黎明の独白 2
俺はゲームRPGの世界に転生した。
山の中にはモンスターが居て、それを倒すと強くなった感覚になるからだ。それと魔法も使える。
──頭の中に、バチっとアイデアが湧くように俺は納得したんだよね。
多分、ゲームの中の世界だと。思えば、前の親も言っていたんだ。
──経典の教えの通りに動けば、来世で幸せになれる。
よく、耳にタコができるくらいに、言われていた。ずっと、頭の中にその言葉が反響し続けるくらいには教えが染み込んだと思う。
経典の教えを守らないと、前の親は殴ったり、熱湯をかけてきたりしてたの覚えてるわ。親が言う通りにしてたけど、時折、疑問に持つことが多かったのを覚えてるなぁ。
経典に従うのが正しいのか、それって違うのでは?
だって、周りの子供はゲームも、スマホも持ってたし。冷蔵庫も新しいのを使っていた。でも、俺の親は最新機器には盗聴器があるから使ってはいけないとか、国民を監視しているとか言ってたなー。
それって、おかしいんじゃ? そんなプライバシーを無視した商品が売れるはずないっていうか……
疑問を呈すると……いつも、殴られた、めっちゃ痛かったなぁー。
『お前は間違っている。このままだと、国の奴隷になるぞ。もっと経典を読め!!』
『いけないわ、経典を守れないなんて。でもお父さんもお母さんも、貴方が嫌いじゃないの、国の奴隷になってほしくないから、心を鬼にしていっているの』
『自分の間違った考えを、信じてはいけない。経典こそが正しい』
『間違ってるわ。経典が正しいの』
──思えば、自分の考えを信じたことはなかったな。
前の父が、子供の時にやっていた古いゲームだけは許されてた。最新機器ではないから、盗聴器が入ってないって言ってたのを覚えている。
だから、ずっとそれをやってた。小さいテレビの中で映っていた、RPGの世界が好きだった。
いつか、この世界に行きたいとすら思ってずっとやり込んでたなぁ。だって、こんな小さい箱で行われてるゲームの世界が、
俺の住んでる世界より、自由に見えたからさ。
自由にモンスターを倒して、装備を選んで、強くなって前に進めていける感じが最高だった。
なんていうか、あの頃って前に進んでる感じがしなかったんだよなぁ。周りの友達は新しい事に挑戦したり、流行りの食べ物とか、機械を持ってたりして。
俺だけ置いて行かれてる気がしてたなー。
でも、親はそういうのは許さなかったから、経典に反するってさ。ずっと古いゲームだけで足踏みしてる状態。
あの時は、楽しくなかったなぁ。ゲーム以外はさ。
──でも、今は楽しいなぁ。
モンスターを倒して、強くなって、魔法が使えて、モンスターをもっと倒して強くなってる。
前に進んでる感覚があるからさ。
自由に山を走れて、冒険ができている。憧れていた自由な冒険が目の前にあった。
親が言ってた、経典の教えを守れば来世では幸せになれる、望むような生活ができるってこういう事なのかなぁ?
あの時は、つまらないことがあったのは事実。でも、育ててくれたことも事実。
親が嘘を言っていたようにも見えなかったのも事実。もしかして、騙されて変な宗教にハマっていたんじゃないかなと思ってたのは内緒。
でも、こうなると……前の親が言ってたことは本当なのかもしれないなぁ。
──そう、今目の前にモンスターが出てきて、改めてそう思った。
夜に山でモンスターを探していると、つぎはぎ状の人型モンスターが現れた。なんか、壊れたぬいぐるみを無理やりつけたような見た目で、つぎはぎの間からは赤い色の液体が漏れている。
モンスターはこちらを見ると、何やらギチギチとブリキ人形のように動き出して、こちらにゆっくりと近づいてくる。
モンスターだから、エンカウントしたら戦うのが普通だよねー。おっし、戦おう。
まぁ、あんまり強くないんだけどね。今のところ、雑魚モンスターしか出会ったことがない。
きっと、こいつも魔法一発で終わってしまうんだろう。
魔法【フレアボム】。火属性の魔法だ、俺が昔やっていたゲームRPGでもよくあった。
フレアボム、というのは俺が前世でやっていた【ブレイブクエスト】に出てきた魔法だ。
あのゲームは面白かったな、一番やりこんだ印象がある、まぁ、そもそもそれくらいしかプレイできなかったけど。
ブレイブクエストは、勇者の職業が最強だった。転職システムで、他の職業コンプリートしないと勇者になれない仕様だったけど。
なった時は最強だったな。レベル1からまた、徐々に上げていくけどステータスの上がり幅も全然違うし、序盤からバンバン魔法を覚える。
──その一番最初に覚える魔法。それが【フレアボム】なんだよね。
MP消費は3、初歩の初歩魔法である。まぁ、勇者が覚えるにしては初歩の魔法ってだけで、他の職業からしたらかなり強めだけどね。
「フレアボム」
全身のエネルギーが、右手に集約していく感覚がある。ゲームの時の記憶を思い出しながら、俺は右手から炎の火球を発射する。
じーちゃんは炎宝の術? とか最初は言ってたけど、こんな威力が出ないから、勘違いだったとか言ってたなー。
右手に集めた、炎が一気に放出されて、モンスターに到達する。
次の瞬間、爆ぜる。
火球は音を立ててモンスターの胸に吸い込まれ、内側から破裂した。肉片も、血も、燃えていく。おー、燃えていく感じもリアルだなー。
まぁ、現実だからリアル感があるのは当たり前だけど。魔法のエフェクトがブレイブクエストとそっくりだ。
そして、この後、炎が爆発する演出があるんだよなぁ。
──俺がそう思うと、目の前で、つぎはぎ姿の、モンスターが爆発する。
まるで、絵の具の赤色で白い人形を塗りたくったような姿のモンスター。まぁ、雑魚なので魔法一発で倒すことができる。俺はこれを【レッドパペットマン】と呼んでいる。
「……あ、経験値が入ってる感じがする」
この、前に進んでいる感覚がたまらねー。自分の考えで試行錯誤できる自由さが、ゾクゾクする。
──じーちゃんが言っていた。
【自分を信じろ。お前は天才だ】
【他人に何を言われても、気にするな。お前の感覚が正しい。周りはモンスターを怪異と呼ぶかもしれない、魔法を陰陽術では? と指摘する存在もいるかもしれない。しかし、それは大きな間違いだ。お前が天才、お前はお前の感覚を信じて、進め】
【お前が、信じたように世界を見ろ】
前の親に言われたことなかったなぁ、そんな事。でも、俺の考えをじーちゃんは真剣に信じてくれた。
嬉しいなぁと思った。俺も自分の考えと感覚を信じて突き進もう。なんか、勘は鋭い人間な気はしてるんだよねー。
じーちゃんも、俺は天才で、感覚も冴えてて、勘も鋭いと前に言ってくれたことがある。
うん、きっとそうなのだろう。前の親はそんなこと言ってなかったけど、経典を守ってたから、天才に生まれたのかもしれない。
──取り敢えず、俺は俺の意思を貫いて、自由に生きよう。ここは憧れたゲームのような自由な世界なんだからさ。
「そういえば……最近は、モンスターと戦っても経験値があんまり貰えない気がするなー……。最初はもうちょっと貰えて強くなってる感覚があった気がしたんだけど」
そう言えば、最初は若干だけど、モンスターからダメージを受けていたなぁ。
今でこそ、五体満足だけど、最初は片耳が取れちまったこともあったっけ。
「右耳がちぎれて、その時に【ヒール】が使えるようになったんだよね」
ちぎれた耳を拾って、くっつけながら【ヒール】を使うことでなんとか治ったんだったかぁ。
「指取れたりとかもあったけど、【ヒール】で直せたし。回復魔法はやっぱり便利だね。ゲームでも必須級の魔法と使い勝手だったし」
魔法はMP消費するけど、戦っていくうちにレベル上がったのか使える回数も上昇していて、同時に回復効果も上昇している。
まぁ、回復効果が上がったのは単純にコツを掴んだからとも言えるけど。魔法は体中からMPを集める事が必要。
その集める際に、練り上げ方に工夫がいる。ヒールで治したい場所にMPを集中させながら使うと、効果が上がる。
下手な時は、耳に集めてもMPが霧散したり、他の体の箇所に分散したりしてしまい、魔法の効果を最大限に発動はできなかった。
「MPの練り上げ方、ここがもっと出来ると魔法の威力も、効果も上がるんだけど。それはこれからの課題かな」
それにステータスもどんどん上げていきたい。モンスターを倒す事で、レベルも上げられるしな。
前なら出血するような怪我も、今では無傷になってるわけだし。
「今思うと、ここまでよく、じーちゃんにバレなかったな。血だらけとかになった時もあったけど」
洗濯とかバレないようにちゃんとやっていたから、だとは思うけど。ここまでバレなかったのは、奇跡かもなぁー。
いや、でも気づかれないのも当然かも。
じーちゃんは普段から顔色悪くて、集中力散漫な時が多かった。結界魔法の起点になってるから、常にMPを消費してるらしいし。ずっと疲れてる状態なんだとか。
自分のことで精一杯だったのだろう。俺が封印モンスター倒したら、じーちゃんも自由になれるんだろうか。
縛られる生活ってのはキツイもんだろうなぁー。俺もその辺の辛さはわかる。だから、いずれ俺が倒して、じーちゃん、それとばーちゃんも自由にする。
今の実力じゃ、厳しいってじーちゃん言ってたから。レベリングに勤しむけども。
これまでも毎日、モンスターとは戦ってきた。ずっと、レベリングしてるから、強くなってる気はしてる。でも、ちょっと強くなった実感は落ちているのが悩みだ。
「最初に比べると、怪我しなくなったのはいいけど、経験値が落ちてる気がする。強くなったという感覚が、以前ほど感じないしなぁー」
やっぱりレベルが上がれば上がるほど、次に必要な経験値が多くなんだろうなぁー。ゲームでもそうなんだけど、強いモンスターとか戦わないといけないなぁ。
しかし、そうそうちょうど良いモンスターもいないから。
だが、それでも戦いの中で学べることはある。経験値は確かに少ないが、それ以外の要素は蓄えられるのだ。
【ヒール】の時に体にあるMPの集め具合で効果が変わるように。MPはただ使えば良いというわけではないらしい。
ゲームとかだとコマンド操作で、魔法使えてたけど。ここでは違うのか? いや、でも、同じ技も何度も使うと熟練度が上がるようなゲームも少しやったことはあるなぁ。
それと同じような感じだろうか?
ふむ、これまでの経験上、それが正しいのだろうと俺は分かった。俺のMPの扱い具合、熟練度が上がれば、魔法の効果上昇するということ。
それ以外にもMPは体中に巡っているのだが、身体能力などを強化することも出来る。しかし、それをするにはMPを操る必要がある。
そのMP操作にも熟練度があるようだ。
「これって、どうやったら熟練度上がるのかな。体を流れるMP、これを集めたり、逆に分配したり、部分的に無くしてみたり。そういうのでいいのだろうか?」
魔法を使う時、治したい部位にMPを強く集めた場合、魔法の効果が上がったりする。
それは分かっている。ならば、大事なのはMPを集めたりする技術になる。
「集める。確かにこれは割と出来る」
体の中、目視も出来るが半透明のMPが、まるでオーラのように流れている。湯気とも言えるかもしれないが、それを体に留まるようにしたり、無くしたり。
割とMPの操作は出来る。しかし、これはゆっくりしか出来ない。
集めることが出来たとして、モンスターと戦う際にこんなゆっくりしていたら、今後ボスモンスターとか出てきたら負けてしまう。
死んでも教会で蘇られたら問題ないけど。それは出来なそうな気がするし。
だから、MPの熟練度をあげないといけない。多大に集め、素早くそれを行う。
「体のMPを、足、膝、腰、腹、胸、手、頭、あらゆる場所に巡らせる。これを只管にやるしかないのか」
それからは毎日、MPの修行を行い続けた。やればやるほどに、操作技術は向上していく。
でも、これでいいのかな?
もっと良い方法があるような気もする。うーん……と考えながら修行する日々。
──それから、毎日鍛錬を続けて十一歳になった。
MPの量が増えて、その操作性も上がった。体に流れるMPはオーラ状で流れている。
この流れが滑らかに、速くなっているのが分かる。ただ、このMPはどうしたら、もっと……
「もっと、俺の言うことを聞いてくれるのかなー。頭の中だと、もっと速くMPが練り上げられて魔法に繋げられるんだけど」
体の中から溢れるMP、これはモンスターを倒すほどにレベルアップして増えていく。
すると、操るのが、どんどん難しくなる。
例えるなら、自分のMPではなく、急に別のMPが入ってきて、暴れているような感覚だ。
MPの操作精度の熟練度が上がり、レベルアップしてまたMPが増える。そうすると、また操作精度が難しくなる。
うーん、ジリ貧な成長って感覚があるわけだ。地道な成長はRPGの醍醐味と言えるけど。
しかし、これはジリ貧ではなく、成長が戻っている感覚だ。転職をしたらレベルが戻るのはあるけど、これは違う。
だからこそ、違和感がある。このまま、ジリ貧な成長ではいつまで経ってもこれの繰り返しになるし。多大な経験を持っているモンスターを倒した際に、大きくレベルが上がった場合、寧ろマイナスに熟練度がなってしまう気がする。
「……うーん、MPがどうやったら俺の言うことを聞くのか」
全身のMPはオーラ状に常に流れている。これをどうやったら、もっと言うことを聞かせられるか。
まるで、動物のしつけをするようにやってくしかないか。
「……動物のしつけ」
その時、ハッとした。体中のMPはモンスターを倒すとレベルアップで増えるが、俺のMPとは違う時のような感覚がある。
だから、自分の言うことを聞くようにゆっくり、滑らかに流れるように修行をした。
だけど、そうじゃないのかもしれない。先ず、自分のMPではないという感覚が体にある状態でこれを行うが違うんじゃないか?
先ず、この自分のMPではないと感じるMPを完全に自分の物にすべき。
その瞬間に、やるべきことを俺は理解した。……先ずは【感じる】。体のMP、その違和感を。
そして、それを【無理やり自分色に塗りつぶす】。体のMPを総動員して、無理やりに。
地道にオセロを、一枚一枚、丁寧に黒から白に変えていくのではなく。盤上そのものをひっくり返すように。強制的に押しつぶす。
「……おお、これは」
今までにない感覚だ。体の中のMPがようやく、俺の物になった感じがする。黒と白がそれぞれ入り混じっていたのが、全部白になった感じがする。
──そうなると、MPの感覚も変わってくる。
動物のしつけ、MPを自分の言う通りに動けと命令する。これは、自分のではない、という感覚だからそういう発想になった。
しかし、今は違う。全てが自分のモノになっているとすれば……。
「これは、自分のMP。だから、装備や道具……ではなく【俺の手足の延長】」
オーラ状にしたMPを文字通り、伸ばして落ちている木の枝を拾う。かなり難しかったがゆっくり行うことで変幻自在にMPを操れる。
「……手と足の延長。これは、俺の一部って考える。でも、その前にMPを全部自分のモノにしてからって事かー」
なるほど。MPは体の一部。でも、そうする前に自分のモノに無理やりしなくてはならない。
今まではただ単に、操作精度を上げることしか考えてなかった。しかし、これではジリ貧だった。
増え続けるMPは言うことを聞いてくれない。俺のMPのはずなのに。
と悩んでいたけど。最初に自分のにしなくてはいけなかったんだ。なるほど、ようやく突破口が見えてきた。
こうなってくると、魔法の威力向上も達成しやすくなるな。
「速く、重点的に、集めて。魔法を発する」
俺はフレアボムを発動した。
それは、今までとは違って弾丸速度が上がっていた。それに、炎の猛々しさがいつもとは違う。
二倍とはいかないけど、確実に威力が上がっていた。
「ほほう? 魔法の熟練度が上がったー。ってこういうことかもしれん」
──この瞬間、俺は新たなる領域に足を踏み入れたと確信をした
◾️◾️
黎明が倒した怪異は縫骸と呼ばれる怪異。
人間の死体をバラバラにし、それを強制的に縫い合わせる存在である。死体を縫い合わせて、その皮をかぶるからこそ、つぎはぎの姿になってしまう。
だが、恐ろしいのはその見た目だけではない。縫骸は死者の声を真似ることができた。
夜道で聞こえた「おかえり」という声に振り向けば、それはすでに死んだはずの家族の声――
抱きしめた瞬間、冷たい縫い糸が肌に食い込み、体を裂かれて新たな材料にされる。
平安の頃、この怪異は人を喰わず、人を集める怪異として恐れられていた。
村に一度現れれば、翌朝には一家が丸ごと消える。残るのは、糸と針、そして肉を縫った跡だけ。陰陽師たちでさえ滅多に相手にせず、見つけたら封じるしかないと記録に残されている。
人間の皮を剥がし、縫い合わせ、肉を集めることを遊びとする。
平安の頃、多く出現していた記録がある。
それほどまでに個体数が多い怪異ではないのだが、一体ずつの脅威はかなりのものである。
しかし、黎明からしたらそれほどの脅威ではなかった。
なぜならあっさりと「フレアボム」……本人はそう呼んでるが、この世界の呼び方でいうなら、陰陽術炎宝にて、倒しているからである。
もちろん、普通ではない。
そもそも、炎宝にはそれほどの威力がない。しかし、黎明の場合は、本来の術とは比べ物にならない威力がある。
彼の中では【フレアボム】と呼ばれる魔法のイメージがあった。
彼は炎宝と呼ばれる術を【フレアボム】と認識しており、無意識に前世のゲームの魔法に寄ってしまった。
それに彼の多大な霊力も相まって、本来ではあり得ない威力になるまでに爆発的に上昇した。
「さて、次に行くか。最近レベル上がりにくいから、たくさん倒さないとだし!」
淡々と行動しているが。それがどれほど凄まじい事なのか理解していない。レベルが上がりにくいと考えている黎明だが、それについても勘違いをしている。
この世界にはレベルという概念などない。しかし、怪異を倒した際に、溜め込んでいた霊力が霧散する。
それは近くの対象へと吸収される。黎明もこの霊力が自らに入ってくる瞬間を、経験値が入ってきてレベルアップしたと感じていた。
強くなったことには変わりないので、あながち黎明の感性が完全に間違っているわけではない。
ただ、これは本来なら人間では起こり得ない事象だった。
──なぜなら、怪異を人間は倒すことなど出来ないから。
人間は怪異に霊格で劣ってしまう生き物である。だからこそ、人間には倒すことができないのだ。この事象は怪異同士が争った時にしか、発生しない。
だったのだが、
「今日は十八体だけかぁ、もうちょっとモンスターを倒したいなぁー。早くエンカウントしないかなぁ」
この少年だけは例外だった。黎明は単純にレベリングをするくらいの感覚で彼は夜を歩き続けた。
しかし、異端な少年にも悩みがあった。六歳から始めた彼は、初めて完全な伸び悩みを迎える。
成長をしてる実感がなかったのだ。
彼は霊力をコントロールをし、適切に運用することで術や身体機能の向上、それ以外にも色んな成長が得られると考えていた。
それ自体は確かに、正解だった。
だが、彼は怪異を倒した際に霊力を吸収する。それにより、爆発的な成長を遂げていたのだ。
しかし、今回はそれが仇となっていた。
怪異の霊力は、元々怪異のもの。黎明のモノではない。それが無理やり彼の体に入る。
そうなるとすれば、彼が今まで無意識に行なっていた霊力操作の歯車が狂ってしまう。
地道に精度が高まっていたとしても、急に別のようが入り込み彼自身も混乱をしてしまう。例えるなら、緻密な機械の中に、急に別の部品を無理やり入れ込んで使うということ。
正常に動作するはずもない。寧ろ、その状態で怪異を倒し続けるのが異常なのだが……。
ただ、どちらにしろ、それこそが成長を阻害していた。
だが、黎明はそこで解決策を無理やり思いつく。自分の中に入った霊力、それを強引に自分の霊力に塗り替える。
本来であれば徐々に霊力同士が馴染んでいく。時間をかけてゆっくりと、操作を学んでいく。
これこそが普通なのだ。でも、黎明は常に怪異と戦っており、霊力の出入りが激しい。だからこそ、上記二つの方法による霊力操作精度の向上が出来なかった。
しかし、黎明は多大なる霊力を運用し、全ての霊力を強引に侵食した。
これは、そう簡単にできる芸当ではない。人間の上位存在である怪異であっても、ほぼ起こり得ない事象である。
──実際に人間ではなく、怪異の場合。
相反する霊力が体にある状態の怪異はかなり多い。互いに争い、喰われた方の霊力が喰った方に一生涯残り続けてしまう場合だってある。
だが、黎明のように無理やり自分と同じにする、そんなのをするのは霊格が上位の怪異のみ。
無論、それを出来る人間など、歴史上、一人もいなかった。
「さてと、こっから、どんどん熟練度も上げていくぞー」
これにより、黎明は更なる次元の強さを手に入れていた。多大な霊力、そしてその精度向上。
ここから、黎明は飛躍的な成長を手に入れる。




