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女神の姉と天使の妹  作者: 南条仁
女神の姉と天使の妹
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第13章:双子~天使の場合~

【SIDE:宝仙夢月】


 私は基本的にポジティブな思考で生きている。

 単純なんて言われる事もあるけど、自分の人生くらい明るく生きたい。

 コンプレックスは感じたことないけれど、羨ましく思うときはある。

 それは実姉の星歌をみている時。

 同じ双子なのに、勉強もスポーツもできる姉。

 そんな彼女は私に対して結構厳しい。

 それは私が双子の妹だからというだけじゃなくて、音楽の才能に恵まれていたせいでもある。

 星歌お姉ちゃんも音楽に幼い頃から興味を示していた。

 でも、私の方が音楽が上手だって分かると、自分からやめてしまったの。

 あの人の悪い所は諦めが早いくせに、未練を残すところ。

 私には音楽しか才能がない……これしかないから、頑張れる。

 お姉ちゃんには他の才能はたくさんあって、それに気づいていないだけ。

 ひとつのことしか見えない性格でもあるんだろうけど、もう少しぐらい視野を広げてもいいと思う。

 なんて、私が言える台詞じゃないけど。

 それでも、彼女なりに私とは違う道を歩き始めている気はした。

 

「……もうすぐ、ヴァイオリンのコンクールが近いそうね」

 

「そうだよ。今度のコンクールで入賞すればまた留学できるかもしれない」

 

「そうなんだ。そうしたら、留学した時にお世話になった先生に会えるわね。……夢月、頑張って。応援してるから、ううん、私も応援に行くから」

 

 それまで避けていたはずの音楽の話題を自分の口で語る。

 それだけじゃない、今まで私の演奏を聴いてくれなかったのに応援までしてくれる。

 大きな変化でもあるそれは私を驚かせて、嬉しくさせた。

 

「……うん、ありがと。私、頑張るからちゃんと応援してよね、お姉ちゃん」

 

 何だかんだいっても私とお姉ちゃんは姉妹であり、ライバルでもあると思う。

 お姉ちゃんは世界で1番身近にいる私のライバル。

 だから、憧れもあるし、負けたくない気持ちもある。

 それでいいんだと私は思うよ。

 大切なモノ、譲れないもの、お互いに抱えるそう言う気持ちがふたりの姉妹としての絆を強くしてくれるはずだから。

 ……まぁ、私の大好きな蒼空お兄ちゃんは誰にもあげないけどね。

 


  

 

 その日はかねてから準備をしていたコンクールの日。

 全国区でもないし、特別に重要なコンクールでもないけれど、私にとってはとても意味のある大会だった。

 私は高校卒業後に再び外国に留学を目指している。

 音楽の道を真っ直ぐに進みたいと両親の許可も協力も得ているので、あとは私の実力次第っていうわけ。

 そして、このコンクールには私が12歳の頃、留学した時に指導してもらっていた有名な外国人の先生が特別ゲストとして招かれている。

 私が成長したのを見せつけたい気持ちがあって、私はこのコンクールを選んだの。

 

「夢月……緊張とかしてないか?」

 

「だいじょーぶ♪いつもお兄ちゃんのおかげで私は緊張してないよ」

 

 控え室で私は蒼空お兄ちゃんの膝の上に座りながら緊張を解きほぐす。

 彼に触れていると心が落ち着くから子供の頃からこうしてコンクール直前に甘えてる。

 お兄ちゃんがいなかったら私なんて実力のほとんども出せない。

 

「今日はお姉ちゃんも見に来てくれるんだって。初めてだよね……」

 

「星歌なりに自分の道を探しているんだろう。いつまでも、夢月に対してコンプレックスを抱いていても意味がないと分かったんじゃないか」

 

「お兄ちゃんはお姉ちゃんの悩みって知っていたんだ?私達の間でしかみせてなかったから、知らなかったと思っていた」

 

「僕だって、妹たちの事はずっと見てきたんだぞ。ただ、こういう問題は第3者がうかつに手を出せないからな。見守ってきたんだよ、ふたりが自分達で手を取りあえるようにさ」

 

 後ろから優しく抱きしめられながら私は彼に身体を預ける。

 でも、私だと恋人同士って言うよりも純粋に兄妹にしか見えないんだろうな。

 今は関係も焦らずにその幸せを体験していく。

 

「ありがと……。お兄ちゃんは私達を双子扱いしないところがいいね」

 

「双子扱い?」

 

「普通に双子ってどっちも同じように扱われるじゃない。だけど、お兄ちゃんはそんなことしない。個性を大事にしてくれるから私たちも私たちでいられるんだよ」

 

 ホント、蒼空お兄ちゃんは私たちをよく見てくれている。

 だからこそ、私も姉も彼に想いをよせているわけなんだけどね。

 

「さぁて、お兄ちゃんの愛情チャージタイムも終了。頑張ってきまーす」

 

「あぁ、観客席から見守ってるよ。楽しく弾いて来い」

 

「うんっ」

 

 私は彼から身体を惜しみながらも離す。

 幸せに浸りすぎると今度はコンクールで調子が出なくなってしまう。

 そういうバランスも大事なんだって、成長して初めて知ったことでもあるんだけど。

 子供の頃はずっと甘えてばかりだったかなぁ。

 そのせいで、コンクールではミスして泣いてしまっても、慰めてもらって、また元気になって……そういう繰り返しを体験しながら私なりに成長していた。

 私はお兄ちゃんの笑顔に見送られながらヴァイオリンを抱えて控え室を出る。

 コンクールの特別審査をしている先生と偶然にあったので挨拶しておく。

 

「久しぶりです、ジャン先生。分かります?私ですよ、宝仙夢月です」

 

「……夢月?あぁ、夢月じゃないか。すっかりと女性になったね。私と出会った頃はまだ子供だったのに。本当に久しぶりだ」

 

 流暢な日本語を話すフランス人の男の人。

 世界的に有名な若手ヴァイオリニストのジャン先生。

 彼の元で私は1年間、ヴァイオリンの指導を受けていた。

 初めての留学に不慣れな事もいろいろと彼のファミリーにも助けてもらったなぁ。

 

「このコンクールに出てるとは思わなかったよ。夢月なら優勝もありえるだろう。コンクールの優勝候補として期待している。成長したキミの音をぜひ聞かせてくれ」

 

「えぇ。天使の音を聞かせてあげますよ。びっくりしないでくださいね」

 

「天使の奏でるメロディ。キミの音楽で私たちを魅了してもらおう」

 

 今日のコンクールには結構自信はある。

 大してレベル的に高い人も出てないし、私もそれなりに練習してきた曲だ。

 本当に大切なのは数ヵ月後の大きなコンクール。

 今日はその前の前哨戦のようなもの。

 これで優勝できなくちゃ、留学なんてまた遠い夢だもん。

 私の夢は両親のように世界的に活躍する音楽家になる事。

 私には音楽しかない、だから、本気で頂点を目指したい。

 コンクールが行われる舞台では既に前の人が演奏をしている。

 その横の舞台袖で私はヴァイオリンケースからお気に入りのヴァイオリンを取り出す。

 パパが私の12歳の誕生日に買ってくれた高級なヴァイオリン。

 それまで使っていたものとは圧倒的に音の質感が違う。

 このヴァイオリンと共に私は成長してきたんだ。

 

「続いては宝仙夢月さんです――」

 

 アナウンスがあって、私は舞台へと入る。

 拍手に包まれての入場には毎回、緊張してしまう。

 ふぅ、と深呼吸してから、私はヴァイオリンを構える。

 観客席に向けた視線の先にはお兄ちゃんとお姉ちゃんを見つけられた。

 ジャン先生だけじゃなくて、ふたりにも聴かせてあげたい。

 私は自分の曲を奏でる時に心に決めていることがある。

 それは聴いてくれている人に楽しんでもらいたいんだ。

 音楽と言うのは他人に聴かせるものだから。

 自分の楽しいって気持ちを相手に音楽に乗せて伝える事だと思う。

 私はゆっくりと弦をスティックで弾いてメロディを奏でていく。

 天使のメロディで人々を魅了していく。

 皆に聴いてよかったなって思えるようになりたいの。

 一曲を弾き終えると私には拍手が送られる。

 この瞬間、私は自分が練習してきた全ての苦労が報われた気がする。

 重圧からの開放感も私の快楽のひとつ。

 ミスもせずに上手くいったので、審査を落ち着いて私は見ていた。

 

「……素晴らしいよ、夢月。以前も才能があるのは知っていたが、とても重厚感のあるメロディを奏でれるようになったね」

 

「ありがとうございます、先生」

 

「キミをまた指導できる事を望んでいるよ。夢月はまだまだ成長できるはずだ」

 

 ジャン先生の評価も上場、私はそのコンクールで優勝する事ができた。

 控え室に戻ると既にお兄ちゃんたちが待っていてくれる。

 

「おめでとう。優勝だって、やったな」

 

「うんっ、ありがとう。……お姉ちゃんも今日は来てくれて嬉しいよ」

 

 星歌お姉ちゃんは言葉を選ぶように控えめな声で、

 

「……夢月の音楽を初めてちゃんと聴いた気がする。とてもいいわね」

 

 お姉ちゃんに認められたことも嬉しい。

 それまで姉妹が避け続けていた話題だったからなお更……ホントはずっと彼女に認めて欲しかったんだ。

 

「夢月には夢月にしか出来ない事があるように、私にも私にしか出来ない事があると思う。私もそれを見つけて見せるわ。……これからも頑張りなさい」

 

「……お姉ちゃんも見つけられるといいね」

 

 双子の姉妹が抱いていた確執が少しずつ薄れていく。

 私達の絆が強くなるのを感じていたんだ。

 

「無事に優勝できたから、お兄ちゃんも約束守ってよ?私とデートしてね」

 

「あぁ、そういう約束だったな」

 

 優勝したらお兄ちゃんとデートしてもらえる約束をしていたの。

 それを聞いたお姉ちゃんの顔色が変わっていく。

 

「……お兄様、それはどういう事でしょうか?つまり、私が応援したのは夢月とお兄様のデートを応援していたものと同じであると言うんですか?答えてください」

 

「星歌さん。あの、痛い、足を踏んでますよ!?」

 

「やめてよね、お姉ちゃん。これは約束なの。私が優勝したらお兄ちゃんとデートしてもらうって。あ、もしかして妬いてるの?おねーちゃん?」

 

「くっ、私は……私、もう夢月の応援なんてしないからっ!お兄様の裏切り者っ!」

 

 ぐすんっ、と拗ねたお姉ちゃんの顔はとても可愛い。

 私は優越感に浸りながら姉を笑顔で見つめていた。

 これからも姉妹で仲良くしていこうよ、お姉ちゃん。

 もちろん、お兄ちゃんを巡る戦いには全力で対抗するよ。

 だって、私達は恋のライバル同士だもんっ!

 

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