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女神の姉と天使の妹  作者: 南条仁
女神の姉と天使の妹
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第19章:天使の反逆

【SIDE:宝仙夢月】


 大好きなお兄ちゃんに告白……しようとしたら、お姉ちゃんに邪魔されました。

 予想はしていたけれど、ああいうのはやめてよね。

 人の告白中にいいとこ取りで告白されるのは辛い。

 とはいえ、彼女の事を思えば無闇に文句も言えず、仕方なく私は上手くまとめる事に。

 ……ホントは、今回で決めてしまおうと思ってた。

 やっぱり、星歌お姉ちゃんってずるいよ。

 それでも……ここからが姉妹だけの勝負。

 どちらが蒼空お兄ちゃんに気に入られて恋してもらえるのか。

 恋愛の真剣勝負の始まり……。

 

「……のはずだったんだけど」

 

 私は目の前で繰り広げられていた光景に衝撃を受けていた。

 リビングで夏の定番、心霊特集の番組を見ているお姉ちゃんとお兄ちゃん。

 

「きゃっ、お兄様~っ。人の顔があんな場所に!?」

 

「おいおい、怖がりすぎだろ?星歌、大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫です……びっくりしただけですから」

 

 ここぞとばかりにお兄ちゃんに抱きついて、女性の弱さをアピールしている。

 お兄ちゃんは優しいから彼女が怖がらないようにしっかりと抱きしめて……ん?

 

「怪しい……」

 

 ……なんで、腰に手を回してるのかな、お兄ちゃん?

 ていうか、姉と兄のこんな姿を見たくないし!

 

「ふわぁっ!?ふぇーん、怖いです、お兄様」

 

「今の僕もびびったぞ……。アレはないだろ、アレは……」

 

「怖いからお兄様、ぎゅってしてください」

 

「そうか?……仕方ないなぁ」

 

 何が仕方ないなぁ、だよ……めっちゃ鼻の下伸びてますよ、お兄ちゃん。

 テレビの場面が切り替わるたびにふたりの距離は近づいていくばかり。

 私はふたりの間にも入れず、後ろでただ眺めているだけ。

 邪魔してやろうとしても、近づくだけで姉に威嚇されたので逃げてきました。

 『邪魔するんじゃねーよ、オラー!』って感じの目で睨みつけられた。

 うちのお姉ちゃん、怒るとめっちゃ怖いんだもんっ、きゅ~ん。

 

「えぐっ……これがお姉ちゃんの本気。侮ってたよぅ」

 

 普段、甘えてくれない女の子に甘えられると男の子はデレデレしてしまう。

 お姉ちゃんはそれを知ってか知らずか、あの告白以来、彼に対して自然に甘えていた。

 しかも、それがあの儚げで女神と呼ばれる姿をしている女ならな威力は倍増する。

 女の弱さは守ってあげなくちゃっていう男の意識に直結するから。

 

「手強いよ、姉。男の媚び方がうまいよ、姉。ダメだ、このままじゃ……」

 

 ラブラブオーラを見てるのが辛くて私は自室へ戦略的撤退をする。

 私も作戦を練らなくちゃ負けてしまう。

 部屋に戻って、私はベッドに横になる。

 

「うぅ、あんな風にされたら私の立場がないじゃん」

 

 今までは反対の立場だったのに。

 私が甘えて、それをお姉ちゃんが見ていた。

 その構図が一転されてしまう現実。

 このままじゃ奪われる……私の立場さえ奪われてしまう。

 ……アレですか、やっぱり巨乳なのがいいんですか?

 柔らかいし、抱きしめ心地がいいからね、ふんっ……。

 私には外見的に武器はない、美人でもなければ胸も大きくない。

 どちらかと言えば、女の子に幼さを求めてる人向けだ。

 残念ながらお兄ちゃんは世間一般で呼ばれてるロリコンじゃない。

 ……貧乳にだって需要はあるのに、大好きな人の好みと違うと意味はない。

 無邪気さを武器にこれまでお兄ちゃんを翻弄してきた私だけど、それを姉にもされると私の立つ瀬はなく、絶体絶命大ピンチ……。

 

「辛いなぁ……お姉ちゃん、私のキャラまで奪わないでよ」

 

 ……よくよく考えてみたらお姉ちゃんって積極性になったら最強だよ。

 美人で胸も大きくて、穏やかで優しい性格をしてるだけじゃなくて、男の子の喜びそうな天然っぷりもあるし。

 唯一の弱点は寝起きと消極的な性格だけだったのに。

 ……寝起きだけしか弱点のなくなった最強のライバル相手に私は自信を喪失していた。

 お姉ちゃんになくて私だけにしかないのは……?

 そこを考えれば私にも勝機はあるはず。

 

「……ダメだよぅ、何一つ思い浮かばない」

 

 思考開始からわずか3秒で私は自らの負けを悟る。

 音楽だけしか取り得のない私にどうやってあの最強美少女を相手にしろ、と?

 

「あぁー、もう嫌だぁ……」

 

 私はゴロゴロとベッドを転がりながら悩みに悩まされていた。

 あの告白の時、姉に対して余裕ぶってけしかけるんじゃなかった。

 不戦勝でも私の勝ちをモノにしておけばよかったのに。

 分かってた、姉が本気になればお兄ちゃんを簡単に振り向かせる事は……。

 

「……後悔しても遅い。私はチャンスを失ったんだ」

 

 やばい、ちょっと涙が出てきた……。

 

「お風呂にでも入ってこよぅ……」

 

 私はお風呂に入ろうとベッドを立つ。

 そこで私はピンッときた。

 そうか、私に出来てお姉ちゃんに出来ない事があったじゃん。

 

「ここで攻めなきゃ負ける……」

 

 私は賭けと思える行動に出る事にした。

 

 

 

 

 再び、リビングに行くとお姉ちゃんだけがテレビを見てる。

 

「お兄ちゃんはどうしたの?」

 

「お兄様ならお風呂よ。……夢月、さっきはごめんね」

 

「……何で謝るの?これは勝負だって言ってるじゃない」

 

 先ほどの事を言ってるんだろうけど、謝るのは違う。

 私の言葉に姉は意外そうな表情を見せて、

 

「夢月は強いのね。私、貴方のそういう所が羨ましいわ」

 

「私はお姉ちゃんのすべてが羨ましいよ」

 

「……夢月?」

 

「何でもないっ。私だって、絶対にお姉ちゃんには負けないんだよ」

 

 お姉ちゃんに私はそう言い放つとリビングを出る。

 私はすぐさま、お兄ちゃんのいるお風呂場へと向かった。

 

「お姉ちゃんには出来ない事……ふふふっ」

 

 私は服を脱ぐとお風呂場に入る。

 

「お邪魔しまーす、蒼空お兄ちゃん」

 

「……え?な、何で!?」

 

 シャワーを浴びてるお兄ちゃんが動揺して声をあげる。

 

「しっ!大きな声だとお姉ちゃんにバレるでしょ!」

 

「……夢月、どういうつもりだ?」

 

「お背中流します♪……って、痛い、お兄ちゃん」

 

 私のおでこにデコピンをすると、お兄ちゃんは心底呆れた顔をする。

 

「こういうのはやめてくれ……。お前も年頃なんだから気をつけろ」

 

「どうして?お互いに好きなら乗り越えるべきものでしょ!」

 

「……あのなぁ、夢月。コレはやりすぎだろ」

 

 お互いにタオル一枚、湯煙でそれほど見えなくても裸である事に変わりない。

 

「だって、こうでもしなきゃ……私じゃお姉ちゃんに対抗できない」

 

「対抗?何を言ってるんだ?」

 

「……ぷいっ。知らない、お兄ちゃんの鈍感さに呆れるよ」

 

 私拗ねた口調でそのままお風呂に入る。

 

「……何を拗ねてるんだよ?」

 

「可愛い女の子と一緒にお風呂に入ってるのに説教だけでドキドキしてくれないお兄ちゃんに対しての不満……」

 

「いや、“妹”に反応したら負けだと思う」

 

「私は義妹であって、お兄ちゃんの実妹じゃないから禁断領域では圏外でーす。そんな予防線張られて……お姉ちゃん相手には何も抵抗しないくせに」

 

 昔からそうだったんだよ、私じゃダメでも、お姉ちゃんならOKっていうのが多々あって……私は幼い頃からお兄ちゃんの好きなのはお姉ちゃんだと思ってた。

 湯船に肩まで浸かる私にお兄ちゃんはシャワーを止めて真面目に答えた。

 

「そういうの夢月らしくないな。……どうしたんだ?」

 

「私らしさって……何なの?私はお姉ちゃんみたいに魅力もないし、自分のできる限りのことでお兄ちゃんに振り向いてもらうしかできない」

 

「……何を言ってるんだよ。夢月には夢月にしかない魅力がある」

 

 お兄ちゃんは頬を膨らませる私の頬をぷにっと押す。

 

「そんな拗ねた顔をするな。……いいか、夢月。自分に自信を持てよ。誰かと比べてもしょうがない。自分は自分だ。僕は夢月のよさは“素直”なところだと思ってる。自分の望むままに、行動できるというのは誰にでも出来る事じゃない」

 

「お兄ちゃんは私みたい幼児体型でもドキドキする?」

 

「よ、幼児体型かどうかは別としても……僕だって、夢月と一緒にいればドキドキぐらいするよ。いや、常にしてきた。無邪気に甘えて触れられて……こんなに可愛い女の子が傍にいて、しないわけがない」

 

 ポンポンっと私の頭を軽く撫でて、お兄ちゃんは優しく言ってくれた。

 

「夢月は今のままでも十分魅力的だ。自分の魅力に気づいてみろ」

 

「うぅっ……お兄ちゃん、大好きっ!」

 

 私はそのままお兄ちゃんに抱きつくと彼は顔を赤くして、

 

「ちょっと待て、た、タオル……タオルを脱ぐなっ!?」

 

「お兄ちゃんの優しさに、さらにお兄ちゃんが好きになったよぅ」

 

「……落ち着け、夢月。うぉ!?この背中に感じる感触はもしや……?」

 

 大好きだよ、蒼空お兄ちゃん……私の愛する男の子。

 私はハグし合いながら愛情を確認する。

 うーん、やっぱり、私はお兄ちゃんがいないとダメだなぁ。

 

「――すみません、お兄様。シャンプーってまだ切れてませんでしたか?」

 

 お風呂場でいちゃついてると、星歌お姉ちゃんの声がする。

 サッとお兄ちゃんの顔色が青ざめていく。

 

「せ、星歌?いや、シャンプーはまだ残って……んなっ!?」

 

「私の方のシャンプーないから詰め替えパックを持ってきて、お姉ちゃん」

 

「そう、夢月のがないの。分かったわ。……なんで、夢月の声がお風呂場からするの?」

 

 そこでようやくお姉ちゃんは私がここにいることに気づいたらしい。

 お兄ちゃんは「さっさと離れてくれ」と私を身体から引き離そうとする。

 

「……お兄様、失礼ですけど、開けてもいいでしょうか?」

 

「は、早まるな……星歌、待つんだ!」

 

「そうよ、男の子の入浴中にお風呂場に入ってくるなんて破廉恥だよ……むぐっ!」

 

 私の口をお兄ちゃんは手で押さえつけてくる。

 くもりガラスの扉越しで表情まで分からないけど、お姉ちゃんは怒ってるみたい。

 

「そうですね。お兄様……この件はお風呂を出てからじっくりとお話しましょう」

 

「……はい」

 

 お兄ちゃんは威圧感のあるお姉ちゃんの声に怖がる様子を見せて頷く。

 この家で1番強いのはお姉ちゃんかもしれないね……。

 お姉ちゃんが脱衣所からいなくなると同時にお兄ちゃんは私に嘆く。

 

「夢月っ。何であんな事を言ったんだ!?」

 

「……ふふっ。負けたくないからに決まってるじゃん」

 

 今頃、お姉ちゃんは悔しがってるんだろうな。

 そちらが本気ならこちらも本気ださないとね。

 

「星歌を怒らせていい事なんてないだろう。はぁ……」

 

 深い溜息をつくお兄ちゃんに私は肩を叩きながら言った。

 

「私、お姉ちゃんには負けたくないの。だから、これからもお兄ちゃんに積極的にアタックするから覚悟しておいて」

 

「……頼むから僕の命を削る事はやめてくれ」

 

「それは愛される痛みという事で我慢してよ。双子の同時攻略ルートはお兄ちゃんが選んだんだから。……ちゅっ」

 

 私はにっこりと笑い、頬にキスするとお兄ちゃんも苦笑いで返す。

 

「……ホント、うちの妹達にはかなわない」

 

 蒼空お兄ちゃんは私たちにとって大切な存在だもん。

 まだまだこれからだよ、お兄ちゃん。

 私たちの愛情、精一杯受け止めてよね。

 

「それよりも……風呂から出るのが怖いです」

 

「あははっ。だったら、もう少し一緒に入ってようよ」

 

 私とお姉ちゃん、どちらが優れているとかは関係ないんだ。

 私なりに頑張ればその分、振り向いてくれるんだって分かった。

 

 ……ちなみにお風呂から出た後は般若のような顔をしたお姉ちゃんに怒られました。

 うぅ……怖いよ、トラウマになる怖さにびびりながらも私は優越感を得ていたの。

 この勝負、私だって負けないからね、お姉ちゃん。

 

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