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番外編 IF 野猿な囚人 34-2.(セリウス外ルート)再会2

 リーリアは、王都からほど近い、父親のいる王族専用の牢獄に向かっていた。

 王妃が用意してくれた馬車は、乗り心地も良く、セリウスのことを真剣に考えないといけないのに、ついウトウトするリーリアであった。

 馬車の中で、微睡むリーリアは、夢をみていた。


 夢の中だからか、リーリアは、セリウスと仲睦まじく会話をしていた。

 このまま、仲良く歳をお互いに重ねていけるかと思われたその時、顔の見えない令嬢が二人の間に入ってきた。

 すると、夢の中のセリウスは、あっさりリーリアの側から離れ、いつものような腹黒さや意地悪気な様子もなく、無邪気にその令嬢の手を優しく取り、心からの笑顔で二人で過ごしていた。そして、最終的には、その令嬢と結婚式まで挙げていた。

 そんなシーンまで、リーリアはリアルに夢で見ていた。

 その時、やや寂しさを感じているリーリアであったが、一方で、これで良かったのかもとも思っている自分がいた。

 そして、そんなセリウスの幸せな結婚のシーンを、リーリアが遠くから見ていると、グッといきなり、リーリアの腕を痛い位に強く、掴んだ輩がいた。

 誰っ!?と驚き、その腕を掴んできた相手を確認すると……。


『そんなことが許されるとも……?』と髪を振り乱しだユリアリーシアだった。


 彼女は、恨みがましく、リーリアを睨みつけると掴んだ腕をギリギリと血が滲むほど強く握ってきて、最終的にはリーリアが、魔法で防衛しようとしても夢の中なので使えず、しかたなく、キャットファイトならぬ掴み合いをユリアリーシアとしていた。

 あくまでも、夢の中でのこと。


 すると、遠くからうるさい位にリーリアの名前を呼ばれていることに気がついた。

 

「リーリア嬢!」

「リーリア嬢、着きましたよ!起きてください!!」


 リーリアを起こそうと、馬車と並走して、リーリアの護衛をしてくれていた騎士たちが一生懸命、リーリアに声をかけていた。

 その声でやっと目を覚ましたリーリア。

 

「あ、その、起きました!」と赤面するリーリア。

「……お疲れのようですね。

 すぐにメナード公爵の元へご案内いたしますので、どうぞこちらへ」


 護衛の騎士の1人にエスコートされて、リーリアは馬車を降り、王族専用の牢獄と思われる建物に入った。

 メナード公爵と会うための手続きは、護衛の騎士達が済ませてくれていた。

 その牢獄の外観は、重厚な砦のような建物で、内部はそれ以上に寒々しい印象を与え、リーリアは、ふと、かつて自分がいたアウスフォーデュ修道院を思い出されて、鬱な気分になった。

 リーリアは、牢獄の看守に面会室のような小部屋に案内され、メナード公爵を呼んでくるので、そこで大人しく待つように言わた。

 リーリアには、一応、護衛の騎士二人がついており、その部屋で3人で待機していた。

 しばらく待たされたリーリアであったが、やっと父親のメナード公爵が現れた。


「お父様!」

「リーリア!!」


 思わずメナード公爵に抱きつくリーリアに、メナード公爵は、受け止め、回るには場所が狭かったからか、高い高いをしてあげて、リーリアを喜ばした。


「リーリア、とても元気そうだが、どこか怪我とかしていないか?」

「ええ!ご飯を沢山食べてて元気です!!

 怪我も特にないので、大丈夫です。

 お父様こそ、働きづめとお聞きしておりますが、大丈夫なのでしょうか?」


 リーリアが、よく父親の顔を見てみると、目の下に隈がでかており、少しやつれているように見える。

 

「ははは。

 私は体力だけは、誰にもまだ負けないから、大丈夫だよ」

「でも、眠れていないのでは?」

「いや、そうでもないよ。

 ただ、ちょっと、夢見が悪いだけで、ちゃんと寝ているよ。

 それより、リーリア。

 アルーテ王国で誘拐されたうえに、あのリアレース教会にまで拐われたと報告を受けたが…。

さぞ辛かっただろう……。

 助けに行けなくて、本当にすまなかった。

 お前こそ、眠れていないのでは?」

「いえ?よく寝ていますね。

無事でしたし、むしろ、両方とも敵を一網打尽にしたという報告もありましたでしょう?

それに、どちらも自力で抜け出せるレベルでしたから、本当に大丈夫ですよ。

 特にアルーテ王国で捕まった際は、美味しいご飯を散々食べさせてもらったし、酷いことされる前にやり返しておりますので、怪我もトラウマも全くないですね!

 あ、困ったことといえば、その時に食べさせてもらったお食事が美味し過ぎたので、ますます美味しいもの好きになった位ですね~」


 そう言って、心底、明るく笑うリーリアを見て、今度こそ、ほっとするメナード公爵。

 リーリアとメナード公爵は、久しぶりの再会で、お互いに今までどんなことがあったか、そして、わざわざリーリアがここまで来た理由を少し話し合った。

正直、リーリアは、セリウスの件をどうするべきかと、悩んでしまっていた。

 その時であった。


 ドンドン


 リーリアがメナード公爵と会っている小部屋の扉を乱暴に叩く音がした。

 不審に思ったリーリアの護衛の一人が、扉まで行き、「何だ?今、取込み中だ」と伝えたところ、「メナード公爵!大変です!!」と扉の向こうで切羽詰まったように返答があった。

 その護衛が、扉を開けるべきか、メナード公爵の指示を仰ごうとした時、すぐにメナード公爵は気がつき、「ここの者ではない奴の声だ!すぐに扉から離れろ!!」と叫ぶや否や、扉が壊された。

 もちろん、扉の前にいた護衛は衝撃で倒れたが、メナード公爵の一声のおかげで一歩、後ずさっていたため、負傷はしたが致命傷にはならなかった。


「大丈夫か!?」とメナード公爵は倒れた護衛に駆け寄り、声をかけながらも、持っていた剣を抜き、臨戦態勢をとる。


 その壊した扉から堂々と部屋に入ってきた青年。

 その青年は、部屋の中を見回して、リーリアを認めた。

 悪いことに、その青年の目は虚ろな目をしており、明らかに暗示にかかっているようである。

 リーリアは、すぐに自分とその側にいた護衛騎士の周囲に結界を展開し、その青年の攻撃に備える。


 ガキンッ


 一瞬の差で、その操られている青年の飛ばした暗器がリーリアの結界にはじかれる。


「……あなたはバーナルを攻撃してきた、えっと、確か『フェス』でしたっけ?」


 そう、フェスが暗示にかかり、操られて攻撃してきた。

 もちろん、黒幕は、ユリアリーシアである。

 そして、フェスと一緒にここまでユリアリーシアを護送した人物が……。


 ガキンッ!!


 同じくユリアリーシアに暗示をかけられたらしいバーナルが、メナード公爵を攻撃する。


 キンキン、ガキッ


 バーナルは、短剣2本で攻撃するが、メナード公爵は、後ろに負傷した兵を庇いながらも余裕で応戦していた。

 メナード公爵は、バーナルの剣を巻き込むように自分の剣をふり、あっさり短剣の1本を飛ばしてバーナルを抑えようとする。

 しかし、バーナルも手練れで、短剣を飛ばされても、その一瞬の隙に、持っていた鞭をとばしてメナード公爵へ攻撃してくる。

 リーリアはフェスと結界の攻防をしている一方で、メナード公爵はバーナルととんでもない速さの剣戟を交わしている。

 そこへ、後ろから悠々と暗示をかけた看守達を護衛のように引き連れて、黒い笑顔のユリアリーシアが現れた。


「ふふふ。この二人、いいわ~。

 一騎当千とはまさに彼らのことね。

 二人であっという間にこの監獄を制圧してしまったもの」と笑いながら、リーリア達が戦っている姿を嘲笑っていた。


「ああ、この野猿親玉は厄介だから、野猿より先に二人でさっさと殺してお終い」とバーナルだけでなく、リーリアを攻撃していたフェスにも指示をだす。

 バーナルは再び、持っていた短剣と鞭でメナード公爵を攻撃し、フェスはターゲットをメナード公爵に変えて攻撃してくる。

 しかし、リーリアもただ結界が作れるだけではなかった。

 フェスがリーリアに背を向けた隙に、硬化した魔法の球をだして、弾丸のようにフェスの背中に当てた。 おかげで、俊敏なフェスの動きが鈍った瞬間、逃げられないようにフェスに拘束の魔法をかけて、ガッチガチに拘束をした。

 一方、バーナルに魔法球をあてるのをリーリアは、ためらわれてしまった。

 なぜならば……。


(万が一、手や腕にあたって、料理の腕に影響出たらどうしよう!?)

 

 そんな風に悩んでいると、メナード公爵がバーナルの手からまた短剣をはじいていた。


「ああ、お父様!

 バーナルは大事な料理人なの!

 だから、手や腕を傷めさせないで!!」と懇願するリーリア。

「そうか!」


 そういうと、メナード公爵は、剣での攻撃を止めて、バーナルを拳ひとつで思いっ切り吹っ飛ばした。

 

 ドッゴンッ

 ズル、ドサッ


 メナード公爵に吹っ飛ばされたバーナルは、近くの壁にめり込むように全身を打ち、意識を失った。

 そこで、リーリアは、すぐにバーナルを拘束し、まず手や腕に怪我はないか確認して、他に怪我したところをすぐに手当した。

 バーナルとフェスが倒されて、焦ったユリアリーシアは、すぐに操っている看守などをメナード公爵にけしかけたが、バーナル達以上に手ごたえのないせいか、瞬殺されていた。


「な、な、何なの!?この野猿どもが!!」とヒステリーに叫ぶユリアリーシア。

「あ~、その~、バーナル達が一騎当千なら、お父様は、一騎で万兵を倒せる方です。

 おそらく、この国で一番強いです。

 平和主義ですが、伊達に軍の統括しているわけではないですよ」とリーリアが答える。

 答えながらも、さっさとユリアリーシアを拘束するリーリア。


「ーーー!!」


 リーリアは、暗示が使えないように、拘束だけではなく、声音が一切でないような頭部だけの遮音結界を作ってみた。それを解けるのは、父親と自分だけという設定にしたので、ユリアリーシアは、当分、誰かに暗示をかけられなくなった。

 リーリアは、止めを刺すつもりではなかったが、拘束されてもなお諦めずに暴れていたユリアリーシアに、(大人しくなってくれるかな?)と思い、アーサー達からの情報を伝えることにした。

 ちなみに、このリーリアの作った遮音結界は、ユリアリーシアにこちらの話を伝えることはできる高性能であった。

 

「あの、そういえば、あなたが私と勘違いした、若返らせられる『効率の魔女』のことですが、アーサーお兄様や、魔女関連にも詳しいクリス様にもお聞きましたら、そんな方は、文献上の人物で、全く実在しないそうですよ。

この魔法や剣の世界でもね……。

 あのセリウス様も、クリス様とご一緒にお探しになったうえで、その結論なので、もう若返るのはあきらめた方が良いですよ」


 リーリアがあっさり伝えると、ユリアリーシアは、瞬きをしつつ、まるで理解していないようであったが、しばらくして、やっと脳に情報が到達したのか、結界の中で声を限りに何かを叫んでいた。


「……乙女ゲームではなく、ここは現実です。

 いえ、どちらと考えているにしろ、捕まったあなたはもう『今のあなたのまま』で、罪を償っていかないといけないのです。

 そう、色々と仕組まれたようなトラブル続きでしたが、私も……」


ユリアリーシアから目をそらし、ため息をついたリーリアは、もうユリアリーシアを視界に入れないように、俯いた。

しばらく暴れていたユリアリーシアであったが、リーリアの話が通じたのか、力尽きたようにやっと大人しくなった。

その後、暗示をかけられず、うまく逃れられた正気の看守が戻ってきたので、無事だった護衛の騎士達と供に、後始末を頼むことになった。

後始末中、やっとリーリア達は親子の会話ができた。


「リーリア、本当に怪我はないか?」

「はい!大丈夫です。

 お父様こそ、お怪我はないですか?」

「ああ。私も大丈夫だよ。

私は慣れているが、お前は来て早々に災難だったな……」

「……お父様にとっては、これが日常ですか?」

「ああ、これくらいの荒事はな。

しかし、アリーシアがうちの養女になってからは、まるで仕組まれたようなトラブルばかりだな。

どうも、お前に一番、災難が降りかかっているようで、心配だ……」


その父親の言葉で、リーリアは、はっと気がついた。

リーリアの現状がこうなのは、元凶こそユリアリーシアであるが、リーリアは、乙女ゲームの呪いのようなものに囚われているのではないかと思い至った。

ここに来る前にみた悪夢を思い出しながら、リーリアは、自分にはもう平和が得られない覚悟をしないといけないのでは?と思ってしまった。

そして、自分の中に、父親がもし強く推すなら、セリウスの婚約者に戻るという選択肢もまだ残っていたが、今回の件からも、全くなくなった。


「お父様、大変お忙しい中、お時間を取らせて申し訳ございませんが、セリウス殿下と私の今後についてですが……」

「ああ。わかっているよ。

王妃殿下からは私宛にも連絡がきていて、今のセリウス殿下のことと、セリウス殿下の婚約者に戻るように、リーリアを直接、説得して欲しいとあったからね。

高位貴族としての義務のもとにとね……。

でも、リーリアはどうしたい?」

「お父様、私は…。

本音を言ってもよろしいですか?」

「ああ、もちろんだとも!」

「私は、記憶を無くしたセリウス様のことも、とても心配ですが、できれば妃としてではなく、ルクレナ様の元で働きながら、この国に貢献したいと存じます。

 貴族として表舞台ではないのですが、義務はきちんとはたします」

「リーリア……。

それで本当にいいのか?」

「……はい!

 アーサーお兄様も同意してくれていますし、これが私の本当の希望です」

「そうか。

 私としても、リーリアの希望通りにしたいと思っていた。

 私の中では、貴族の義務や世間体、地位などより、お前のセリウス殿下への気持ちが一番大事だからな。

 あと、お前の母様も、同じ気持ちだよ。

 だから、私から、王妃殿下には上手く報告と嘆願書を出しておく。

 ただし……」

「ただし?何でしょうか?」

「お前が希望するルクレナの部下のままでいるのは、無理かも知れない。

ルクレナは、王妃殿下の直属配下だから、王妃殿下の要望通りにするのが仕事で、お前を策略でセリウス殿下の妃になるように動く可能性が高い。

 だから、リーリアの所属は、国王陛下というか、最終的にはアーサーと同じ、私の直属になる。

 もちろん、所属は違っても、ルクレナに協力するような業務体制も可能だから、今後も一緒に仕事することもできるがな。

 それでもいいか?」

「……はい。わかりました」


 リーリアは、ルクレナの部下でなくなることがやや不安であったが、父親の部下としてなら、やっていけそうな気がして、ある意味、安心し、父親はやはり頼りになるとも思えた。

 本来なら、リーリア達は、他にもゆっくり語り合いたいところであったが、ユリアリーシアへの対処は、暗示が効かないメナード公爵が専任でやるしかなさそうだったため、そちらの方を優先されることになった。

 また、リーリアは、正式にメナード公爵直属の部下となることになりそうなため、色々と手続きをする必要があった。

 そして、暗示をかけられて捕まったバーナルとフェスは、万が一、暗示が再発すると大変なため、しばらくこちらで拘束されることになった。

 その後、リーリアの身柄は保護のためにも、王宮ではなく、リーリアの母親であるメナード公爵婦人が避難している母方の実家イルマリー侯爵家に、とりあえず静養も兼ねて身を寄せることになった。

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