表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/64

番外編 IF 野猿な囚人 25-2.(セリウス外ルート)選択と覚悟

分岐2の24-2のセリウス外ルートの続きです。

更新が遅くなりました。

23話から24-2→25-2とお読みいただくとわかりやすいかも?

 アルーテ王宮に向かうリーリアと二人っきりの馬車の中で、ルイスは落ち込むリーリアのことを観察していた。


(以前、遠くから見たことがあるが、近くで見る方がずっと可愛くて可憐なのだな)


 ルイスはセリウスの影武者として、セリウスらしい振るまい、セリウスの仕事も一通り、覚えさせられた。

 そのうちのひとつが「リーリア・メナード対策」であった。

 リーリアの魔法を無効化する方法を主に学ばされたルイス。

 ランダード王国としても、リーリアの暴走・反発が恐ろしかったのだろう。

 公爵令嬢でありながら、特別管理対象の一人になったリーリア。

 管理者はセリウスであり、ストッパーだけでなく、その能力の開発も担当していたが、今、ルイスへその役目は一時的に譲られることになった。

 実際のリーリアは、ちょっとお転婆そうな可愛い女の子にしか見えない。

 だが、さきほどの捕縛にあたり、魔力の多さや、手段、手際は、どれも一流と言わざるを得ない能力であった。


(そうか、綺麗な花ほど毒花というが、これは爆弾のような花なのだな……)


 そして、毒で思い出した、忌々しい人物バーナル。


(ああ、リーリア・メナードは素直な所もあるが、食欲が優先というか、食に関しては割と頑固な性格と聞いている。

 彼女は、バーナルを本気でスカウトする気だろうな……。

 ルクレナが止められなかったら、仲間になりそうで厄介だ)


 ルイスはバーナルとは面識があるが、以前、襲われて危うく貞操の危機があった記憶があるため、苦手な人物であった。

 しかし、これからリーリア・メナードと行動を共にするなら、必然的にバーナルとも関わることになる。

 バーナルと攻防しながら、リーリアを守り管理できるかと、思わずため息がでてしまうルイスであった。

 そうしているうちに、二人を乗せた馬車は無事にアルーテ王宮に着いた。

 リーリアが無事に確保できた知らせを、いち早く受けたパメラ王女が、王宮の玄関口といえるところで、待ち構えていた。


「リ、リーリア!」

「パメラ様!」


 リーリアの姿を見つけたパメラは、誰よりも早くリーリアの元に駆け寄った。


「リーリア、あなた、本当に無事?怪我は?どこも辛くない?」


 パメラは、ペタペタとリーリアの体を検分して、ほっと安心したように息をつく。

 そして次の瞬間、リーリアのほっぺを両手で強く挟んだ。


 バチン!

 プギュウ~


「ピャ、パャメリャしゃま?」

「まったく!リーリア!!

 あなた、やってはいけない事をやったのよ?わかっている!?」

「ふぐぅ、ぎょめんなしゃい……」

「謝って済むことではないわ!

 王侯貴族なら子供の頃からきちんと教育されていることなのに、あなたがやったことは子供以下よ!」


 うぅ!パメラ様の言葉が刺さる。

 おっしゃる通りです。

 しかも、父から教育されていた、ルクレナ様の指示に従う、敵に容赦しない等、守っておりませんでした。


 パメラ王女は滅多に怒らない方なのに、今回は本当に怒っていた。

 ふと、リーリアがパメラの顔を見ると、ずっと寝ていないのか、目の下の隈が酷いことになっていた。

 バーナルのおかげで、一層、ぷくぷくほっぺになったリーリアに比べ、パメラの頬はこけ、顔色も紙のように真っ白であった。


「パメラ様……。

 本当に、ごめんなさい!!」

「リーリアが無事でよかった……。

 それに、今回、犠牲者も出さず、本当に……」


 涙ぐむパメラも、リーリアが悪いばかりでなく、アルーテ王国としての治安の悪さ、しかも、貴族が主催した人身売買事件に、王族として責任を感じていた。

 アルーテ王国としては、ランダード王国から助力を得て、ルクレナという工作員達の力も借りてまで行った大掛かりな殲滅作戦真っ最中に、不幸にも起きたリーリアの誘拐事件のため、後手に回っていた。

 しかし、結果としてはリーリアのおかげで、こちらの犠牲者も出さずに犯人一味を生け捕りにできた。

 様々な葛藤と共に、緊張の糸が切れたせいか、最後にリーリアの無事を確かめるようにギュッと抱きしめた後、パメラ王女は気を失ってしまった。


「パ、パメラ様?大丈夫ですか!?」


 気を失って倒れそうになったパメラを、横にいたルイスが、素早く抱きとめて、横抱きにした。

 すぐに、パメラ王女の護衛の騎士が駆け寄り、ルイスからパメラを受け取り、部屋に連れていった。


「リーリアも部屋で休むといい」

「はい!」

「私は報告をした後、状況を確認次第、私も出るかも知れないから、君は今度こそ、大人しくここに待機だ」

「……ルクレナ様、大丈夫なのですか?」

「おそらく大丈夫だ。こちらの任務についた者達が君のおかげで無傷なので、既にルクレナの元に応援に向かわせている」

「そうですか……。私にできることはございませんか?」

「ああ。今、君がするべきことはパメラ王女の側について、安心させてあげることだ。

 今、君がルクレナの元に行こうものなら大変なことになるぞ?」

「わかりました。あの……」

「バーナルのところも駄目だ。連絡もまだとるな。いいな?」

「う、私の考えていることが、セリウス様みたいにわかるのですね……。

 大丈夫です。大人しくパメラ王女の看病をしております」

「ああ。そうしてくれ。

 バーナルのことは私の方でも確認しておくから」

「はい!お願いします」


(ルイス様って話が通じて、頼りになるな~)


 王宮内のリーリアに与えらた部屋で、リーリアは軽食をとり、湯あみをして、休ませてもらうことができた。

 ただ、食事をしていて、(やっぱり、バーナルの食事が食べたいな。ルクレナ様に頼んでバーナルを部下にしてもらえるかな?)と考えていた。


 その日、ルクレナはアルーテ王宮に戻って来れなかった。

 結局、ルイスもルクレナの応援に行ってしまい、アルーテ王宮にリーリアはお留守番となった。

 リーリアは、パメラ王女がどんな様子か侍女に確認したところ、パメラは意識が戻り、できればリーリアと話をしたいと言われ、パメラの部屋を訪れた。


「パメラ様!お体はいかがですか?」

「……リーリア。大丈夫よ。

 あなたこそ、本当に大丈夫?」

「はい、大丈夫です」


 パメラは、確かに、玄関口で会った時よりは、ましな顔色になっていた。

 でも、憂いの感じは濃くなっているので、とても心配になった。


「まだお加減が良くないのでは?」

「ふふふ、そうねえ」

「あの、今回の件は、本当に申し訳なく……」

「うん、謝罪はもういいわ。

 それより、大事なお話をしなくてはいけないの」

「ええ、何でしょう?あ、もし私にできることがあれば、何でもしますよ、パメラ様!」

「……リーリア。あなたは、そんな軽々しく何でもするなんて、絶対に言っちゃ駄目よ。

 あなたの膨大な力を利用しようとする悪い方々が、この世にはたくさんいるの。

 もちろん、このアルーテ王国にもね……」

「えっと、わかりました。ここでは、パメラ様だけにします!」

「まあ、ふふふ」

「えへへ」


 しばらく、二人で微笑み合っていたが、パメラがまた真面目な表情になった。


「それでね、リーリア。

 まず、あなたはどうして誰にもわからずに、痕跡も残さずにここの結界を抜けられたの?

 結界は、更新してくれたはずよね?」

「えっと……。はい、結界は間違いなく更新・強化されておりますし、たとえ結界破りを得意とする魔法導師が破ろうとしても痕跡も残さずに通り抜けるのは不可能にしてあります。

 ただ、私はほとんどの結界を無効化することが可能といいますか、えっと、その、特に自分の製作した結界なら、なおさらで……」

「……そういえば、あの修道院の結界もあなたが全部消し去ったと聞いたわ。

 そうね、あなたの実力なら簡単にできてしまうのね」

「ああ、でも、ここの結界の安全性は、私以外はそんなことできないようにしてあります!」

「……そう」


 しばらく二人の間に沈黙が流れて、リーリアはどうしよう、どうすれば許されるかを考えておろおろしていた。


「ねえ、リーリア」

「はい!何でしょう?」

「もし、あなたに、またセリウス殿下の元に戻るように言われたら、そうするの?」

「……強制と言われたら、どうするべきか考えます」

「これから、どうしたいとかあるの?」

「私はまだルクレナ様の部下でいたいです。できれば、セリウス様の元に行きたくない」

「そうなのね……」


 また、パメラは何かを考え、葛藤している様子であった。


「リーリア、もしあなたに、これからのことを選ぶ選択肢があるなら、もう一つ増やしてもいいかしら?」

「……もう一つと、おっしゃいますと?」

「アルーテ王国の人間になるという選択肢はどうかしら?」

「アルーテ王国の?」

「ええ。あなたほどの優秀な人材はアルーテ王国にはいないわ。

 できれば、アルーテ王国の防御を専門に仕事をして欲しいの。

 でも、これは決して強制ではなく、あなたの意思にもとづいて選んで欲しい選択肢よ」

「こちらの国でお仕事ですか……」

「衣食住、地位、給料等は保障するわ。

 ただ、ここではセリウス殿下達のようにあなたを守りはできないし、むしろあなたに防御の強化を主にしてもらうから、自分で自分の身を守ってもらうことになるけど、ここの方が危険も少なくて、この国の人間で、もし好きな方ができたら、結ばれることも可能よ」

「衣食住も満たしてもらえて、好きな人と結婚もできると?」

「ええ、どうかしら?もしあなたがアルーテ王国に所属してくれるなら、今回の王宮の結界破りをした件は、不問というか、むしろ手柄として扱うわ。

 選択肢として考えてくれる?」

「……まだ私はランダード王国のメナード公爵家の人間なので、父はもちろん、ルクレナ様や両陛下の指示次第のところもございますが、話し合いまでは、選択肢のひとつとして考えておきます」

「ありがとう、リーリア。

 でも、無理はしなくていいから、あなたの意思できちんと選んでね?」

「はい!」


 パメラがまだ具合悪そうなので、そこでリーリアは、自分に与えられた部屋に戻った。

 パメラのあの様子では、おそらく、アルーテ王国側の防衛を担う者に、リーリアを勧誘するように強く言われたのだろう。


(アルーテ王国の仕事なら、悪くないかな?

 ランダード王国にいたら、絶対、セリウス様以外と結婚するのは難しそうだけど、アルーテ王国なら他の方と結婚して、子供が作れるかな?)


 その夜、リーリアは、これからのこと、真剣にアルーテ王国に留まることも検討しつつも、ルクレナやルイスの身を心配しながら、ぐっすり寝てしまった。

 翌朝になって、ルクレナとルイスがアグワリーの組織を捕縛して、無事に戻って来た。

 そして、ルクレナとルイスが少し休んだ後、ルイス、ルクレナ、リーリアの3人はもちろん、ランダード王国の使いの者や、パメラは不在で、アルーテ王国関連の者達も含めて、リーリアのこれからのことを話し合った。

 まずは、ランダード王家の意思を確認する。


「両陛下やメナード公爵は、相変わらず野猿に甘くてな……。

 今のところ、私の部下でいても良いとのお達しだ」

「え?私は、ルクレナ様の部下のままでいいのですか!?」

「そうだ。まあ、正確にいうと、私とこのルイスの部下というか、2人の管理体制下に入ってもらう」

「よ、よかった~」

「一応、セリウス殿下から、元の婚約者に戻って欲しいという話も来ているぞ?

 どうする?私の部下のままがいいか?」

「はい!ルクレナ様の部下でいられるなら!」

「そうか。もし私の部下でいるなら、今後、指示違反すれば、命はないと思え!

 それから、もう1人の管理者がこのルイスになる。

 見かけは、お前の苦手な腐れ王子にそっくりだが、別人だから怯えるなよ?」

「はい。ルイス様なら大丈夫です」

「そうか、よかった。

 今後、もっとお前への管理は厳しくなるが、仕事も教えてやるぞ!」

「はい!よろしくお願いいたします。

 ルクレナ様、私、今回の事件で、自分の強みというか、取柄と弱点をよく知ることができたので、もっとお役に立ちたいと思います。

 もうあの程度の奴らに遅れをとることはございません!

 それにもう、敵に油断も容赦も絶対、いたしません!!」


 リーリアが、ふんすっとやる気に溢れ、ルクレナの部下として再度、やっていけることに決まりそうであった。しかし……。


「お待ちください。リーリア様」


 待ったをかけたのは、アルーテ王家の警備責任者であった。


「今回、あなたは我が国の王宮の結界を容易く破り、外にでたとお聞きしております。

 わざわざ無料で更新しておいてです。

 これはどういうことなのか、ご説明いただけますか?」

「えっと、その、私は結界術は作るだけでなく、解術も得意なので、ここに限らず、たぶんほとんどの結界に関して解術できると思います。

 今の結界術のほとんどは、私とお兄様の考案した術が基本になっておりますので……」

「なるほど。元々、メナード公爵家が飛躍的なレベルで防御力の高い結界を提供してきたのは、あなた方のおかげということだったのですね。

 製作者なら当然ですと言われれば、つい納得して引き下がってしまいそうになりますね。

 けれども、今回の件は、そういう問題ではなく……」

「そちらこそ、ちょっとお待ちくださいな!」


 ルクレナが、今度は待ったをかける。

 ルクレナは、アルーテ王国側にリーリアがこれ以上、不用意なことを言わないように待ったをかけて、アルーテ王国側の最終的な意図を確認する。


「つまり、あなた方はアルーテ王国として、王族の貴賓であるリーリア・メナードをその件で糾弾すると?

 リーリアに指摘されるまで、もともと低レベルの古い結界を放置しておいて?」

「いいえ、そんなつもりはございません。

 ただ、真実が知りたいだけです。

 その上で、対策しないと、アルーテ王国の危機となります」

「危機なら、こちらが、ひとつ、いや、ふたつ救ったばかりですね~。

 何ですか、この国の裏での治安の悪さは……。

 表面が華やかな平和を保っている国だけに、性質が悪かったですよ。

 それが、そんなに安全対策を練っている国だったのですか!?」

「それとこれは別の問題です!」

「いや、元をただせば、そちらの落ち度は大きい。

 それなのに、こちらのおかげで、そちらさんは犠牲者も出さずに、でかい犯罪組織を二つも潰させておいて、感謝こそされるはずが、糾弾されるとはね~」

「きゅ、糾弾しているわけではございません!

 正直なところ、こちらの力不足を補うべく、リーリア様に協力を得ようと……」

「じゃあ、そう言えば良いのでは?

 少しでもこちらを悪者にして、安くこき使う心づもりのように思えましたよ?」

「ま、まさか!そんなつもりはございませんよ!!」

「そうですか?では、簡潔に言うと、そちらの要求は?」

「……アルーテ王国の防衛の仕事をして欲しいのです。

 できれば、これからも。

 しかし、短期間でも良いので、ご協力いただければと願っております」

「はあ、はあ、なるほど~。

 そちらの依頼をこなしたばかりですが、もう次の依頼ということですね?

 まあ、短期間で、できることなら検討いたしましょう。

 もちろん、報酬もこちらの相場でよろしいでしょうね?」

「わ、私は、あなたではなく、リーリア様に交渉しているのです!」

「……つい、さきほど、目の前で、彼女は私の部下だと、しかも、ランダード王国両陛下、父親のメナード公爵の公認であることをお伝えしましたよね?

 当然、仕事の話なら、私を通させていただきますよ?」

「ぐっ」


 昨夜のパメラ王女の話からは、防御の仕事に対して、正当な扱いをするように聞こえていたが、アルーテ王国側は、実はリーリアを安くこき使おうという意図がちらっと、リーリアからも見えてしまい、板挟みのパメラに同情してしまった。


(だから、昨日のパメラ様は、あんなに安請け合いしちゃ駄目的なことを言っていたのか~)


 リーリアは、パメラのためなら、アルーテ王国の防御整備をできる限りしてあげたい、たとえ無料でも良いと思えた。

 でも、人は増長する。

 きちんとした規定を元に取り決めをしないと、気がついたら要求が増え、無理な労働を強いられる奴隷のようなことになっていたかも知れない。


(気をつけないと!やっぱりルクレナ様達について行こう!!

 ルクレナ様やルイス様ならきっと、こういう私が苦手とする取り決めを、きちんとしてくれるだろうな~)


 リーリアは、ルクレナ達について行くと選択して、今度こそは勝手なことはせずに、きちんと従う覚悟をした。

 結局、この話し合いも、主にルクレナの交渉力のおかげで、平和的に?解決したようであった。

 その後、ルクレナとルイス、リーリアの3人でルクレナの部屋に集まって、これからの話の続きをすることになった。


「よし!ここに防音の魔法を敷いたから、本音で話しても大丈夫だぞ!

 いやはや、先方に、お前が世間知らずの馬鹿だって、見抜かれていたな~。

 今度からお前も不用意なことを言うなよ!」

「はい、すみません……」

「いや、ルクレナ。こちらも、事前に打ち合わせが足りなかったぞ」


 そう言って、ルイスは、しょぼんと落ち込むリーリアの頭を優しく撫でる。


「おい~、甘やかすなルイス。

 念願の野猿が飼えるからって、可愛がり過ぎるなよ?」

「ふっ、そうだな」

「?」

「それはそうと、さっき言おうとした結界の件を確認させろ。

 脱走する直前に、この王宮の結界を新しくしたそうだな。

 それは、お前が好きに抜け出すためだったのか?」

「えっと。違います。

 その~、一回目に城下町に行く際、ここの結界がカーテンのように簡単に通り抜けができたので、こんな軟弱な結界やガードではパメラ様達も危ないなっと思いまして、お世話になっておりますので、恩返しとして新しく強化しました」

「は?一回目だと?

 じゃあ、お前が捕まったのは、結界を新しくしてからの脱走、二回目の時か?」

「そ、そうです。ごめんなさい!

 一回目が誰にも気づかれずに楽勝で戻って来られたので、二回目も大丈夫だと思いました」


 リーリアが、土下座する勢いで謝る。

 その姿をしばらく呆然と見ていたルクレナとルイスは、疲れたように各自部屋の椅子に座り込んで、大きなため息をつき、片手で額をおさえる。

 その動作が見事にシンクロしていたので、リーリアは(さすが姉弟!)と感心した。


「お前、あの新しくする前の結界も抜けられたのか?何の痕跡も残さずに?」

「あ、あれは……。実は、主に私が作成担当した結界だったおかげもあり、仕組みを隅々まで知っていたのです」

「新しくした後は、どうして気づかれずに抜けられた?結界に穴を作るとか、何か細工したのか?」

「……更新後の結界に穴はありません。

 ちょっとやそっとの侵入者は許されないようになっているから、安全性は大丈夫です。

 ただ、管理者を設定して、有事の際に、警報に触れずに自由に管理者は行き来できるようにしてあります。しかも、管理者が交代した場合は、独自の方式に自動で変えられるように設定されていて、前任者が使用できないようになっています。

 ……私が簡単に抜けられたのは、その設定を応用して、自分用に履歴も残さない特別な秘密の管理者設定を作りました。だから、誰にも気づかれずに抜けられました。でも、この王宮、いえランダード王国にも、それができるのは今のところ、私の魔力に反応するので、私だけです。

 たとえ結界に特化した魔法導師でも、もし私と同じことをしようとしても、警報が鳴る罠をたくさんちりばめましたので、悟られずには結界を通れません」

「……アルーテ王国の者でもないお前だけが抜けられる結界を、王宮に密かに作るなんて、とんでもなくまずいことしているの、わかっているか?」

「……はい。すみません」

「すみませんですまないぞ!」


 今度は、頭を抱えたルクレナと、天井を仰いでいるルイス。

 リーリアはそんな二人の姿に、おろおろとしてしまった。


「なあ、ルイス。これ、すご~くやばい状況なんじゃ……?」

「そうだな……。やはり、話し合い前に詳細な打ち合わせしておけば良かったな。

 とりあえず、先方に、まださほど情報を与えていないのが幸いした。まだ何とかなる。

 もう一度、話を整理して、辻褄を合わせよう」

「あ、あの~、そういえば、昨夜、パメラ様にも結界破りの件について聞かれまして……」

「「何!?何と答えた!?」」


 これも見事に二人でハモっており、(さすが姉弟!)とリーリアはまた感心した。

 その後も、リーリアがここに戻って来れたまでのストーリーを、ルクレナとルイスで上手に作りあげて、両国に不利にならないように修正し、矛盾点を洗い出し、詳細な口裏合わせをした。


「いいか?野猿は今後、この話通りのこと以外は、絶対に漏らすなよ?」

「はい!尋ねられたら、その通りにお話いたします」

「あと、言っておくが、我々のトップはレイスリーア王妃様だ。

 王妃様には真実を報告するから、お前も帰国後は覚悟しておけよ」

「うぅ、王妃様には、そうですよね。

 はい、覚悟します」

「今後は、今回のような勝手な行動は絶対に許さないからな。

 いや、もう絶対にしないと誓え!」

「はい!絶対しないと誓います!」

「よし、今日はもうよし!

 これからは、私か不在の時は、ルイスが常にお前と共に行動することになる。

 もし二人とも一緒にいられない場合は、監視付きでお前の魔力は封じる。いいな?」

「はい!承知いたしました!!」


 リーリアを交えた話し合いで、疲れ切った二人は各自解散にしようとしたところ、ふと、リーリアはバーナルの件を思い出した。


「あの、ルクレナ様。

 バーナルの件ですが、ルイス様からお聞きになっておりますか?

 そういえば、バーナル、まだ捕まっていませんよね?」

「……ああ。聞いているが、駄目だ。奴は仲間にしないぞ。

 あと、奴は捕まるどころか、主人であるあの爺を一回は逃して、自分は契約を解除してもらって、自由の身になっていたぞ」

「え、じゃあ、バーナルのせいで、あの外道爺に逃げられてしまったのですか?」

「いや、ルイスからバーナルが部下にいることを聞いていたから、あの爺に関しては一旦は逃げられたが、すぐに捕まえられように魔法の追跡糸をつけていたからな、見つけて数時間後にはまた捕まえたぞ。

 だから、昨夜中に帰れなかったんだ。

 今頃、あの爺なら、もう逃れられないように拘束されて、取り調べ中だぞ。

 バーナルには、まんまと逃げられたがな」

「良かった!バーナルはフリーになったのですね。

 それなら、スカウトしましょう!」

「しない!駄目だって!!」

「え、でも、私の能力を120%使えるようにするため、バーナルが必要です。

 どうかルクレナ様、バーナルを私の部下にしても良いですか?」

「だ・か・ら~!あんな手練れな暗殺者が、まずお前に従う訳ないし、駄目に決まっている!」

「……そうですか。でも、本人が希望したら、話だけでも聞いてもらえますか?」

「……一番の問題は、あいつが極度のイケメン好きでルイスは、奴に何度か襲われかけたことがあるんだ。ルイスのためにも採用できない」

「ええ?襲われたって、敵同士だったのですか?」

「間違いなく、敵だ!」とルイスは言い切った。

「いいか、野猿。あいつを仲間にすると、ルイスが使い物にならなくなるかも知れないんだ。

 だから、バーナルのことはあきらめろ。

 私の指示に従うのだろう?」

「……はい、わかりました。従います」


 もうバーナルのご飯が食べれないのかと、しょぼんとするリーリアであったが、この後、自由になったバーナルがリーリアというか、ルイスを追っかけてきて、ルイスの貞操が危機に晒され、ルイスの受難が続くことを、まだ誰も知らなかった。

来月からは更新、がんばります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ