雨上がりの匂い
重いテーマを選んでみました。
1000字程度の超短編なのでサラッとお読みいただけます。
西武新宿駅のすぐ側、歌舞伎町のメインストリートから外れた細い路地。
空が暗くなった頃、塾を終えて出てからここに立つのはもう何度目だろうか。
良い時も、酷い時も、空振りの時もある。
繰り返しここに立つうち、ここに立つ理由も、生きる意味も、いろんなことが曖昧になっていた。
「え、咲ちゃんじゃない?...なにしてんの...?」
見るともなしに見ていたアスファルトの凹凸から目の前に立つ声の主に視線を上げる。
さっきまで対面していた、大学生塾講師の岡センだった。
咄嗟に考えたのは。
この状況、岡センは理解するだろうか?
なんかここ女の子たちがいっぱい居るなとか、なんでここに居るのか想像ついたりとか、私の慣れた様子とか、そういうのに勘づくだろうか?
何も言えず、ただ立ち尽くす。
一拍、ニ拍と間が空いてから、固まってしまった私の手首を掴んで歩きだした。
手を引かれるままに線路下にある深夜営業のカフェに入り、促されるままに座った。
何も言わずに注文してくれたアイスティが目の前に置かれて、岡センが目の前に腰を下ろす。
「咲ちゃん、慣れてんなぁ。」
聞こえた言葉に、うっかり傷ついてしまった。
そうだ、慣れてる。私は慣れてる。
だからと言って、万事オッケーというわけではないんだけど。
でも、それは私の口からは、言えない。
立ちんぼではない私を知る人と一緒に、路地が目と鼻の先という場所で夜を明かすのは、とてもストレスなことだった。
いつ岡センが道徳とか安全を説きはじめるかずっとずっと身構えていた。
もしかしたら、そういう女だと見て何処かに連れ込まれる可能性も考えた。
そういう女だと見て、触りたくないって思われる可能性にも思い至った。
塾や親に報告されるのは、本当に一番困る。でもそういう事態も、こうなった以上は覚悟しておかないといけないと思った。
とにかく本当に全部がストレスだった。
明け方頃、サァッと一瞬雨が降っていて、1時間もせずに止んだ。
岡センはそれもずっと黙って眺めていた。
岡センが時計をチラ見して、「帰るかぁー」と言って伸びをしながら席を立った。
気付けば始発が始まる頃だった。
唐突にぐわし、と結構な力で私の頭を押さえつけてぐりぐりに撫でてから、「気を付けて帰れよ」と言い残して出て行ってしまった。
ストレスで疲れ果てた心と頭をなんとか覚醒させてカフェを出ると、世界は圧倒的な朝の気配と雨上がりの匂いに満ちていた。
生成AIさんにお題を出してもらい短時間集中して超ショートを書き上げる、という練習中です。
今回のお題は「雨上がりの匂い」でした。
お題からいろんなことを妄想したのですが、夜明けのような、迷宮入りした心がほんの少し上向きになるような瞬間を書いてみようとした作品です。
お読みいただき、ありがとうございました。




