第3章:義妹の甘く危険な誘惑
【SIDE:宝仙蒼空】
夜遅くに僕の部屋を訪れた妹の夢月。
だが、彼女と一緒に寝ることになり、事態は急変する。
「私……お兄ちゃんにならいいよ」
そう言って僕は妹にベッドで押し倒された。
身動きできないまま肌を僕に重ねてくる。
トクンっ、妹の体温に心拍数は上昇中……。
妹に襲われそうな兄、一体どうなっちゃうんだ?
「お兄ちゃん……緊張してる?大丈夫、優しくしてあげるから」
「それ、僕の台詞だと思う」
夢月は悪戯好きだ、これまでも似たような誘惑を僕にしてきた。
それまでは何とか耐えてかわしていたが、今回は逃げ場がない。
「ふふっ、そんなに強張らないで。お互い初めて同士じゃない」
「夢月、お前なぁ……冗談もいい加減にしておけ」
「ぐすっ、お兄ちゃん。反応が冷たい……私の身体に興味とかない?」
か、身体に興味とか言うな、我が妹よ。
彼女は僕の真横ではっきり聞こえる声で、
「……私、こう見えてもちゃんと成長してるのに。ほらほら……触ってみる?」
だから、そう言いながら胸を揉むのはやめてくれ。
興奮よりも危機感が、あらゆる意味でドキドキだ。
「夢月、お願いします。これ以上は許してください」
心で土下座しながら僕はこの緊張感から解き放たれたい。
夢月は僕に笑顔で「嫌だよ」と言う。
「お兄ちゃんだって、女の子の身体に興味あるでしょう。私だって女の子だし、興味くらい持ってくれてもいいと思うんだよね」
「いや、夢月は女である前に僕の妹だ。妹に対して欲情するわけにはいかない。倫理感を持つくらいしないとな」
倫理とは人として最低限守るべき事を言う。
妹に手を出すような兄に僕はなりたくない……。
よく漫画や小説で“妹ラブ”とか言うけれど、実際はかなりマズイんだ。
「倫理なんてねじふせて、男を見せるくらいして欲しい」
「男らしいけど人としてそれはどうかと。僕には無理だ」
夢月は時々、無茶苦茶な事を言う。
「私はお兄ちゃんが好きなの。自分のモノにしてしまいたい」
夢月が可愛く笑みを見せて僕に迫る。
グッと僕に近づけたその顔は、悪戯っぽさに満ちている。
からかわれている、そう察した僕だけどこの状況を打破する考えは思い浮かばない
「……夢月、こういうのはまだ早いって言うか」
「早くないよ、私も高校生だから。お兄ちゃんは私の事、好き?」
「それは……その、えっと……」
義妹の冗談はさらにエスカレートする一方。
いつもはこんな風にからかってくるから困る。
僕としても夢月の事は可愛いと思うし、女の子として成長しているのも分かっている。
「ふぅ、なんだか暑い~。クーラーってちゃんと効いてる?」
ベッドの布団の中でもぞっと動きを見せる。
彼女は上着に手をかけようとしている、その一線だけは越えられるわけにはいかない。
「暑いから脱いじゃおうかな?」
「ま、まさか……夢月、それは勘弁してくれ」
ストップをかけて、僕はドギマギしながら食い止める事に成功した。
夢月の行動が最近になってエスカレートしている。
その裏にある知識を与えたのは僕なんだけどね……反省だ。
「蒼空お兄ちゃん。……私ってそんなに女としての魅力ない?」
「うぐっ……そういう作戦で来たか」
兄としても、男としても、そんな風に拗ねられると弱い。
下手に対処すれば相手を傷つけてしまうから。
「お姉ちゃんみたいに胸は大きくないから?」
「……そんな事はない。女の魅力は胸だけじゃないと思うし」
「だったら、どうして?私、本気でお兄ちゃんのこと好きなのに」
「だから、そう言う冗談はもうやめてくれ。これ以上してきたら、部屋を追い出す」
妹の攻撃に耐えかねて、僕はお手上げ降参だ。
もうダメ、クーラーの冷気で涼しいはずなのに冷や汗ばかり。
「ひどいっ。そんなことしたら、お兄ちゃんが可愛い妹に乱暴したって星歌お姉ちゃんに言うからね。それでもよければどうぞ」
「なっ……夢月、それはどういうつもりだ」
「お兄ちゃんこそ、こんなにアピールしているのに。もういい、分かった」
彼女はバッとベッドから起き上がる。
そのままドアの所へと歩いていく。
「あ、あの……夢月、怒ったのか?」
そう思った僕は彼女に声をかけると、彼女は振り向いてにこっとする。
「お兄ちゃんもこっちに来て。……早く来て」
そのまま僕の手を引いて、彼女は僕の部屋を出てベランダへと連れて行く。
星が綺麗な深夜、僕を見つめる妹の眼差しは真剣だった。
夏特有の蒸し暑い外、星空を見上げるように彼女は視線を向けた。
「残念、今日は満月じゃなくて三日月だね」
「そうだな。漫月はまだ先だろう。それにしても、綺麗な三日月だ」
夢月は子供の頃から自分の名前にある“月”が好きだ。
昔はよく寝る前に夜空を見上げていた記憶がある。
「……ん?」
カサッと言う物音に僕は辺りを見渡す。
でも、どこにも変化は見当たらない。
僕は再び、夢月に視線を向けた。
「何か、こんなつもりじゃなかったんだけど。お兄ちゃんが私をあまりにも子ども扱いするから……。私は蒼空お兄ちゃんが好き。ホントに大好きなんだ」
「夢月……」
「分かってるよね?私がお兄ちゃんに告白しているんだって」
義妹に告白された僕は戸惑う。
“妹”という存在。
初めて会ったときから、夢月は素直に僕を兄だと認めて接してくれた。
兄と妹、義理とはいえ僕が手に入れた新しい家族の関係。
夢月は僕を兄だと認めてくれたけど、星歌は突然の兄と言う存在を受け入れられずに、僕らが自然に接する事ができたのは兄妹になってずっと後の事だ。
だから、僕も妹としては夢月の方が気持ちが強い。
「お兄ちゃんが私を妹としてしか見てないのは知ってる。私もお兄ちゃんの事を兄だと思ってきたけど、気づいたの。私の気持ちは兄妹としてだけじゃないって事に」
彼女を照らすのは淡い月の明かり。
まるで夢月を守るように優しく輝く。
「恋人になって欲しいなんて言ってお兄ちゃんを困らせたくない。せっかくの兄妹の関係も壊したくない。でも、知っておいて欲しいから」
「……僕はまだ夢月の事を異性として好きだとは言えない。だけど、僕もコレまでの関係は壊したくない。……ずるいかもしれないけど、それでいいかな?」
「うんっ。それが私の望みでもあるから……。何だか言っちゃったらすっきりした。そろそろ寝ようかな。お兄ちゃん、今日はもう自分の部屋に戻るね」
夢月は僕から逃げるようにベランダを出て行った。
口ではなんとでも言えるけど、本心は誰にも分からない。
顔を赤らめていたように見えたから、傷ついたと言う感じではないみたいだ。
夢月が僕を好きなんて、考えないようにしてきた。
妹であること、それは魅力的な女の子を特別な目で見ないという事。
「……好きとか嫌いとか考えちゃダメだと思ったんだけどな」
夢月からの告白は正直、嬉しい気持ちもある。
これから何かが変わるのか……そこに不安はあるけれど。
「お兄様……?」
ふと、ベランダにいた僕に声をかけてきたのはなんと星歌だった。
自室の窓から恥ずかしげに顔を覗かせている。
そうか、ベランダはちょうど星歌の部屋の隣だった。
「星歌……あ、もしかして、さっきの話を聞いていた?」
「……すみません。人の気配があったので、窓を開けたらふたりが……。盗み聞きとかするつもりはなかったんですけど」
「別にいいさ。正直、僕もどうすればいいか分からないし」
星歌は部屋から出て、僕のいるベランダへとやってくる。
僕らはベランダで星を眺めながら話をした。
彼女は夢月の告白をどう思ったんだろうか。
聞いてみると彼女は複雑そうに語る。
「夢月の告白は意外ではないです。……以前からお兄様の事を慕う以上に思ってる節はありましたから。あの子にとってお兄様は初めて親しくなった異性でもあります」
「……そうなのか?昔から友達は多い方だったじゃないか」
「あの子はお兄様に懐いていました。初めて会った時から、気に入っていたみたいです。一目惚れ、というのかもしれません」
僕たちが出会ったのは6、7歳の頃だった。
兄妹になったその日から彼女は僕と仲良くなったのを思い出す。
僕としても初めて親しくなれた異性が夢月だ。
「私と違って自分に素直に生きている。だから、言えるんです。……あの子の気持ち、今は無理でも考えるだけはしてあげてください」
夢月はどんな気持ちで僕に想いを伝えたんだろう。
「……星歌。僕はどうすればいいと思う?」
「すみません。恋愛に不慣れなので、お兄さん望む答えは言えません。けれど、関係を変えるという事に勇気が必要なのはわかります。あの子はある意味、それを乗り越えて蒼空お兄様に告白をしたんですから。恋愛は難しいですね」
幼き時を思い出しながら、静かに夜の時間は流れていく。
それは僕と双子の姉妹が初めて出会った頃のお話。
可愛く甘えてきた妹と、僕を睨み付けて憎んでいた妹。
ふたりの女の子と出会ったのは僕が7歳の春のことだった……。