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クラウン  作者: 空城誠
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ACT:9 神界


 彼女の目には、涙が溢れている。

 僕はどうすることもできず、彼女が泣くに任せている。



 彼女が泣くのは、当然だ。やっと生まれた最愛の息子達の、未来を言い渡されたのだから。






 邪神ロキは、いつものようにヘイムダルの所へと遊びに出かけた。その際、二人の息子を連れて行っていいかシヴに頼んでみたが、ダメだと言われたのだった。

「やあ、ヘイムダル。気持ちのいい朝だね」

 ロキが話しかけてもしかめ面を崩さないヘイムダルは、ただ一回頷いただけで、また遠くを見始めた。

「なんだよ、つれないなヘイムダル。 あ、そうそう、この間やっと息子が生まれたんだ! 君に見せたかったんだけどね、シヴがどうしてもダメだって」

 ロキはヘイムダルの横に座り、青い空を見上げる。

「……アングルボダには、逢ってやっているのか?」

 ヘイムダルの、その短い質問で、ロキは一気に青空を眺める気分ではなくなった。だが、それでもヘイムダルの横に座り続ける。

「アングルボダには、逢ってやっているよ。三人の子供達にも、逢ってやりたいんだけどね、どうにも逢えなくて……。ヘイムダル、君なら、見れるのかな? ボクが見れない子供達のことも」

 ロキがそう呟いても、ヘイムダルは聞こえなかったようなフリをした。ロキは苦笑を漏らす。

「――あーあ、ヘイムダルなら違う未来が見えると思ったんだけどね。未来は一つしかないよねぇ……。それじゃあ、ボクはこれで失礼するよ。家事の手伝いをやらされる事になったんだ」

 ロキはそう会話を打ち切ると、さっと立ち上がり愛しい妻と息子達の居る我が家へと、帰ろうとした。

「ロキ……。見える、違う未来が。感じるのだ、ノルンの詠んだ未来の調とは、違う調を。ただ、それはまだ靄の中にいる。どうなるかは、お前次第と言う事なのだろう……」

「……ありがとう、ヘイムダル……。そうか、ボク次第、か」

 ロキはヘイムダルに一礼を送ると、足早にその場を立ち去った。

 後に残されたヘイムダルは、心配そうに、ロキとその未来を見つめていた。



 

 


 家に帰ったロキは、ヘイムダルに言われた事は誰にも喋らずに、ただ黙々と、いいお父さんを演じようと努力を始めた。






 二人の息子が大きくなっていくにつれ、オーディンはロキの動向を探るようになっていった。ロキは監視されている事に気が付きながらも、未来を変えようと奔放していた。



 神界に住まう神々は、ロキの二人の息子を街で見かけようものなら、できるだけ係わらないようにと遠ざけていた。



 二人の息子――ナリとナルヴィは、誰とも仲良くならないまま、段々と大きくなっていった。そして、ある日のこと。とうとう二人はそんな生活に耐え切れなくなって、神界を飛び出して、人間界へと降りていった。


 そして、クラウンと出会ったのだ。


 クラウンは、二人にとても重要な事を教えてくれた。


 ――自分たちの、未来だ。


 


 神界に戻ったナリとナルヴィは、その事が本当かどうかを、父であるロキに問いただした。するとロキは、降参したかのように二人の未来を語ってくれた。

 そして、ヘイムダルに言われた事も。


「僕は鎖になって、父さんを苦しめなくてすむ!」


「僕は狼になって、母さんを苦しめなくてすむ!」


 その日から、二人は未来を変えるためにロキと一緒に翻弄した。だが、それでも未来は変わってはくれなかった。




 ロキが、間接的だとしても、光の神バルドルを殺してしまったのだ。




 オーディンは自分の息子が殺された事に嘆き、同時に未来を捻じ曲げるべく、ナリとナルヴィを呼び出して、ナリの体と心を引き離し、体は死者の国女王ヘルへと預け、心をナルヴィの中に閉じ込め、挙句の果てに人間界へと追放してしまった。しかも、使える魔法を制限するために、妖精という姿に変えて。



 その事に気が付いたロキは、慌ててオーディンに異議を唱えようとしたが既に遅く、ナルヴィは人間界へと追放され、しかも何処かへと行ってしまった後だった。




 ロキとシヴは嘆き哀しんだ。それでも、なんとかロキとアングルボダの娘であるヘルからナリの体を取り返し、ベッドへ安置した。しかし、魂の無い体はからっぽの入れ物に過ぎず、軽い食事などはとれるものの、起き上がるにはいたらなかった。

 しかも、ナルヴィの動向が全くわからない。今息子が何処にいるのか、何を思っているのか全く解らない状況が、数年続いた。



 シヴは……彼女は、二人の息子が生まれ、未来を聞かされたときのように泣いている。

 ボクはなんにもしてやれない。

 


 ただ、自分がなにもしないように、行動を制限するだけだった。









 

 ある日、ロキがオーディンに呼び出されてヴァルハラ宮殿へ赴いたときだった。急にオーディンが血相を抱えて世界を見渡せるという椅子に座ったかと思うと、そのまま凝固したように動きを止めたのだ。ロキがオーディンの容態を確かめようと額に触れると、ロキにナルヴィの力がほんの僅か流れてきた。


「ナルヴィの変身魔法が……解かれようとしているのか?」


 ロキは咄嗟にそう判断し、オーディンの隣に居るのにもかかわらず、ナルヴィの魔法の力を頼りに意識体だけを人間界へと送り込んだ。途中、ナルヴィの魔法の力は、エルフ独特の魔法陣によって守られていたが、その方がロキには都合良く、ナルヴィが居るであろうその場所へ辿り着く事ができた。

 そして、ロキが目にしたのは、ダークエルフ、ライトエルフ、森エルフ全ての特徴をその身に宿している、エルフの青年だった。


「君が、ナルヴィと共に生きてくれている者か――?」


 思わず、そう話しかけてしまった。しかし、エルフの青年はゆっくりと頷き、警戒している感じはしない。しかし、彼の考えている事は解った。今から、森エルフを助けるために、人間の王に一泡吹かせようとしているわけか。


「そうか。ナルヴィがお世話になっているね。オーディンの件は、ボクがなんとかしとこう。思う存分戦ってくるといいよ。どのエルフの種族とも属せないエルフさん」


 そう言って彼の肩を叩こうとしたが、そういえば自分は意識体だった、ということを思い出し、手を引っ込めた。それと同時に、もとの姿に戻ったナルヴィが、こちらに振り向こうとしていたので、そっと、人間界を離れた。

 



 オーディンに訳を話し、一時的に元に戻る事を許可してもらった後、ロキは急いで家へと戻り、シヴにナルヴィは元気だったと教えてあげた。

 シヴはとても喜び、今までの事が嘘かのように、元気になった。














 これ以上はまた、別の物語。

 いつかまた、話すとしよう。

 

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