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【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ  作者: 流石ユユシタ
第4章 美術館編

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第64話 再び、美術館へ

 光の雨が降っていた。


 黒く濁った地獄を、真っ白な粒子が埋め尽くしていく。地獄の全てが、消えた。そして、次の瞬間、世界が反転する。ぐにゃり、と視界が歪んだ。


 宵花は思わず目を閉じる。足元の感覚が消え硬い床に立っていた。


 そこは磨かれた展示ホールの床。鼻を突く血と腐臭は消え、代わりに埃と焦げたような匂いが微かに残っていた。





「……戻って、きた?」





 宵花が目を開ける。そこは東京美術館だった。


 異界化していたはずの展示ホールは、かなり壊れてはいるものの、現実の空間へ戻っている。壁に掛けられていた絵画は落ち、床には亀裂が走り、天井の照明もいくつか割れていた。


 だが、元に戻っている。そのことに、宵花は一瞬だけ安堵した。しかしすぐに、外から騒がしい声が聞こえてくる。





「救急隊、こっちです!」

「警察の規制線を越えないでください!」

「今、なお、観客は戻ってきておりません――」

「東京美術館で何が起きたのでしょうか!」





 マスコミの声。カメラのシャッター音。それらのざわめき。どうやら、美術館の異変は外にも伝わっていたらしい。





「……まずい」


 


 陰陽師とは秘匿されている存在、それは怪異も同じくしてである。どうやら、規制によって中には入れないようだが、観客が帰ってきていないとの事実、それが大きくなればなるほど怪異の存在に気づき始めてしまう。





「まぁ、観客の大多数は無事だったけど。ただ、まずはここを離れた方がいいかな」





 宵花は黎明を見る。当の本人は、肩を回しながら軽く息を吐いていた。





「いやー、久々にMPとか全力で使ったなぁ。うん、良い気分だ」






 この人は危険だ。信じられないほど危険。しかし、人質も救って地獄も消した。東京を、いや日本そのものを救ったとも言えるだろう。




 だからこそ、判断に困る。この少年をどうするべきか。






(陰陽庁に報告したところで何も出来ないだろうし。それに悪い意味で使おうとする人もいそうだし。とりあえず連絡先だけ聞いておこうかな)


 


「あの、黎明さん」

「ん?」

「連絡先、聞いてもいいですか」

「いいよ。最近スマホ使いだしてさ」

「あ、最近なんですか」




 あまりにもあっさり。


 宵花は少し拍子抜けしながらも、スマホを取り出した。連絡先を交換する。そして、宵花は連絡先に【黎明(怪獣)】と登録をした。




「あ、陰陽師なんだよね? 俺のこと、あんまり言わないでくれると助かる」

「……なぜですか」

「まぁ、隠した方がいいって言う人が多くて」

「……はい、わかりました」




 そう言って宵花はスマホをしまった。助けられた恩もあるが、そもそもこんな存在を報告したところで、誰にも何も出来ないだろうと思った。




「何かあったら連絡してもいいですか?」

「うん。基本的には出るよ。イベントっぽかったら」

「イベントじゃなくても、出て欲しいです」




 そんな二人の会話がひと段落した時、隣で、白守祈がじっと黎明を見ていた。その視線は、どこかいつもと違う。


 

 祈は少し考え込むように目を伏せる。それから、何かを納得したように顔を上げた。






「黎明」

「なに?」

「ボク、たぶん黎明のこと好きだ。さっきの地獄での姿を見て改めて分かった」






(あの姿を見て、どうして好意を自覚するのか。これがわからない……)




 宵花は心の中でいそしんだ。しかし、当の本人はかなり真面目な表情をしている。




「ずっと、色々考えてた。島でのこととか、島を出てきたけど何が自分にできるかとか、怪異を自分は倒せるのかとか。でも、それはボクのやりたいことじゃなかった。ボクは、さっきの黎明を見て思った。圧倒的な自由、自分もあんなふうになっていいと」

「あ、うん」

「志乃のこと、他にも色んな人との関係性を崩したくなくて、自覚してないふりをしてた。でも、気が変わったよ。ボクが黎明を好きになって、皆んなとの関係が崩れることなんて決していない、今は本心でそう思うんだ」

「あ、そうなんだ」

「だから、好きだ。付き合ってくれ」




 黎明は珍しく迷っていた。そして、宵花はその光景を見て、その後、外にも目を向ける。



「まだ突入許可が出ないとのこと。この美術館で何が起こっているのでしょうか!?」

「観客は無事なのか!?」




 宵花はこの告白は別に今でなくてもいいのでは? と思い、申し訳なさをだしつつも会話の中に入った。




「あの、すみません。感動的というか、すごく変な告白中に申し訳ないんですが、外にマスコミがいます。一度ここを離れた方がいいです」

「確かに、そうだな。二人とも一度オレ達とこの場を離れるぞ」

「ボクは返事聞きたい」

「ちょっと考えさせて」


 


 宵花と透が二人に対して語りかけたが、祈はそれを聞かず、黎明はそう言って、近くのベンチに腰を下ろした。



 壊れた美術館。外にはマスコミ。救急隊と警察の気配。



 そんな中で、少年は本気で考え込んでいる。祈は待つつもりらしく、少し離れた場所で目を瞑っている。


 宵花は、仕方なく黎明の近くへ歩いた。





「あの……一回外出ませんか?」

「分かってる、ただ、どうするべきかと思ってさ」

「告白とかされたことは?」

「ないね。うん」




 黎明は素直に言った。その声は、先ほど地獄を消した少年のものとは思えないほど普通だった。




「前は友達もいなくて、恋人とかも考えたこともなかった」

「あ、そうなんですか」

「これってモテ期かな?」

「さぁ? とりあえず、帰りませんか? 外が騒がしいし」

「うーん、しかし」

「なら付き合ったらどうですか? お試しとかで」





 相談もだんだん面倒になってきたので、宵花は解決案を提案する。それを聞いた黎明は少しだけ険しい顔になる。




「いやでも、いいのか、そんな簡単に」

「いいんじゃないですか」

「うーむ。まぁ、祈は可愛いし」

「美人さんですしね」

「胸は詩ほどではないけど、あるし」

「……急に最低。好意を適当にしない人かと思ってたのに、そこで悩んでたんですか」






 黎明は悩みに悩んで、結局結論は出なかった。結論が出なかったので、正直に言うことにした。





「ごめん、祈。結論でなかった。今も迷ってるんだけど、取り敢えず保留にさせてくれ」

「わかった」






 両方とも、正直者だなと宵花は思い、彼らと共に美術館を後にする。そして、彼女と黎明達は一度別れることになる。



 しかし、再び再開する時が来ると、互いに感じていた。







◾️◾️







  その夜。全ての美術館を開放した面々は、宿泊するホテル、そのエントランスに集まっていた。



 しかし、全員が情報を交換するために議論するわけではない。一部が話し合いをし、その後全員に伝える方針となる。


 そのため、白妙詩、スザク、安倍蓮、朝霧黎明、この四名だけだ。



「……では、今回の事態について、情報を整理する」


 詩がそう言って、全員を見回した。


「まず、埼玉の美術館。蓮たちの方はどうだった」



 蓮が、頷いた。


首刀(くびがたな)百目雛(ひゃくめびな)、と言ったモンスターが多く確認できた。それに数も異様だった。恐らくだが、今回の展示物の中に霊具(マジックアイテム)があり、それの封印が解けたとオレは考えている」

「……そうか、それについては私も他の面々も同じ考えだ」

「だが、問題なのはそこじゃねぇ。観音型の人間に襲われたことだ」



 詩が、眉をひそめた。スザクも九条透も、それについては美術館ですでに確認をしている。



「誰かがあれを作った。そして、オレは、それをしたのは土御門家と陰陽庁の可能性があると思っている」

「……やっぱりそんな感じなのね。こっちも居たわよ」



 スザクは、冷たく言った。そして、蓮の報告に九条透も同意をするかのように手を軽く上げる。



「こちらも、観音の化け物が出た。ふむ、観音型に改造された人間、陰陽師がでたということでいいのか」

「あぁ、恐らくだが安倍家、オレ達と通じてる連中をまとめて排除しようと考えて、それぞれの美術館に放ったんだ」






 蓮は感情を表に出さずに話しているが、拳が少し震えている。人間の命が雑に統合され、戦わされていたことに苛立ちを持っていた。


 

 そして、最後に黎明が軽く手を上げた。



「あ、次は俺ね。こっちも観音みたいな人間改造モンスターはいたね。それとこっちには【地獄】、【常世津神(とこつよかみ)】ってモンスターがいたよ。かなりのMPがあってね、これまで出会ってきたモンスターの中で二番目だった。ただ名前がね? ちょっと横文字感なくて嫌いだったなぁ」

「地獄? 常世津神(とこつよかみ)? あぁ、安倍晴明が封印した、あれか。【地獄の門】やっぱりそっちにあったのね」

「お、スザクは知ってるの?」

「そりゃね。かなりのやつだったでしょ?」

「うん、山神は超えたと思うよ」

「え、そんなになんだ。知らなかったわね。それじゃ、アタシでもどうにもできなかったわ。まぁ、でも負けたのね」




 スザクは地獄について少し知っているようだったが、やはり黎明には勝てなかったと知ると興味をなくしてスマホをいじりだした。





「まぁ、俺の方はこんな感じかな」

「黎明の方にはかなりのモンスターが居たみたいだな。ただ、どちらにしても、今回の一件はかなり大事になってる」





 

 続いて、再び蓮が前に出る、彼の瞳には強い意志が宿っていた。




「どの美術館も大多数の人間は死んでなかった。これはモンスターが恐怖を吸収するために敢えて残してたようだが、問題はここまで人間が残っているとどう考えても、モンスターのことが世間に知られて大ごとになることは避けられないと言うことだ」

「そうね。既に大ごとになってるみたいだし」




 そう言ってスザクが持っているスマホを見せる。SNSでは美術館の話題一色となっていた。



「あぁ、それに土御門も陰陽庁もきな臭い。暗殺も何度も未遂だからしかけられてるしな。今回の美術館の一件でどちらにしろ、注目をされるし。オレはこのタイミングで……攻めに転じたい」




 蓮は、そう言って、全員を見回した。




「【冒険者ギルド】、それを設立する」

「おお、いいねー」





 蓮の提案に、黎明はノータイムで同意を見せた。黎明もなんだかワクワクしている表情だ。





「──明日に、土御門と陰陽庁に行って、設立を宣言してくる。それと同時に、オレ達二人、安倍蓮、安倍紅は……陰陽師を完全に辞めると話してくる」

「お、動きが早くていいねー。ランクとかきっちりしていこう」






──蓮は強い言葉でそう宣言した。そして、時代が動き出す。

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― 新着の感想 ―
ええ⋯好きを自覚⋯どこでだよw
怪獣ww 良い性格してるぜ。 しかし地獄の神とまできちゃったらこれからの敵に悩みますね。大抵の相手はしょぼく感じるでしょう。いっそどこぞの呪術漫画みたいに地球外行くか。
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