第14章:キスを賭けて真剣勝負!
【SIDE:宝仙蒼空】
双子の姉妹はお互いを大事に思うからこそ、それぞれ譲れないモノを抱えていた。
姉は妹の、妹は姉のいい所も悪い所も理解している。
……姉妹同士、お互いを羨む気持ちがあるから壁を作ってしまった。
それでも分かりあい、姉妹の絆も修復されていく。
それぞれが望む世界を生きる決意を胸に秘めた夏。
何かが変わり始めた僕達の関係、それは僕にもある影響を与えていたんだ。
「……蒼空お兄ちゃん、違うよ。さっきも言ったでしょ、コマンドが逆なの」
「こうか?あ、間違えた」
「違うのっ!もう、お兄ちゃん、しっかりして」
リビングでふたりっきり、僕は夢月の指示に従うようにゲームのコントロールに触れる。
テレビ画面を見ながら、久しぶりにゲームをしていた。
僕はあまりゲームをしないが夢月は最新機種のゲームをいくつも揃えているゲーム好きだっ。
コンクールに出るたびにゲームソフトを親にねだっているみたいだからな。
僕があまりゲームが得意じゃないので、姉の星歌を誘ってしているらしい。
「よしっ。……基本操作を覚えたなら、私と勝負しようか?」
「無理だ、夢月には勝てないって。どんだけハンデくれても無理」
「勝てないって諦めちゃダメ。お兄ちゃんなら私といい勝負ができるはずだよ」
そう言いながらニヤリと嫌な笑顔を見せた。
夢月の内心では『カモがネギしょって歩いてるぜ』という感じだろうか。
ただでさえ苦手な格闘ゲームで勝てるわけないじゃん。
渋々、僕はコントローラを握りながら、画面に向かう。
「んーっ。それじゃ、負けたら罰ゲームにしない?」
「……罰ゲームって何をすればいいんだ」
「そうだね……勝った相手の頬にチューとか?」
「また妙な事を言い出したな。そういうのはなしだ」
「ふんっ、私に負けるのが怖いの?お兄ちゃんなのに?逃げるんだ?」
逃げるわけじゃない、逃げるわけじゃないが……。
「……まぁ、しょうがないよね。お兄ちゃんって、ヘタレさんだもん」
夢月にこれだけ言われて引くわけには行かない。
ていうか、誰がヘタレさんだ、僕は違うぞ。
……部活メンバーにもよく言われるけどさ、ぐすんっ。
「いいだろう。その勝負、受けて経とうじゃないか。ちなみに僕の時はキスはパスだぞ」
「もちろん。ふふふっ、私も本気で行くからね」
やる気十分といった彼女の顔に僕はある秘策を使う。
格闘ゲームのコマンドを押すのが苦手なのは仕方ない。
ならば卑怯と言われようが夢月本人への邪魔をすればいい。
「……ちなみに本人の邪魔をしたらそっちの負けだから」
――ぎくっ。
「まさかお兄ちゃんはそんな卑怯な真似をしないよねーっ?」
「当たり前だろ?僕は正々堂々と勝負をするのが好きなんだ」
ば、ばれております、隊長。
くっ、仕方ない、正攻法でやるしかないのか?
「勝負は先に3回勝った方の勝ちっていう事で」
「……勝って見せるぞ」
「お兄ちゃんが私に勝てるかな?」
ラウンド1、僕の操作するキャラが夢月のキャラに攻撃を仕掛けた。
だが、それはあっさりとかわされてコンボを決められて終了。
2ラウンド先取で1勝だ、これ以上は負けられない。
だが、次のラウンドも奮戦むなしく僕は負けてしまう。
続いての戦いも夢月の操作の上手さを前にあえなく負けた。
……気がつけば0勝2敗だった、どうしよう、ホントにまずいっすよ。
「いえーい。あと1勝で私の勝ちだよ?どーするのかなぁ?」
「……負けない、負けられないんだっ!」
追い詰められた僕は仕方なく、ゲームの説明書を見て操作キャラのコマンドを覚える。
悪あがきでもするしかないだろ。
大体、格闘ゲームなんて僕には無理なんだよ。
「……あら、ふたりとも何をしているんですか?」
偶然、飲み物を取りにきた星歌がやってきた。
僕たちがゲームをしているのを興味深そうに見ている。
「星歌、いいところに来てくれた。さすが僕の女神だよ」
「え?あ、あの?何でしょう?」
「……星歌にしか頼めない事があるんだ。僕の願いを聞いてくれるか?」
僕は星歌の肩を掴んで必死に頼み込む。
きょとんと不思議そうな顔をしている星歌。
「お兄様が私にお願いですか?」
「そうだ、僕の代わりに夢月に勝って欲しい。君に全てを賭ける」
僕は彼女にコントローラーを渡して、最後の希望を星歌に託す。
コントローラーを受け取る星歌はテレビ画面と僕の顔を見合わせる。
「……お兄様、流れがいまいちつかめないんですけれど?」
「そうだよ、お兄ちゃん。お姉ちゃんを頼るのは反則じゃない?」
「交代がダメだとは誰も言ってないだろ!これは勝負だ、勝負の世界は厳しいのさ。星歌、頼む。最後の切り札、星歌だけが僕の頼りなんだ」
夢月と星歌はいつも勝負をしていると言ってたからな。
僕が相手にするよりも多少は勝ち目があるはずだ。
「つまり、夢月と勝負して負けているから私に勝って欲しいと?」
「そういうこと。頼むよ、星歌しか頼れないんだよ。僕を守ってくれ。この勝負、負けたら僕は夢月にキスをしなくちゃいけないんだ」
その一言が星歌の闘志に火をつけたらしい。
「……それ、本当なの、夢月?」
「ホントだよ。負けたら勝った相手にキスする、それがこの勝負の条件。私が勝ったらお兄ちゃんがキス。お兄ちゃんが勝ったらキスはなしだけど」
「貴方って子は何ていうことを……いいわ、私がお兄様の代わりに勝負しましょう」
星歌を味方に付けたのはいいが、こちらは負けられない。
逆転することはできるのだろうか?
「ちなみに私は2勝しているから残り1勝で勝つの。お姉ちゃんはあと3回も私に勝たなくちゃいけないのに出来ると思う?諦めてもいいんだよ?お姉ちゃん、私に勝つの3回に1回くらいじゃん」
「なんとでもいいなさい。……お兄様の唇は私が守るわ」
「あっそぅ。お姉ちゃん相手じゃ遊んでもいられないから本気でやるよ」
目の色を変える夢月、その真剣さを少しは勉強にまわしてくれ。
……というわけで兄妹対決は姉妹対決へと形を変えて、再び戦いが始まった。
夢月優勢かと思われた勝負だが、予想を裏切るように星歌はゲームが上手い。
夢月の弱点もよく知っているせいか、ストレートで2ラウンド先取、つ、強い。
さらに連続コンボも決めて、あっというまに夢月から2連勝してしまったのだ。
「これで2勝です。お兄様、あと1勝ですよ」
「う、嘘だぁ。何で?そんなハメ技コンボとかありえないし!お姉ちゃん、いつも私とやる時、手加減していたの?」
「……まぁね。私ばかり勝ってばかりいては貴方も面白みがないでしょう。今日は負けられないからこのまま勝たせてもらうわ」
最終決戦、ゲーム画面はえげつない事になっております。
コンボを繋げて空中コンボへ、ヒット数は二桁越え、ノーダメージで1ラウンド終了。
夢月が焦って操作ミスもあり、最終ラウンドもパーフェクト試合だった。
『YOU WIN』
画面に表示された文字が星歌の勝利を物語っている。
テレビを前にして夢月は呆然としていた。
「私達の勝ちですね。お兄様、やりました」
「えらいぞ、星歌。よくやってくれた。さすが僕の可愛い妹だ」
頭を撫でてやると嬉しそうに微笑む。
夢月は……あれ、なんだか悔しそうに涙を浮かべている。
「こ、こんなはずじゃなかったのに!ふぇーん、お姉ちゃんなんて嫌いだよ」
泣きながら、悪党のようにリビングから逃げ去ってしまう。
……後片付けは僕がするしかないのか、はぁ。
「それにしても、星歌はゲームが得意なんだな。意外だよ……」
「得意というわけでもないんです。このゲーム、前回、夢月に負け続けていたので隠れて練習していたんですよ。次は絶対に勝ちたいって」
星歌は負けず嫌いなところがあるからな、さらに努力家でもある。
「今回は星歌のおかげで助かったよ。ありがとう」
「いえ、お兄様のお役に立ててよかったです。それに、何としても夢月の邪魔をしたかったので……。あ、あの、お兄様……」
「ん、何だい?」
僕がゲーム機を片付け終わると、星歌は真っ直ぐな眼差しで僕を見つめていた。
見ているだけ吸い込まれそうになる綺麗な瞳だ。
「お兄様、私が勝ったんですから、ひとつだけお願いしてもいいですか……?」
「いいよ、何でもしてくれ。星歌のおかげで夢月に勝てたんだからな」
僕の言葉に星歌は控えめな小さな声で囁いた。
「……してください」
「え……?」
「私に……キスしてください」
可愛く潤んだ瞳が僕を見上げていた。
せ、星歌にキスって……それはいかんだろ、ていうか、勝利は何のために?
「く、唇じゃなくて、頬でいいですから……ダメでしょうか?」
ここで拒むのも頼んだ手前できなくて、僕は一呼吸おいた。
せっかく勝ってくれたんだし、これくらいはお礼の意味を込めていいよな?
「……ちゅっ」
白い肌に僕は唇を触れさせると、彼女は桃色に頬を染めて恥らう。
「あ、ありがとうございます……」
「こんなんでいいのなら。それにしても星歌も僕なんかにキスされて嬉しいのか?」
「……はい。だって、私の大切なお兄様ですから」
その時の星歌の微笑みがホントに女神のように見えたんだ。
ちなみに、その夜、夢月が「お姉ちゃんに“いいとこ取り”されたよーっ」と拗ねて部屋に襲撃してきたのはまた別の話……うちの妹たちはホント可愛いな。