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女神の姉と天使の妹  作者: 南条仁
女神の姉と天使の妹
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第35章:私は女神になりたい

【SIDE:宝仙夢月】


 ホントに私が星歌に似ていると気づいたのは中学の頃。

 留学して帰ってきた頃に鏡で見た顔が星歌と似ていてびっくりしたの。

 昔から似てないってよく言われたし、私たちもそう思っていたけれど。

 髪型をいじれば、それなりにお姉ちゃんと同じ顔をしていた。

 その時、私は思ったんだ。

 絶対に誰にも知られたくないって。

 お姉ちゃんと顔がそっくりなのはきっと私にとって悪い意味しかもたらさない。

 だから、あえて似ていない髪型、顔つきをしてきた。

 性格だって違う、あの人に出来ない事をしてきたつもり。

 “似ていない”、そう思い込むようにもしてきたの。

 私にはそれしかできない。

 だって、私は星歌と比べられたくないんだから。

 いつも劣るのは私の方、けれど、そうして後ろ向きに考えても意味はない。

 お姉ちゃんを選んだお兄ちゃん。

 それが結果、私じゃダメだったの。

 どんなに頑張っても、お兄ちゃんに好きになってもらえなかった。

 ……うん、寂しいけど、仕方がないよね。

 私は気持ちを切り替える。

 あ、ちなみに、私が今まで星歌モードを封印していたのにはもうひとつ理由がある。

 それは致命的な弱点が存在したから。

 ……胸が、私の胸が星歌お姉ちゃんに圧倒的に足りてない。

 何で双子なのにこれだけの差が……ブラサイズでふたつも違うの?

 ずるい、あれは反則的にずるいっ。

 胸の大きさでお兄ちゃんが選んだなら私は間違いなく家出します、ぐすんっ。

 ふみゅぅ、胸って揉んでも大きくならないんだよぅ。

 そんな事を考えながら私はお兄ちゃんの部屋へと行く。

 何か私に話があるんだって。

 きっと今回の件についての事だろうけど、あまり気は乗らない。

 

「……お兄ちゃん。夢月だよ、入るね」

 

 ノックをして部屋に入ると彼は私を待っていた。

 

「夢月に話があるんだ。そこに座ってくれ」

 

 私はお兄ちゃんの言う通り、椅子に座る。

 向き合うだけでとても緊張してしまう。

 こんな雰囲気になるのは初めて、私は何とも言えない空気にどう対応するかを考える。

 

「……まずは、何ていえばいいのかな?おめでとう?」

 

「ごめん。僕は夢月を選べなかった……」

 

「選べなかった。違う、お兄ちゃんは私を選らばなかったんだよ」

 

 私は震える手を押えて、言葉を続ける。

 言いたい事があるから、伝えたい言葉があるのだから。

 

「私はずっと前からお兄ちゃん、ううん、蒼空さんの事が好きだった。星歌よりも昔から好き。私の気持ちは蒼空さんに届かなかったの?」

 

 ずっと昔、私たちが兄妹になった日から私は彼を好きだった。

 好きになってしまった、私にとっては長い初恋の始まり。

 大切な兄である蒼空さんを好きになったことに後悔はない。

 

「届いていたよ。けれど、僕は夢月ではなく星歌が好きなんだ」

 

「お姉ちゃんならよくて私じゃダメな理由は何なの?答えてよ、蒼空さん」

 

「夢月がダメなわけじゃない」

 

「それなら言い方を変えるね。あの人の方が勝っていたのは何?私には何が足りてなかったの?美人な顔?抜群のスタイル?それとも……」

 

 私の口をふさぐように蒼空さんは頬を手で触れてくる。

 優しい温もりが伝わってきた。

 これが私が欲しかったもの、手に入らなかったもの。

 

「……違うんだ、そんなんじゃない。夢月は可愛い、本当の妹のように思ってきた」

 

「やっぱり、それなんだ。私は蒼空さんにとって、妹でしかなかった。それ以上にはなれなかった。お姉ちゃんと違うのは思い出の数でも、胸の大きさでもない。お互いの距離感ってことなんだ?」

 

 どうすればよかったんだろう。

 私はお姉ちゃんと違い、素直に生きてきた。

 ありのままに彼を受け止めて、兄として慕ってきた。

 たくさん甘えて、遊んでもらって、仲良く接してきたこの10年間。

 私は恋人になるには近すぎて、妹でしかなかったの。

 お姉ちゃんと私、お互いの位置関係が違えば恋人になっていたのは私かもしれない。

 ……なんてね、それもないかな。

 分かるよ、これがそんな簡単で単純なものじゃないことくらい。

 

「蒼空さんは星歌に恋をしている?」

 

「あぁ。好きだ、あの子を愛しているんだ」

 

「私は愛してもらえなかった。それが私の結果、そういう事なんだ?」

 

 込み上げてくるものがある、それを私は胸の奥底に抑え込んで行く。

 泣かない、私は蒼空さんの前では泣けない。

 涙は流しても、ここで流しても意味はないから。

 

「……私はずっと星歌になりたくて、憧れていたんだ。皆から慕われて、人気者で、信頼もあるし、好かれているし。頭脳明晰、文武両道、おまけに誰もが見惚れる美人。そんな絵に描いた理想が双子の姉なんだよ?」

 

 コンプレックスだったのかもしれない。

 私たちが仲良くなれなかった1番の理由は、私の心底に眠っていた私の劣等感。

 表に出す事はなくても、こんな風に言葉に出てしまう。

 

「夢月は星歌が好きじゃなかったのか……?」

 

「だって、ずるいもん。あれだけ何でも持っていて、私にしかない音楽まで欲しがるんだよ。どれだけ、完璧になれば気が済むのって。初めて留学した時ね、本当はホッとしていた。姉と離れていられる時間が欲しかった」

 

 比べられるのも嫌、認められないのも嫌。

 日本と違い、海外では私は自分の実力で皆に認められた。

 姉という存在がいないから、私だけを皆が見てくれるから。

 

「その意外って顔?もしかして、私には悩むすらないおバカさんだと思っていた?」

 

 蒼空さんは複雑そうな顔を浮かべている。

 私は同情を引きたいわけじゃない、今まで語れなかった事をすべて伝えておきたかった。

 

「……そう言うわけじゃないよ。夢月に悩みがある事、気づいてやれなかった自分が悔しいだけ。キミは表に見せないから」

 

「必死だったもん。私はそんな風に弱さを他人に見せられる人間じゃない」

 

 逆に他人に弱さを見せる事も必要なのかもしれない。

 お姉ちゃんのように弱さを見せ、受け止めていくのも選択肢のひとつだった。

 

「まぁ、私のことはいいよ。ようするに、私はお姉ちゃんに勝てないって話。蒼空さんが好きになるのは、当然で、私は本音で言えば諦めてた所もあった。お姉ちゃんがお兄ちゃんの想いに気づいた時、私の負けは決まっていたの」

 

「……夢月?」

 

 抑え続けていたものが、溢れていく。

 

「で、でもさ……ぁっ、諦める事なんて、できない。分かっていて、はい、負けましたって言いたくない。ぐすっ、私にだって叶えたい夢ぐらいあるもの……」

 

 自然と涙が瞳から流れていく。

 耐え切れずに嗚咽を漏らす、私は泣いていた……。

 

「蒼空さんだけはお姉ちゃんに勝ちたかった。私の恋人になって欲しかった。好きだから、本当に大好きだからっ」

 

 泣いちゃダメ、それなのに涙は止められない。

 10年間の想いは止まらない。

 

「うぅ……ぁあっ……うわぁあーん」

 

 泣き出した私の頭を蒼空さんは撫でてくれる。

 これが、私と彼の関係そのもの。

 抱きしめてはくれない、私は星歌じゃないから。

 

「僕は夢月が妹になってくれて嬉しかった。こんなにも甘えてくれる女の子がいてくれて、必要としてくれる子がいてくれた。家族の温もり、優しさを知ることができたから。ありがとう、僕の妹でいてくれて」

 

「……ずるい。それ、ずるいよぅ。ぐすっ」

 

 1度溢れ出した涙は簡単に止まることはなくて。

 でも、蒼空さんの優しい言葉は私を満たす。

 “妹”、最後まで私はその言葉から逃れられない。

 それでも、いいの、私は“お兄ちゃん”の妹だもの。

 ひとしきり泣いたらすっきりした。

 私は泣き腫らした瞳が恥ずかしくなる。

 

「私はお兄ちゃんが好きだった、でも、それは過去。今を持って、私はその想いを解放する。私は前を向くよ、お兄ちゃん」

 

 すぐに切り替われないけど、時間をかけても私は前を向いていく。

 常に前向き、ポジティブ思考……それが私の作り出した夢月だもんっ。

 

「……私、これからは本当に蒼空お兄ちゃんの事を兄として見ることにした。妹として、家族として……新しく関係を始めていきたい」

 

 お兄ちゃんは頷いてくれる。

 もしもなんてこの世界にはない。

 だから、私は今という現実を精一杯受け止めるんだ。

 新しい家族の形、私はにこっと出きる限りの笑顔を見せた。

 

「可愛い妹の夢月ちゃんをこれからもよろしくね、大好きな蒼空お兄ちゃん♪」

 

「よろしく。僕のただひとりの妹、夢月」

 

 そっか、そうだよね、妹はもう私だけなんだ。

 望んだ形とは違うけれど、これもひとつの愛の形。

 

「隙ありっ。ちゅっ!」

 

 私は油断した彼の唇を奪う、正真正銘、これが最後のキス。

  

「ぬぁっ!?お前はまたそう言う事をして!?」

 

「……これが最後のチュー。今日から夢月はお兄ちゃんのホントの妹、始めるんだよ」

 

 この柔らかな唇の感触を私は忘れない。

 私が恋した思い出も、ずっと心の中においておくために。

 そう、ようやく私が手に入れた私だけの居場所。

 星歌でもなく、私だけがお兄ちゃんの本当の“妹”なんだ。

 

 

 

 

 私は自室に戻ると枕元においていた携帯電話を手にする。

 人には常に目の前に壁が存在する。

 それを乗り越えて、初めて成長できるんだ。

 私はひとつの成長をした、でも、私にはまだ残された壁がある。

 

「……変わっていかないとね。私だって大事な夢を手にしたいの」

 

 過去を、自分を受け止めて、私はさらに前に歩くためにするべきことがあるんだ。

 本当の自分を見つけていきたい。

 弱い自分とお別れして、成長した自分に出会うの。

 深呼吸をひとつして電話をかける私、相手は……。

 

「……高町さん?夜遅くに電話してごめんね。実は言いたい事あるの。パパにも後で言うつもりなんだけど、まずは貴方にしておきたくて」

 

 さぁ、新しい世界へ一歩だけ足を踏み出そうよ。

 怖がる事なんてない、私はひとりじゃないもの。

 

「私は決めたよ、自分自身のために。望んだ未来がそこにあるから」

 

 私は私の望んだ未来を手にするために、新しい道を歩むんだ。

 私らしく生きていく、それが“宝仙夢月”だもんっ。

 

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