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女神の姉と天使の妹  作者: 南条仁
女神の姉と天使の妹
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第8章:天使の罠、女神の逆襲?

【SIDE:宝仙蒼空】


 僕はこれまでそれなりに修羅場を潜り抜けてきたつもりだ。

 だが、これほどのピンチは久しぶりだった。

 

『天使のチューは誰のもの?真昼の中庭で禁断の兄妹愛が明らかに!!』

 

 学校新聞に掲載されたのは義妹の夢月が僕の頬にキスしている写真。

 この写真が噂を呼び、彼女のファンに恨まれて僕の命は風前の灯状態。

 何がマズイかと言うと、この新聞には夢月のコメントが載せられているんだ。

 

『チュー?確かにしたよ、私は蒼空お兄ちゃんが大好きだもんっ。禁断の愛?禁断って響きがいいよね。しちゃいけないって言われたら余計にしたくならない?』

 

 疑う余地もなく、夢月自身のコメントだった。

 こんな事を言うのはアイツくらいで、新聞部の捏造というわけでもなさそうだ。

 

『キスなんて毎日、朝と寝る前にしているし。珍しいことじゃないよ』

 

 捏造なのはアイツのコメントそのものだけどな。

 誰が毎日キスしてるんだ、夢月も冗談にしては“たち”が悪い。

 つまり、写真やネタを売ったのも彼女という事だろうか?

 

「はぁ……ちくしょう、夢月には会えない。これもアイツの作戦か」

 

 夢月は携帯電話は切り、情報すらなく行方をくらませて連絡が取れない。

 あ、ちなみに今、僕がどこにいるかというと屋上へと向かう階段に隠れています。

 ここは滅多に誰も来ない、屋上は鍵が閉まって入れないからだ。

 せっかくの昼休み、僕は飯を食べるどころか、色んな方々に追われている。

 最後のこのコメントが僕が追われる決め手になった。

 

『私はお兄ちゃんとラブラブなお付き合いしてるから、皆、見守ってね♪』

 

 この一言がなければ僕の寿命はあと10年は長生きできたであろう。

 つまり、僕は彼女のファンの全てを敵にした。

 追われる身となった僕は必死にこうして隠れている、放課後は全力で帰る事にしよう。

 

「あとで夢月に口では言えないお仕置きしてやる」

 

「……へぇ、お兄様は夢月にそういうプレイもしているんですね」

 

「いや、プレイなんて人聞きが悪い。これは復讐なんだ……って、え!?」

 

 僕はビクッと身体を震わせて後ろをゆっくりと振り向いた。

 

「ようやく見つけましたよ、お兄様……説明してもらいましょうか?」

 

 身体を芯から凍らせていくような冷たい言葉。

 振り向かなかったらよかったのに。

 そこには僕の知らない女神がいたんだ。

 寝起きよりも怖い顔で星歌が笑っているんだ。

 怒ってる女の子が浮かべる笑顔って……マジで怖いんだよ。

 

 

 

 

 屋上の鍵は既に錆び付いて壊れていたらしく簡単に開いた。

 僕は星歌に連れ出されて初めて高校の屋上に出た。

 引っ張り出されて、僕は夏の太陽にご対面する。

 星歌に尋問された僕はひどい目にあっていた。

 僕の目の前には悪夢の原点、学校新聞の最新号が……。

 

「……つまり、この新聞に書かれていたのはデマであると?」

 

「はい、全く持って事実無根であります」

 

 初夏の涼しい風も今の僕には暑苦しい熱風にすら感じる。

 これぞまさしく蛇に睨まれたカエル状態だ。

 

「朝、友人からこれを見せられた私の気持ちが分かりますか?とても、辛い想いをしたんですよ。思わず、自分の机を壊しそうになるくらいに」

 

「ぼ、僕だって知らない。記憶にはございません。これは罠だ、夢月の罠なんだよ」

 

「本当に……?私に嘘をついてもいい事はありませんよ?」

 

「僕は真実のみを話す、僕は無実だ。よく考えてみろよ、僕は学校の奴らに追われる立場なんだぞ。そこまでして、彼女との噂を流す意味がない」

 

 言い訳なんてさせてもらえる状況ではなさそうだ。

 

「私はずっとお兄様の事を信じていました」

 

「それは光栄だね。僕もキミを信じているよ」

 

「でも、お兄様は私の信頼を裏切りましたね。ひどいです、失望しました。これに書かれているように、夢月と毎日キスしているとか……?」

 

「してません。そんなことは全くありません」

 

 そんな羨ましい生活は送ってないぞ、ホントだ。

 しかし、目の前には動かぬ決定的瞬間というか証拠があるんだよ。

 

「でも、この写真ではキスしていますよね?」

 

「これは事故というか、この時が初めてだったんだよ」

 

 昨日のキスの代償がこれほどだとは思わなかった。

 僕は妹にギリギリと胸を締め付けられるような威圧感で責められつづける。

 星歌が子供の頃から怒ったところは……。

 あぁ、出会った当初はこんな感じだったっけ。

 それ以来だから、数年ぶりにみるな……って、のん気なことは言っていられない。

 

「……私だってまだなのに」

 

 ぼそっと小声で彼女はその言葉を悔しそうに囁いてみせる。

 

「まだ?それは何の話?」

 

「いぇ、別に。……お兄様の裏切り者。妹に手を出すなんて鬼畜です」

 

 失望に満ちた表情を浮かべて、僕を見下ろす彼女。

 痛い、普段のあの可愛い妹がキレたら怖いと体感する。

 

「夢月とキスしたのはこれが初めてだと言いましたが、唇とのキスは既にしているんですか?」

 

「き、キス?告白された事は何度かあるけれど、僕にこれまで恋人はいないよ。ホント、これはマジです。ファーストキスもしたことないから」

 

 18歳の男としてどうよ、と言われてもかまわない。

 僕は意地もプライドも捨てて、星歌に全てを説明し尽くした。

 

「ファーストキス……まだ、なんですか?」

 

「まだなんです。唇のキスはまだだから、本当に違うんだ。僕を信じてくれ!」

 

 すがるように星歌に言葉を放つと彼女は黙って頷いた。

 

「わかりました。今のお兄様が嘘をついているように見えませんから……」

 

 そっと僕の頬に手を触れさせて優しく語り掛ける。

 おお、星歌に後光がさしているようだ……まさに女神様。

 ……僕はと言えば、妹に跪いている情けない格好だけどな。

 

「ごめんなさい、お兄様……。私、頭に血が上ってしまったみたいで。お兄様にひどいことをしてしまいました。本当に反省しています」

 

 シュンっとうな垂れる様子、先ほどの怒りは冷めてくれたようだ。

 という事で、改めて僕らはその新聞を眺めて対策を考える。

 

「これが夢月の暴走ならば、双子の姉として許せないですね。よりにもよって、お兄様の命をおびやかすなんて言語道断です」

 

「……そうだね」

 

 キミも僕を同じような目に合わせていたのは……あ、いえ、何でもないです。

 僕が前日の状況を踏まえて説明をすると、星歌は思考を働かせる。

 

「あらかじめ、新聞部とは話がついていたんでしょう。お兄様を困らせるのが目的だと推測できますね。ホント、あの子の悪戯好きには困ったものです」

 

 星歌はそう言うけれど、夢月は僕にこういっていたんだ。

 

『私は前から考えていたの。どうすれば、お兄ちゃんを手に入れることができるのか』

 

 つまり、あの告白から変わらない僕らの関係を変えたかったのではないか。

 

「……お兄様?どうしたのですか?」

 

 夢月の件は星歌に黙っている事にしよう、余計に話がこじれそうだ。

 

「どうすればこの噂を消せるかなって。とりあえず、夢月を捕まえて認めさせるのが早いか?それとも、新聞部に乗り込むべきか……」

 

「……新聞部?そうですよ、お兄様。その案、いいです」

 

「え!?ま、マジで殴りこみをかけるつもりか?早まるな、星歌」

 

「はぁ。お兄様……そんなワケがないでしょう」

 

 星歌は僕を呆れてみながら、深呼吸する。

 

「私に提案があります。少し、目を瞑ってくれませんか?」

 

 僕は言われるがままに瞳を閉じて、星歌の指示を待つ。

 

「ジッとしていてくださいね。絶対に動いちゃダメです」

 

 そう言われたら気になるので、薄めで辺りを見渡すと……。

 

「……んぅ」

 

 唇を可愛く尖らせて、星歌が僕にキスをしてきたんだ。

 え、あの……これはどういう意味が?

 

「……んっ……ふぅ……」

 

 星歌は僕の唇に触れる限界で止めてお互いの息が当たる。

 ……このままキスしちゃうのか、ついに僕の人生初キスの瞬間が!?

 現実は僕の希望とは違い、カシャという音が聞こえて僕は目を見開いた。

 

「あの……終わりましたよ、お兄様」

 

 僕の意気込みは叶わず、キスは未遂に終わったらしい、ちくしょーっ。

 それでも恥ずかしいのだろうか、顔を真っ赤にさせる星歌は僕に携帯電話を見せる。

 そこにはキスしているように見える写真が写し出されていた。

 

「これでいいはず。私に任せてください。お兄様を守ってみせますから……」

 

 さすが女神、言う事がカッコいいな……妹に守られる兄ってどうよ。

 自信を持って告げると星歌は屋上から去っていく。

 

「キス未遂……一体、あれは何だったんだろうか?」

 

 僕は置いてけぼりにされて、ぼーっとしながら屋上のフェンスから下を覗いた。

 偶然こちらを見ていた男達と目線が合う……あっ。

 

「ん……おいっ、宝仙が屋上にいるぞ!皆、捕まえろ!!」

 

「しまった、見つかった!?逃げるしかないっ」

 

 僕は再び逃避行を続けて、結局、放課後になるまで安息の時はなかった。

 

 

 

 

 放課後、無事に家に帰れた僕は星歌と夢月の帰りを待っていた。

 星歌の取った行動は意外なモノで僕を驚かせた。

 

「……星歌、どうしてあんな事を?」

 

「私だって、お兄様の妹です。夢月ほどではなくても、皆に認めてもらいたい気持ちはありますよ。……あっ、もうすぐ夢月が帰ってくると思います」

 

 双子の直感というべきか、そう言ってる間に家に夢月が駆け足で帰ってくる。

 廊下を大きな音を出して走ってリビングに現れた。

 

「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃんーっ!」

 

 かなり動揺した様子で僕を見つけるやいなや、飛び込むように抱きついてくる。

 顔色は真っ青というか、既に涙も潤んでいるようだ。

 

「……こ、これはどういう事なの!?」

 

 僕に見せ付けたのは一枚の紙だった。

 そこには『号外』と言う文字と『女神の激白、これが真実!?』という見出し。

 さらに、昼に僕らのキス未遂をとった写真も載っていたんだ。

 これが星歌の考えた夢月へのお仕置きらしい。

 あの後、新聞部に向かった彼女は部長と交渉して、号外を出してもらったそうだ。

 それを放課後に皆に配られて、事態は1つの終着を迎えた。

 

「お兄ちゃんとお姉ちゃんがキスしてるなんて嘘だよね?ねぇ!?」

 

「残念。そこにあるのが真実よ、夢月。認めなさい」

 

「いやーっ、私は認めない。こんなの認めたくない!」

 

 夢月の叫ぶ理由は文面を読んでみたら理解できた。

 

『キスは兄妹愛の証です。お兄様にキスするのは私にとって、当たり前のこと。私は彼を慕っていますし、何よりも彼も私を可愛がってくれていますから。夢月の事はただの妄想、“私のように”キスしてもらって浮かれていたんだと思います』

 

 星歌と夢月、発言力の違いがこういう場所にも現れた結果だ。

 これで、僕と夢月の交際説はぶっ飛んで(元から誰も信じてないようだ)、星歌と兄妹としての仲のよさを見せ付ける結果になった。

 特に夢月には写真がよほど堪えたらしい……。

 

「夢月が最初に仕出かしたことでしょう。お兄様の人の良さに付け込むなんて、何て事をするの?お兄様を困らせた反省をしなさい」

 

「私はお姉ちゃんみたいに唇にチューしてないもんっ!」

 

「あら、そうなの?……ふふっ」

 

 姉の余裕の微笑みがさらに夢月のハートに火をつける。

 

「な、何なのよ、その笑みは!?お兄ちゃん、ホントにチューしたの!?」

 

「さぁ、どうでしょう。お兄様と私だけの“秘密”だから言えないわ」

 

「秘密って何?もう、何なのよーっ。うわぁーん」

 

 僕は妹達に深い溜息をつくしかできなかった。

 それにしても、星歌が僕に対して兄妹愛なんて言葉を使うくらいに慕ってくれているというのは嬉しい事だと思う。

 その日の夜、僕らは久しぶりに3人で寝ることになった。

 夢月が僕らを監視する意味も込めて提案したんだが、たまにはこういうのもありかな。

 寝る寸前まで楽しそうに会話する双子、先ほどの険悪さは微塵もない。

 姉妹は喧嘩してもすぐに仲良しというのだろうか。

 めでたし、めでたし……なんていうほど、人生は甘くないのだ。

 

 

 

 

 翌日、僕は夢月のファンだけでなく、星歌のファンにまで追いかけられるはめになった。

 他人にとって羨ましい僕らの兄妹関係、あえてこの痛みは受けよう。

 

「……待ちやがれ、宝仙!覚悟しておけっ!!」

 

 あ、嘘です、ごめんなさい。

 

「あっちに行ったぞ、追えっ!」

 

 ……やっぱり無理だから逃げます、さよならっ!

 

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