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番外編 IF 野猿な囚人 8.ルクレナという人物

 ミランダが不審な動きをしたと疑われたその日の夜、ルクレナの警告通り、ミランダやリーリアのいる囚人室に看守の厳しいチェックが入った。


 看守達に部屋を隈なく不審なものがないかと散々探されたが、証拠隠滅してくれたルクレナのおかげで、どちらの部屋にも脱獄に関する不審なものは見つからなかった。

 リーリアに至っては、魔力を封じる腕輪までチェックされ、本当にルクレナが来てくれなかったら、腕輪も細工を始めるところだったので、危なかったとリーリアは反省した。

 最近、やけにミランダとつるんでいたのも、ホームシックのためだという言い訳で、一応、納得してもらえた。

 ルクレナのことがまだ信用ならないリーリアは、ルクレナと関係なく脱獄をしたかったが、ルクレナの言う通り、看守からの監視がとても厳しくなっているため、今は動くべきでないことは理解できた。


 翌日、いつものように夕食時にミランダと一緒に夕食をとろうと、食堂でミランダを探していると、ルクレナに捕まった。


「野猿!私と一緒にご飯をたべようか」


「はい!あ、でも、ミランダも一緒に……」とリーリアが言うと、ルクレナは呆れたようにため息をついた。


「はあ。だから、言っただろう?

 しばらくはミランダに近づいたらダメだって。

 寂しいならこのルクレナ様が一緒に食べてあげるから」と言って、ミランダの座っているところから離れた席にリーリアは座らされた。

 

 ミランダの方は、数人のルクレナの部下と思われる囚人達に囲まれて、夕食を食べていた。

 リーリアが遠くからミランダに手を振ると、ミランダも振りかえしてくれるが、一緒の席にまでは囲まれていて、ミランダからもリーリアのところへ来れない様子であった。


「ほら。ご飯食べるよ!」とルクレナに言われ、ミランダと一緒にご飯を食べるのをあきらめたリーリアは、大人しくルクレナと夕食をとることにした。


「ルクレナ様。ミランダと一緒にいてはいけないのは、どれくらいまでですか?」


「何?私と一緒では不満か?」


「いえ、不満とかそんなことはないです。ないのですが……」


「なら、いいだろう。

 大人しくして、ミランダと接触するなって言っただろう」


「そうなのですが、ミランダがいないと寂しくて」


「何だ?野猿のくせに兎みたいに寂しいと死んじゃうのか?くくっ」と笑うルクレナ。


「死にませんが、ミランダに癒されないと毎日、頑張れないかも?」


「あきらめるんだな。私が癒してやるぞ!」と言って、リーリアの頭を子供にするようにいい子いい子と撫でてあげるルクレナ。

 頭をなでるだけでなく、口に食べ物を入れて、もごもごしているリーリアのぷっくりほっぺもつついてくる。

 そういうところがセリウスに似ていて、やけに不快に感じてしまうリーリア。

 義妹のアリーシアに陥れられたリーリアであったが、このアウスフォーデュ修道院に来てから、リーリアはアリーシアよりもセリウスのことを思い出すと、ちょっと性格的に捻くれてしまう。


「食べているので、頬は止めてください」とリーリアにしては冷たく言う。


「難しい野猿だな。わかった、わかった」と言って、優しく微笑むルクレナ。

 

 ルクレナは、かっこいいタイプの美人のため、普通のご令嬢なら、たとえルクレナが女性でも、そんなに優しく微笑まれれば、そこらの男性以上にときめくはずである。

 しかし、リーリアはセリウスで慣れているので、美形に耐性があり、ふーん、美人だなとしか思わなかった。


「まったく。こんなに私が贔屓してやっているのに、お前はつれないな。

 そこが、人に懐かない本物の野猿っぽくていいがな。くくっ。

 けど、私のおかげで、ここでの生活が大分過ごしやすくなっているのは、わかっているか?」


「そうですね。

 確かに、初日よりも周囲の方々には比較的良くして頂いている気がしますから、ルクレナ様のおかげですね。

 いつもありがとうございます」


「そうだぞ!だから、ミランダみたいに私にも懐いてくれよ。

 ミランダとは別格に、お前のことは随分、可愛がってやっているだろう。

 個人的にお前のことを気に入っているからな」とルクレナは麗しい笑顔で言った後、付け足すように言う。


「そうでなかったら、ミランダの側から引き離していたぞ。排除という形でな……」とリーリアの耳元で脅すように低い声で囁くルクレナに、ぞっとするリーリア。


 ひぃー!

 こういうところが、人として黒い感じがする。

 そんな所もセリウス様っぽくて、怖い!!

 同じ人種なんだろうな~。

 やっかいな人種ってどこにいてもいるものだな~とリーリアはしみじみ思った。

 

 そして、ふと、昨日から気になっていたことについて、ルクレナに聞いてみるリーリア。


「そういえば、ルクレナ様は、ここに来る前に何のお仕事をされていたのですか?」と普通に聞くリーリア。


「あのな~。昨日、裏の仕事だって言っただろ?」


「そうでしたね。いや、裏の仕事も色々とあるから……」


「裏の仕事なんて聞くもんじゃないよ。

 それとも、ここを出た後も、私の部下になりたいのか?

 それなら教えてやるぞ。詳しくな……」


「うーん。実はここを出た後、どうするか迷っています。

 家族次第ですが、とりあえず普通の貴族令嬢としては暮らせない覚悟はしております。

 だから、もしかしたらルクレナ様のお仕事の内容によっては、今後、お世話になる可能性もあります」


「……国の軍事を司るメナード公爵家の娘が、裏の仕事に就くのはまずいだろう。

 たとえ実家から縁を切られたとしてもな。

 まあ、焦るな。

 お前は、元第2王子の婚約者だったのだから、表で生きることをまだあきらめるな。

 うまくいけば、野猿溺愛で有名なあの王子様が正気になって、血相を変えて迎えに来てくれるかもしれないぞ!」


「……元第2王子の婚約者だからこそ、戻れないですよ。

 この手の王族関連のスキャンダルは、国としても不利になるので、セリウス様派の貴族の方々からは、私の存在自体を消し去りたいと、きっと思われていますよ。

 まあ、ここに入所した時点で、冤罪が晴れてここを出たとしても、日陰の身になって暮らさないといけないことはわかっております。

 それに、もうセリウス様のことはあきらめましたので、セリウス様のところにいく選択肢はないです。

 万が一、セリウス様が迎えに来てしまったら、お互いのためになりませんので、私が他国に逃亡する予定です。

 たぶん、脱獄せずに冤罪が晴れた後なら、家族公認のもとでの将来となりますと、良くて父のすすめで、他国へ密かに嫁がされるか、悪くて自宅で軟禁だと思いますし、あまり歓迎できる将来ではないですね」と言って、ため息をつくリーリア。


「ふーん。まあ、王侯貴族の社会ってそんなものかもな……」


「ええ、そんなものです。

 しかも、もともと第1王子をはじめとする多くの王侯貴族からも、私は第2王子の婚約者として、冤罪をかけられる前から良く思われておりませんでした。

 だから、きっとここを出た後も、私が生きていることは、社会的にも攻撃され、実家にも迷惑がかかるでしょう。

 もう表で普通に生きるのは難しいです……」


「……そうか。それなら、私の部下になった方がまだ良いかもな。

 せっかく魔法の才能もあるし、有能な人材は大歓迎だよ。

 そうだな。ここをでたら、お前の採用を本気で考えよう」


「はい、ありがとうございます。あと、あの、それなら……」


「ん?」


「ルクレナ様の仕事の種類だけでも……」


「ん~、また今度な」とさらりとかわすルクレナ。


 ちっ、だからこういう人種は信用ならないなと思い、ちょっと拗ねるリーリアであった。


 しばらくの間、厳しい看守の監視の中、脱獄の準備もろくにできず、もんもんと過ごすリーリアは、癒しのミランダと一緒にお話もできず、日々過ごすことが辛くなってきた。

 しかも、ルクレナに今まで以上にちょっかいをかけられるようになり、セリウスに似たちょっかいをかけられ、ルクレナに対して苛つくリーリア。

 おまけに、ミランダからの差し入れとしてお菓子をもらっても、ルクレナを通して渡されるため、まるでペットに餌をやるようにして渡されて、お菓子の味が落ちたように感じてしまい、リーリアはストレスを溜めていった。


 そうしているうちに、リーリアは魔力を封じられている腕輪の解除方法の解読がかなり進み、あと数日もしたら、腕輪が安全に外せるレベルまでになった。

 リーリアの魔力を封じる腕輪は、個々の腕輪ごとにある鍵で解除をされるタイプのものであるが、その鍵は、一括して看守室の奥の金庫で管理され、看守1人と修道院長の解除許可がそれぞれないと開けられない二重金庫にしまわれている。

 実は、ミランダが危険を犯してまで写してきてくれた腕輪の説明書は、リーリアの腕輪とは種類は同じで、解除のための鍵の仕組みも同じだから役には立ったが、リーリアの腕輪とは別な製造番号のものであったため、リーリアは、独自で自分にはめられた腕輪解除のための鍵を作り出さないといけなかった。

 そのため、腕輪の解除方法に時間がかかっていたが、それもあと少しで解除できる段階になった。


 リーリアがもし脱走するとなると、ミランダも一緒に連れていくべきかどうするべきか、ミランダと接触をしないままの日々が続いているため、本人へ意思確認もできず、リーリアは悩んでいた。


 最近は、ルクレナと一緒に夕食を取っているため、ミランダとそろそろ接触しても良いか、リーリアはルクレナにこっそり聞いてみることにした。


「……あの、そろそろ、監視の目もゆるくなってきたので、ちょっとだけでいいので、ミランダとお話しても良いですか?

 本当にちょっとだけでいいので!」


「ん~?私の言うことが聞けないのか、野猿?」


「ええ、もちろん聞きますよ~。

 でも、ちょっとだけでいいので、ね。

 ね~、お願いしますよ、ルクレナ様」とちょっと可愛い子ぶってみるリーリア。

 にこっと無邪気に笑い、ルクレナの服の端をちょっとつかむ。

 これをすると、セリウスの場合、しばらく悶えた後、大抵のことはお願い通りにしてくれていたので、めったにやらないが、今回は時間が迫っているので、頑張って久々におねだりスタイルをするリーリア。


 ルクレナの反応は、そんなリーリアをみて、はあっとため息を深くついた。


「……わかった。いいだろう。

 でも、その前にまず、私から話があるから、これから私の部屋に来なさい」


「はい!わかりました!!」と笑顔で良い子のお返事をするリーリア。


 早速、夕食後、ルクレナの部屋へ行くリーリア。


「ルクレナ様、お話って?」


「ああ。その前に、お前の腕輪の解除はどうなった?できそうか?」


「え、あの……」とリーリアはもうすぐ解除できることをルクレナに言うべきか迷った。

 しかし、ミランダとのことがあるため、正直に言うことにした。


「……その、何とか数日中には自分で安全に腕輪を解除できそうです」


「そうか!それはよかった。

 これで計画は決まったようなものだな」


「計画?」


「ああ。脱獄計画だ。

 お前が私の言うことを聞いて、大人しくしていたおかげで、ミランダの父親であるローエリガー伯爵と十分に連絡が取れたし、私の外にいる部下達とも連携して脱獄ができそうだ。

 もちろん、お前やミランダも一緒にな!」


「え?ミランダもですか?」


「ああ。ミランダも一緒に脱獄するぞ!

 その理由は、まず、どうやらミランダの冤罪を晴らすための証拠がこれ以上、集めるのが難しくて、これからは真犯人を罠に嵌めて、自白をひきだすなどの実力行使にでないと駄目な状況のようだからだ。

 まあ、お前の義妹のせいもあるけどな……。

 あと、ミランダの体力の限界が近いことも理由の一つだ。

 お前と引き離したせいか、ミランダは最近、食欲がなくなり、痩せすぎて体力が落ちてしまって、このままだと近いうちに倒れそうだ。

 もう脱獄するべき頃合いだな」


「そうなんですね……。

 ミランダがそんなことになっているなんて、最近は会ってないから知らなかったです。

 脱獄にミランダの体力が耐えられるのか、心配ですね……」


「大丈夫、心配するな。

 ミランダの体には負担にならないような方法でいくつもりだ。 

 しかも、裏にはローエリガー伯爵だけでなく、王妃様が後見してくれることが密かに決まったから、お前やミランダが脱獄しても一応、大丈夫な計画だ。

 しかも、お前達にとっては脱獄扱いにならない方法でな!」


「ええ!?そんな方法があるのですか?」


「ああ。もっともお前にも協力してもらうがな。

 あと、お前の父親の件だが……」


「ち、父の情報も得られたのですか!?」


「ああ、もちろん。

 お前に頼まれていたからな。

 どうやら、お前の家族は、命に別状はないが、父親以外、お前の義妹の手に落ちたらしい。

 しかも、屋敷の使用人達も含めてな。

 それで、お前の父親が負傷したのは確かだが、命に関わるほどの重症ではなく軽症で、その義妹の手から逃れるために、一時的に身を隠しているらしい。

 まったく、国一番の腕前のメナード公爵が、小娘一人にそこまで追い込まれるとは、大丈夫なのかね、このランダード王国は……。

 まあ、お前の義妹の後ろには黒幕というか、大物の悪役が隠れているからな。

 だから、王妃様まで、その悪役を退治するために今回は乗り出してきた位だ」


「王妃様が……。

 ルクレナ様の職業って、裏の世界と言っておりましたが、もしかして王妃様の配下で、裏の仕事を担っていらっしゃるのですか?」とルクレナの話から、気づいたリーリア。


 リーリアのその疑問には答えず、ふっと微笑むだけのルクレナ。


「……まあ、そういうわけで、お前の父親はとりあえず安全だが、お前にとっても脱獄するのは利点があるし、私に従って計画にのるか?」


「はい!是非!!」


 ここにきて初めてリーリアは、ルクレナのことを信用してみようと思えたのであった。

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