番外編 IF 野猿な囚人 21.王都
ルクレナ不在のため、アルーテ王国の王宮ではパメラ王女の庇護下にいるリーリアであるが、迷惑がかからないように、王都の中でも王宮に一番近い城下の街にこっそり行こうと計画している。
アルーテ王国の王都は、観光を国の産業として発展している国のため、魔法をそれほど使わなくてもランダード王国並みに豊かで、栄えている。
しかも、王宮に着く前に通り過ぎた城下にある街に気になるお店をたくさん見つけたリーリアは、「キャロルの店」にも負けない位、美味しいお菓子屋さんもあると聞いて、どうしても行ってみたくなった。
リーリアはアルーテ王宮でも魔法解禁の状態のため、こっそり身代わりの幻を魔法で作ることにした。
あとは、パメラが公務で午後不在の時を狙って、お昼の後に、夕方までお昼寝をすると専属の侍女に言って、その幻にお昼寝をさせてアリバイを作り、その間に街へ内緒で行くことにした。
アルーテ王国の王宮は、一部、観光客に開放しているエリアがあり、リーリアが滞在しているエリアからその観光エリアに行き、さらにそこから街に向おうと考えた。
やや厄介なのは、リーリアが滞在しているエリアと観光エリアの境には、当然ながら強固な結界があることである。
その境から出るのには、レベルがやや高めの結界が、そこから入るには、かなりレベル高めの結界があり、きっちりセキュリティーの管理をされており、通常なら、その結界に触れるだけで、管理している者にすぐにわかり、捕まってしまう。
でも、リーリアは、メナード公爵家の娘である。
実は、魔法の発達した国であるランダード王国から、その友好国であるアルーテ王国は、王宮のセキュリティー等の技術を輸入して使用していた。
つまり、そのセキュリティー管理された結界の元は、メナード公爵名義になっているが、アーサーとリーリアが大元の製作者であった。
(ありゃ、ここの防衛って、この結界からして2タイプ古いものになっているな。
これは、パメラ様達にとっても危ないな~。
どうせ暇だから、今度、バージョンアップして、ここのセキュリティー強化してあげようかな。
私レベルで、ここの管理にばれずに、余裕ですぐに出入りできちゃうよ)
また、特にこのアルーテ王国の結界をメインに担当したのがアーサーではなく、運よくリーリアであったこともあり、管理者にばれない解除キー、しかもマスター解除キーとなるものが製作者のリーリアにはすぐに作れた。
おかげで、リーリアはアルーテ王国の警備にもばれずに出入りすることができた。
(えっへん!どんなもんだい!!
こんな特技をもつ部下候補を置いて仕事に行ってしまうなんて、ルクレナ様ったら、見る目ないな~。
ルクレナ様は潜入捜査するって、ちらっと聞こえたけど、私がいれば、今回みたいに、あんな修道院でやった大掛かりな結界破りしなくても、こっそり出入りできたかも知れないのにね。
まあ、できるからって、今みたいに仕事でなく私用で結界を破るのは、ルール違反と言われちゃうかな?
やはり、ばれないようにしよう!)
そう思って、リーリアはルクレナに置いてかれたことがちょっと寂しく、また、街に許可なくお忍びでいくことは、悪いことをしているという自覚はあった。
ちなみに、その頃のルクレナは、ターゲットの女性に近づくために男装の麗人になって、ハニートラップをして、情報を引き出すお仕事をしていたので、野猿は今回、本当に不要であった。
とりあえず、難関のはずの結界をスムーズに抜けたリーリアは、観光客に変装して、観光エリアに入り、身を潜め、団体の観光客が来たところへ、うまいこと紛れこみ、そのまま観光を終えた団体客と一緒に王宮から王都に向かった。
まんまと王都に行けたリーリアは、早速、王宮へ行く途中に気になったお店に行って、思う存分飲み食いした。
「うわー!何このお店!!
お菓子屋さんのはずなのに、宝石屋さんにしか見えない!」
リーリアの目当てのお店であった飴屋とゼリーのお店で、置いてある品が美味しそうなだけでなく、見た目も本物の宝石よりも艶と輝きがあり、美しく、食べるのがもったいないと思う程の芸術作品であった。
また、別なお店では、チョコレートや飴、焼き菓子で作られたお菓子の花束を専門に売っているお店があり、野猿ははしゃいだ。
「うんわー!凄い!これは凄い!!
食べるの、もったいない。
あ、試食ある~」
早速、遠慮なく試食をもぐもぐする野猿。
「わわー!見た目だけでなく、味も予想以上に美味しいな。
パメラ様に買っていってあげたい。
でも買ったら、勝手に出たことがばれるからな~。
あと、ミランダをここに連れてきてあげたい!
絶対、ミランダも好きだろうな~」
ふと、リーリアは無事に貴族社会に戻ったミランダのことを思い出した。
ミランダの理想のプロポーズは、薔薇の花を送られながら、プロポーズをされることと逃亡中に聞いたリーリア。
ミランダがプロポーズしてくれることを望む相手は、当然、ディオン様であった。
ディオンは、将来のアーサーの右腕になる予定の後輩であったことから、リーリアもアーサーを通じて、ディオンと面識があり、ディオンがどんな人物か知っていた。
(ディオン様なら、きっとミランダへ理想のプロポーズをするだろうな。
そして、ミランダは絶対、幸せになるだろうな~)
そう思いながら、自分の理想のプロポーズや幸せについて、あらためて考えてみた。
(私なら……。
さっきのお店でオリジナルの飴の宝石に、ここのお菓子の花束でプロポーズをされたら、絶対、OKするな。
相手がセリウス様のような人じゃなければだけど……。
うーん、この欲望のままというか、しかもその欲望のほとんどを食欲が占めるところを何とかしないと、お父様達の言う通り、悪い人に利用されそう~)
そう反省しつつも、欲望には勝てない野猿なので、こっそり夜食用にお菓子をちょっと買ってしまった。
(だって、期間限定なんだもん!
今しか買えないんだよ!?
これでも買いたい量の半分にしたんだから、良しとしよう~)
あまり反省していなかった野猿。
そして、帰りは行きの逆コースで、夕方の最後の時間帯での王宮への観光客に紛れて戻り、スムーズに滞在エリアにも辿り着き、見つからないように部屋で、ちょっと長い昼寝をしたふりをした。
その日の夕食時になっても、リーリアの不在は、全くばれておらず、味をしめる野猿が1匹。
翌日、早速、気になった王宮の結界強化について、滞在のお礼として申し出て、担当者と一緒にバージョンアップや改良をしてあげた。
もちろん、ランダード王国の輸入に関する契約には抵触しない範囲にとどめたリーリアであったが、パメラから感謝されるだけでなく、アルーテ王宮のセキュリティー担当者や警備の者達から、ひどく喜ばれ、重宝され、尊敬されることになった。
その担当者達の中には、見た目はとても可愛いのに、結界に関しては知識や能力が高いリーリアに、熱い視線を送る独身美形の青年が何人もいた。
リーリアに、モテ期が来ていた。
パメラは、この件からも、リーリアをアルーテ王国の将来有望な人材と縁を結ぶことを薦めて、アルーテ王国の人になってもらった方が、リーリアが幸せになれるかも知れないかと、本気で悩んだ。
しかし、子供の頃からリーリアに執着するセリウスの存在や、アルーテ王国には自分がお嫁に行くまでのあと数年間しかいないので、もしアルーテ王国に留まることになったリーリアを、その間しか守ってあげられないとも考えた。
また、できれば、自分がランダード王国にお嫁に行った時に、友人でもあるリーリアのような心強い味方が側にいてくれればとも思い悩み、パメラは中立の立場で、リーリアの選択を待つことにした。
一方、リーリアは、リーリアに気があって、リーリアと仲良くなろうと頑張る、恋するアルーテ王宮のイケメン達を、王都での美味しいお店のための情報源としか考えておらず、せっかくのモテ期に、色気よりまだ食欲優先の残念な野猿であった。
先日、ばれずに街に出て、美味しいものをたくさん食べられ、味をしめた野猿は、新たに得た王都の美味しいお店情報を元に、再び城下にある街を目指した。
王宮の結界も、バージョンアップと改良されても、自らの脱出手段には問題ないようにしているリーリア。
そして、前回はお菓子屋巡りツアーだったので、今回はアルーテ王国の名物・名産ツアーにでることにした。
ただ、お菓子屋などは城下にある街の中でも比較的安全なエリアに点在していたが、名物・名産には酒類も含まれてしまい、やや王都でも酔っ払いや柄の悪い輩が集う場所の近くに多くのお店があった。
その微妙なエリアに来てしまったリーリアであったが、案の定、いかにも悪な感じの男達に絡まれた。
「ふふ~、お嬢ちゃん、観光できたのかな?
美味しいものが食べられるお店を知っているから、案内してあげるよ」
「うわっ!何この子、可愛いね~。(この子自身、美味しそうだ)
貴族のお嬢様がお忍びかな?
じゃあ、この街のことがわからないだろう?教えてあげる!」
「……いえ、結構です」
「まあ、そう言わず!アルーテ王国名物がそこのお店にあるから~」
その男達は、リーリアをお店ではなく路地裏の方に連れて行こうとする。
そこは、リーリアなので、そんな悪者風の男達は、無詠唱の魔法結界で防ぎ、長い間は持たないが、幻で消えたように見せかけて離れた。
他にも、リーリアは本当に見かけだけは可愛いので、軽い気持ちでリーリアに絡む輩がいたが、さっさと逃げたので、もう絡まれなくなり問題なかった。
そんなリーリアが、うきうきと目当ての店に向かっている時であった。
「ああ!お前、野猿じゃないか!?」
通りすぎようとした女性の1人が、リーリアをみて、野猿呼ばわりしてきた。
(しまった!ルクレナ様の部下に見つかった!?)
焦ったリーリアであったが、相手はルクレナの部下ではなかったが、あの修道院で知り合った人間であった。
知り合ったといっても、リーリアが新人の洗礼で戦った相手、アグワリーである。
リーリアがアウスフォーデュ修道院の結界を全て消したせいで、囚人の多くがそれに便乗して逃亡したが、すぐにほとんどの囚人達が捕まっていた。
それでも、数人の囚人達だけは、うまく逃げおおせており、アグワリーはその一人であった。
「おい!久しぶりだな。
お前も無事に逃げおおせて、アルーテ王国まで入れたんだな。
まあ、あのルクレナと一緒だと、簡単かもな。
今、一人か?ルクレナは?」
「……今は一人ですが、この後、落ち合う予定です」
何となく、リーリアがずっと一人でここにいることをアグワリーにあまり知らせない方がいいかと思い、一応、用心のために、とっさに嘘をつく。
「そうか。もしルクレナが近くにいるなら、会おうかと思ったんだがな……」
「ルクレナ様には、この後会うので、お伝えしておきますよ」
「そうしてくれ。
……ああ、そういえば、危うく私は捕まるところだったのだが、お前のおかげで逃れられたんだよな~」
「え?私のおかげって、どういうことですか?」
「いやなに、あの修道院の結界がなくなったもんで、逃走しても何の準備もなく逃げていたから、このまま捕まるのも時間の問題かなと観念しかけていたんだ。
それが木に登って身を隠しているところに、運良くその木の下で休みだした荷運び屋がいたんだよ。
その運び屋は周囲には警戒していたが、木の上までは警戒していなくてな。
お前に修道院でやられた攻撃を、そのままそいつにやってみたら、一発で潰せたんだ」
「こ、殺したのですか?そのアルーテ王国に向かうはずの運び屋さんを……」
「いや、殺すまでもない。
一発で気絶したんで、身ぐるみをはいだだけだよ」
「そうですか……」
リーリアがアウスフォーデュ修道院の結界を消したことをアグワリーが知っているのかと焦ったが、そうではなかったようでほっとした。
けれども、人を襲って強盗しておいて、それをさもうまくやったという武勇伝のように自慢気に笑うアグワリーに、リーリアは戦慄した。
このアグワリーは男性並みの体格をしており、女性でありながら、脂肪だけでなく、がっしりした筋肉もある。
その彼女に飛び蹴りをくらったら、運良く殺されなくても、肋骨などが折れて重症になってもおかしくない。
リーリアはアグワリーの話を聞いて、自分がアウスフォーデュ修道院の結界を全部消したせいで、凶悪犯を野放しにしてしまう結果になったことを、今さらながら悔やんだ。
とりあえず、罪のない人が殺されていなかったことにほっとしたリーリアであったが、このアグワリーは、間違いなく悪人と思われたので、密かに通報しようと思った。
「いや~、ありがとうな!
お前の攻撃の仕方を見ていなかったら、倒せなかったかもしれない。
その運び屋は、どうやらアルーテ王国に荷を運ぶところだったみたいで、おかげで装備や荷物、アルーテ王国への入国許可書やらが手に入ったから、無事にここまで逃げおおせたよ」
「そうでしたか……」
「それで、お前のおかげで潤ったから、お礼に飯をおごるぞ!」
「い、いえ、結構です」
「まあ、そう固いこと言うなよ!な?」
アグワリーは、強引にリーリアの腕をとり、その近くの「ひよこ亭」という黄色の看板がひよこの形で可愛い食堂兼宿屋に連れて行った。
その食堂は、リーリアが通りがかりに、とても良い匂いがするので、きっとここは美味しいお店だな、でも1人で入りづらいなと思いあきらめていたが、リーリアの気になる食堂のひとつであった。
そのため、つい、気になるお店に入れるなと思い、リーリアは、渋々ながらもアグワリーについて行ってしまった。
「ほら、好きな物食べな。
ここは名前の通り、鳥や卵の料理が美味しいぞ!」
そう言って、いくつか鳥の串焼きや、卵料理を頼むアグワリーに、リーリアも美味しそうなメニューに、魅入られ、オムライス料理などを頼んでみた。
その食堂でだされた料理は、リーリアの予想通り、とても美味しかった。
特にふわふわのオムレツに、甘めのトマト味のチキンライスが入ったオムライスは絶品であった。
そこの料理は問題なく美味しくて、リーリアは満足した。
そう、料理は……。
「おい、酒飲まないのか?」
「ええ。まだ飲める年齢でないので」
「ふーん。じゃあ、ジュースを頼んでやるよ」
「いえ、お気遣いなく。もう帰りますので、ご馳走様でした」
アグワリーが勧める飲み物を断るリーリアには、わかっていた。
その飲み物には、何らかの薬が入っていることを……。
(お父様やルクレナ様の言う通りだな~。
私に寄って来る人は悪意を持っていると……。
寂しい事実だけど、仕方ないことなのかな?)
ため息をついたリーリアは、さっさと立ち上がって離れようとしたが、アグワリーに腕をまたガシッとつかまれてしまった。
かなり強い力でつかまれ、本能的に魔法で反撃をしようとするリーリアであったが、相手は悪人とはいえ、一応、女性なので、すぐに攻撃するべきか否か、一瞬、ためらってしまった。
父親から「敵に容赦するな!」とあれほど強く言われていたのに、その一瞬がリーリアの失敗を招いた。
ガシャン!
リーリアのつかまれた腕の手首に、ひどく見覚えのある腕輪がつけられていた。
「くくっ、これで魔法は使えないな、野猿?」
アグワリーは、笑いながら、リーリアの腕にアウスフォーデュ修道院でつけられていたものと同じ魔力封じの腕輪をつけたのだった。
「いや~、金にしようと、これを逃げる時にあの修道院から持ち出しておいたのだが、こんなところで役に立つとはな。
おかげで、もっといい金になりそうだよ!
もう観念して大人しくした方が身のためだぞ?
無駄な抵抗になるからな。
せいぜい、私の逃亡資金になってくれよ~」
そして、アグワリーは、その食事をしていた食堂兼宿屋の出入り口にいる仲間らしき数人の柄の悪そうな男達に目配せした。
どうやら、その出入り口からリーリアが逃げるのは難しそうであった。
リーリアは、遅まきながら、今度こそアグワリーに対して戦闘態勢になった。
すぐに、リーリアは空いている手で、目の前にある眠り薬か何かが入った飲み物のコップを掴み、アグワリーの目に向けてぶっかけた。
バシャッ
「ぐわっ!」
とっさに目をおさえたアグワリーがリーリアの腕を放したので、リーリアは、次に机の上の酒瓶をつかみ、走りだした。
出入り口にいたアグワリーの仲間もリーリアの逃亡に気がつき、リーリアを捕まえようとする。
「てめえ、殺されたいか!?
野猿!逃げんじゃねー!」
アグワリーが、リーリアの足止めをしようと、持っていた小型投げナイフを数本投げつけてくる。
リーリアは、俊敏にそれをよけたが、一本だけかすった。
かすっただけで擦り傷程度だったので、リーリアの足止めにはならず、出入り口と反対側に逃げるリーリアは、捕まえようとする男達をすり抜け、持っている酒瓶を思いっきりぶん投げて、リーリアに近づかないようにさせ、出入り口と反対側にあった2階に続く階段を駆け上がった。
ひよこ亭は、1階が食堂で、2階が宿泊用の宿屋のため、2階には個々の部屋がいくつかある。
今はまだ昼過ぎのため、掃除後の換気用に扉が開けてある状態の空室が、2階にはいくつかあった。
リーリアは、その空室のひとつで、出入り口と反対に向いている窓がある部屋をとっさに選び、そこに素早く入りこみ、鍵をしめた。
リーリアを追いかけてきた男達も2階に駆け上がってきたが、リーリアがどの部屋に入ったかは、ぎりぎり見られていなかった。
おかげで、2階には他にまだ宿泊しているお客がいて、空室以外の部屋もいくつかあるため、追手はリーリアを探すのに、扉の閉まっている部屋を一つ一つ確認しないといけなかった。
追手がリーリアを探している間に、リーリアはここが建物が並ぶエリアのため、ここから屋根にでて、屋根をつたって隣に逃げるか、窓から地上に降りて逃げるか、どちらがより確実に逃げられるか判断すべく、部屋の中をささっと動き回った。
ふと、窓の外にある大きな木が見えた。
(うん、これだね!)
リーリアは、窓を開けて、窓枠からやや距離があるものの、リーリアには問題ない距離のため、脱いだ靴などは持っていたポシェットに入れて、裸足でそのまま窓枠から一番近い木の枝に飛び移った。
そのまま、そこから木の上の方までスルスルと登り、周囲の位置確認をする。
確認したところ、ひよこ亭の建物と木を挟んで、背を反対にした建物から、ひよこ亭に入った通り道とは違う通りに出られると判断した。
そこで、今度はその木からひよこ亭と反対側の建物の屋根上に飛び移った。
リーリアが別の建物に移動している間も、追手はまだひよこ亭の2階でリーリアのいる部屋を探しているようであった。
あらたな建物の屋根上に移ったリーリアは、その建物から、柱つたいに少し降りてから、ちょっと高めの位置でも、大丈夫そうな高さから飛び降り、追手がいない方の通りに無事に降り立つことができた。
ほっとしたリーリアであったが、すぐにこちらの通りにも追手が来るかもしれないからと、ポシェットから靴を取り出して履いて、すぐに移動する。
(あ、あぶなかった~。
今日はもう、すぐ王宮に戻ろう)
さすがのリーリアでも、もう観光などと言っている場合でないことは、よくわかっている。
アグワリーは、さも偶然のようにリーリアと会って、食事をすることになったが、それは偶然ではなく、リーリアを捕縛しようと計画されたものと思われた。
おそらく、リーリアの1回目の街でのお忍びを目撃され、次の機会を狙っていたのだろうと推測された。
追手の攻撃を防ぐためにも腕輪をすぐにでも外したいリーリアであったが、この腕輪は簡単に解除はできない厄介なもののため、とりあえず、逃げることを優先して、安全な王宮に着いてから外そうと考えた。
リーリアにつけられた魔力を封じる腕輪は、個々の腕輪ごとにある鍵で解除をされるタイプのもので、リーリアは、解除のための鍵の仕組みを一度外してマスターしている。
しかし、リーリアが前に外した腕輪とは別な製造番号のものであるため、リーリアは、またはじめから解読して、自分にはめられた腕輪解除のための鍵を作り出さないといけなかった。
リーリアは、アグワリーとの食事の間も用心して、お金が入っているポシェットはずっと身に着けていたので、魔法は使えなくても、帰るためのお金は持っていた。
追手にばれないように、その通り沿いにあったお店でフード付きの上着を購入したリーリア。
フードを深くかぶり、すぐに王宮までいく馬車乗り場に向かった。
(ああ!そういえば、魔法が使えないから、セキュリティーに引っかからずに王宮へ入れないよね!?
しょうがない。警備の人に正直に言おう。
この前のセキュリティーバージョンアップの件で、警備関連の方達と面識を持っておいてよかった~。
でも、街に行ってたことが、パメラ様にばれちゃうな。
この腕輪も外さないといけないしね。
外し方はわかるのだけど、これ、時間がかかるんだよな~。
これも『敵に容赦するな!』っていうお父様の言いつけを守らなかったせいかな……)
やっとそこまで考えが至り、馬車乗り場に向かう途中に、しょんぼりするリーリア。
ただし、リーリアは、いまだに父親の食べ物につられて勝手なことをするなという他の注意はスルーしており、反省すべき点はそこじゃないことがわかっていない、食欲旺盛の野猿のままであった。
リーリアは、魔法がなくても、もともと俊敏でなかなか捕まらない野猿です。
ちなみに、新しく書いた短編「うっかり伯爵令嬢」に、この頃のルクレナ様の仕事ぶりが、ちらっと描かれています。




