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【書籍化】救いない怪異の世界をRPGの世界と勘違いしてるやつ  作者: 流石ユユシタ
第3章 離島編

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エピローグ5 安倍晴明

 饗島から影森町に戻って、数日が経った。


 志乃はスザクに島での出来事を報告していた。


 スザクは相変わらず、志乃と志麻の家でぐうたらと過ごし、ゲームやらテレビやらと、人間の生活を満喫していた。


 志乃のパーカーを勝手に借りて、ソファに横になりスザクは志乃の話を聞く。



「それで、どんな感じだったの?」

「あ、今から話しますね!」



 志乃はスザクの隣に座った。そして、饗島での出来事を話し始めた。


 喰鹿のこと。白守祈のこと。九条、瞳月、透のこと。そして、黎明が【神格】の喰鹿を倒したこと。


 スザクは黙って聞いていた。時折、頷くだけで、特に驚いた様子もない。



「……そう。成長したのね」


 しかし、全てを聞いた後に、淡々と事実を述べるように志乃を褒めた。そう言われると志乃はニヤニヤと笑う。




「へ、へへ、ありがとうございます」

「凄いじゃない。喰鹿……聞いたことないけど、離島にはそんな怪異がいたのね。二つの心臓を持つ怪異か……なるほど、確かに厄介ね」


 スザクは、そう言って、天井を見上げた。少しだけ考えるそぶりをしたが、すぐさま再び言葉を発する。


「でも、やはり黎明には敵わなかったのね」

「はい。黎明さんは圧倒的だったと思います。間近で倒したところは見てないのですが……遥か上空に太陽を作って、そこに片方の心臓を閉じ込めたとか?」

「……ちょっと何言ってるのかよく分からないけど、まぁ、黎明には敵わないってことはわかったわ」



 スザクは首を傾げていた。志乃の言葉を完全に理解することができないのだ。しかし、黎明を完全に理解するなど無理なのでこれ以上は考えないことにした。


「あの子は規格外だもの。神格の怪異でも、あの子には勝てないようね。まぁ、山神も神格だったけど討伐されたわけだし」

「……喰鹿はとんでもない怪異でした。ただ、山神より凄みを感じなかったと言うか」



 過去を振り返るように志乃が言いかけると、スザクは頷いた。



「ええ、話を聞いてる限りでしか判断できないけど……山神よりは劣るでしょうね」



 スザクの声が、僅かに低くなった。



「両者共に神格。だとしてもその中でも格付けはあるわ。山神は、山そのものへの恐怖も混在している怪異だもの。山神の方が上でしょうね」

「やっぱり」

「山神だけじゃないけど、山への恐怖から派生してる怪異は多い。元々人を捨てたりする逸話もあったりするし、大昔から怖いと思う人間も多かったでしょうね」

「確かに暗い山ってだけで怖いです」



 彼女は、姉を探そうと夜に影森町を捜索した。そして、その時に暗い山々に囲まれ恐怖したことを覚えている。


 だからこそ、根源的な恐怖を人間が持っていることに納得した。


「喰鹿は確かに強いでしょうね。それは疑いようがないわ。二つの心臓を持ち、復活を繰り返す。それを見抜いて封印をした安倍晴明は大したもんね。無論、倒した黎明はもっとすごいけど」

「……」

「だから、元々心配とかはしてなかったわ。山神を倒したのなら、大抵のモノは負けないでしょうし」



 スザクはそう言って、再び背伸びをした。そして、ソファに座り直し、淡々と続きを話す。



「山神が本気で動けば、国一つが消えるわ。それを倒した黎明がやっぱり規格外なんだけど……」

「……そう言えば、黎明さんでも倒せなかった怪異がいるんですよね? 確か山人喰い? 黎明さんのおじいさんが封印をしてるとか?」

「そうそう、元々山神は山人喰いとの縄張り争いに負けてこの地に根付いた怪異だからね。まぁ、あれは山神のさらに上なんだけど」

「……あ、えと、それってやばくないですか? 黎明さんでも倒せないとか」

「まぁ、その時の黎明では倒せなかった。って話でしょ。今なら違うんじゃない?」





 志乃は深刻そうな顔つきだったが、スザクは自身の発言よりも軽い顔つきだった。自然で心配など一切してない、そんな考えが読み解ける。




 

「あ、あんまり、焦ってないんですね。過去とは言え、黎明さんが、倒せなかったんですよ?」

「そうね。ただ、黎明の場合は現時点で神格クラスを二体、清泪村(せいるいむら)では荒神クラスを一体、倒したわけでしょ。現時点での霊力量はワタシでも想像ができない。それと黎明の場合、周りに気を遣って本気を出せないことが多いでしょ」

「……あ、確かに。山神の時、私達に気を遣ってました」

「黎明は異常な霊力にしては、技が小ぶりなことが多い」




 毎度のことだが黎明は戦闘の際、周囲を気にしている。怪異からの攻撃がくればそれを庇ったり、自らの攻撃の余波を気にしたり、一時的に戦闘を中断しなければならない。




「黎明の霊力なら山だって吹き飛ばす。町丸ごと消すだって訳ないでしょうし。ただ、それをしないのは単純な気遣いなんでしょ。さっきの太陽の術とかも、詳細はわからないけど、アンタ達に害がないようにしてたんじゃないの?」

「……あ、確かにそうです。かなり上空で使ってたかと」

「アイツは制限が多いわけね。愚かね、あんな強いのにそんな気遣いをするなんて」

「で、でも、黎明さんは愚かではなく優しくて素敵な方で」

「あ、そ。まぁ、黎明は制限が多い。戦闘も尻上がりに調子を上げてくタイプみたいだし。ただ、全ての制限が無い状態なら……黎明が勝つでしょ」





 微塵の心配もない。負けることなどはあり得ない、そう言いたげな彼女の表情。スザクは長い時を生きてきた、だからこそ、知見も多い。



 そんな彼女だからこそ、言葉に重みがある。




「黎明さんが死んだりすることがないなら、私は安心です……」

「あれが死ぬわけないでしょ。もっと他の心配しなさいよ。愚かね」

「あ、はい、すいません」




 スザクからすると、どうでもよい心配をしてるので愚者にしか見えなかった。



「あの、それなら聞きたいんですけど。山神とか喰鹿とか封印をした安倍晴明ってどんな人なんですか? その倒した黎明さんは凄いですけど、そもそも封印をした人もとんでもないって最近わかってきて、そうなったら気になってきました……」

「……安倍晴明、ね。黎明とは別の意味で才に溢れた人間かしら。まさに傑物よ」

「……そ、そのあんまりイメージが湧かないと言うか」





 安倍晴明。その名は何度も聞くが具体的にどのような人間だったのか、志乃はそれを知らない。




「まだ続きがあるわ。安倍晴明は、盲目だった」

「……え?」


 志乃は驚いた。考えていたのは完全無欠、黎明とまではいかずともそれに準ずるような圧倒的な個性だったからだ。



「生まれながらに、目が見えなかったのよ。だけど、いえ、だからこそ霊力を感知する技術に長けていた」



 スザクの声が、遠くを見るように響く。



「彼女は目が見えない代わりに、霊力で世界を見ていた。怪異の気配を感じ取り、霊力の流れを読み取り、全てを把握していた」

「……凄い、あと、彼女……?」

「安倍晴明は女よ。偶に男と思ってる人間がいるけどね。そして、彼女は陰陽師として、数多くの怪異を封印した。喰鹿とか山神のことね」



 スザクはそこで一度言葉を切った。志乃は改めてあの怪異を封印した存在、安倍晴明に驚きを隠せない。



「それと志乃。あなたが知っている安倍家は、実は安倍晴明の子孫じゃないの」

「……え?」

「正確には、安倍晴明の弟の子孫。晴明自身には子供がいなかった。と言うか作れなかったと言った方が正しいわね」


 志乃はさらに驚いた。今まで安倍蓮、安倍紅、最近この町に移り住んだ二人。この二人が安倍晴明の子孫ではないからだ。


 ずっと、安倍晴明の子孫と話を聞いていたのにそれがひっくり返った。その衝撃は大きい。




「作れないと言うのは、どういうことなんですか?」

「術の精度が落ちるのよ。だって、神々が処女性を好むから」


 スザクの声が静かに響いた。


「普通の陰陽師は術発動の際に、神から補助があるって言うでしょ。神に力を借りるには清浄でなければならない。恋愛も、結婚も、全てを捨てる必要があった」


 志乃は言葉を失った。


「安倍晴明は、全てを犠牲にした。友もいたけれど、その友すらも人柱にして、怪異を封印した」

「……人柱」

「ええ。神から強力な補助を受けるには、時に最も親しい友を生贄として捧げなければならない……そう言う場合もあるのよ」



 スザクが志乃を見据えてそう言った。その時、ふと思い出す。黎明が居たから自分は五体満足で生きているが、



 その時代は黎明が居ない時代。彼が居なければ案外そう言うものいたのかもしれない。不思議な納得感すらあった。




「一応言っておくけど、処女性を好むってのは人間が作った神話に由来してるわ。そう言うのが清廉だと神が思う、そう言う逸話があるから、人間がそう信仰して神がそう言う形として定まった」

「……親しい人間を人柱にするとかも」

「そうね。大きな成果には大きな代償が必要。そんな等価交換のような概念もあったものね。親しい人間か、大量の人間か。まぁ、どっちかを選ばざるを得ないような感じかしら」




 志乃はそんな地獄のような選択はしたくないと心底感じる。気づくと体が震えており、顔色も悪かった。



「黎明を見て感覚が鈍ってるかもしれないけど。これが陰陽師の現実ではあるわ。安倍晴明はそれほどまでに人間の未来に貢献した。だけど、その代償は大きかった」


 スザクは目を閉じた。


「少しずつ、心を病んでいった。それが体にも影響し、最後には死んだ」

「……」

「でも、彼女がいなければ、今の平和はなかった。彼女が繋いだのよ、この平和を」


 志乃は黙って聞いていた。そして、スザクは再び目を開けた。



「まぁ、繋いだ結果として別の意味でやばい黎明が生誕したわけだし。安倍晴明の貢献度は大きいと思うわ。それと実はね、ワタシの今の姿は、とある人間の姿を模倣しているの」

「……え?」

「さっき言ったけど安倍晴明が親しくしてて、人柱にした人間。その人間の姿を模倣してるの」



 そう言いながらスザクは自分の手を見た。



「親しい友を失った晴明を慰めるために、ワタシはその友人の姿を模倣した。そして、一時期、彼女と共に過ごしたの」


 志乃はスザクを見た。スザクの表情は、いつもと変わらない。だけど、その瞳には、微かに悲しみが宿っていた。



「……晴明は最後まで孤独だったわ。全てを捨てて、全てを犠牲にして、それでも人間を守り続けた」

「……」

「もし、あの時に黎明が安倍晴明のそばにいたら、彼女も救われたのかもしれないわね。まぁ、終わったことをいくら考えても無駄なんだけどね」



 その言葉は静かに、しかし確かに響いた。それを聞いて志乃は何も言えなかった。




「変に落ち込むんじゃないわよ。アンタは黎明に追いつきたいって目標があるんだから。過去を学んだら、前向いて走る。それがやるべきことでしょ」

「はい……はいっ!」

「それから、さっさとワタシに勉強代でも払いなさい」

「え、えとなにを?」

「りんごをうさぎさんに切って持ってきなさい。三分以内に」

「あ、はい」





──こうして、また一つ学びを得て志乃は強くなった。







◾️◾️

 


 一方、黎明と詩は、志乃の隣の家。そのリビングで向かい合って座っていた。


 窓の外では平和な町の風景が広がっている。人々が行き交い、車が走り、何事もない日常が流れていた。


 黎明はお茶を一口飲んでから、口を開いた。



「ねぇ、詩」

「なんだ?」


 詩は紅茶の入ったカップを置いて、黎明を見た。


「この町、最近モンスターでないけど、スザクが魔法張ってるからなんだよね」

「あぁ、結界を張ってるらしい」


 詩はそう答える。確かに、最近この町では怪異が出なくなっていた。


「うーむ。おじさんも来るけど、これだと鍛錬とかができない。かと言って一般人は危ないから、魔法を消すのもね」


 黎明は少し困ったように首を傾げた。


「……そうだな」


 詩も同じことを考えていた。強くなるには、実戦が必要だ。だが、一般人を危険に晒すわけにはいかない。


 黎明はしばらく考えていた。そして、ぽんと手を叩いた。


「あ、それなら魔法の外で暮らせばいいのか。よし、引っ越ししよう」

「急だな。だが、確かに強くなるには戦うしかないか。わかった、手配しよう」



 詩は小さく笑った。黎明らしい、単純明快な答えだった。そして、二人は新しい冒険の場所を求めて、動き出すのだった。




──こうして、引っ越しをした先で新たな冒険が始まる。







これにて三章は終了します!


書籍化も決まりましたので、ぜひお待ちください! 合わせて四章ももうちょっと先になりますが制作中です!


ここまで面白ければ、星やレビューをしていただけると!


それといつも応援と読んで頂きありがとうございます! それではまた!

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― 新着の感想 ―
みんなこの町を目指してくるのに主人公はお引越し
応援してます!
でもこいつは過去に飛ばされて晴明救って連れて帰ってくるくらいやってもおかしくない無茶苦茶な奴だからな・・・
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