不死身ですから
数分後。
倒れた悟に異変が起こった。飛び散った血が、悟の体から溢れだす血が悟の体に戻り始めたのだ。まるでビデオの逆再生のように。そして、全ての血が悟の体に戻った時、ピクッと悟の体が動いた。
「・・・いっつぅ」
何事もなかった様子で悟は頭を掻きながら立ち上がった。
悟も魔族である。
つい最近まで自分は普通の高校生だと思っていた。それも普通じゃないくらい普通の人間だと思っていた。学力も運動能力もびっくりするくらい普通だった。
そんな悟が不死身の魔族であると気付いたのは数か月前のことである。
「・・・・なんだったんだ・・・あの子」
先ほどの少女のことを考えた。
悟を刺そうとしたとき、悟の目には少女の顔がとても悲しそうに見えた。嫌なことを無理やりやらされているような、そんな顔だった。
「・・・・ってやべ・・・コンが待ってるんだ!!」
ハッと思い出して悟は走り出した。急いで帰れば雫たちに何かあったのかと詮索されることは無いだろう。彼女たちには心配をかけさせたくないのだ。
「ただいま!」
「遅いよ!悟にぃ!!」
玄関で待っていたのは雫だった。仁王立ちで腕を組んでいた。
「悪い悪い・・・ほら買ってきたから早く飲ませてやれ」
悟は薬が入った袋を雫に渡して言った。
「うん!・・・・ってあれ?悟にぃ、さっきパーカーのチャック閉めてたっけ?」
雫が気になったのか訊いてきた。と言うかそれを覚えてるってどんだけ悟のことを観てるんだ。
「え?ああ、春って言ってもまだ夜は寒いな~ははは~」
悟は焦った様子で作り笑いを浮かべた。
刺された時悟の体は治るが穴の開いた服などは修復されない。つまり、今悟が着ているTシャツには穴が開いているのだ。それを隠すためにパーカーのチャックを閉めることで隠したのである。運よくチャックを開けていたパーカーは無傷だったのだ。
「俺は風呂入ってくるから、コンのこと頼んだぞ」
「え?あ、うん・・・」
逃げるように風呂場に向かっていく悟に雫はそう返事することしか出来なかった。
翌日。
「いってきま~す」
悟は家を出た。心配そうに家を眺めた。
今日はコンの看病のために雫を留守番させているのだ。いつもなら学校にある秘密基地に行かせるのだが、コンの為にもあまり動かせるのは良くないと考えたのだ。
「なぜ生きてるの?」
その時、どこかで聞いたことある声が聞こえた。
悟は寒気を覚えた。なぜならその声は昨日、悟の命を狙った少女の声だったから。
「そうだな・・・俺は不死身ですから」
悟は苦笑いを浮かべながら言った。
自信満々な笑みで言えなかったのは、悟自身自分の不死身を良いものと思ってなかったからだ。
「そんなこと・・・・あるわけ・・・」
「あるんだよ」
少女の言葉に被せるように悟は言った。その顔に笑みはもうなかった。真剣な顔で悟は言った。
「どんな力でも俺を殺すことは出来ない・・・俺は死なないんだよ。それは実際に俺のことを刺したお前なら分かるだろ?」
「・・・・・」
少女は悔しそうに下唇を噛んだ。
「でも・・・・諦めない」
少女はそう言って去って行った。