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鞄からビニールシートを取り出し広げる。狭い部屋が青に染まる。準備をしながら少女は話す。彼女ねー両親無くして病気の弟さんの手術代のために死ぬの~。少女の邪魔にならないよう部屋の隅に移動しながら女性を見やる。彼女は少女にうなずきながらも面白そうに笑っていたが、僕の視線に気付くと困ったような表情をした。泣けるよね~。少し、いたたまれない気持ちがした。はあーい、おっけ、解体ショー初めまぁーす!少女が果物ナイフほどの刃物を手に持っていつの間にやらビニールのエプロンまで付けてこちら、女性の方を向いた。
女性が少女に近づく。後はあっというまだった。本当に、あっというまに。人が、こんなに簡単にばらばらになるとは。少女は鋸やら金槌やら見たことのない物まで様々な道具を使い、とにかく血が、紅い、海が。タッパー、ラップなど色々な入れ物やらに入れられ女性は冷蔵庫、冷凍庫に収まった。少女はエプロンを外しシートにくるんで、それを黒いビニール袋に入れた。血が一滴も垂れない様はさすがにプロである。おーわった、と使い終わった消臭スプレーをしまう。僕に目をやる。じゃあお金もらいまーす。小さい手は真っ白で、細い。
呆然としている僕。おなかがぐぅとなる。少女が、笑い、僕を座らせると肉を焼いて出してくれた。味付けはシンプルに塩胡椒のみ。空腹に至福の旨さが染み渡る。百グラム位だろうが、空腹の後だからかすぐに満腹を感じた。食べ終わるとようやく理性が戻ってきた。少女にありがとう、とお礼を述べる。そして金を渡す。いえいえ、どーいたしまして。少女はそれを受け取ると帰ろうとした。彼女の弟さん、助かるのかな?背中に疑問を投げる。くっくっ、と少女は肩をふるわせる。それ信じたのぉ~?じょーだんだよー。
はぁ?脱力。少女はこらえきれなくなったのか、どっと笑う。じょーだんだってばー、そんなの在るわけ無いじゃん~。目に涙を浮かべて。じゃあ何故?だってぇードラマ仕立ての方が楽しいじゃないー、殺るのも殺られるのも見てるのもー。何も言えない。全くわからない世界。あれは只の自殺志願者だよ~、自分じゃ死ねないからって依頼を受けて殺したの~、あっちのが高くつくんだよーん。力が抜けて僕は座り込む。何故だろう。安堵?じゃあねーばいばーい。そう言い残し彼女は去っていった。不意に笑いが込み上げてきた。とんだ茶番だ。
人を食べときながら、殺人を目にしながら、しかし何も思わないのに、何を安堵しているのだろう。疲れた。ため息をつく。一眠りしようと部屋に戻り横になった。この部屋で解体が行われたのだ、としみじみ思う。全て目前で見ていた。しかし、実際は何も見ていなかったのだと思う。思い出すのは小さく白い手と赤い。目覚めると三時間程経っていた。おそよう。後ろから声をかけられた。振り向くと、顔に冷たい物があてられた。寝起きにそんなことをされ、僕は憮然とした表情をしていたのだろう。相手は笑い声をあげた。アイスだよ、食べな。