02. 昏い月、微酔を帯びて(part7)
すると、彼女は資料や写真の類をテーブルにできるだけ小さく広げ、説明を始めた。
「最近、東北で最大震度五強のやや大きな地震があったのを覚えていますか?被害は少なかったみたいですが、行方不明者が三名。でも、それは地震と直接関係していないでしょうね。建物が倒壊したわけでも、津波が来たわけでもありませんから」
「そして、これは地震の最中に現地の住民が撮ったものです」
二枚の写真。
未だに都会の景色にやや届かない半端な高さの建物が並んでいる。
写真の上端に目を向けると、街の上空には俺が路上で見たのと同じ、あの十二枚羽の影が小さく映っていた。
鼓動が早まる。なんだか心が落ち着かない。
「これは……」
「俺が見たのと同じだ。これ、一体何なんです?あ、あの、正体はもうわかっているんですか?」
「アカシックレコード……。そう呼ばれています」
「日本だけの話じゃないそうです。世界各地で姿を現しては、そのエリア一帯に天災を招く。地震とか噴火、他には伝染病……。アカシックレコードという名は、世界的に有名な予言者たちが口を揃えて言い出したんだとか。そこから人々に伝わったみたいです。でも、どこまで信用していいものか……」
「……というと?」
「インターネット上で拾った情報ですから……。それも、胡散臭いオカルト関連のサイトから」
「記者として失格ですよね……。いくらプライベートな調査とはいえ、こんな信憑性の無いサイトから情報を仕入れているなんて」
「そうなんですか……」
落ち込んだ様子の彼女にかけてあげる上手い言葉が見当たらなかった。
この数日間、有益な情報を掴めないまま、無駄足を踏んでばかりいるらしい。
「少しいいかい、茜さん」
俺と茜さんの会話にはまるで無関心、といった様子で一人コーヒーを嗜んでいた牧瀬さんがついに口を開いた。
「君はあの時の地震で行方不明となった人物を探しているんだろう?その調査中に例のアカシックレコードとやらと地震との関連性が浮上した。そうだね?」
「え、……はい。それで間違いありません」
「確かに最近にしては割と大きな地震だったが、あの程度なら死者も行方不明者も普通は出ない。それに新聞の記事でもけが人が数十名としか書かれていなかったはずだ。となれば、そもそも行方不明者の存在自体が考えにくい」