赤い瞳の女の子
ある少女がいた。
腰まである長くサラサラの金髪。そして大きな瞳に長いまつ毛。まるで少女漫画から飛び出してきたような少女だ。
通りすがる人全員がその少女に目を奪われて、そして彼女の顔を見て、目を背けていた。目を背けた人全員が変なものを見たような、汚いものを見るような視線をチラチラと少女に向けながら去って行った。
少女の瞳は赤かった。まるで血のような赤だったのだ。
彼女に見とれた人々は彼女の赤い瞳を見た途端に怖くなり、逃げるように去って行っていたのだ。
しかし、彼女はそんなこと気にしていなかった。彼女には目的があるのだ。
「・・・・・」
神山悟は気付いていた。
その人込みの中人形のように全く動かない少女がその大きな目を半開きにして睨みつけるその視線の先にはいつも自分がいることに。
三日前。
「おにぃちゃん・・・なんか・・・寒いです」
獣耳に尻尾を持つ少女のコンが体を震わせながら悟に言ってきた。
「ん?寒いって?最近暖かくなってきたばかりだぞ・・・って確かに顔赤いな」
「悟にぃ~・・・コンちゃん大丈夫?」
そう言ってコンを心配そうに見つめるのは雫である。長い黒髪に大きな瞳。完成された顔立ちにもどこか幼さの残る人形のような少女だ。
「まぁ薬飲んで、寝とけば治るだろ。心配するな」
「本当!!?」
「ああ・・・って薬ないな・・・」
「えええ!!?・・・死んじゃうの?」
「死なねぇよ!!こんなんで死んでたまるか!!」
涙目で言ってくる雫に悟はツッコんだ。
「すぐ買ってくるから雫はコンを暖かい格好させて寝させといてくれ」
「分かった!!」
敬礼ポーズをして雫は悟を見送った。そんな様子を見て悟の顔のには笑みがこぼれた。
「確か商店街の薬屋はまだやってたな」
悟は走って商店街に向かった。
「いや~良かった良かった~」
数分後、悟は無事風邪薬を購入し薬屋から出てきた。
商店街の来た道を戻りながら悟は雫やコンのことを考えていた。
「・・・そう言えば魔族も風邪引くんだな」
この世界には人間と魔族。二つの種類の生物がいる。人間と魔族、見た目はほとんど変わらない。ただ一つの違いと言えば、魔族は人間にはない特殊能力を持っているという点である。例えばそれはコンのように獣や人間になれたり、例えばそれは雫のように覚醒すると世界を滅ぼす力を持っていたり。
しかし、魔族たちはその能力を無闇に使ったりはしない、普段は人間に成りすまし、人間に溶け込んでいる。もしかしたらいつも一緒に遊んでいる友達が実は魔族だったなんてことも実際にありうるのだ。
「・・・・ん?」
悟は前方から一人の少女が歩いてくるのに気が付いた。
この商店街は夜になると人取りが少なくなる。実際、悟が薬屋に行く際も誰にも会わなかった。そんな商店街で女の子が一人で歩いているなんて異常だ。
「・・・・!?」
そしてさらに異常だったのがその少女の風貌であった。金色に輝く髪に赤い瞳。そして、殺気に満ちた鋭い視線は一直線に悟を捕らえていた。
悟は少女が魔族であると察するのに時間はかからなかった。
「どうしたんだい?こんな時間に」
悟は優しく話しかけてみた。
「・・・・・・(ボソボソボソ)」
悟の耳には届かなかったが少女が何かを言ったのは分かった。
「ん?なにかな?」
再び悟は問うた。
「あなたに恨みは無いけど・・・・」
次の瞬間、少女は悟の懐に潜り込んでいた。早いとかそう言うのではなく、そこにいたのだ。
「死んでもらいます」
続けて少女がそう言うと腕から光の剣のような物が生えてきて、それを悟の心臓に突き刺した。
何とも言い表せない生々しい音が悟の脳内に響いた。そして、傷口からは大量の血が滝のように流れ出した。
「・・・・・」
悟は何もできないまま崩れ落ちて倒れた。意識などあるはずがなかった。
悟が死んだことを確認して少女は去って行った。