそう、それが一番ですよ!」
「ふふっ、ミラ、いつもありがとう。
ミラこそ、本当の親友ですわ!」とミランダに無邪気な笑顔をむけてくるリーリア。
「まあ、ありがとう、リア」とそのあまりの可愛さにミランダは思わず自分のデザートの果物を与え、リーリアの頭をナデナデした。
もうっ、すっごくかわいいー!リアをもっと笑顔にして、もっと餌付けしたいですわ!!
ミランダの父親の希望に反して、セリウスに近づくことなく過ごしているが、この笑顔がみられればこの学院にきたかいがあったということで、もういいかと思うミランダであった。
「まあ、リアはセリウス殿下にとても愛されていますもの、いくら外野が何を言ってきても大丈夫ですよ」とミランダは自分のリーリアへの可愛がりぶりを棚に上げ、リーリアから聞くセリウスの言動から、リーリアへの明らかな溺愛と思われる話を思い出した。
「うーん、私が愛されているかはともかく。
セリウス様なら少なくても来年まで心変わりはしないって確信しています」
「?何で来年まで?」と首をかしげるミランダ。
「ふふふ、内緒!」というリーリアは心の中で(そう、私の前世の記憶にある乙女ゲームでは、来年入学してくる、ヒロインのアリーシアがセリウスルートに入るまでは大丈夫)と思うのであった。
「それよりも、ミラは何故あの人たちの行動をかなり正確に予想できるのですか?
実は超難関と言われる予知の魔法でも使っていますか?」とずっと疑問に思っていたことを聞くリーリア。
実は、リーリアがクロエなどの件でミランダに的確なアドバイスをもらっていたことをセリウスに話した際、セリウスから「そんなに予想があたるのはよっぽど正確な分析・評価力に優れているか、予知の魔法を使っているか、そいつが悪の親玉かだよ」と言われていた。
「いえ、予知の魔法ではないですよ」
「では、どうして正確に予想できますの?」
「実はね。リアのためにリアの周りの人間を調査してまとめて、その性格、特徴などを分析してから、あの人たちのやりそうなレベルの行動を予想していましたの」
そう、ミランダは、可愛いが無防備なリーリアを、女狐どもに貶められないように、以前は結婚候補男性にやっていた調査方法を応用して、分析、評価、その相手の簡単な行動予想までもできるようになっていた。
その調査書はプロ顔負けの出来であった。
ちなみに、調査のために予知魔法は使っていないが、才能のあった探索魔法などはさらに発展させて、使っている。
「へー、ミラったら本当にすごい!
ねえ、その調査書があるなら是非、読ませてください!」
「ふふふっ、私の秘密よ」
「ねえ、ちょっとだけ!
お願い、ミラ!!」と可愛くおねだりするリーリア。
くっ可愛い!と負け負けのミランダ。
「ええー、もうしょうがないですわね。
では、私の部屋で……」と言いかけたミランダの後ろに立つ人物がいた。
「へー、是非、僕も読みたいな。
その調査書とやらをね。
ああ、でもここでは無理だから僕のサロンに来てくれるかな?」と微笑むセリウス。
ギギギッと音がしそうにゆっくりミランダが後ろを向くと、リーリアの婚約者セリウス殿下と、リーリアの兄アーサー・メナードが立っていた。
「はじめまして、ミランダ・ローエリガー嬢。リーリアと仲良くしている君と会って話してみたかったんだよね」
「久しぶりです、ミランダ嬢。相変わらず妹がお世話になっているね」
「……は、はあ。はじめまして、セリウス殿下。そういっていただけて光栄です。
お久しぶりです、アーサー様。こちらそ、いつもリーリア様と仲良くさせていただいております」とミランダはぎこちなく返事をした。
「じゃあ、ここだと人目があるから、サロンへ移動しようか。調査書一式は持っているんだよね?」
「あ、あの、私、午後の授業があるので……。ちょ、調査書も寮の自室でして……」と、とりあえず、後回しにしようとするミランダ。
「大丈夫。
午後の授業は僕の執務の手伝いということで、担任には連絡しておくから欠席にならないよ、心配しないで」
何だろう、この有無を言わせぬ強引さは。おまけに周りの目が痛い。ひたすら逃げたいミランダであった。
「待って、セリウス様!
ミラが行くなら私も行きます!!」と言ってくれるリーリアが、ミランダには一瞬、天使に見えた。
しかし、セリウスは眉をしかめた。
「だめだよ、リーリア。
君にとって今日の午後の授業は大事だから、サロンに来るなら授業後においで」と優しく諭すように言った。
「でも……」
「だ、大丈夫ですよ、リア。
でも、授業が終わったら来てくださいね」というミランダに、リーリアは心配そうにしながら、午後の授業に向かった。
「では、ミランダ嬢は一度、寮の部屋に帰ってその調査書一式をすべて持ってくること。
それを持ってサロンまで来てほしいから、アーサー、女子寮までミランダ嬢を送り、すぐにサロンへ連れてきて」とセリウスはアーサーに指示をだし、ミランダはすぐに移動することになった。
<野猿な悪役令嬢の登場人物情報>
・セリウス・ランダード:ランダード王国第2王子17歳 リーリア溺愛の腹黒婚約者
・リーリア・メナード公爵令嬢15歳 野猿な令嬢 セリウスの婚約者
・アーサー・メナード公爵子息17歳 リーリアの兄
・スージー・マスケット伯爵令嬢17歳 アーサーの婚約者
・アリーシア14歳 乙女ゲームヒロイン まだこの話の時点ではメナード公爵家に引き取られる前なので、今回の話では名前だけ。
<新しい登場人物情報>
・ミランダ・ローエリガー伯爵令嬢15歳 この番外編の主人公 肉食系貴族令嬢
・クロエ・ハーシュ侯爵令嬢15歳 リーリアと同じクラスの学院生
・イザベラ・ターナー男爵令嬢15歳 リーリアと同じクラスの学院生