『戦場のクリスマスーー復讐という名の翼…』
「ーまるで宝石を散りばめたみたいだな」
眼下に広がる漆黒の地平線に、宝箱をひっくり返したように赤や白の明かりが煌めいている。
遥か遠い記憶の奥底に、今の地獄から這い上がれた時に開ける。暖かな思い出という名の記憶。
もういくら足掻いても二度と戻れないあの暖かな灯火が脳裏に浮かんでは遥か6500ftから眺める景色に溶け込む。
「そうさ、俺の大切なクリスマスを」
「どうした?爆撃目標に到達したか?」
「いや…間も無くベルリン上空だ、6番と7番の安全装置解除。続けて」
4発からなるロールスロイスヴァルチャーエンジンからの頼もしいサウンドを耳に刻み。夜間爆撃と言う任務を可能にした英国の誇るアプロランカスターを中心とする編隊が漆黒の闇から月明かりに薄っすらと映し出される。
地上から6000ft上空だと分からないものなのか。対空砲の一つも無く静寂と重いエンジン音のみだ。
赤外線の赤い光に照らされる足元の計器類をチェック。今日という特別な夜を、大切な家族や掛け替えのないサラの命を奪ったこの同じ夜を今度は、俺が復讐と言う業火で鉄槌を下す。
「間も無くフリードリヒ上空に達します」
「よし!これより…作戦開始だ」
少し喉に詰まるように”良心”という名の自身のストッパーを外し。
俺から全てを奪った罪の裁きの審判を下す。
そう。そんな復讐を、今眼下に咲き乱れる報いの業火と轟音。そして遥か6000ft下に広がる地獄を見ようがあの時のあいつの笑顔が戻る事も無いのにーー
復讐が再び第二第三の復讐を呼ぶ。
この永遠とも言える殺戮の連鎖を今は少し忘れ。遥か下方に美しくもキラキラと輝く真紅の光をネオン代わりに…俺は、今は亡きロンドンでのあいつに向かい呟いていた。
サラ――メリークリスマスと……