あまりにも志が低いからと婚約破棄をされた伯爵令嬢の話
「エレン、それはあまりにも志が低くないか?」
私の婚約者リヒャルト様にそう言われたわ。
折角計画書を作ったのに・・・
計画書はポイと投げ捨てられたわ。
「あのね。俺はA級剣闘士を目指しているのよ。最低観客1万5千人収容のコロシアムが欲しいところだ。
それを改修して5000人?あまりにも失礼だよ!新設コロシアムが欲しいな」
「そ、そんな。これが精一杯ですわ」
「フン、それならこちらにも考えがあるぞ!」
そう言ってリヒャルト様は背中を見せて去ったわ。皆で頑張って計画書を作ったのに・・
「グスン、グスンですわ」
私の家門は中規模のボック伯爵家、市場併設のコロシアムは老朽化が進んでいますわ。
スター選手のリヒャルト様と婚約した私。
これで観客を呼べると思ったのに・・・
お父様、お母様、お兄様に事の経過を説明した。
「リヒャルト様、大激怒ですわ・・・」
「うむ。我が領地で大金貨1万枚規模の新設コロシアムを建てるなんてとても出来ない」
「ええ、そうよ。王国から借金してまで作っても・・・採算がとれないわ」
「現実的な案だったのに」
口々に言って下さいますわ。
コロシアム、維持費でも馬鹿になりませんわ。剣闘士さんが怪我しないように、コロシアムに治癒魔法の結界を張って地面は天然芝ですわ。
剣闘士さんの体調を考慮しても月に二回の興業がやっとですの。
それは仕方ないのですけども・・・
思い悩んでいたら、お母様が社交界で信じられない情報を得た。
「エレン、大変よ。リヒャルト様、移籍するそうよ。婚約を隣の伯爵家のジェニファー様と結ぶそうよ」
ガーン!と頭を何かに叩かれたような気分になったわ。
「本当ですの?そんな・・」
「貴女の事を志の低い令嬢と言っていたそうよ」
何の話もなかったわ。『婚約破棄をする』とも言って下さらなかったわ。
お父様とお兄様は激怒しましたわ。
「何だと、こちらには事前の協議無しだ」
「ヒドい、父上、こちらから願い下げです」
「リヒター、婚約解消の手続きをしてくれ」
「はい、父上」
グスン、グスン、婚約破棄をされたわ。何も言わずに去ったわ。
リヒャルト様はイケメンのB級剣闘士、熱心なファンがついているわ。
私もファンだったのに、
領地経営が傾くほどではないけども、コロシアムは維持費がかかるわ。
どうしたら良いかしら。
私は志の低い女、もう、この評判を覆す事はできないわ・・・
なら・・・
私は冒険者ギルドや魔道師ギルドを回った。
☆☆☆魔道師ギルド
「お願いしますわ!何か興業をして下さいませ!」
「それなら、魔道娘48が売り出し中だな。話してみるか?」
何でも美人だけど特別美人がいない魔道娘さんたちの48人の集団、幻術魔法を使いながら歌ってダンスをするそうね。
試しにやってみたわ。
何だか綺麗なドレスを着て皆で合唱しながらイリュージュン魔法を連発した。
【ラララララララ~~~~♩】
「「「うおおおおおーーーーーーー!」」」
「姉ちゃん!こっち向いて!」
「握手してぇええええええ」
これは好評だった。リーダの方にお礼を言われたわ。
「僕たち、魔道で人を笑顔にしようと思って結成したんだ。こんな大きな箱で興業出来て嬉しいよ」
笑顔が眩しいわ。私は志の低い女・・・
どうせ低いのなら私は堕ちる所まで地獄まで行きますわ。
コロシアム内で食事やエールの提供もしたわ。
食事の提供はリヒャルト様がいたときは考えられなかったわ。熱心なファンが暴動を起すレベルだわ。
鳴り物と大声で競技中は立って応援するのが作法ですの。
舞台の合間にコマーシャルを芸人にやってもらったりもしたわ。
「あ~、美味しい串焼き食べたいな~」
「そこの貴方、迷ったら市場三の辻の串焼きコーナーにお越し下さい!」
「ええ、大丈夫なのかよ」
「大丈夫ですわ、ほら、ここのご領主の娘、エレナ様も食べているわ」
「美味しいですわ!正真正銘の豚、鳥肉使用ですわ!偽肉は使用していませんの!」
私もコマーシャルに出演した。串焼きを食べながら絶叫する。
制作費を浮かせるために出演したわ。
それから魔道娘48の成功を受けて、地獄坂47とか、王都令嬢46とか乱立したわね・・正直に言うと区別がつかないわ、
収支表を見ると、黒字だわ。リヒャルト様の時は責任領主として伯爵家からお金を持ち出していたわね。思わず笑みがこぼれるわ。
「ウシシシシシ、グヘへへへへ、オ~ホホホホホホですわ!平民にはパンとサーカスが必要ですの。それがあれば満足しますわぁ!」
いろいろな興業を始めたわ。
サーカスに、騎士学校の入学式に貸したり、何か分からないステッキボールという競技。
ああ、私は堕ちていく。このコロシアムは本来剣闘士様達が戦う神聖な闘技場だったわ。
「お嬢様、天然芝は如何しますか?」
庭師のヨハンお爺さまが尋ねるわ。
「そうね・・・もう、天然芝はいらないわ。これをリヒャルト様に贈ることできますか?」
「可能です」
「お願いしますわ」
リヒャルト様・・・もう、お別れだわ。
でも、何故かリヒャルト様の話は聞かないわね・・・・
☆☆☆マイヤー伯爵家
一方、エレンの隣の領地、リヒャルトが電撃移籍先として発表されたマイヤー家では衝撃を受けていた。
「おい、誰か!リヒャルトという剣闘士から事前に話を受けたのか?」
「「「ございません」」」
「リヒャルトとは何者だ?」
「たしかB級剣闘士で順位は二桁です。万年Bクラスですね」
「何故、そいつが我が娘と婚約を結んでいる事になっているのか?あれは隣領のボック伯爵家のエレン嬢の婚約者ではなかったのか?」
「旦那様、貴族院の婚約名簿を確認しましたが、エレン嬢とは婚約は解消になっています」
「だとしても何故我が娘が?ジェニファー知らないか?」
「知りませんわ。そもそも私には婚約者がいます・・・」
「大変です。旦那様、屋敷前に群衆が集まっています!」
伯爵は事の経緯を確認しようとするが、既に屋敷前に剣闘士ファンが集まっていた。
「「「「新設コロシアム!」」」
「「「経済効果!大金貨数万枚!」」」
「「「マイヤー家は責任領主として誠意を見せよ!」」」
プゥ~プゥ~
ドン!ドン!
「「「リヒャルトの移籍先♩マイヤー家は責任を持ち新設コロシアムを建てよ♩」」」
ラッパを吹き太鼓を鳴らす様子にマイヤー伯爵家は激怒した。
「鎮圧せよ」
「良いのですか?民衆です」
「かまわん。パンを寄越せなら考えるが、剣闘士のファンだ。その中の悪名高き熱狂的な奴らだ。殺しても構わん」
「「「畏まりました」」」
・・・信じられない事であるが、リヒャルトはマイヤー伯爵家にも事前に相談はしていなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・
私、エレンは堕ちていく。更に志が低くなりましたわ。
コロシアムの名をボック伯爵領コロシアムから、『フランク商会コロシアム』に改名しましたわ。
そう、名前をつける権利を売りましたの。1年契約ですわ。
今日、調印しますの。
「これはこれは、エレン様、商売上手と聞いています。是非、今度愚息と一緒に会いたいですな」
「グスン、フランク様、私は志の低い女ですわ」
「そう言わずに、どうか」
志の低い女である私に声をかけて下さるフランク様、ありがたいけど、眩しくでダメだわ。
「当商会は市民の幸せを第一に考えています」
「グスン、グスン、眩しいですわ」
契約を終えて屋敷に戻ると、お兄様が友人を連れてこられた。
「エレン、アカデミーの同期のアレクサンダー殿下だ」
「やあ、初めまして、アレクサンダーだ。アレクと呼んでくれたら嬉しいのだが」
「ヒィ」
王子だわ。確か第三王子で経済を担当される・・・金髪碧眼で笑顔の時にのぞく歯が光るわ。
眩しいですわ。
「エレンの仕事ぶりを見たいそうだ。案内して差し上げてくれ」
「お兄様・・・」
そうね。志の低い女の仕事ぶりを見て反面教師にするのね。
「グスン、分かりましたわ。これも志の低い女の定め」
「エレン、何を言っている?お腹すいたのか?」
「さあ、エレン嬢、エスコートさせてくれたまえ」
殿下に手を取られて外に出ると、見知らぬ男に声をかけられた。
ボロボロの服を来て茶髪は乱れ放題だわ。どことなくリヒャルトの面影があるわ。
「エレン!芝生はいいからパンを寄越せ!」
「ヒィ、何ですの?」
「エレン嬢、私の背中に隠れて」
殿下の背中に隠れたわ。
肩越しに男を見る。
「おい、忘れたのか?リヒャルトだ!破産したじゃないか?今から婚約を結び直すぞ!」
「君、エレン嬢に失礼だろう!」
自称リヒャルトは・・・・
移籍したら歓迎してくれると思ったが、相手は無碍に断った。ファンを使って世論を作ろうとしたが、逆に鎮圧されてホームのない流れ剣闘士に成り下がった。
と言うわ。
「芝生なんて食えないだろう!どこまで失礼な女なんだ!」
失礼だわ。リヒャルト様にたいして、
新設コロシアムの話はうまくいっていないと噂では耳にしましたわ。
だけど、
リヒャルト様は言って下さいましたの。
☆☆☆回想
「エレン、剣闘は棒きれが二本あれば成立する競技だ。僕はこれでA級を目指すよ」
「キャア、リヒャルト様、志が高いですわ!」
「婚約・・・結んでくれないかな」
「もちろんですわ。お父様を説得しますわ」
伯爵令嬢が剣闘士と反対もされたけども、何とかお父様の許可を受けましたわ・・・
リヒャルト様はA級剣士になり。それからS級になって勇者パーティーに呼ばれるほどの実力だわ。
・・・・・・・・・・・・
だから言って差し上げましたの。
「リヒャルト様は棒きれ一つで成り上がれる方ですわ。こんな惨めで馬鹿な事を言うはずはありませんわ!
また、不死鳥のようによみがえる志の高い方ですわ。
殿下、この方は偽者ですわ!」
「分かった。エレン嬢、目をつむっていてくれたまえ」
目をつむると。
バギ、ボキ、と肉を叩く音と。「ヒャー」「助けてくれー」と偽リヒャルトの声が聞こえたわ。
「さあ、エレン嬢、終わった。振り返えらずに行きましょう」
「はい」
リヒャルト様がこんなに弱いワケがないわ。
「殿下、偽リヒャルトへの制裁有難うございました」
「何、私も剣術と体術の訓練は受けた。上級剣士の資格もある」
「まあ、お強いのですね」
空を見上げると、大空いっぱいにリヒャルト様の後ろ姿が見えたわ。
そうね。完全にお別れね。
私は志の低い女、地面から羽ばたくリヒャルト様を見上げるのが定め。
思わず殿下の手をギュウと握ってしまったわ。
最後までお読み頂き有難うございました。




