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6 の続きでこんなおわりもあったかもしれない、という話。
冗談。まるで漫画だ。もしくはB級映画。少女は長い袖を揺らす。逆巻く風は厳しく流血の灯火に被る。宵闇人形のつぶやき。死刀と呼ばれた彼は言う、殺したい、単刀直入に。どなたをとさえずる。さあ。ジャアワタクシヲ?知らない。しらない。シラナイ。暗転。真昼の夜空。星屑。つまり、どうやら昏倒していたらしい。気が付くと自分の部屋にいた。誰もいない、充満した死臭、生き物は死に絶えた、あるのは、ただひからびた食料。あのさ、と呼びかける。転がっている彼の首。起きろよ。拾い上げる。両の手のひらにずしりとした重量感。
魂が入っていたらもっと重かったのだろうか。顔の高さまで持ち上げる。どうして?ばらばらに散らかった四肢。解らない。不意に背後から声がした。アナたガころシたノ。宵闇人形。振り向くことはなく、ただ一心に見つめる。アなタガ。どうして。あナたガ。どうして。アたシが。手から彼が崩れ落ちた。アナタハアタシ。さらさらさら。アタシハアナタ。当然のごとく部屋には誰もいなかった。何もなかった。がらんどうとしたワンルーム。引っ越しの後の様な。傷のついたフローリング。カーテンのない窓。周囲には埃がたまっている。それで?
僕は自分の両腕を確かめる。傷一つない?滑らかな白く細い、腕。腰にまとわりつく碧く長い髪。うざったいと姿勢を変えると寝巻き代わりの色あせた白い長襦判が乱れ、ちらり見え隠れする内腿にえぐれた傷跡。何が本当?僕は誰?アナタハアタシ。アタシハアナタ。知らない、何も、知りたくない。見たくない。聞きたくない。ここはどこだろう?少し混乱してきた。落ち着こう。深呼吸。大きく息をすい、ゆっくりと吐く。真実を知りたい?知りたくない。しかし、知らなければ。そのためには…、目を開こう。盲目の天使の失墜は近し。
閉ざした目を開け耳を澄まし心を開く。そう僕は今まで何も見てやしなかった。聞いてはいなかった。すべてを拒否し受け入れず知らない振りをしていた。ただ鋭敏で愚鈍な嗅覚のみが真実に触れ死臭をとらえていた。広がるのは悪夢のような世界。すべてが白い。壁も天井も扉も窓もカーテンも床もたんすもクローゼットも。そして僕の横たわる寝台と僕の着ている夜着までも。私の手足は縛られて固定されて居り、微かにうっ血しております。長く蒼く美しかった黒髪は僕が頭を動かす度に白い寝台の上にさらさら流れていく。
やがて僕は真っ白なこの部屋が、その実、深紅に染められたものを白で上から隠しているにすぎないと悟る。おびただしい量の鮮血。私の許容量はとおに越えておりますれば。扉が開かれる。誰かが入ってくる。両手を振りかざし、銀に光る刃をまっすぐ私の胸に下ろし深く刺す。痛くなど、ない。血が出ることも、なく。ただの、人形。ただ月光が微かに差し目にしみて、少し悲しかった。