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すでに悲しみの表情は無い。ただ無気力な透明さだけが残る。彼女は最後食器を洗い、片付けてくれた。さて。くつろいだ雰囲気の中彼がきりだす。あなたは、どうしたいんですか?彼女は静かに、囁く。安らかに。僕は考える。どうしたら苦しまずにすむだろう。確実に、しかし、穏やかな死。そして確実さは彼が、穏やかさを僕が提供することとなった。考えてみれば、この行為は皆が望みを叶えられるのである。彼女は死を、僕は食物を、彼は殺人と言う行為の達成を手に入れる。そこには一切の罪悪感はない。僕は彼女に睡眠薬を手渡す。
出来るだけ心地よい眠りが訪れるよう整えた寝台を貸す。十分量薬を飲んだ彼女はやがて眠りについた。腕をひっぱっても反応が無くなった頃、彼は手入れの行き届いたサバイバルナイフを彼女の首に宛てた。鈍い音。鮮血。僕は手についたものをなめてみた。彼は次に完全に息絶えた骸の各所を裂き、切り、刺し、えぐり、潰し、ちぎって、彼女を壊して言った。腹部にさしかかる。突如電話がなる。相手は宵闇人形と呼ばれた少女である。僕の部屋の前におり入れてほしいとのこと。当然、電話の音すら彼には聞こえていない。しかたない。
僕は迷った末招き入れた。少女はまるで普通の高校生のような格好をしていた。やや茶髪気味の髪、プリーツスカートにベストとブレザー。紺のスポーツバッグを小脇に抱え黒のローファーをはいて立っていた。ちわーす、と挨拶をする全てが普通すぎて不自然に思われる。そのとき、ぎゃーという動物の鳴き声のようなものと次いでうわっという死刀の焦った声が聞こえてきた。何だ?僕は急いで戻ろうとした。が、それより先に少女が部屋に入っていった。そしてそこで見た物は…不思議な光景だった。
真赤な部屋にナイフと殺人鬼と死体と…赤ん坊?もう呆然と立ち尽くす。少女が動いて、赤ん坊を彼の手から奪い、タオルでくるんでからスポーツバッグの中に大事そうにしまった。もらっていくよーん、軽いのりで言う少女。死んでいたのでは?と僕が問う。にこやかに彼女は言う。実は死んでなかったのでーす!彼女の旦那の両親は血のつながりのある跡継ぎが欲しくて、でも彼女が育てるって聞かないから、両親から子供をとってくるようにって依頼があったのでーす。