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女神の姉と天使の妹  作者: 南条仁
女神の姉と天使の妹
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第1章:女神の朝の光景

【SIDE:宝仙蒼空】


 僕の朝は早朝から食事作りから始まる。

 弁当、朝食作りとやることは多くて朝の6時半には起きなくてはならない。

 僕が台所で調理をしていると明るい声が響く。

 

「おはよっ、蒼空お兄ちゃん」

 

「おはよう。今日も朝から元気だな、夢月」

 

「まぁね。でも、今日はちょっと眠いかな。ふわぁ……」

 

 小さく欠伸をする妹の夢月。

 どうせ夜遅くまでテレビ|(深夜アニメらしい)を見ていたのに違いない。

 とはいえ、起きたばかりだというのにハイテンションは健在だ。

 

「……もうすぐ期末試験だろ?そんなので大丈夫なのか?」

 

「うぅ、変な事を思い出させないでよ~」

 

「また試験前に一夜漬けか?その前から勉強しておけ」

 

「無理だって。私はお姉ちゃんみたいに頭よくないもん」

 

 そういう夢月は実は勉強があまりできない。

 双子の姉である星歌は学年首位なのに大違いだ。

 この双子は見事に生まれ持つ才能を半分ずつではなく、片方に集中させたらしい。

 頭脳明晰、運動神経抜群という星歌に比べて、夢月は勉強もスポーツも不得意だ。

 その代わり、夢月の音楽的センスはまさに天才と呼べる力を秘めている。

 彼女はヴァイオリンをしているのだが、国内の同年代ではトップクラスの実力を持つ。

 ちなみに僕も音楽家の一族の血を引いているのに音楽の才能はない。

 ……さらに言えば特に勉強で秀でるわけでもない、兄として立つ瀬ないなぁ。

 

「それよりも、お腹が空いたよ。ご飯はまだなの?」

 

「もう少しで出来る、皿の準備をしておいてくれ」

 

「はーい。私に任せておいて」

 

 僕は甘い卵焼きを焼いて皿に乗せる、後は味噌汁の味付けだけだ。

 基本的に我が家の朝食は和食が多い。

 朝からパンだと育ち盛りな娘たちはご不満のようだ。

 朝食を並べ終えると、待ちくたびれた様子の夢月に僕は言う。

 

「夢月、そろそろ星歌を起こしてあげてきてくれ」

 

 時計を見ればそれなりの時間、ゆっくりご飯を食べるならこのぐらいに起きないとマズイ。

 僕の言葉に夢月は明らかに拒否の顔を示す。

 

「えぇー。私が行くの?嫌だなぁ」

 

 双子の妹でさえ普通に嫌がる事、それは星歌を起こす事だ。

 うちの女神はパーフェクトな印象があるがひとつだけ、致命的なのものがある。

 それは朝が弱くて、寝起きがかなり悪いという事。

 その恐怖を幼い頃から身に染みて知る夢月は語る。

 

「お兄ちゃんも知ってるでしょ。お姉ちゃんの寝起きの悪さは最悪だよ。昔は私を抱き枕にしたりして、ひどいめにあったんだから。しかも、寝相は悪いし、寝起きだってホラー映画に出てくる幽霊並に怖いんだから」

 

「……さすがに最後のは言いすぎだ。寝起きが悪いのは確かだけどさ」

 

 星歌が目覚まし時計で起きた姿をこれまで僕は見たことがない。

 いつも彼女を起こすのが僕らにとっての一仕事でもある。

 とはいえ、いつまでもこうしてるわけにもいかず。

 

「私、お腹がすいたよぅ。ご飯を先に食べたいなぁ」

 

「わかったよ。僕が起こしに行って来る。先に食べていていいぞ」

 

「ホント!?やった!蒼空お兄ちゃん、優しいから大好き♪」

 

「そりゃ、どうも……。さぁて、戦闘開始と行きますか」

 

 僕は気合を入れて、星歌の部屋に行く事にした。

 ……とはいえ、女の子の部屋に堂々と入るのは勇気がいる。

 しかも、相手は無防備にみせかけたノーガード戦法だ。

 油断すれば、それすなわち、デッドエンド。

 僕はゆっくりと扉を開けてベッドで寝ている星歌に近づく。

 

「……すぅ」

 

 心地よさそうに寝ている姿は女神と言ってもいいだろう。

 ただし、布団はベッドから落ちて、抱き枕はなぜか机の方へと投げ飛ばされ、パジャマは胸元を開いたようにセクシーな感じというありさまだけどね。

 ……我が妹ながらこれはどうかと毎回思う。

 僕はひとつひとつを片付けながら、彼女にあまり意味のない言葉をかける。

 星歌を安全に起こす方法……まずは『ステップ1:声をかけてみる』を実行する。

 

「起きろ、朝だぞ。星歌、起きろーっ」

 

 叫んでみても効果はなし、これで起きるなら目覚ましもいらない。

 ……やはりダメだ、ピクリとも反応を示さない。

 ステップ2~4は都合により省略、最終ステップ『実力行使』で行くしかない。

 僕は恐る恐る、彼女の肩を掴んで揺らして起こすことにした。

 

「起きろ、星歌。学校に行く時間だぞ……痛ッ!?」

 

 こちらに飛んでくるのは目覚まし時計だ、マジで怖いよ。

 僕は痛む頭を抑えながらもう1度チャレンジしてみる。

 無意識のうちに僕に反応する星歌。

 何度か殴られて、僕はようやく彼女を起こす事に成功した。

 

「……お、おはようございます。蒼空お兄様」

 

 パチッと目を見開いた星歌は羞恥で頬を赤く染めた。

 僕は唇が触れるギリギリの距離で彼女を押さえ込む形だ。

 ドキドキするのも仕方あるまい、いや、別の意味でもな。

 

『義妹を押し倒した変態アニキ』

 

 そう、ご近所に噂されて後ろ指を差されて生きるしかないのか?

 

「おはよう、星歌。その……言い訳させてくれ、僕は決してキミを押し倒してるわけじゃない。ムラムラしたとか、そう言う展開ではないのだけは確認して欲しい」

 

「は、はい……。私を起こしてくれようとしたんですよね?すみません、いつも迷惑をかけて……あっ、え?」

 

 そこでようやく頭が回ってきたのだろう。

 自分がパジャマを脱ぎかけて半裸同然だという事に気づくのだ。

 

「……きゃーっ!!」

 

 慌てて胸元を隠す星歌、その大声で叫ぶのはやめてくれ。

 こうして星歌の叫び声が近所に聞こえて、近所で僕の評価が低いのは毎度の事です。

 頑張れ、僕!負けるな、僕!

 ……ご近所さんが警察に通報しない事を祈るしかないな。

 

 

 

 

 数十分後、身支度を終えた星歌がリビングに下りてくる。

 僕はと言えば、目覚まし時計を投げつけられた箇所を氷で冷やしている。

 

「うぅ、すみません。お兄様を毎回、こんな目にあわせるなんて」

 

「こればかりは気にして欲しいが、無自覚な行動だから仕方ない。深く気にせず、明日こそは自分で起きる努力をして欲しいな」

 

 ちなみにこの台詞は僕が星歌を起こす時に毎回言う台詞でもあり、既に100回以上は繰り返されてきたものだ。

 

「あぅ……」

 

 うな垂れる星歌と僕は食事を始めた。

 夢月は既に朝食を終えて、学校へと行ってしまっている。

 遅刻ギリギリな彼女を僕が自転車で一緒に登校するのは常の事だ。

 

「……あの、大丈夫ですか?怪我してません?」

 

「大丈夫。身体だけは頑丈にできてるし。それよりも、どうだ?今日は大根とほうれん草の入った味噌汁だ。少しダシの方を変えてみたんだ」

 

「そう言われればいつもより、味付けが濃いですね。こういうのも美味しいと思います」

 

 朝食を無事に終えて、僕らは学校に行く準備を始めた。

 自転車を外に出して、天候を確認、今日は一日中晴れという予報だ。

 雲ひとつない天気は何とも夏らしい。

 ここから学校までは自転車で15分、そしてHRが始まるまでの時間は20分もない。

 いつもギリギリコース、たまには余裕を持って学校に登校したい。

 

「準備ができましたよ。蒼空お兄様、お待たせしました」

 

 そう言って僕が乗る自転車の後ろに星歌は乗ると、

 

「それじゃ、いつも通り飛ばしていくぞ。しっかりと掴まっておけ」

 

「はい……」

 

 きゅっと僕の身体に腕を回してしがみついてくる。

 この義妹との触れ合いがあれば、今朝の痛みも苦にはならない。

 僕らは二人乗りで学校まで突っ走る。

 星歌は僕を兄として信頼してくれている。

 

「……お兄様、いつもありがとうございます」

 

 背中越しに伝わる温かい気持ち。

 僕は笑いながら、彼女に語りかける。

 

「なぁ、星歌。今日の夢はどんなのだった?」

 

「今日の夢ですか?そうですね……覚えてる限りでは、私はお魚でした」

 

「魚?それはまた変な夢だな」

 

「そうですね。でも、綺麗な海を泳ぎまわるのは楽しかったです……」

 

 海か、僕は星歌を誘ってみる事にする。

 

「それなら、夏休みになったら海に行こう。夢月と3人で」

 

「はいっ。楽しみにしていますね、お兄様」

 

 朝の涼しい風を感じながら僕は自転車をこぎ続けていた。

 

「……そうでした。私、お兄様に伝えておきたい事があるんです」

 

「伝えておきたい事?もしかして、昨日の話か?」

 

 昨日、生徒会についてどうするのかと言う話をした。

 その事についての彼女が考えた結論。

 

「私、やっぱり、生徒会の選挙に出てみたいと思うんです。私にも何かひとつくらい、できるというモノが欲しいですから」

 

「……それなら僕は出来る限り、星歌を支えてやるさ」

 

「はい。これからも頼りにしています、蒼空お兄様」

 

 彼女の決めたことならそれを僕は兄として妹を支える決意をする。

 

「……でも、生徒会長なら早起きくらいできないといけないだろ」

 

「あ、あぅ……。それは難しいかも、です」

 

 恥ずかしそうに言う星歌、どうやら克服せねばならない壁は高いようだ。

 夏休みまであと1週間、僕らの夏はすぐそこまで来ている。

 

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