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女神の姉と天使の妹  作者: 南条仁
女神の姉と天使の妹
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第30章:蒼空の秘密?

【SIDE:宝仙星歌】


 それは避ける事の出来ない争いだったのか。

 

「どうして?どうして、私とお姉ちゃんが戦わないといけないの?私にはできないっ!」

 

「……最初に引き金を引いたのは貴方でしょう?」

 

「いや、私は撃ちたくない。お姉ちゃんを撃ちたくないよ」

 

 夢月は叫びつつも、銃の銃口をこちらに向けている。

 言葉と矛盾する行動。

 

「撃ちたくないって言うなら銃をおろせばいいのに」

 

「……ごめんね、お姉ちゃん。私達は戦う宿命だったのよ。姉妹でも、戦わなければいけないの。大切な者を守るために、さよなら……って、ふにゃん!?」

 

 私は夢月に付き合うのが面倒なので、呆気なく引き金を引いた。

 響く銃声に夢月は表情を強張らせる。

 そして、テレビの画面には「YOU WIN」の文字が表示された。

 

「何か言ってたかしら、夢月?」

 

「……な、なんて事を。せっかく、雰囲気を出して戦ってたのに。ずるい~っ!」

 

「貴方のお遊びに付き合う事もないでしょ?対戦プレイだから、勝たないと」

 

 夢月に誘われて、彼女の部屋でゲームをしていた。

 銃と言ってもサバイバルゲームをテレビゲームにしたソフトで、私と彼女は対戦していた。

 夢月は妙に雰囲気に乗って何かを言っていたけどね。

 

「容赦ないよ、うちの姉。せっかく、盛り上げようとしてたのにーっ」

 

 ふたつに結んだ髪を揺らして、激しく不満そうに抗議する彼女。

 今日から数日間はオーケストラの練習が休みだからと朝からゲーム三昧だ。

 お兄様が今日は友人と出かけているために私が対戦相手に誘われた。

 

「またこんなゲームを買って……夢月の部屋ってゲームばかりじゃない」

 

「ちなみにこれはパパ達に誕生日プレゼントとして買ってもらったゲーム。お兄ちゃんからは明日発売のRPGを買ってもらいました。明日予約したのを取りに行くんだ。明日からは徹夜決定だね!」

 

「……蒼空お兄様にまでゲームをねだったの?」

 

「だって、何でも買ってくれるって言うから」

 

 誕生日プレゼントにゲームをねだるなんてどうかしている。

 私がお兄様にアンティークのオルゴール付き小物入れを買ってもらった時、「夢月と違ってプレゼントのしがいがあるよ」と苦笑していたのを思い出した。

 なるほど、これなら確かに彼女の望みであるプレゼントだけど、何だかなぁ。

 

「……そういえば、今日、お兄ちゃんは?」

 

「お友達とお出かけだって。朝から家を出て行ったわ」

 

「ま、まさか私達というモノがいながら恋人なんて作ってたりして……?」

 

「女友達だとは言ってないのに」

 

 お兄様の交友関係はあまり女友達が多い方ではない。

 

「甘いね、そんな甘さだからお兄ちゃんにBL趣味がバレちゃうんだよ」

 

「……私はBL趣味ではありません。OK?」

 

「いたひぃっ……ふぎゅぅ、ひゃなして~」

 

 いつものように妹の頬を引っ張りながら数日前の悪夢を思い出した。

 悪夢、お兄様に余計な疑惑を抱かせてしまった。

 あの時の失望感に満ちた表情を私は忘れる事ができない。

 うぅ、蒼空お兄様は私の趣味に幻滅したに違いない。

 

「可愛い美少年好きなのはホントじゃない」

 

「……もうその話はやめて」

 

 耳をふさいで聞きたくないという素振りを見せる。

 

「自分の時だけそんな風に良い子ぶるんだからぁ。あの時も全部、私のせいにしたでしょ。後でお兄ちゃんに『僕はどこで育て方を間違えた』って言われたんだよ」

 

 ……ごめんなさい、お兄様。

 私が間違えてました……美少年好きな趣味は封印します。

 私が大好きなのはお兄様だけだから、嫌いにならないで。

 

「そういうお兄ちゃんにだって、妹に隠しておきたい秘密くらいあるはずなのに」

 

「……お兄様の秘密?そんなものがあるの?」

 

「さぁ、私は知らない。よしっ。お兄ちゃんの探索してみましょう!」

 

 意気揚々とそう告げる妹に私は「嫌よ」と短く断る。

 

「何で?留守の部屋を探せば何か弱みのひとつくらい見つかるって」

 

「……人の部屋を勝手に荒らしてはいけないわ」

 

「世の中にはいい言葉があるじゃない。見つからなければそれは罪ではない。お姉ちゃんはお兄ちゃんの秘密が知りたくないの?」

 

「そうとは言ってないけれど、勝手に部屋に入るのには賛成できない」

 

 これ以上、私はお兄様を失望させたくはない。

 けれど、好奇心というものは私にもある。

 

「す、少しだけならいいかしら?」

 

「やっぱり、気になるんじゃない。細かい事は気にしない。これで共犯者だね、私たち……えへへっ。さぁ、捜査開始っ!何が出るかなっ、何が見つかるかなっ?」

 

 ――お兄様にバレた時は全部、夢月のせいにしよう。

 私達はお兄様の部屋に入ることにする。

 男の人にしては綺麗に片付けられている部屋。

 

「ホント、私の部屋とは大違いだ」

 

「自信を持って答えないで。貴方も女の子らしく整理整頓くらいしなさい」

 

「まぁ、それは置いといて。確か、前はここに変な本が置いてたはず」

 

 夢月はベッドの下に手を伸ばすけれど、そこには漫画雑誌以外はない。

 

「……ちっ、お兄ちゃん。この間、私に知られたからって隠し場所を変えたね」

 

「はぁ、貴方は普段から何をしているの?」

 

「知的好奇心には敵いません。私は自分に正直に生きるという事を決めてるの」

 

 時々、夢月の無駄な積極性を呆れるべきか羨むべきかを悩む。

 そのやる気を別の方向に持っていけば間違いなく彼女は優秀になれるのに。

 私達は部屋の中を探し始める事にする。

 最初は気が引けた私も、部屋の探索と共に興味が湧いてきた。

 

「これは……?」

 

 お兄様のベッドの付近に置かれたフォトスタンド。

 中には私たちの写真が飾られていた。

 初めて出会った時の写真と最近の撮った写真。

 3人一緒にこうして写っている写真は私達の思い出そのものだ。

 

「お兄様って私たちにとって本当にいいお兄様よね」

 

 兄として私達の面倒を本当によく見てくれている。

 初めての写真は私はお兄様から距離をとっている。

 まだ彼に慣れていなかった頃の写真だから。

 最近になるにつれて私達の距離は近づいていく。

 私が彼を好きになってしまったの……。

 

「……お兄様、大好きです」

 

 うっとりとして、私はその幸せに浸っていた。

 恋は私を大きく成長させたと思う。

 あのまま、お兄様に恋していなかったら私は男嫌いのままで、今の自分はなかったはず。

 

「あった!ついにお兄ちゃんの秘密を見つけたよ、お姉ちゃん!」

 

 ……その幸せの余韻を無残にもぶち壊した妹の声。

 私は苛立ちを抱きつつ、顔を覗かせると本棚の中から何冊かの本を取り出していた。

 

「ふふふっ、木を隠すなら森の中。本を隠すなら本の中。見つけちゃいました」

 

 雑誌の中に隠されていたその本を彼女は読み始める。

 

「おおっ。なるほど、お兄ちゃんはこういう趣味が……やぁんっ、お兄ちゃんのエッチ」

 

「……気になるなぁ、私にも見せてよ」

 

「ダメぇ。これは私が見つけたお兄ちゃんの秘密だもんっ」

 

 と、言って彼女は見せてくれない。

 怪しい本を何冊か眺めている夢月がずるいと思いつつ、私は他にないか調べてみる。

 

「……あら?何か雑誌に挟まってるわ」

 

「ん、何か他に見つけたの?」

 

「いえ、見つけたと言うか……これ、誰?」

 

 私は雑誌の中から数枚の写真を見つけてしまったの。

 仲よさそうに笑う蒼空お兄様と見知らぬ女の人。

 ウエーブのかかった髪が印象的な可愛い子。

 歳は私たちと同い年か、お兄様と同じかもしれない。

 写真の日付は今年の7月と記されていた。

 

「ふにゃぁ!?だ、誰!?まさか、お兄ちゃんの恋人!?」

 

「そ、そんなわけないでしょう。お兄様にお付き合いしている人はいないもの」

 

 夢月の言葉に私も動揺をしてしまう。

 しかし、この写真が証拠……私達以外の女の子に笑顔を見せるお兄様がいるのは事実。

 

「こういうの、泥棒猫っていうんだっけ?」

 

「……それ、意味が違う。ここではそう使わない」

 

「冷静に間違いを正してる場合じゃないって。これ、大発見だよ。私の見つけた『THE 美乳』や『お奨め、美乳コレクション』とかのあっち系な本より価値のある発見だし。はぅ、誰なの、この可愛い子は……めちゃくちゃ可愛いし、胸も大きくて綺麗そうだし……ハッ、ライバル出現!?」

 

「――お兄様って何気に美乳好きなの?」

 

 そちらの発見もそれはそれですごいんだけど。

 蒼空お兄様は形のいい胸が好きなんですか、そうですか……。

 

「ホント、この人は誰なんだろう?」

 

「お友達?でも、この抱きつく感じの距離感はないよねぇ。あっ、今日は朝からお気に入りの服を着て出かけた相手って……!?」

 

「分からないわ。この写真だけじゃなんとも言えない」

 

 私達はその写真をふたりで見ながらああでもない、こうでもないと意見を交し合う。

 だけど、それ以外の写真も証拠も見つからない。

 

「うぅ、何だろう……。モヤモヤする~っ」

 

「まだお兄様の恋人だと決まったわけではないし」

 

「私、調査してきます。まずはお兄ちゃんの周囲の関係から調べてくるね」

 

 そう言って夢月は部屋を出て行ってしまう。

 私は写真を見つめて誰もいなくなった部屋にポツリと本音を漏らした。

 

「蒼空お兄様……貴方を信じてもいいんですか?」

 

 寂しさが込み上げてくる、こんなにも不安になるなんて。

 たった数枚の写真、隠されていたことが余計に不安を倍増させた。

 ふと、ドアの開ける音がしたので私は「夢月、何か分かった?」と声をかける。

 

「……星歌?僕の部屋に何か用か?」

 

「え、えぇ!?お、お兄様っ!?」

 

 部屋に帰ってきたお兄様に、私は慌ててその写真を後ろに隠した。

 

「――おかえりなさい、蒼空お兄様」

 

「いや、あ、うん。ただいま……で?なぜ、星歌が僕の部屋に?」

 

 マズイ、この状況を見られたら変な誤解を与えてしまう……。

 だが、彼は別の意味で予想外に動揺を示す。

 

「これは……み、見たのか?星歌、僕の秘密を見てしまったのか!?」

 

「……秘密?」

 

 彼が驚いていたのは机の方に置かれていたあの例の写真集。

 あぅ、夢月、ちゃんと本を片付けておいてよ。

 後悔しても遅い、彼は青ざめた表情を浮かべながら、

 

「せっかく、夢月にバレないように隠していたのに見つかるとは……」

 

「あ、あの、お兄様。勝手に部屋に入ってしまって、ごめんなさいっ!」

 

 私はひたすら頭を下げて謝るしかない。

 だって、お兄様の部屋へ勝手に入って物色しただけでなく、秘密まで見てしまったのだから……彼に嫌われたくない。

 

「いや、星歌が謝る必要はないよ。これは夢月が見つけたんだろ?どうせ『お姉ちゃん、こんな物を見つけたよ』とか言って星歌を連れてきた。それで、漁るだけ漁ってアイツは去った、と。星歌は仕方なく夢月の代わりに部屋を片付けてくれた、そういうわけなんだろう?星歌、ありがとう」

 

 日頃の行いの違いがここに……夢月が普段からどう思われているかよく分かる。

 うぅ、私の良心がチクチク痛むけど、ここは乗るしかない。

 

「そうなんです、あの子ったら私を連れてきたらすぐに出かけてしまって。ごめんなさい、私も後で怒っておきますから。片付けはすぐ終わらせます」

 

「いいよ、そのままでも。夢月の後始末を星歌がしなくてもいいのに」

 

「姉妹ですから。あの子が悪い事をしたなら、私がフォローするのも当然です」

 

 私も共犯者だという事は黙っておいた。

 どうやら、私の悪い印象は与えずにすんだみたい。

 

「やっぱり、キミは優しいな、星歌。……で、つかぬ事をお伺いしますか、僕の秘密の本を見ちゃったりとかしたのかな?」

 

「い、いえ。お兄様が美乳好きなんて知りませんからっ」

 

「……ぐすんっ。美乳は人類の宝物なんです。美乳に罪はないんだ!」

 

 蒼空お兄様はガクッとうな垂れて沈み込んだ表情を浮かべていた。

 私はそのまま逃げるように部屋を後にする。

 その時、つい私はあの写真も一緒に勝手に持ってきてしまったの。

 私達の知らないお兄様の秘密がここに……。

 

「ねぇ、お兄様……この写真に写る女性は誰なんですか?」

 

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