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女神の姉と天使の妹  作者: 南条仁
女神の姉と天使の妹
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第7章:天使は悪戯が好き

【SIDE:宝仙蒼空】


 窓から差し込む太陽の光、爽快な目覚めだ。

 僕はリビングでモーニングコーヒーを飲みながら優雅な朝を満喫していた。

 

「……朝からコーヒーというのもいいなぁ」

 

 コーヒーカップには黒く揺れる液体、高級感漂うコーヒーの香り。

 僕はコーヒーは無糖派だ、ハードボイルドに憧れているから。

 コーヒーの程よい苦さと芳醇な味わい、なんと贅沢なんだろう。

 

「……ねぇ、ご飯にコーヒーって食べ合わせは最悪じゃない?」

 

「それを言うな、妹よ。めっちゃ、マズイに決まってるだろ」

 

 できれば、コーヒーは単品でお願いします。

 しょうがないじゃん、我が家の朝は和食なんだから。

 僕だってたまには洋食を作ってみたいのに、作っても反対されるんだ。

 

「はい、素直に緑茶にしておいた方がいいよ」

 

 夢月が僕に緑茶の入ったカップを手渡してくれる。

 

「心遣いに感謝する。ふぅ……やはり米にはお茶がベストマッチだ」

 

「そんなに感動することでもないと思うけど。お兄ちゃんって時々、変だよね」

 

 義妹に変扱いされた僕ってすごく悲しい。

 

「そんな事を言うなら夢月に最重要任務を与えよう。双子の姉を起こしてきてくれ」

 

「えーっ!?無理、無理だって……」

 

 拒絶反応も織り込み済み、僕は妹に指令を与える。

 ……ホント、星歌の寝起きの悪さはどうにかして欲しい。

 

「嫌だよ。こういうのは私の優しいお兄ちゃんに任せる」

 

「今日は夢月が行くんだ。それとも、夜中に彼女の部屋に放り投げてきてもいいけどな」

 

「それはもっと嫌~っ!ガブッて食べられたらどうするの?マジでやばいって!」

 

 実姉を恐竜扱いするのもどうかと思うが……よほどトラウマなのだろう。

 それだけひどいのだから、僕も否定はしない。

 

「……いってきます。私のこと、忘れないでね。お兄ちゃん」

 

 渋々ながらも夢月は星歌を起こしに禁断の扉を抜けて部屋と入っていく。

 数分後、どうやら戦いの勝敗は決したらしい。

 

「―― うきゅぅ~~っ!?」

 

 可愛い叫び声(?)が室内から聞こえてきたが気がしたが気のせいだろう。

 死して屍、拾うものなし、戦場とは悲しい結果しか生まないのだ。

 僕はのんびりとお茶をすすりながら、星歌と夢月が来るのを待っていた。

 朝だと言うのに既に疲れきった夢月の表情に同情する。

 

「な、中身が出ると思ったよ、えぐっ……」

 

「よくやったぞ、夢月。お前は戦士だ、頑張ったな。お前の犠牲は無駄にはしない」

 

 半泣きで星歌を連れてきた夢月、今回もいつも通り、ひどい目に合ったようだ。

 星歌は頭が完全に目覚めていないようでぼんやりとしている様子。

 

「おーい、星歌。起きているか?」

 

「……おにいさま、おはようです。せーかは元気ですよ」

 

「せーかって、まだ寝ぼけてるのか?」

 

 うつろな瞳で僕を見つめている星歌。

 美人はそれだけでも似合うからずるいぞ。

 

「おにいさまぁ、わたしのせーふく(制服)はどこですかぁ?ここにないですぅ」

 

「こっちにあるぞ。ついでに鞄の用意をしておいた」

 

「ありがとうございます。だいすきですよ、おにいさま。えへへっ」

 

 本当に大丈夫なのかと気にかかるが星歌の事を信じよう。

 これだけは星歌も治してくれないだろうか、兄として将来が心配だ。

 

「あとは任せるね、お兄ちゃん。いってきまーす」

 

 制服を着て登校していく夢月を見送りながら、僕は眠そうな義妹と向き合う。

 

「ほら、星歌も学校に準備してくれ。そう、パジャマを脱いで、制服を着て……」

 

「……んぅっ……やぁっ……」

 

 何やら色っぽい声をあげて、星歌はパジャマを脱ぎだす。

 パジャマのホックを上から順にはずしていく。

 あらわになる胸部、下着に隠されたぽにゅんっと揺れる弾力ある膨らみに意識が集中。

 雪のように白い肌に触れたらどうなるのやら、興奮が脳を刺激する。

 それにしても、兄の知らない間に義妹はかなりの成長を……。

 

「……って、僕の目の前で着替えるちゃ駄目だっ!(自己嫌悪)」

 

「ひゃんっ!?」

 

 びっくりした星歌がようやく目を覚ましてくれた。

 荒療治だが、遅刻ギリギリになるよりはマシだ。

 決してやましい気持ちはございません。

 

「お、おはようございます、お兄様。あれ、どうして私はリビングに?」

 

「おはよう。星歌、目が覚めたら着替えてくれないか?」

 

「え、あっ!?私はなぜ、お兄様の前でパジャマを脱ごうとしているんですか?」

 

「……それは僕が聞きたいよ」

 

 毎回、星歌を起こすと嬉しいハプニングがあるのは内緒だ。

 こんな悶々とした気分、妹たちには恥ずかしくて言えない。

 僕だって人並みに男なんだからさぁ……ねぇ?

 

 

 

 期末テストも終わり、後は消化試合的な授業を1週間ほど送れば夏休み。

 授業を終えて昼休憩になると同時に僕の携帯にメールが入る。

 

『お兄ちゃんと一緒にご飯が食べたいよぅ♪』

 

 夢月からお昼のお誘いのようだ。

 普段は友人付き合いを考えて、昼食は別々の事が多い。

 1番の理由は学校で妹達に甘えられて、下手に学内を騒がせたくないからだ。

 たまにはいいだろうと、僕は弁当箱を持って待ち合わせの中庭に移動する。

 暑い初夏の日差しを避けて、日陰のベンチで妹を待つ。

 

「お待たせ、お兄ちゃん。さすがにそっちの方が早いね」

 

「場所が真下だからな。2年の教室は反対側で遠いから大変だろ。ん?夢月だけか?」

 

 てっきり、星歌もいると思っていたんだけど姿は見えない。

 

「お姉ちゃんは皆と約束してるみたい。また今度、誘ってだって」

 

「そうか。それならふたりで食べるとしよう」

 

 妹と昼食は月平均で4、5回という所だ、うちの妹はふたりとも人気者で忙しい。

 特に星歌は先輩後輩問わずに憧れの対象だからな。

 

「えへへっ。今日のお弁当は何かな~?お兄ちゃんの手作りお弁当は楽しみなの」

 

 ちなみに3人のお弁当は僕の手作りだ。

 毎食、どういうモノを作ろうか悩むのも楽しい。

 

「今日はイタリア風に仕上げてみたぞ。自慢は冷えても美味しく作り上げたトマトのスパゲティーだな。夏だからいいトマトが手に入ったんだ。新鮮だから美味いぞ」

 

「うわぁ、美味しそう。お兄ちゃんって料理だけは上手だよね」

 

「事実だけど、料理だけって言うのはやめてくれ。軽くヘコむから」

 

 妹は僕がヘコんでいようと大して気にしない。

 美味しそうに弁当を食べながら、僕の話をしだした。

 

「お兄ちゃんって調理部の部長でしょ。やっぱり、女の子の部員ばかりなの?」

 

「まぁな……個性的な皆をまとめるのは大変だけど」

 

 実は僕、高校では調理部の部長でもあるんだ。

 調理部とは料理の作り方などを研究、経験を積むための部活だ。

 別名、ハーレム部……なんて言われるほど男女比率は女子の方が高い。

 ただし、ハーレムなんて甘いものじゃないぞ。

 女子ばかりだと女子の嫌な裏面すらも見てしまう事も多々ある。

 ある意味、女子高の空気の漂う部活なのだ。

 

「女の子がいっぱいって事はモテるんでしょう?」

 

「どうだろう?告白とかされたのは数回ぐらいだし。男と言う事で頼りにされる事はあっても、モテるって実感はないな。主導権的にも僕ら男グループは力が弱い」

 

「……お兄ちゃんって、モテそうだけど流されやすい性格だから、その辺が微妙?」

 

「義妹とはいえ、妹に言われるとキツイものがあるよ」

 

 かなり苦笑気味に答えて食事を続ける……微妙ってマジでそこが問題?

 

「いや、それが妹的にはいいんだけどね。安心していられるから」

 

「……逆を言えば、僕はふたりが人気者で心配になるけど」

 

「安心していいよ。私は誰の告白も受けない。ずっとお兄ちゃんの傍にいてあげる」

 

 それは妹としての気持ちではないのは知っている。

 あの告白は僕らの何かを変えたけど、表面上はあえて何も変わらないフリをしていた。

 

「……そりゃ、どうも」

 

「えへへ。嬉しいでしょ、こんなに可愛い妹がいるんだから」

 

 夢月の無邪気さには関心さえするよ。

 ただ、彼女の場合はそれを演技している可能性もある。

 天使はずる賢いから、意外に侮れないものなんだ。

 食事を終えるとのんびりとして、思わず昼寝でもしたくなる。

 

「……ん?」

 

 先ほどから夢月が周囲を気にしている様子に気づいた。

 

「どうしたんだ?誰か知り合いでもいたか?」

 

「別にーっ。気にしないで、お兄ちゃん。あ、私が膝枕でもしてあげようか?」

 

「いらん世話だ。そんな事をしても、喜ばすのは新聞部だけだからな」

 

 うちの高校には定期的に学校新聞を作っている部活がある。

 大抵、教師や生徒の恋愛等のゴシップ記事やうちの妹達の特集などを書いてるために既に高校側からは呆れられて、公式新聞から非公式新聞になろうとしている。

 来年辺りは予算を削られて、同好会に格下げされるのではないだろうか。

 

「……私達の噂って知ってる?『兄妹の関係は既に恋愛関係突入?』とか『義兄の鬼畜な振る舞い、天使の大ピンチ!?』とか言われてるんだよ」

 

「また妙な噂を流しやがって。対処のしようがないから困ったもんだ」

 

 別にそれを真に受けて、信じてどうのこうのなる問題は起きていない。

 皆は話のネタとしてしか受け止めていないから気にしてもいない。

 

「でも、それが噂だけじゃないなら……どうする?」

 

 にやりと僕に嫌な含み笑いをする義妹。

 夢月のこの表情はこれまでの経験的にマズイと直感で察する。

 

「お、おい……何をするつもりだ?」

 

「私はお兄ちゃんに素直になって欲しいの。……自分の気持ちのままに」

 

 夢月は僕の頬に顔を接近させて、柔らかい唇を押し当てた。

 

「んぅ……ちゅっ」

 

 他の生徒もいる中庭で、僕は微笑む夢月に頬へキスされてしまった。

 義妹のキスに動揺を見せて呆然とする。

 

「なっ!?」

 

 僕はハッと周囲を振り返ると、無残にもパシャっという音が聞こえた。

 ……パシャ?

 

「私は前から考えていたの。どうすれば、お兄ちゃんを手に入れることができるのか……。よく考えてみれば簡単なことなんだ。逃げられないようにすればいいだけじゃない」

 

「な、何を企んでいるのでしょう?……夢月さん、ねぇ?」

 

 唇をそっと頬から離した夢月の怪しい笑顔が気になる。

 夢月は天使なんて呼ばれているが、間違いなく堕天使か小悪魔だろう。

 “天の使い”という清純なイメージとは裏腹に悪戯も大好きだ。

 悪戯好きの天使は僕に甘い声で耳元に囁くのだ。

 

「ふふっ、明日をお楽しみに。私がお兄ちゃんの世界を変えてあげるよ」

 

 それは翌日になって思い知らされる、夢月の企みがどれ程の影響力があるのかを。

 僕はぼーっとしながら、夢月の後姿を眺めて頬に残る感触を噛み締めていた。

 美少女にキスされるのは素直に嬉しいですよ、僕も男ですから。

 

 

 

 

 その喜びは一転、翌日の僕は追い込まれる事になる。

 高校に行くと朝から何やら怪しい視線を感じまくるのだ。

 皆が僕を見ているような……僕は何もしてないよ?

 教室に入ると、僕を見て女子たちは「きゃーっ」なんて可愛く黄色い声をあげる。

 ……なんで黄色なんだろうね、無意味に気になるお年頃。

 それはともかく、僕は自分の席に座ると近くの女子に尋ねられた。

 

「ねぇ、宝仙君って義妹さんと付き合ってるの?」

 

「えっと、そんな事実はないんだけど?どういうこと?」

 

「ほら、これ……。今日は朝からこの話題で持ちきりだよ?」

 

 彼女から渡されたのはゴシップ満載の学校新聞、最新号だった。

 トップの見出しは堂々と大きな文字でこう書かれていた。

 『天使のチューは誰のもの?真昼の中庭で禁断の兄妹愛が明らかに!!』

 そこには昨日のキスシーンの写真が掲載されていた。

 しかも、夢月は思いっきりカメラを意識した感じに綺麗に写真に写っていた。

 

「天使って夢月のことだよな。つまり、これって……」

 

 や、やられた……昨日のおかしな夢月の行動はこれだったのか?

 あぁ、学校中の生徒から視線を感じています。

 憎しみや羨望、様々なモノを込められているようだ。

 僕はこれから一体どうなるのだろう。

 冷や汗をかきながら僕は周囲の連中を見渡した。

 既に皆さん、楽しそうに僕を見ています、僕に救世主はいないのか?

 夢月の仕組んだ罠にハマった僕の運命はいかに……また次回に続く!?

 

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