第31章:謎の美少女Xを追え!
【SIDE:宝仙夢月】
何たる不覚、お兄ちゃんを巡る私と星歌お姉ちゃんの攻防にアクシデント発生!
お兄ちゃんの隠された秘密。
まさか、彼に別の女性の影が見え隠れするなんて……。
お姉ちゃんが手に入れた写真には謎の美少女と仲良く笑うお兄ちゃんの姿が写ってた。
他の子とラブラブしてるなんて事を見過ごしてきたなんて、大失態よ。
うぅ、こんな事になる前に強引にでも手を出しておくべきだった。
後悔しても遅い、今はお兄ちゃんに知られないようにこっそりとその女性の素性を調べないと……情報戦がこの戦いの鍵になる。
夜になって、お姉ちゃんの部屋で(私の部屋はお兄ちゃんの部屋の隣のため)、この疑惑の美少女についての緊急会議を行っていた。
「……お兄様って美乳好きだったのね。ねぇ、夢月。私の胸って形は綺麗だと自分では思うんだけど、夢月から見てどうかしら?」
「自慢げに大きな胸を見せ付けないでよ。形どころか貧乳で凹凸のない私に対しての嫌味ですか?しかも、今回の議論のネタとは違うっ!」
「あら、私にとっては最重要の問題なんだけど?」
「違うでしょ!お兄ちゃんが美乳好きなのはこの際、関係ないの。OK?お姉ちゃんはこれが気にならないわけ?」
テーブルに並べられた4枚の写真。
これこそが本題、どれもこれもお兄ちゃんと美少女のツーショット。
「そういえば、お兄ちゃんからは他に何の情報も得られず?」
「むしろ、勝手にこの写真を持ってきてしまったことに自己嫌悪中よ。どうしましょう。それと、貴方のせいで私は変に疑われたんだから」
「結果的に私のせいにしたくせに~っ。まぁ、私はキャラで許されるけどね」
部屋の不法侵入と物色について、お兄ちゃんからのお咎めはなし。
夕食の時に「秘密に触れるな」とアイコンタクトをひしひしと感じたけどね。
さて、写真をよく見てみると、デジカメの写真を印刷した代物だ。
「このインクの感じはうちのパソコンのプリンターじゃないね。多分、この子がカメラで撮影したのを印刷してお兄ちゃんに渡した物だと思う」
「そういう所まで分かる物なの?プリンターなんてどれも同じじゃないの?」
「全然違う。機種によっては色の出方が違うの。つまり、この写真に写っている女の子、暫定呼称“美少女X”の素性を知るにはその辺を探るのが1番いいと思うんだ。まず、この1枚目と2枚目の写真は同じ場所でしょ」
2枚の写真は公園のような森が端に写っている。
こういう木々のある場所は街中でも限られているはずだ。
「場所はどこだろう?学校……?違う、ここって、アレじゃない?」
「えぇ。展望台公園ね。私がお兄様に告白したあの場所よ」
「付け加えるならば、私の告白を誰かが邪魔していい所どりした、ともいえるけど」
……沈黙が流れる、お互いの遺恨に触れそうになった。
今は仲のよい姉妹なので過去の話はその程度にしておく。
「ま、それはさておき、この場所にいたという事はデートしか考えられないわけで……さらに言うなら“美少女X”は同じ学校の生徒である可能性が高い」
「今さらなんだけど、私、この人をどこかで見たことがあるような……」
「目撃情報キター!どこどこ?どこで見たの、お姉ちゃん。それ、かなり重要な情報だよ。思い出して、どこでこの人を見たの?」
お姉ちゃんの身体を揺すると、彼女は手で振り払いながら、
「ゆ、揺らさないでよ、もうっ。どこだったかしら……」
うーん、と悩み考えてしまうお姉ちゃん。
思い出せ~っ、それが事件解決に繋がるのだから。
「消去法で言うと、高校2年生ではないよ。私達の同級生にこんな子はいない。後輩か先輩か……年恰好的には後輩の可能性がありそう」
「いや、でも、童顔な先輩もいるでしょう。可愛い子だから絞るのは難しい」
同じ学校の生徒であるのは間違いない。
それは3枚目の写真が駅前のゲームセンターだったり、4枚目の写真が学校近くのファーストフード店で撮られたものから確認できる。
「……ここで、ひとつ情報を紹介しましょう」
「何か収穫でもあったの?」
「ヒント程度にはね。お兄ちゃんの周辺の方々に話を聞いてきたんだけど、どうやらお兄ちゃんは人並みにモテるみたい。数ヶ月にひとりの割合で告白されてきてるみたいだよ?外見の良さ的に告白率は低い方だよねぇ」
「私達姉妹がいるからっていうのもあるんでしょう。友達からお兄様の事を聞いた事があるわ。人気はあるけど、うかつに手を出せない先輩だって」
学校ではどちらかがくっついてるから、告白の機会も中々ないだろうし。
お兄ちゃんの魅力は十分、皆に伝わってるんだろうけど、恋人とはまた違う意味なんだろうな。
もちろん、お兄ちゃんは誰にも渡さないけどね。
「……あっ!」
写真に写る“美少女X”を見つめていたお姉ちゃんが突然、声をあげる。
「思い出した、この子……確かお兄様と一緒にいた子だわ」
「いつ、どこで、何の理由を持って!?」
お姉ちゃんは「確か、料理部の子よ」と思い出してくれた。
料理部、蒼空お兄ちゃんが部長を務めている部活。
夏休み中も学校で部活しているのは知っている。
「夏休みの初め頃に、お兄様に誘われて料理部に行ったことがあるの(第11章、参照)。その時にいた後輩の女の子よ。名前までは思い出せないけど」
「料理部っ!しまった、その線があった。そうだよ、別名ハーレム部じゃん。女の子ばっかりの部活なんだから告白や恋人を作る機会はあって当然だし」
そうだ、お兄ちゃんには料理部というハーレムパラダイスがあったんだ。
……うぅ、この状況は非情にマズイですよ。
「その写真が撮られたのは7月下旬、ちょうど夏休みが始まった頃でしょ?」
「えっと、待って。カレンダーで確認するから……うん、やっぱり。私が部活にお邪魔した時から数日後になってるわ。つまり、あの子とお兄様がデートしていたなんて……。その子、お兄様にすごく好意がありそうだったもの」
“美少女X”の正体は、料理部の後輩の可能性が大浮上する。
恋人候補がそんな近くにいたなんてびっくりだよ。
「思い出せば、お兄様も満更じゃなかった雰囲気だった」
「なるほど。それで誘われたワケ……って、ダメじゃんっ!?これが撮られたのは少なくとも夏休み初め、夏休み後半の今じゃ関係が発展してるかもですよ?」
「……でも、今までおかしい雰囲気はなかったわよ?」
「甘いっ!お兄ちゃんがこうして隠すって事は何か隠しておきたい事情があるに違いない。私は追加情報がないか潜入調査してくる。今の時間だとお兄ちゃんはお風呂のはず。お姉ちゃん、私が潜入するしばらくの間、時間をかせいでおいて」
「ついでにこの写真を元の場所に戻しておいて。バレたらそれはそれで問題だから」
私は“美少女X”の写真を携帯電話のカメラで撮影して保存する。
これで忘れる事はない、ミッション開始よっ。
お姉ちゃんにお兄ちゃんの事は任せて、再び、お兄ちゃんの部屋に侵入。
本棚の雑誌の間に写真を戻すと、他の情報がないか付近をよく調べてみる。
「さっき見たときはそんなモノはなかったんだけど……」
あっ、お兄ちゃんの秘蔵本の隠し場所が変わってる。
また、どこか別の場所に隠したんだね……また今度探してあげようっと。
そんな風に思いながらも限られた時間で部屋を探索すると、
「……これは何だろう?」
封筒の中に何枚かの手紙を見つけた。
宛先はお兄ちゃん、差出人の名前は書かれていない。
『お兄様がそちらに向かってる』というメールが来たので私は撤退する事に。
「時間切れか。……見つけたのはこの封筒だけ、持っていっていいのかな?」
仕方なく、その封筒を持ち出して、お兄ちゃん部屋を後にした。
再び、お姉ちゃんの部屋に集合すると、私はテーブルにその封筒を出した。
「収穫はあったよ。これを引き出しの奥から見つけたの」
「手紙?あ、もしかして、お兄様宛てのラブレター?」
偶然見つけたそれはお兄ちゃんへのラブレターだった。
中身を読んで私はそれが本物だという事に気づく。
『先輩の事が好きです。貴方の恋人になりたいんです。お付き合いしてくれませんか?』
部活中に優しくされたことが好意に変わったと言う内容が書かれている。
ちっ、もっとハーレム部にも注意を向けていればよかった。
お兄ちゃんって誰にでも優しい、それが彼のよさでもあり、誤解を生む事でもある。
「……差出人名、伊上美香(いのうえ みか)。そう、確かこの間の子もそんな名前だったわ。間違いない、この子が写真の子よ。可愛らしい子だったもの」
「“美少女X”の正体は1年生の後輩、伊上美香。ふふっ、全ては繋がった」
何か探偵ごっこをしてる気分になりつつ、私は他の手紙も見てみる。
「お兄ちゃんってモテるとは思ってたけど……ホントにモテてるんだ」
伊上って子だけではなく、他の子からもラブレターをもらってるみたい。
大事にラブレターを取っておくとは、実にお兄ちゃんらしい。
人の気持ちを大切にするのって、いい事だよ。
「さて、これでお兄様が誰と一緒に写真に写っていたのかは分かったわ。それで、これからどうするつもり?」
「もちろん、これで終わるわけない。この子がお兄ちゃんと付き合ってるのか調べないとね……。ちょうど、明日はお兄ちゃんの部活の日だし、ついていこうよ」
だが、星歌お姉ちゃんは視線を伏せながら乗り気ではない。
テンションを落とす彼女が気になって私は言う。
「どうしたの、お姉ちゃん。気にならないの?」
「何かこれ以上は踏み込みたくない」
「怖い?もしも、蒼空お兄ちゃんが他の人と付き合っていたら?」
「……可能性はゼロではない。そうでしょう?」
私はその台詞を鼻で笑う。
お姉ちゃんは私の顔をジッと見つめた。
「ダメだなぁ。そんなに自信ないなら諦めてしまえばいいじゃない。私はお兄ちゃんを信じる、そして、自分の気持ちも信じてる。私たちが告白した事をお兄ちゃんは受けれいてくれた。答えを出すまで中途半端な事はしてないって信じるよ」
そう、他の誰かには渡さない。
あの告白から私かお姉ちゃんか、お兄ちゃんには撰ぶ責任がある。
「これはあくまでも確認だもんっ。お兄ちゃんの事、ホントに知りたいなら行動しないと……行こうよ、お姉ちゃん。自分の目で確認しよう?怖くても、事実はひとつしかないもの」
私が差し出す手を彼女はゆっくりと握る。
お姉ちゃんは不安になると臆病になるから、こうして支えてあげないといけない。
完璧に見えるけど、精神的なものは私の方が強いから。
「貴方は強いわね。夢月って普段は何を考えてるのか分からないくらいにバカだけど、肝心な時の強さは尊敬するわ」
「……うぅ、珍しく褒められたと思ったら微妙に否定されている」
問題は明日の部活に少女が来てるかがどうかだけど。
とにかく、私たちは自分の目で確認しなくちゃいけないの。
「伊上美香とお兄ちゃんの関係を明日、暴いてみせる……」
私はそう意気込んで明日を待つことにした。
あ、明日は予約したゲームを取りに行くから、徹夜できるように早めに寝よう。
おやすみなさい、すぅ……zzz。