1話 日常
少し長い金色の髪の少年が学校の正門を通った。
ちなみに、衣替えをしたというのに、長袖のシャツを堂々と着て登校したりと、私立の高校に通う子どもにしては、いい度胸だ。
涼は靴を履き替えて、教室に向かった。
特にいつもと変わらない。
そして、教室のドアを開ける。
これまたいつもと同じ。
これは、日常に飽きてしまった少年、「日向涼」の高校生活1年目のお話。
「あ。涼ちゃんおはよー」
変わっているといえば、俺・涼の友達だ。
名前は「三隅悠斗」。
特に名前は変わっていない。
あ、お前は長袖じゃないのか。
裏切ったなこいつめ。じゃなくて、可笑しいのは俺のほうなんだが。
「またそんなもん読んでんのか、お前は」
「そんなものとは失礼だなっ!」
きちんと気崩さずに着た制服に眼鏡という外見。
現在進行形で、手に持っているのが教科書とかなら「超真面目キャラ」に見える。
しかし、悠斗が持っているのは・・・有名な美少女ゲーム小説。
「これおもしろいんだよぉ!この女の子が刀持って敵に切りかかるとこなんか、すっげぇかっこよくて・・・!」
「あー…朝からみっちり語らないでくれ…」
どすん、と隣の自分の席にかばんを置く。
うっかり、開けっ放しにしてしまっていたため、買ったばかりのファッション雑誌が床に落ちた。
あ、ページ折れた。
「おドジ。」
「つーか…それ何?」
「それ」というのは…先の美少女ゲーム小説の表紙になっている、おそらく主人公であろう女の子の下敷き、ペンケース、メガネケース、その他もろもろ…。
「買っちゃった☆」
「……」
ハマり込むと、とことん極めてしまう性格故に、悠斗のバックの中身はその少女一色だった。
普通の男子高校生ならキモイの、オタクは引きこもってろ、とかなんとかはやし立てたりするのだろうが、俺はそんなことはしない。言ってやめるような奴じゃないし。
むしろ、こういう常識を超越したやつがいるのが面白い。
こういうことを考えるあたり、俺も常識からかけ離れているんだろう。
まぁ、いいや。
「お前はホントにおもろいな」
「なにがー?」
ぷくーっと膨れるが、正直男がこんなことをしても可愛いとは思わない。
あぁ、このあたりは俺も他人と一緒か。
なんかつまらねーな、くそ。
「おもしれぇ顔…」
「むー」
「ところで、今週のジャンプもってるか?」
「勿論。」
さっ、と机の中からジャンプを取り出す悠斗。
他の雑誌も何冊か入っている。
山のようなアニメグッズを買ってもまだ、雑誌を買う金があるのか。
そんな金あるなら俺になんか奢れー。
「放課後までに読み終わるから、貸してくれー」
「おぅー」
そういって悠斗から借りたジャンプを読む。
これもいつものことだ。
あーぁ、またそうやっておもしろいとこで終わるんだよな、この漫画。
日常が日常すぎて面白みが無い。
「りょーぉーちゃーんー」
遠くで俺を邪魔する声がした。
しかし、ジャンプに集中したいので、当然のようにそれを無視する。
あれ、どこまで読んだ俺。
「りょーちゃんってばー」
「……」
なんだか声が近くなってきている気がしたが気には留めない。
あぁ、この漫画始まってから長いな。終わりはあるんだろーか。
いつも飛ばしちゃってるけど。
「りょーちゃん!」
「ッ!!?」
不意に目の前に、悠斗以外の顔が出てきた。
俺は驚いて、ジャンプを抱えたまま後ろに下がった。
「そんなにびっくりした〜?」
「…いつもいつも、急に出てくるなよ…」
「呼んだのになー俺」
急に沸いたのは、「小鳩晃」。
茶色のツンツン立てた髪の毛と、タレ目が印象的で、かっこいい。
ちなみに、これはクラスの女子からの意見である。
晃は大変悔しいことに、今とても女子に恵まれている。
巷じゃ、とっかえひっかえだの、二股以上のことをやってるだの色々聞くが、正直どうでもよかったりする。
漫画かなんかの設定ならよくあるが、こんなにモテる男はなかなかいない。
ってかこれも小説か。
まいったなまったく。
じゃなくて、ひとりぐらいよこせ、と晃に言いたい。
「それよりジャンプよこせぇー」
「だーれがやるかよ。俺んだバーカ」
「それ僕のなんだけど…」
こうして、いつものメンバーが揃った。
もとい、あと2人足りない。
「あのチビ二人遅いな」
俺が話を切り出す。
じゃなきゃ、一生ジャンプ狙われる。
「んー。そろそろ来るんじゃない?」
「あとちょっとで遅刻だぞ?」
ひょい、と窓から顔を出して、ぐるーっと学校を見渡してみる。
正門から遅刻ギリギリにすべりこんできた生徒がみえるが、その中には見つからない。
なんだ、休みか?
「りょぉー」
べしっと頭を叩かれた。
びっくりして頭を上げたら、首をおもいっきり窓にぶつけた。
あぁ、これも日常なのか…
「いってぇ…」
痛みに悶えていると、ウワサのチビの1人「須王理緒」がにこやかに笑っていた。
補足だが、ひねくれた俺の目から見てもこいつはかなり可愛い。
しかし、性格は死ぬほど黒かった。
こんちくしょう。なんでこう俺をイジる。
「朝からボケてるなー」
「遅刻ギリギリの奴にだけはいわれたくねぇな…」
「あはははー。顔青いぞアホー」
そりゃそーだ。
首ちぎれるかとおもったんだぞ俺は。
「お、おねーちゃん!意地悪しちゃだめだよっ!」
「意地悪じゃないの!愛情表現よ!」
満面の笑顔で笑ってるとこ悪いが、その顔をぶん殴ってやりたい。
でも、俺はそんなことはしない。
男が女に手上げるとか、反則でしょ。
っていうか…チビ2人揃ってたんだな。
あぁ、言い忘れてたけど、こいつら姉妹は双子なんです。
これまたおもしろいっしょ。
「で、でも、涼くん痛がってるよっ!」
「アンタこんなのも見抜けないの!?フリにきまってんでしょ!フ・リ!」
「そーそー、騙されちゃいかんよー」
「っていうか、涼も演技巧いね。舞台俳優とか目指しちゃえば?」
…なんというやつらだ。
本気で痛いのに…。
でも、チビ2。もとい「須王奈緒」。
お前、可愛い上にいい奴だな…。
知ってたけど。
「お前らあとでボコってやる…そしてジャンプは返さん…」
「うあー、涼くんこわぁーい」
「普通にそれは返してね」
そんで、ギャーギャー騒ぐ俺らは散って、ホームルームが始まるわけだ。
これもまた日常…か。もちろん首の痛みはイレギュラーだが。
しかし、つまらん。
なにかおもしろいことは起きないものか…。
△あとがき△
はじめまして。
この物語の主人公以上にひねくれているかもしれない作者、「なたこ」と申します。
初めての連載に不安いっぱいですが、どうぞよろしくおねがいします。
涼君視点の文章が続いておりますが、最終回までもちろんこのままです。
至らぬ点が多々あるかと思われますが、暇つびしにでも読んでいただけたならば、飛び上がって喜びます。