本気だ
悟は走っていた。ほんのちょっとでも早くあの少女に会いたいのだ。
「流石にもういないか・・・」
最後に少女に会った場所に悟はやって来たが、その場所にはすでに少女の姿はなかった。
「どこに行けば・・・」
悟は辺りをキョロキョロ見渡した。どこかに少女のいそうな場所があるのではないかと思ったのだ。
しかし、悟には殺し屋がどんな場所に身を潜めるかなんて分からない。
「しょうがない・・・」
悟は路地に入って行った。何と無くだが、暗い所にいそうな気がしたのだ。
ハッキリ言って根拠はない。だが、毎日のように襲われている悟には何と無くだが分かる。それは現れる場所。少女はいつも路地がある道に現れた。
「一か八かだ」
限りなく可能性は低いが、悟には探すしかないのだ。
「見つけたぞ」
一時間後、悟はついに少女の元に辿り着いた。奇跡的に悟の読みが当たっていた。少女は路地に潜んでいたのだ。
「まさか、こんなに路地が多くて長いものだったとは・・・」
ただ、誤算だったのは路地がまるで迷路のようだったこと。おかげで予想以上に時間がかかってしまった。
「・・・なに?なぜあなたが?」
こんなところに悟が現れるなんて思っていなかったのだろう。少し身構えて訊いてきた。
「なぁ、聞かせてくれ。殺し屋が自分の正体がばれたらどうなる?」
「・・・どういう事?」
少女は訝しげな表情を浮かべて、首を傾げた。
「もし、ターゲットがお前のことを知った場合、どうするか聞いてるんだ」
焦って言葉足らずになってしまった悟の言葉をしっかり理解した様子の少女は少し考える素振りをした後、答えた。
「私たちに気付かれないように遠くへ逃げるか、私を殺すために他の殺し屋を雇ったり」
「やはり・・・」
「なに・・・?あなたは私を殺すの?」
小首を傾げて少女は訊いてきた。
「いや・・・俺はそんなことはしない。が、そうしようとしてるやつがいる」
「どういうこと?」
「すまないが、君のことをその人に話した。ただ、俺に君を殺す気など全くなかった。まさか・・・あの人がこんなことを考えるなんて・・・」
悟は頭を下げた。原因は悟を殺そうとする少女にあるのかもしれないが、実際は悟が死ぬことはない。なのに、少女を殺すように仕組んでしまった。そのことを悟は謝った。
「・・・それであなたは私をどうしようとしてるの?」
「守る」
「・・・・は?」
「俺が君を守る。こんな所じゃなく家でかくまう」
「な、なにを言ってるんですか?本気ですか?」
「本気だ」
悟の目は本気だ。ただ、一直線に少女を見つめている。
「私はあなたを殺そうとしてるんですよ」
「ああ、知ってる。でも俺は死なない。でも君は死んじゃうだろ?だから守る」