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で、彼女は自分の子供が死んじゃったって思ってるから死にたいって依頼があってね~。どーしよっかなーって考えてたらおにーさんたちから人殺したいって依頼があったし、丁度いいやって。僕はさらに問う。じゃああの少年を選んでたら?少女は靴をはきながら言う。それはそれで上手くいってたよ。そして、一言言い残して去っていった。でもおにーさんたちはあの子を選ばないと思ってたよ、だってほとんど死人なら殺せないじゃん。僕らは拍子抜けした気分で部屋に戻った。相変わらずの惨劇。結局はやつの一人勝ちじゃねーか、と彼が愚痴る。
しかたないさ、と僕は言う。そしてだらだらと後始末を行った。ごみはごみ箱に、包丁は台所に、肉は冷蔵庫に。掃除し終えた頃には僕らは疲弊しきっていた。身体的にも精神的にも。しかし、状況は依然と何も変わりはしなかった。後日彼女から振り込み用紙と、一言だけ書かれた手紙が届いた。『何よりもお金が好きなの』彼女が圧倒的勝者だというのは、彼女以外は誰も損をせずかつ得をせず、しかし彼女のみが莫大な利益を得たという点にある。僕らは確かに願いは叶った。しかし、叶わずとも良かったしあるいはいつかは叶っていただろう。
だから得失は無い。ただ願いは成就したので、とりあえず彼女への不満や憎しみはない。感じるのは圧倒的敗北感とあきれた気持ちである。予想外の大嵐が来襲しあっと言う間に通りすぎて後には何もなかったような、そんな心地である。死刀はまるで遊ばれたかのように思いひたすら怒りを隠せないようだが、僕はどうでも良い。金を振り込んだ。死刀はまたふらふらと旅に出ていった。中東に行くらしい。物騒な地域に行き物騒なことをするのだろう。木を隠すなら森。また会おうと言い残していった。
それ以来、僕はまた以前と変わらない日々を過ごしている。再び部屋はわけのわからない人間のたまり場になり、ただ時々僕が人を食べるというくらいである。宵闇人形に依頼したりしなかったり。結局、何も変わることなく、成長も前進もできやしない。僕が学んだのはそれだけだった。其れはそれで、まあ、いいんじゃないかって思っている。