ACT:2 エルフの森
平野から西にある森へと入ったクラウンとナルヴィ。二人はその森で休憩する事にするが、クラウンがその森に対して疑問を抱く。
クラウンとナルヴィは平野を抜け、西にある森に入った。
「やっぱ森は落ち着くね」
ナルヴィは誰に言うでもなく呟く。クラウンはただ前を見て歩いていた。
しばらく進み、クラウンとナルヴィは食事を取るために、あまり草の生えていない空間に腰を下ろした。
クラウンはポーチからナイフを出し、背負っている弓に弦を張った。
「今から狩ってくる。ナルヴィはここで荷物を見ていてくれ」
ナルヴィはそう言って踵を返したクラウンの背中に、手を振った。
「じゃあ僕は薪になる枝でも集めてようかな」
ナルヴィは置いてある荷物中心に、落ちている小枝や燃える物を、片っ端から集め始めた。
クラウンは少し歩き、そして立ち止まった。
(なにか変だな、この森)
そう思いながら辺りを見渡す。どうやら目当ての獲物はすぐに見つかったようで、地面には落ち葉が敷き詰められているにもかかわらず、クラウンは音も立てずにその獲物に走り寄った。
クラウンが見つけたのは、大きな鹿だった。その鹿の背後に回り、弓に矢を番える。そっと弓矢を引き絞り、そして放った。
クラウンが放った矢は見事鹿に命中し、矢が足の筋肉に刺さった鹿は思うように動けなく、悲鳴を上げている。
クラウンはその鹿の首を掴み、そこらへんに落ちていた握りこぶしほどの石で、鹿の頭を三回殴った。頭蓋骨が壊され、鹿は一瞬にして命を落とす。
死んだ鹿を背負い、弓を片手に持って、無表情のクラウンはナルヴィのいる空間へと戻った。
クラウンが戻ってきて最初に見たものは、山盛りの小枝や落ち葉に押しつぶされてフガフガやっているナルヴィだった。
「……大丈夫か」
決して助け出そうとはせず、クラウンはナルヴィに話しかける。ナルヴィは怒ったようにフガフガ言い、翼をばたつかせて落ち葉を吹き飛ばす。
「大丈夫そうだな」
クラウンは楽しそうに言い、またフガフガ言い出したナルヴィをよそに、自分は鹿の毛皮をはぎ、解体に入った。
しばらくして小枝や落ち葉からもぞもぞと抜け出したナルヴィは、彼の手でも十分振りまわせるほどの小枝を手にクラウンに迫った。
「せめて助けてくれたっていいのにさぁ!」
そういいながらクラウンをつついたり叩く。クラウンは笑いながらそれらの攻撃をものともせず鹿を解体する。
鹿を解体し終わったクラウンは、ナルヴィの小枝を取り上げ、山盛りの小枝や落ち葉の方に投げた。
「まったく、相変わらず子供だな」
「子供だけど、そういう言い方するな!」
ナルヴィは今度は自らの拳でナルヴィをぽかぽかと殴る。
「まあ、そう殴るな。鹿をどう料理してほしい?」
ナルヴィは殴るのを諦め、鹿の肉の塊を睨みつけた。
「そうだなぁ。半分は今日の焼肉。半分は非常食」
クラウンは鹿の体半分に値する肉の塊を脇に避け、もう一つの塊を均等にスライスすると日の当たっている木の枝にぶら下げた。
「獣が狙いに来なければ、非常食は確保。半分は焼肉だな」
もう一つの肉の塊を更に小さく切り、それを丁度いい長さの枝に刺し、土の上で火を起こしてそれをあぶりはじめた。
「さあ、あと子一時間で食事だ。その間に話しておきたい事がある」
クラウンは急に真面目な顔になり、ナルヴィを困惑させた。
「な、なにさ?」
クラウンは辺りを見渡し、ナルヴィに視線をもどして、口を開いた。
「この森は、様子がおかしい。森エルフが住んでいない」
しばらくの間、ナルヴィはその言葉が何を意味するのか解らなかった。