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番外編 肉食系貴族令嬢の婚活 4.階段事件

1話が長くなったのでそれを分け、予定よりさらに1話、多くなりました。

 セリウスのサロンにディオンとミランダが訪れると、そこにはリーリアもミランダ達を待っていた。


「やあ、随分、遅かったね?って、ミランダ嬢、その口元、どうしたの?」

 と出迎え早々に、セリウスにも心配されたミランダは、まさかサロンにリーリアまでいるとは思わなかった。


「ミ、ミラ!その傷はどなたにされたのですか?」とミランダへ駆け寄ってくるリーリア。


「……こ、転んで、打ってしまいましたの」とクロエのことを言いたくないミランダは、とっさに嘘をついてみたが。


「そんなわけないでしょう?どなたに叩かれましたの、ミラ?」


「そうだよ、ミランダ嬢。言い訳するなら、もっと上手く!

 ……ガーゼからはみ出して見える、その頬の赤いくっきりした手形は叩かれた以外の何物でないだろう。しかも、その手形から叩いたのは女性だね。随分、暴力的なご令嬢だなー。そうだろ、ディオン?」


「……私が迎えにいくのが、少々遅かったばかりに、ミランダがトラブルに巻き込まれてしまいまして……」


  犯人を問い詰めるリーリアと、呆れてため息をつくセリウスに、悔しそうにするディオン。


(ああ、失敗。やはりディオン様の言う通り、寮に戻っておくべきでしたわ)とやや後悔するが、リーリアが責任を感じないためにも、サロンに呼び出された件でクロエに叩かれたことを隠したいミランダ。


「……あの、実は私とディオン様が婚約したことで、ディオン様を慕っていらしたご令嬢に叩かれました。……名前も知らない方なのでどなただかわかりませんわ」


「うん、さっきよりはましな言い訳だね。

 リーリア、ディオンは僕ほどではないが、それなりにモテるからこういうことがあるんだよ」とセリウスがミランダの苦しい言い訳をフォロー(?)する。


「……ミラ、とぼけても無駄ですよ。ミラにこんなことをしそうな方は、私は1人だけ存じていますわ。叩いたのはクロエ様ですね?しかも、私とセリウス様関連のことで絡まれましたわね」


「……確かに叩いたのはクロエ様です。嘘ついてごめんなさい、リア。でも、クロエ様に絡まれたのはディオン様の件でしたのよ。昔、クロエ様とディオン様は婚約の話があがったこともあるから、気にくわなかったみたいで……」


「違うでしょう、ミラ。だって、クロエ様はセリウス様を狙っていらっしゃるから、ディオン様とミラの婚約はむしろ、ライバルが減って大歓迎でしょう」


 あれ?あのピュアなリアにしては、何か言うことが黒いですわ。

 どうしたの?この腹黒王子セリウス殿下から黒いのがうつったの?

 私の可愛い純粋なリアを返してっ!


 つい、そう思ってセリウスの方を見てみると、またセリウスがため息をついていた。


「……もういいよ、ミランダ嬢。君とリーリアを呼び出したのは、そのクロエ嬢のことでね」


「え?クロエ様のことですか?」


「そう、今、リーリアにも説明したところだけど、どうやらクロエ嬢の実家、ハーシュ侯爵家は、本格的に兄上を廃嫡して僕を王太子にした上で、外戚を狙っているという情報を掴んだんだ」


「まあ!それは……」(下手をすると王家反逆罪に近い罪になるのでは……)とミランダは思う。


「ただ、まだ証拠が揃っていなくてね。実は一部押収した、クロエ嬢が実家に宛てた手紙に僕とクロエ嬢が随分親しくなった等の親の野心を煽る嘘というか、親へ見栄を張った文章があったせいで、ハーシュ侯爵も動き出した可能性もある。だから、できるだけクロエ嬢と接触しないように、もし接触しないといけない場合はくれぐれも気をつけるようにという忠告をするために来てもらったんだ。でも、忠告は間に合わなかったね。

 それにしても、そんな思いっきり叩かれるなんて、ミランダ嬢にしてはへましたな。油断していたのかな?

 あと、学院側にも協力してもらって、リアのクラス替えをして、ミランダ嬢と同じクラスにしようかと思っているから。それにあたって、クロエ嬢みたいなご令嬢がミランダ嬢のクラスにはどれだけいるか、調査をミランダ嬢に依頼したくてね。もちろん、そういったご令嬢からリーリアをガードもして欲しいな」


「まあ!リアと一緒のクラスになれるのですね!!わかりました。喜んで調査いたしますし、そういった不届きなご令嬢も蹴散らしますわ」と喜ぶミランダ。


「リア!同じクラスになれるみたい、嬉しいわ!!」


「うん、私もミラと同じクラスになれて嬉しいわ。

 ……でも、クロエ様がミラにまで、こんな傷を負わせたのは私が原因よね。私さえ、パメラ様のようにしっかりしていれば、クロエ様もセリウス様を狙おうとしなかったのでは……」


  落ち込むリーリアにセリウスが慰める。


「リーリア。僕は君とだからこそ、婚約したかったのだよ。君がしっかりしてくれるのはもちろん応援するけど、無理しなくても、そのままの君でもいいんだよ。僕は君だけとしか結婚するつもりないからね」


「……セリウス様。でも……。

 そうだわ!私がクロエ様にビシッと『私こそセリウス様から婚約者と認められているから、あなたは出しゃばらないで!!』とか、『あなたこそ、私のセリウス様に近づかないで!!』とか、きつく言ってみるわ!」と(そうよ!ヒロインが出てくるまでは、ヒロイン以外の令嬢がセリウス様に近づくとあのゲームで必ず悪役令嬢が言って、他のご令嬢を蹴散らすセリフが確かあったはず。ここは悪役令嬢らしくいこうかしら!こんな私でもゲームのように権力も振りかざしてみれば、いけるっ……かも?)と考えるリーリア。


「「「絶対、ダメ(です)」」」とセリウス、ミランダ、ディオンの3人が声を揃えた。


「だから、ダメだって、わざわざ言ったよね!?そもそもクロエ嬢には政治的にも危ないから近づくなって、ついさっき、説明したでしょう、リーリア。君の学習能力、どこにいったの!?」とセリウスがリーリアを叱る。


「……ご、ごめんなさい。でも……」


「『でも』は認めないよ、リーリア。悪いと思うなら、『私のセリウス様』ってもう1回言いなさい。ほら」とねだるセリウス。もちろん、リーリアはスルー。


「……何て言えば、クロエ様は聞いてくださるのかしら」


「何を言っても無駄ですよ、リア。

 とりあえず直接交渉は絶対にやめてね。取るに足らないとクロエ様が言っていた私ですら、叩かれたのです。今はきっとクロエ様も勘違いさせたハーシュ侯爵家からのプレッシャーで焦っているのかも知れませんわ。だから、リーリアが直接、関わったら今度は殺される可能性も否めません」とミランダも全力でリーリアを止め、ディオンも横で頷いている。


 しばらく、4人の間に沈黙が落ちた。

 リーリアは考えるように黙り込み、セリウスは何か不満そうに黙り込んでいた。ミランダとディオンは心配そうにお互いを見合っていた。


 その沈黙を破ったのは、何かを思い出したリーリアであった。


「……そうだわ!良いセリフがありますの!!これなら効果絶大のはず!早速、クロエ様にこの決め台詞を!!」と言って、3人が止める間もなく、今度は突風のようにサロンを退出するリーリア。


「ちょっ、リーリア!?ダメって言っているのにー!!」

「ま、待ってーリア!!」

「お待ちください、リーリア様!!」


 3人は止めるセリフを言う頃にはリーリアの姿はサロンになかった。


「……まただよ。あいかわらずの猪突猛進だよ」

「まずいですわ!すぐ捕まえて止めないと」

「すぐに捕獲しましょう!」


 やや疲れたかのようにつぶやくセリウスであったが、ミランダやディオンへすぐにリーリアの捜索を依頼し、護衛の者たちにも冷静にリーリア捜索を指示した。


「いいかい?

 リーリアは見つけたらすぐに捕獲。クロエ嬢もリーリアが近づくかもしれないから、場所の把握。何ならリーリアが見つかるまで、僕の権限でどこかに閉じ込めてもいいよ。もし既にクロエ嬢と接触していたら、問答無用の力技でリーリアを連れてきて。しかもクロエ嬢がリーリアに危害を加えようとしていたら、全力で防ぎ、その後はリーリアに状況が不利にならないように状況整備を最大限、尽力するように」


 ミランダとディオンは一緒にリーリアを探すようセリウスから指示され、他のみなと共に、リーリアとクロエを探して学院内に散らばった。



 サロンから飛び出したリーリアを追って、ディオンとミランダは、女子寮へ向かったところ、その途中にある2階の階段の踊り場でリーリアをあっさり見つけた。

 しかも、リーリアは、既にクロエと接触中のようである。


 クロエにリーリアが「セリウス様は私の婚約者」のような悪役令嬢風の決め台詞(?)を吐いたらしく、その後、リーリアは、くるっとクロエに背を向けて、2階の階段を降りようとしている。


 そこで、ミランダとディオンの二人がみたものは……


 階段を降りようとするリーリアを、クロエは、リーリアの後ろから、今まさにリーリアを突き飛ばそうとする瞬間であった。


「あ、危ない!リア!!」と、それを、さらにクロエの後ろから目撃したミランダはとっさに叫んだ。


 その声のおかげか、クロエの殺意のためか、野猿並みの運動神経を持ち、危機回避本能の強いリーリアは後ろのクロエを、さっとあっさり瞬時によけた。


 そのため、リーリアを突き落とそうと、かなり強い力をかけたクロエは、対象がいなくなったので、そのまま前のめりで階段を自分が落ちて行った。


「ひぃっきゃああああああああああ」


 クロエは声の限りに叫んで落ちて行き、リーリアはとっさに落ちていくクロエを止めようと手を伸ばしたが、間に合わなかった。



 こうしてできあがったのは、階段から落ちたクロエと、まるでクロエを突き飛ばした後のように手を伸ばしたままのリーリアという状況であった。

 この状況をみた生徒はこぞってリーリアがクロエを突き落とした犯人と言うところであった。



 もしここにミランダがいなければ。



 ミランダの行動は早かった。

 固まったようなリーリアをすぐに回収し、一緒にいたディオンに預け、セリウスの元に至急、連れていくようにお願いをした。

 ミランダを心配そうにする見るディオン。


 しかし、ミランダはそれにも構わず、まずリーリアに、わざわざ大きい声であるべき状況を周囲へ聞こえるように言った。


「リーリア様!ご無事ですね?危うく階段を『ご自分で落ちた』クロエ様に巻き込まれるところでしたわね!!」


 そして、素早くすぐに階下のクロエのもとにいった。


「クロエ様!大丈夫ですか?すごい勢いで走っていらしたから、『ご自分で落ちて』こんなことに……」


 ミランダは、クロエが急いでいて「自分」で落ち、リーリアは近くにいてクロエに巻き込まれそうになったということを周囲に強調した。


 階段から落ちたクロエは手足や体の打撲があるものの、軽症であった。

 クロエはやや痛そうに呻いていたが、リーリアを陥れる機会を逃さないように騒ぎ出した。


「ひどい!リーリア様!!私に何故そんな……むぐっ」とわめきだしたクロエをミランダは素早く力技で黙らせた。

 そして、すぐに駆けつけた男性教師にクロエをそのまま引き渡した。ただし、ミランダは、事情聴取などはセリウス殿下がすべて行うため、一切、手を出さないようにと、その男性教師にセリウス殿下の命令であることを耳打ちした。


 ミランダに喋れないように口を手で押さえられ、モゴモゴ言っているクロエは、わめく隙をあたえられず、そのまますぐに、その男性教師に保健室まで運ばれていった。


 クロエにとってはひどい扱いだか、ここでクロエの思惑通りにリーリアのせいになると、その結果は、セリウスのクロエへの制裁が重くなり、どんなに残酷なことが起こるかという恐怖があった。

 しかも、リーリア自身で回避したが、すでにリーリアが危険に晒され、未然にできなかったことも悔やまれる。だからこそ、ここで、リーリアがクロエを突き落としたと誤解されるような状況が悪化するような下手な対応してはまずいとミランダは判断した。


 ちなみにリーリアを危険に晒らそうとしたクロエはただの排除だけで済まないことは確実。

 でも、少しでもクロエの処罰を軽くするためにもクロエにこれ以上、余計なことを言ったりやったりさせないことも大事であった。

 そして、ミランダがクロエの処罰を軽くしようとしているのは、リーリアのためでもある。リーリアは自分関連のことでセリウスが人にひどいことをしたら、たとえリーリアのことを狙った相手でも心を痛めるから。


 保健室に連れていかれるクロエを眺めながら、ミランダは、クロエがこれ以上、リーリアを貶めるような行動をしないことを祈りつつ、ため息をつくしかなかった。

次で肉食系貴族令嬢はラストの予定です!たぶん。

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