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女神の姉と天使の妹  作者: 南条仁
女神の姉と天使の妹
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第24章:プールへ行きましょう!

【SIDE:宝仙蒼空】


 夏休みも折り返し、8月に入って半月、残り少しの夏休みを楽しんでいた。

 弾ける水しぶき、プールに響く女の子のはしゃぐ声。

 

「何してるの、蒼空お兄ちゃんも早く~っ」

 

 夢月がプールサイドを子供のように駆けながら僕を呼ぶ。

 可愛い水玉模様の水着、少し胸の部分が足りないのは気にしない。

 ……逆にあれだけ無邪気でボリュームがあると、僕としても色々と困るわけで。

 そんな僕の都合はさておき、今日は屋内型プールに妹達と遊びに来ていた。

 都合が悪く夏の海とはいかなかったけれど、これはこれで楽しい。

 

「夢月。あまり、お兄様を困らせないで。あと、プールサイドを走らない」

 

 妹をたしなめる星歌がこちらに振り向いて微笑む。

 

「蒼空お兄様も夢月を甘やかせないでください。あの子ったら、お兄様に甘えてすぐに調子にのるんですから。本当に子供ですよね。ほら、私たちも行きましょう」

 

 僕にそっと手を差し出してくる、僕はその手を握り締めて歩き出した。

 以前の彼女からは想像できないくらいに、星歌もずいぶんと積極的になったものだ。

 

「そうだ、お兄様。この水着……どうですか?私に似合います?」

 

 星歌が僕に水着を見せて軽く上目遣いで囁く。

 夢月とは違い、揺れる魅惑の果実、抜群のスタイルはボリュームがあります。

 ビキニタイプの水着って谷間がくっきりと出るから目のやり場に困るなぁ。

 ……って、僕の視線はさっきから妹達の胸ばかり……兄としてダメ人間な気がしてきた。

 

「スタイルもよくて綺麗だよ。星歌によく似合っている」

 

「ありがとうございます。……でも、お兄様。露骨に女の子の胸ばかり見ちゃダメですよ。男の子ですから気になるとは思いますけれど我慢してくださいね?」

 

「りょ、了解です」

 

 こちらに有無を言わさない威圧感。

 星歌の微笑みはまさに女神だろう……良い意味でも、悪い意味でも。

 ……笑って怒るから星歌って怖いんだ、うん。

 

「つい見ちゃうほど星歌が魅力的だから。それでもダメなのかな?」

 

「うっ、そういうのは……お兄様は意地悪です。二人っきりの時なら……」

 

 照れて恥らう姿も可愛いなぁ。

 ……この間の告白以来、僕も彼女にとても興味を抱いていた。

 妹に恋をする、それはとても勇気のいる事だ。

 僕は夢月と星歌、どちらが本当に好きなんだろう、これは贅沢な悩みかもしれない。

 

「うぅ、何よ……良い感じに見つめ合っちゃって。お兄ちゃんっ!」

 

 僕らの様子に拗ねた夢月が抱きついてくる。

 

「こらっ、はしたないわよ。お兄様からすぐに離れなさい」

 

「ふんっ。何よ、自分だけ好かれようといい子ぶっちゃってさ。そのビキニ水着だってお兄ちゃんの好みそうなのじゃん。わざと大きな胸を強調するっていうのがいやらしい。ねぇ、お兄ちゃん。小さいのと大きいのってどちらに魅力を感じる?」

 

 控えめな膨らみを腕に感じつつ、僕は怖くて星歌の顔を見れない。

 きっと、女神様は怒っておられます。

 ダメだ、ここで選択をミスればプールどころではない。

 

「ノーコメントで。女の子の魅力は胸だけじゃない。違うか?」

 

 おおっ、何だかとてもいいお兄ちゃんな気がしてくる台詞だ。

 

「さすがお兄様。夢月もそんな“小さな事”でこだわっていないで、全体を見なさい。人の魅力はひとそれぞれでしょう」

 

 こういう余裕のある言い方が星歌っぽいよなぁ。

 だが、夢月はつまらなさそうに唇を尖らせて言う。

 

「……お兄ちゃんって肝心な時にヘタれるよね。男としてどうかな」

 

「この話の流れでどう言えばよかったんですか」

 

 どちらに転んでも、僕にとっては痛い結末しか待っていない。

 ちなみに僕の好みとしては美乳派なんで、形が綺麗なら大きさは気にしません。

 僕だって男なんだよ、微妙な所を責めるのはやめてくれ。

 そんな言い合いも何とか終わり、僕らはプールへと入る。

 流れるプールのために入ったらそのまま流れに乗って身体が流されていく。

 夢月も同じく浮き輪に乗って楽しんでいた。

 

「気持ちいいねぇ……って、うわっぷ!?」

 

 浮き輪に乗った夢月が勢いよく転覆してしまう。

 

「あら、ごめんなさい。つい、掴まっちゃったわ」

 

 わざとらしく星歌が夢月の浮き輪に手をのせていた。

 必死になって水の中から手を伸ばして浮き輪を掴むと夢月は姉に怒る。

 

「ぷはぁ、危うく溺れるところだったじゃない。何するのよっ」

 

「楽しそうだと思って。そういえば、夢月は泳げなかったのね?」

 

「くっ……泳げないんじゃない。泳ぐのが苦手なだけだもんっ」

 

 運動神経抜群の星歌と違い、夢月は泳ぎも下手というか苦手だ。

 笑う星歌に焦る夢月、プールで双子の姉妹は戯れている。

 

「意地悪だよ、魔女だよ。この姉、めっちゃ腹黒い……。お兄ちゃん、意地悪なお姉ちゃんが私が可愛いからって苛めるよぅ。さっさと浮き輪から手を離してよ、沈んじゃうじゃない」

 

「それも姉の愛情だ。分かりにくいかもしれないが、受け取ってやれ」

 

「どこに愛情が?蒼空お兄ちゃんはお姉ちゃんの味方なの?もうっ!さっさと手を離して。もうっ、お姉ちゃんが重いんだよっ!……ハッ、い、今のなし!」

 

 生命の危機を抱いた夢月は言葉を訂正するが既に時遅し。

 

「……夢月、今、何て言ったのかしら?」

 

 絶対零度の女神の微笑みに夢月の表情が凍りつく。

 口は災いの元、これにはさすがの夢月もびくっと身体を震わせていた。

 

「いえ、美人なお姉さまは羽のように軽い、と言いました、です」

 

「ふふっ……ありがとう。そうだ、夢月。貴方と一緒に行きたい場所があるの。蒼空お兄様。私と夢月はウォータースライダーに乗ってきますね。いいですか?」

 

「お、おぅ。気をつけていってこい」

 

 星歌の満面の笑みに圧倒されて僕はそう言うしかない。

 二人の後ろ姿を見送りながら、背中越しに悲壮感の漂う夢月を見た。

 

「ふ、ふぇ……やだよぅ。あんなのに乗ったら死んじゃうって!嫌だぁ」

 

「大丈夫よ。子供だって乗れるんだもの。すぐに楽にしてあげるから。……プールって楽しいわねぇ。私、泳ぐのって大好きなの。たまには姉妹仲良く遊びましょう」

 

「私が悪かったから許してよぅ、えぐっ……怖いよぅ」

 

 ちょいと涙目&涙声な夢月、あれは完全にびびってる。

 可哀想だが、自業自得だ……頑張ってきてください。

 それにしても、星歌があんな風に楽しそうなのは久しぶりに見るな。

 数分後、「ふにゃー!!」と女の子が涙声で叫んでるのが聞こえてくる。

 ウォータースライダーに視線を向けて僕は手を合わせて拝んだ、合唱。

 きっと、泳げない天使が怒らせた女神の制裁でも受けているんだろう。

 

「あー、流されていく……僕の人生もこうして流されてばかりいるのね」

 

 しばらくの間、流れるプールで人生を考えつつ、時の渦に流されていく。

 何周もグルグルと流されていると、ふにょんっと僕の頭は柔らかな感触に包まれる。

 

「あ、すみませんっ」

 

 誰かに当たったと思い、謝ろうと僕は振り返る。

 

「もうっ、お兄様のエッチ。今のわざとですか?」

 

 星歌が僕の方を見てくすっと微笑している。

 今の感触は星歌の胸、やっぱり、見た目通りに程よい弾力がありました。

 

「断固違います。わざとじゃない……あれ?夢月はどうしたんだ?」

 

「あぁ、夢月ならあちらですよ」

 

 星歌の指差す方向、なぜか、子供用プールに夢月はいた。

 いくら泳げない&精神年齢が近いからって、無邪気に子供達と戯れている夢月の姿にお兄ちゃんは涙が出そうだ……。

 

「“どうしても”あの場所で遊びたいそうです。姉妹で仲良く遊べなかったのは残念ですね。お兄様、残りの時間は私とふたりっきりで楽しみましょう」

 

「……そ、そうなのか」

 

 僕は改めて星歌の身体をじっくりと見つめてみる。

 色白で華奢な身体でも、出るところはしっかりと出ているモデル並のスタイルのよさ。

 それに顔も美人と言えば、振り返って星歌を見てしまう男共の気持ちも分かる。

 

「お兄様。私、ひとつだけ我が侭を言ってもいいですか?」

 

「我が侭?星歌の我が侭なら何でも聞いてあげるよ」

 

「それじゃ……こうして触れても怒らないでください」

 

 僕を背中から抱きしめるように身体を密着させてくる。

 濡れた彼女の長い髪、背中越しに伝わる体温と柔らかな感触。

 心臓が壊れそうなくらいにドキッとしてしまう。

 

「どうですか?妹相手でもドキドキしてくれます?」

 

「普通に緊張するよ。しないわけがない。星歌は女の子としても魅力的だから」

 

「……お兄様にとっても、ひとりの女として見てもらえますか」

 

 その言葉に彼女の行動の意味を悟った。

 僕は星歌の回してきた腕に触れながら囁く。

 

「十分過ぎるくらい、僕は星歌を女として見てるんだけどね」

 

「……私は蒼空お兄様の支えになりたんです。今まで私を支えてきてくれたお兄様に必要とされたい。そのために、私に足りない物があるとしたらどこですか?」

 

 至近距離での囁き、それは彼女にとっての不安の表れでもあるのだろう。

 顔を見ずに言えない星歌の気持ち、僕は短くも自分の言葉でそれを伝える。

 

「星歌は今の星歌でいいんだ。足りない物なんてない」

 

 周囲の喧騒なんて聞こえない、この空間には僕と星歌のふたりしかいない錯覚。

 

「どうすれば、私はお兄様にとっての世界で一番大切な女性になれますか?」

 

 ぎゅっと力強く彼女は僕を抱きしめる。

 

「私はお兄様の恋人になりたい。お兄様に愛されたいんです。夢月よりも、もっと近くでお兄様に接して欲しい。愛しているんです」

 

 強い意志を込めた言葉で星歌は“愛”を歌う。

 その歌声に似た告白は僕の心を大きく揺さぶる。

 

「あー、ずるいっ。何をお兄ちゃんに抱きついてるのっ!むぅ~っ」

 

 夢月がそう言って水をかけてくる、そこでふたりの甘い雰囲気は消えてしまう。

 星歌は苦笑気味に「この話はまた今度します」と区切ると、妹を叱り付ける。

 

「邪魔しないでよ、夢月。またプールの底に沈めてあげましょうか?」

 

「ふ、ふんっ。そうやって脅しても無駄よ。私にはこの浮き輪が……あっ、空気を抜くのはダメーっ。反則だって、うわぁっ、沈むぅ。ふにぁ……」

 

 冷たいプールの水にゆっくりと沈没していく夢月。

 僕は夢月を助けてあげながら、ふと、星歌の横顔を見る。

 彼女はどこか思いつめたように、遠い場所を見ているように思えたんだ。

 

 

 

 

 夕焼け空の下、はしゃぎ疲れてしまった夢月を背に背負い、僕は帰り道を歩いていた。

 星歌は先に食事の準備をすると、帰ってしまいふたりだけ。

 彼女なりに夢月に対しての気遣いがあったのだろうか。

 

「今日は疲れたよ。お姉ちゃんに苛められるし、ひどい目にあわされた。もうプールは嫌だよ。怖いよ、ウォータースライダーなんて一生乗りたくない」

 

「そう拗ねるなよ。お前の水着姿は可愛くて似合っていたぞ」

 

「えへへっ。ありがとう、お兄ちゃん大好き」

 

 背中に擦り寄る妹が可愛く思える。

 

「それにしても、夢月は軽いなぁ。女の子って感じがするよ」

 

「お兄ちゃんの優しさが私の傷ついた心を癒してくれるよ。お姉ちゃんは苦手……」

 

「そんな事を言うな。ああ見えて、意外と夢月の事を考えてくれている」

 

「嘘だぁ。お姉ちゃん、絶対に私の事が嫌いだよ」

 

 拗ねてる口調でも本気ではなさそうだ。

 何だかんだ言いながらもちゃんとした絆がそこにある。

 

「そう言いながらも、夢月はお姉ちゃんのことが好きなんだろ」

 

「意地悪する星歌お姉ちゃんは嫌いだよ。普段のお姉ちゃんも苦手だもんっ」

 

 夢月を背負って歩いていると、彼女は普段とは違う真面目な声で言う。

 

「……やっぱり、お兄ちゃんを諦めたくないな」

 

「ん、何か言ったか?よく聞こえなかった」

 

「お兄ちゃん、私がいなくなったら寂しい……?」

 

「当たり前の事を聞くなよ。寂しいに決まってるだろう。大事な妹なんだから」

 

 その言葉に僕はふと思い当たる節があった。

 妹の悩みだと判断した僕は彼女に尋ねてみる。

 

「……どうした、何か悩みなら言ってみろ。僕だって相談ぐらいは乗ってやる」

 

 夢月は覚悟を決めた様子で僕に言う。

 

「この前の電話でパパが言っていたんだ。私、また海外留学できるかもしれない」

 

「海外留学……?音楽関係の留学の誘いがあったのか?」

 

「そう。今度は長期で行く事になりそう。高校は中退になっちゃうかも。お兄ちゃんやお姉ちゃん、友達と離れたくないけど、音楽が好きな私にとっては願ってもないチャンスだもの。私はどうすればいいの……お兄ちゃん」

 

 僕にすがるように彼女は想いを口にした。

 自分の未来、これから先の将来についてどうすればいいのか。

 僕はそんな彼女に「よく考えろ」としか言えず、ショックを隠せなかった。

 

「そうだね。まだ時間はあるから考えてみる。お姉ちゃんには内緒にしておいて」

 

 夢月がまた僕らの前からいなくなるかもしれない。

 それが現実になるとしたら……僕らの関係は……?

 

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