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番外編 肉食系貴族令嬢の婚活 5.結末

 翌日、階段から落ちたクロエのもとにセリウス殿下が訪れたことが噂になった。

 クロエは足を痛めたようで、少なくとも今日1日は動かないようにとの医師の指示があるとのこと。そのため、昨日のクロエの階段落下事件を目撃した生徒は、女子寮の応接室まで呼び出され、その時の状況をセリウスに聞かれた。そして、午後になってからミランダも、応接室までセリウスに呼び出された。


 用件としては、昨日のクロエの階段落下事件の事実確認のためとセリウスは言っていたが、それだけではないのはミランダにもわかっていた。


 ミランダが女子寮の応接室に行くと、座っているクロエとセリウス、アーサーの3人と、セリウスの護衛と思われる騎士数名がおり、物々しい空気に包まれていた。


「ミランダ嬢、クロエ嬢に聞いたら、リーリアが彼女を階段から突き落としたらしいね。君はそれを目撃したようだけど、本当のことかい?」とセリウスは笑わないように作った真顔でミランダに聞いてきた。


 あぁ、やはりそうきましたか。


 ミランダは失望感でいっぱいになった。せめてミランダがクロエを狙ったということにしてくれた方がまだましとすら思えた。よりによってセリウスの前でリーリアがクロエを突き落としたと証言したか。


 クロエは何が何でもリーリアを悪者にしたいらしい。無駄なことを。

 いっそのこと罪をすべて私に押し付けてくれれば、ディオンが怒るだろうが、まだクロエは軽い処罰ですんだのに。


 ミランダも、できるだけ冷静に答えた。

「……いいえ、セリウス殿下。むしろクロエ様がリーリア様を狙って突き落とそうとしたのをリーリア様によけられて、ご自分で落ちただけですわ。ディオン様と一緒にそれを目撃しました」


「なんですって、何故わたしがそんなことを!!ミランダ様、立場をわきまえなさい!」


「……ディオンからも同じ証言だったよ。やはり、クロエ嬢、君がリーリアを狙ったのだろう?」


「セリウス殿下、ちがいます!私がリーリア様に狙われました!殺されかけた被害者の私自身がいっているのですよ」と涙目で必死に訴えるクロエ。

 

「でも、君の訴えだけではそう判断できないことだよ。

 確かに目撃者の1割が、リーリアが君を突き落としたように見えたと証言したけど、残りの9割が、君が急いでいて自分で落ちたと言うしね。それなら当然、君が自分で勝手に落ちたことを無理にリーリアのせいにしていると判断するのが妥当だろ?

 そして、ミランダ嬢とディオンはむしろ君がリーリアを狙ったあげく失敗して落ちたと言う。


 ……君の意見が正しいというなら、リーリアが君を狙ったという証拠の品でもあればいいのだけど」


「そ、それなら!証拠の品はございますわ!」


「……へえ、では見せてもらえるかな?」


「あ……。でも、後日でもよろしいですか?証拠は私の部屋にございますが、今、足を痛めておりまして……」


「大丈夫!こちらの騎士たちが君を部屋に連れて行ってくれるよ。だから、部屋から持ってきてもらえるかな?」

 そう言って、セリウスは2人の騎士にクロエを部屋まで連れていくように指示した。

 クロエはその騎士のうちの1人に抱き上げられて、自室に戻った。



「さあーて。クロエ嬢の部屋からどんなお宝が出てくると思う、アーサー?」


「……不謹慎ですよ、殿下」


「いやー、こんな無駄な作業を早く終わらせたいよ。ミランダ嬢までもわざわざ巻き込んで、ねえ?」とセリウスがミランダにも話しかける。


「いえ。リアのためなら、できる限り協力いたしますわ」


「うん、助かるよ。リーリアの友達がみんな君みたいなら平和なのにね」


「そうですね、殿下。兄の私としてもミランダ嬢のようにリーリアの良さをわかってくれる友人に恵まれるといいのですが……」


「「「ふうっ」」」とセリウス、アーサー、ミランダの3人で、思わずため息がシンクロした。


 しばらく待つと、クロエが騎士の1人に連れられて、戻って来た。


「殿下、お待たせしました」


「……ああ。それで証拠は?」


「こちらになります」と言ってクロエは証拠と言い張る品々を応接室の机に並べた。


「……ええっと、これは、何かな?説明を」


「ええ、ですから、証拠の品々です。まず、こちらはリーリア様が破かれた教科書になります。あと、こちらがリーリア様に踏みにじられたハンカチで、そして、あちらは……」と一つ一つのゴミの様な品々について説明していき、リーリアがいかに公爵令嬢らしからぬ行いを散々したかと熱弁した。さらに、自分がいかにリーリアの行いに今まで耐えてきた被害者か、そして今回はとうとう侯爵令嬢の自分にリーリアが殺意を抱き、怪我を負わせたことを涙ながらに語った。


 よく見ると、ミランダが初めてリーリアに会った時にクロエ自身が踏みにじったハンカチまで含まれていて、クロエの徹底した自作自演に、ミランダはあまりのことに呆れた。


 セリウスは、リーリアのことをクロエが侮辱すればするほど、冷たかった微笑みがどんどん冷気を増して、アーサーも眉間の皺が深まっている。


 そんな最悪な雰囲気の中で「……以上でございます」と、涙ながらにやり切った感でいっぱいのクロエが話し終わった。


「「「ふうっ」」」とまたもや3人のため息がシンクロする。


「……おわかり、いただけましたか?セリウス殿下」


「……ああ、うぅーん」と言っておざなりに返事するセリウス。


 セリウスは、騎士の1人に小声で声をかけた。


「まだか?」


「……少々手間取っているようで」


「急がせろ。お前も手伝いに!」


「はっ!」と言って、騎士の1人が応接室を出て行った。


 そういえばと、ミランダはクロエを部屋に連れて行った2人の騎士のうち、いまだに1人しか戻ってきていないことに気づいた。


 なるほど。そういうことですか……。


 この状況の真実がわかったミランダは、先ほどまで呆れて見ていたクロエに対して、やや同情に近い気持ちで見つめた。


「……それで、セリウス殿下。リーリア様の処分はどうなるのでしょうか?」と期待を込めてセリウスを見つめるクロエ。


「……リーリアの、処分ねぇ」と冷気をまとったオーラのセリウスは黒く微笑む。


 そんなやり取りを繰り返すセリウスとクロエ。アーサーも不機嫌そうに無言で、ここはいつまでも最悪の雰囲気である。

 そんな中、もう自室に帰りたい、なぜ自分がまだここに……と思うミランダの気持ちが通じたのか、先ほどの騎士が2人してやっと応接室へ戻ってきた。


「殿下、こちらになります」といって、戻ってきた騎士は手紙の束や桃色の液体の入った透明の小瓶をセリウスに差し出した。


「ん、ご苦労」と言って、セリウスはそれらを受け取り、中身を確認し始める。


 それを見ているクロエは死人のように青褪める。

「で、殿下!それはもしや……」


「うん、これこそ、君がリーリアを狙ったという証拠の品だよ。

 ハーシュ侯爵家から君への、リーリアを積極的に排除して僕に取り入れっていう指示の書かれた手紙の数々だ。隠しただけで燃やしていなかったのは幸いだったな。

 これらは君の部屋からたった今、押収したものでね」


「私の部屋を勝手に漁ったのですか!?侯爵令嬢の私の部屋を!」


「いやだなー人聞きの悪い。これらは君が今まで説明していたリーリアを貶める目的のわけのわからない証拠を出すついでに、たまたまうちの騎士達がその近辺で見つけたものだよ」とますます黒く微笑むセリウス。


「……先ほど、私を部屋まで連れて行ってくれた騎士たちが!?」


「そうだね。見つけるのに手間取っていたみたいだけど、随分とまあ、あの狭い寮室に上手く隠していたよね。

 おまけに、何、この薬?

 へー。ハーシュ侯爵家からの手紙には僕を落とすための媚薬だって。こんな薬を使ってまで僕の婚約者になりたかったのか。

 これらの手紙は既に写しをとり、王宮に報告用に送っているからね」


「セリウス殿下。それは!!」


「そうそう。これで証拠の品も揃ったけど、処分をどうするかだったかな?」と人を脅すような微笑みを浮かべるセリウス。


「ひっ!そ、その処分とは私の……」


「当然、君の処分だよ。君は、君より身分の高い公爵令嬢で、僕の婚約者のリーリアを狙ったのだからね。

 正直、僕としては本当なら問答無用で君ら一族を始末したかったけど。

 今回は、君みたいな輩を今後抑えるためのみせしめだから、特別に選ばせてあげるよ。


 ひとつ目は、今まで君がリーリアに害なしたことや殺害を計画したことは、これらの手紙を証拠として、ハーシュ侯爵家の意向で、ハーシュ侯爵家が外戚を狙い、王太子の交代や将来、王家を操ろうとすることが目的とみなした犯罪行為と判断する。これは、王家への反逆罪にもあたり、一族みな処刑にする。もちろん、禍根を残さないためにも君のまだ幼い弟妹も容赦しない。


 ふたつ目は、同じく王家反逆罪として、ハーシュ侯爵家の身分、財産、人権も含めてすべて取り上げて、国外追放する。もっとも他の国に行っても奴隷以下の扱いをされるように重罪人の枷をつけるから、貴族として処刑される方がまだましと思うほどのつらい生活をすることになるだろう。


 みっつ目は、確かにハーシュ公爵家から僕を落とようにすすめられていたが、君個人の勝手な意思で、ここまで度を越した愚かな行いをしたとして、君をハーシュ侯爵家から勘当してもらう。もちろん、君を勘当したからといってハーシュ侯爵家が許されるわけではなく、爵位を落とし、一部の領土は国に返してもらう。そして、君はかつてリーリアを叩いたその右手を折った上で、アウスフォーデュ修道院に送る。復讐とかを考えられたら面倒なので君が二度と外界とは関われないようにね。


 さあ、どれがいい?」


 アウスフォーデュ修道院とは、修道院という名であるが、主に女性重罪人が集まる強制労働つきの監獄に近い施設である。

 ミランダは横で聞いているだけで、セリウスの本気の怒りと恐ろしさが伝わってきた。

 もしミランダが父の希望通り、リーリアを排除して、セリウスに近づこうとしていたら、このような目に遭うのは自分であったかも知れないとぞっとした。


「セ、セリウス殿下、これは何かの間違いです!どうか賢明なセリウス殿下なら、このような誤ったご判断をなさらないでくださいまし!!」と青褪め必死なクロエ。


「ふっ、今さら何を言い出すかと思えば。

 君がリーリアを害したことは、そしてハーシュ侯爵家も君に指示していたことは間違いない事実だろう?

 むしろ君こそ、リーリアに冤罪をかけて、貶めようとしたくせに。今回の件以外にも信頼ある部下から、すべて報告を受けているよ。

 君は本当に何の覚悟もなく、リーリアに手をだしたのだね。僕の妃の座を狙うということは、この王国の支配ができる可能性が高い。今はまだ兄上にお子がいないから、僕が王位継承権第2位だしね。そして君は僕と結婚することでついてくる王族に連なる女性という地位が欲しくてリーリアを傷つけた。階段から突き落とそうとしたばかりだけでなく、叩くなどの暴力行為もしたことは聞いたよ。リーリアに触れただけでも許せないのに、ましてや叩くなんて、それこそお前をすぐにでも抹殺しようとその報告を聞いて本気で思ったのだけどね」


「いえ!いえ、私は決して王子妃になりたかったわけではございません!セリウス殿下ご自身を心からお慕いしておりましたから、あんな野猿に奪われるなんて許せなく、もっとふさわしい女性がいるとセリウス殿下が気づかれることを望みました!」


「ふーん、それこそ、本当に迷惑極まりないことだね。

 お前の言うふさわしい女性ってまさか自分のことじゃないだろうな?

 お前がリーリアより優れているところなんて、何一つないだろう。容姿、能力、性格、身分、人脈、賢明さ、愛らしさなどの全てにおいて明らかに劣っている。

 そもそもリーリアに奪われるって何?もともと僕の心はリーリアだけのものだから。


 そして、ここまで言ってもリーリアへの謝罪や、反省の気持ちの欠片もないみたいだな。


 まあ、もうお前が許される日は絶対来ないのだから、さっさと選べ。選ばないのなら、他の愚かな貴族どもにも最も効果的なひとつ目にするよ」


「……セリウス殿下、どうか御慈悲を!リーリア様にも心から謝罪いたしますので、どうか!!」


「今さら遅いね。これが最後だ。どれを選ぶ?」


「……しゅ、修道院に。ハーシュ侯爵家はこの件に関係ございません」


「そう、じゃあ、すぐに手配する」と言って近くにいた騎士に指示をだし、クロエは頭をうなだれながら連れて行かれた。


 ふうっとため息を吐くセリウスに、ミランダは確認しても良いものかどうしようか迷いながらも、恐る恐るセリウスへ尋ねた。


「あ、あのセリウス殿下。クロエ様の右手を本当に折るのですか?」


「……もちろん。そうしないと見せしめの効果が薄いでしょう?これ以上、リーリアに暴力をふるう奴らに知らしめないと」


「……そ、そうですか」


 しかし、もし万が一、リーリアにそのことが耳に入ったのなら、リーリアがひどく心を痛めると思うミランダはいてもたってもいられなかった。


 リアのためにも、右手を折るのは、止めたいと!


 ただ、ミランダにはセリウスへ重要な決定に対して意見することなど決してできない。

 しかし、リーリアの兄であるアーサーなら、リーリアのためにも止められるのではと思い、ミランダは同室にいたアーサーにすがるような眼差しを向けた。

 アーサーもやや迷っている様子であったが同じ考えだったらしく、ミランダの視線を受けて、セリウスに意見してくれた。


「セリウス殿下。クロエ嬢の処罰の件で、メナード公爵家の意向をお伝えしてもよろしいでしょうか?」


「……いいよ」


「昨夜、父に今回の件を報告し、メナード公爵家としての意向を至急確認いたしました。原則、セリウス殿下のご意向に沿うとのことでしたが、メナード公爵家からの処罰内容は首謀者のアウスフォーデュの修道院送りのみを希望いたします。

 これは相手側への同情ではなく、その件がリーリアの耳に入った際、リーリアはきっと心をひどく痛めるであろうことが想定されます。例え自分を害そうとした相手でも、一時は友人としての付き合いがあったことからも、見知らぬ暗殺者以上につらく思うことでしょう」


「……リーリアへ理不尽にも暴力をふるったあげくに、階段から突き落とそうとした相手だよ。右手を折るどころか、本当はリーリアに殺意をもって触れようとした両腕を切り落としてやりたいくらいだよ。階段から突き落とすなんて、打ち所が悪ければ、リーリアが死んでいたかもしれない。今回はリーリア自身が防いだけど、護衛も間に合わないような事態は、本当に許せない。僕はリーリアを失うなんて無理だ。

 僕と結婚して、ほとんどの貴族が手をだせないようにするまで、リーリアを安全なところに保護したいくらい、許せない事件だったからね」


「……もうアウスフォーデュ修道院に行く時点で、このランダード王国の人間として、この社会から切り落とされたようなものです。

 あと、クロエ嬢のような、家柄以外何の取り柄のない愚かな貴族令嬢、しかも侯爵家ほど上位のものがアウスフォーデュの修道院に行って、どれだけ生き残れることか……」とアーサーはセリウスに訴え、

「聞いてもいいかい、ミランダ嬢。もし君がクロエ嬢のようにアウスフォーデュ修道院に行ったら、長く生き残れる自信はあるかい?」とミランダに聞いてきた。


「……いいえ。貴族ということでより一層、他の重罪人達に虐げられる可能性が高いので、長く生き残れるとはとても思えません。特にアウスフォーデュ修道院には囚人ばかりか、管理するシスター達ですら、一部の愚かな貴族に対してひどく恨みをもつ者たちが多いと聞きます。アウスフォーデュ修道院に送られるような愚かな貴族の仲間として間違いなく彼女らに、死ぬよりもひどい目に遭わされそうです……」とミランダはすぐに答えた。


「それなら、もし、右手を折られていたら、さらにそこで生きられる期間は短くなるでしょうね。おまけに、クロエ嬢は自業自得とはいえ今、足を痛めている状態で、明日にはアウスフォーデュ修道院へ向けて出発するのですから」


「……なるほど。つまり、右手が使える方が生き残る可能性が高いから、アウスフォーデュ修道院で死ぬよりもつらい目にあう期間が延びるということか」


「……おそらく」


「ふぅ、わかったよ。できれば罪を償う期間はきっちり取らせたいからね。

 リーリアの心のためには、修道院送りになって二度と会わないで済むとしただけの方が望ましいのは確かだしね。しょうがないか……」とため息を吐きつつ、セリウスはアーサーやメナード公爵家の意向を受け入れてくれることになった。


 こうして、リーリアに害をなすという最も誤った選択肢を選んだ肉食系貴族令嬢の筆頭、クロエの処罰はアウスフォーデュ修道院送りのみとされ、すぐに送られることになった。

 また、ハーシュ侯爵家はとりつぶしにこそならなかったが、たとえクロエ個人の行動だとしても、その責任と、王家に野心を抱いた疑いが残るため、いままであった権力や一部の領土を取り上げ、身分を男爵まで下げられることになった。

 そして、他の誤った選択肢を選んだ肉食系貴族令嬢のうち、クロエと共謀してリーリアを貶めたことが度々あるイザベラ・ターナー男爵令嬢は、クロエほどの重い処罰ではなく、監獄ではないが規律の厳しい修道院に送られた。また他の令嬢達も辺境や隣国への縁談が急に決まって、すみやかに学院を去っていった。

 秘かに、セリウスの粛清とささやかれたが、一時的にでもリーリアの周囲には平和が訪れるのであった。



 今回の事件後、セリウスのサロンにディオンと一緒に再びよばれたミランダが、サロンにいくと、セリウスとアーサーの2人がおり、セリウスがアーサーに愚痴っていた。


「ああ、早く兄上にお子ができて欲しい!

 そうしたら、王位継承権を放棄して公爵位になる予定だから、こういう煩わしい野心のある貴族たちから解放されて、リーリアと一緒に幸せに暮らせる!

 でも、リーリアとの結婚まで、あとまだ3年も我慢しないといけないなんて!!

 そんな長い期間だと、今回の処分くらいでは一時的な効果しか見られないから、どうせまたしばらくすると、第2、第3のクロエ嬢みたいなのが、次々と懲りもせずに湧いてでてくる。だからアーサー、それを防ぐためにもメナード公爵家の協力で、リーリアとの結婚が早められないかな~」


「ダメです。父も同意見です。我がメナード家は18歳以上にならないと、絶対、嫁にはだしません」


「ええー、でもリーリアの安全のためにも!」


「ダメです。下手なことをすると、父があなたとリーリアの婚約を解消するように働きますよ?」


「そんなぁ。やっぱりダメかぁ……」としょんぼりするセリウス。



 やっと、ミランダとディオンが来ている件を話す気になったセリウスは「やあ、お待たせ!」と言って、二人をソファに座らした。


「いやいや、今回は二人の活躍のおかげで、うまくいってやっと落ち着いたよ。

 本当にああいう輩は、困ったものだね。

 ねえ、ミランダ嬢。どうして、クロエ嬢みたいな輩はみなこぞって、自分こそは特別だ、だから王子妃や王妃になれると勝手に思い込むのだろうね。


 本当に特別な僕のリーリアには、自分が特別だという自覚が薄いのにね」とセリウスはやや寂しそうに言った。

 それを聞いて、同情したミランダが、何か慰めの言葉を言おうかと思った時だった。


「ところで、後からよく考えてみたのだが、もしミランダ嬢がアウスフォーデュ修道院に送られても、クロエ嬢とは違って、実はかなり長く、しぶとく生き残れると思うんだ。アーサーやディオンはどう思う?」


「……そうですね。あの時はミランダ嬢からの否定の言葉を聞きましたが、実は私も秘かに有能なミランダ嬢なら、しぶとくうまく生き残れるような気がします」と褒めているのか落としているのかよくわからない意見を言うアーサー。


(しぶといって、お二人して言いましたわね?どういうことでしょうか!?

 いや、でも……。

 もしあの修道院へ送られたら、まず取り入りやすい隙のあるシスターに目星をつけて必要な情報を得てみましょう。そして本当の囚人のボス格の方を見抜いて、それからその方の下に速やかにつき、好みなどをすぐに分析して、無事に過ごせるような対策を徹底。そういえば、あそこでは魔法が使えるのかしら?もし使えるのなら最大限、魔法をうまく利用して……。

 あら?何とかいけそうですわね?でも、考えるのと実際は違いますし、現実はそんなに甘くないはずですわ。それに継続が何よりも難しいし、きっと私には無理ですわ!)とミランダは二人の言動にむっとしながらも、頭の中で真剣にシミュレーションしてみた。


「な、なにをおっしゃっているのですか!?

 私の大事なミランダがそんな過酷な環境におかれましたら、きっと生きていけません!

 私自身ももうミランダなしで生きていけるか……」と二人と違う意見のディオン。


「ミランダ、心配するな、私が命にかけて守るから」と、いつかの寡黙な性格がどっかにいってしまったように、ミランダにはタラシで雄弁なディオンはそう言いながら、ミランダの手をさりげなく握った。


(ああ!やっぱり、ディオン様はとても素敵!!そして、このお二人と違って、私に対する評価がまともなところが大好き!)と、そんなディオンにときめくミランダであった。


「あと、リーリアもたくましく生きていけそうだよね。それで、囚人のボス格に可愛がられて、そこのマスコット的地位をすぐにでも手に入れそう。まあ、まず捕まったら、常人が考えられないようは、すごい方法で脱獄しそうだけどね。くくくっ」と笑うセリウス。


「確かに!リーリアならミランダ嬢のようなボス格のマスコットにされそうですね。そして一緒に大脱走しそうでね」とアーサーも笑う。


(ちょっと、アーサー様!!私のような囚人のボス格とは何なのですか?お二人の私の評価、さっきから、なんだかおかしくありませんか!?)と心の中で憤慨するミランダ。


「まあ、あの修道院ほどのボス格でしたら、セリウス殿下のような、有能な方でしょうから、リーリア様が気に入ると私も思いますわ。でも、ディオン様のおっしゃるように私ではとても無理ですわ」と不敬にならいように加減しながら、言い返すミランダ。


「いやいや、そんな謙遜せずに、ミランダ嬢ならやっていけるよー!」と愉快そうにするセリウス。


「いえいえ、私ではとても……」といいながら、実はミランダを何かの別件で、アウスフォーデュ修道院へ送るつもりで話しているのかと、ミランダはちょっと怖くなってきたが。


「そんなことないよ。だからこそ、僕は君みたいな部下が欲しかったんだ。


 そうそう、今回、君をよんだのは、本当に僕の部下になってもらおうと思ってね。

 まだ内定の話だから、ここだけの話と思って聞いてほしい。

 僕がここの学院を卒業すると同時に、情報省という新設の部門を僕が長官で立ち上げる予定なんだ。それにあたって、優れた情報調査能力や判断力、実行力のあるミランダ嬢を部下として入省してもらいたいと思っている。もちろん、ディオンとの結婚に支障が出ないようにと思って、ディオンやローエリガー伯爵の許可もとるつもりだから。


 どうかな?」


 これには、ミランダとディオンは、とても驚き、顔を見合わせた。

 王子から直々の勧誘である。ミランダの場合、まだ父親の保護下でもあるため、すぐには返事ができないが、ディオンの婚約者であるが一伯爵令嬢としては大変名誉な話である。


「とても光栄なお話ですが、私などで勤まるか……」


「大丈夫だよ。勤まるから勧誘しているのだから」


「は、はい」


「誰でもできる仕事というわけではないからね、お給料や待遇もそれなりに希望にそうようにするよ!」


「まあ、もったいないお言葉です」


「それで、前向きに考えてもらえるかな?」


「……殿下、情報省のお仕事のことで、お伺いしてもよろしいでしょうか?」


「いいよ!何?」


「その情報省の仕事に危険は伴わないのでしょうか?例えば荒っぽい輩と調査のために直接、接触しないといけないとか……」


「ああ、もちろん、業務にはそういう潜入捜査の業務もあるのだけど、おそらく貴族であるミランダ嬢にさせるつもりはないよ。そういうことはきちんと厳しく訓練された人間でないと、本当に危険だからね。僕はミランダ嬢には、それで得られた情報を元に評価・分析をしてもらおうと思っているから、王宮での内勤がほとんどだと思ってくれていい。

 ちなみに、ミランダ嬢の父君のローエリガー伯爵は若い頃、母の下で情報分析官をしていたのだよ。そういえば、ローエリガー伯爵に初めて会ったのが7歳の時なのだけど、その時に自慢の娘がいると聞かされたな。あれは君のことだったのだね。ふふふ、10年近くたってこうして会って、彼の娘を部下に勧誘することになるとはね」


「え?そうだったのですか?全然、存じませんでした。父からは仕事の話を聞いたことはほとんどなかったもので」


「あ、そうなんだ。てっきり僕が母上から教わったみたいに、君もその調査法や分析力とかはローエリガー伯爵に教わったものかと思ったよ。独自で開発したの?それならますます凄いな!でも、その多くの応用された、優秀な探索魔法が使えるのは家系なのかな。

 それで、将来の正式な入省をお願いできるかな?

 もちろん、情報省がきちんと設立するまで期間があるから、それまで考えてもらってもいいのだけど、早速、頼みたいことが盛りだくさんだから、早めに返事が欲しいな」


 今日のセリウスは何故かミランダをべた褒めである。情報省は新設だから、それだけ人手不足なのかとミランダは不安になるくらいであった。


「……ディオン様はどう思われますか?」


「本当は心配だが……。

 実際の危険な業務はないが、危険な案件に分析官として関わることになるだけでもリスクがあるから、とても心配だけど、セリウス殿下に見出される程の君の優秀な能力を捨て置くのは国の損失でもある。

 私は君がその仕事をやりたいと思う限り、君の意思を尊重する」


「ディオン様……。ありがとうございます!!」


 ディオンの後押しと、さらに親友のリーリアも同時に入省予定と聞き、ミランダは、完璧貴族令嬢のヘレナ・ノーレン公爵令嬢よりも先に情報省へスカウトされ、その入省を決意するのであった。もちろん、ミランダの父、ローエリガー伯爵もディオンとの婚約に加えて、その件もとても喜んでいた。



 こうして、選択肢を間違えなかったミランダのような肉食系貴族令嬢の婚活は、結果として、むしろ狙っていない時に思わないタイミングで理想の男性をスムーズにゲットでき、なおかつ、婚活のために向上した自分の能力のおかげで、自立したい貴族女性にとっては羨ましい仕事までも、手に入れるのであった。


肉食系貴族令嬢の婚活はここで完結です。長かった~。

一部、ややシリアス展開で、全然ほのぼのとしていなくて、ごめんなさい。


野猿の他の番外編はもう少し続くかも。

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